【知財高裁平成25年1月24日判決(平成24年(行ケ)第10285号)】

【ポイント】
 商標法3条2項該当性判断において,出願商標と使用商標の同一性,指定商品と使用に係る商品の同一性が争われた事案である。

【キーワード】
商標法3条2項,著名,商標の同一性,商品の同一性

1 事案

 本件は,原告が本願商標「あずきバー」(標準文字)について商標登録出願し,特許庁から拒絶査定を受けたため,これに対して拒絶査定不服審判を請求したところ(不服2011-16950号事件),特許庁が不成立の審決(以下,「本件審決」)をしたため,原告がその取り消しを求めた事案である。

2 審決の概要

 本件審決の概要は,下記①~③の通りである。
①3条1項該当性(争点①)
 本願商標を指定商品のうち「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」に使用しても,その商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法3条1項3号に該当する。
②3条2項該当性(争点②)
 本願商標が,その指定商品について使用された結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとは認められないから,同条2項の要件を具備しない。
③4条1項16号該当(争点③)
 本願商品を「あずきを原材料とする棒状のアイス菓子」以外の商品に使用するときは,その商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある商標であるから,同法4条1項16号に該当する。

3 知財高裁の判断

 知財高裁は,上記争点①~③につき,次のように判示した。
①3条1項該当性に係る認定判断の誤りについて
「…したがって,本願商標(『あずきバー』)が指定商品(『あずきを加味してなる菓子』)について使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者は,小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起し,本願商標が商品の品質,原材料又は形状を表しているものと認識すると認められる。
…そして,本願商標は,『あずきバー』という標準文字からなるものであるにすぎないから,指定商品の品質,原材料又は形状を普通に用いられる方法で表示したものというほかない。
…以上のとおり,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものというべきであるから,本件審決は,その結論において相当である。」
②3条2項該当性に係る認定判断の誤りについて
「…以上のような本件商品の販売実績及び宣伝広告実績並びにこれらを通じて得られた知名度によれば,本件商品の商品名を標準文字で表す『あずきバー』との商標(本願商標)は,本件商品の販売開始当時以来,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたことが容易に推認され,本件審決当時でも,本件商品を意味するものとして価格表や取引書類等で現に広く使用されている。
…被告は,原告が本件商品について本願商標を使用しておらず,あるいは本願商標を使用する場合にも印象に残り難い方法で使用しているにすぎないと主張する。しかしながら,…本願商標は,本件商品の販売開始時以来本件審決の時点に至るまで,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたものと認められる。よって,被告の上記主張は,採用することができない。
…被告は,本願商標の指定商品がアイス菓子に限定されないのに,原告がアイス菓子以外の『あずきを加味してなる菓子』について本願商標を使用していないから,本願商標が実際に使用している商品と指定商品が同一ではないと主張する。しかしながら,本願商標の指定商品は,『あずきを加味してなる菓子』として特定されているところ,本件商品は,アイス菓子ではあるものの,『あずきを加味してなる菓子』であることに変わりはなく,かつ,本願商標は,前記に認定のとおり,使用をされた結果需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものと認められるから,商標3条2項の要件を満たすといって妨げはないのであって,上記のように特定された本願商標の指定商品を更にアイス菓子とそれ以外に区分して判断すべき理由はない。よって,被告の上記主張は,採用することができない。
 以上のとおり,本願商標は,商標法3条2項の要件を満たすものであるから,同項該当性に関する本件審決の認定判断には誤りがあるというべきである」
③4条1項16号該当性に係る認定判断の誤りについて
「本願商標(『あずきバー』)は,…指定商品(『あずきを加味してなる菓子』)について使用された場合,これに接した菓子の取引者,需要者が小豆又はそれから作られたあんを含有する棒状の菓子を想起し,本願商標が商品の品質,原材料又は形状を表しているものと認識すると認められる一方,本願商標には,それ以上に商品の品質について特段の観念を生じさせる部分が存在しない。そうだとすると,本願商標は,商品の品質の誤認を生じるおそれがある商標ということはできない。
…被告は,本願商標が『あずきを原材料とするアイス菓子』を認識させるから,それ以外の商品に使用するときにはその商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあると主張する。しかしながら,ある商標が品質について誤認を生じさせるおそれがあるか否かは,当該商標の構成自体によって判断すべきところ,本願商標は,それ自体から『あずきを原材料とするアイス菓子』を直ちに認識させるものではないから,被告の上記主張は,失当である。
 以上のとおり,本願商標は,商標法4条1項16号に該当するものではないから,同号該当性に関する本件審決の認定判断には誤りがあるというべきである。」

4 検討

 商標法3条2項は,本来,自他商品等識別力のない商標について例外的に登録を認める制度であるため,特許庁の審査実務では出願商標と使用商標との同一性を厳格に要求してきたところ,本件においては,出願商標が標準文字・・・・である「あずきバー」であったのに対し,実際に使用していた商標のほとんどが「本件ロゴ書体等」であったため,出願商標と使用商標の同一性が問題となった。
 この点について,知財高裁は,特許庁の審査実務とは異なり,「…被告は,原告が本件商品について本願商標を使用しておらず,あるいは本願商標を使用する場合にも印象に残り難い方法で使用しているにすぎないと主張する。しかしながら,…本願商標は,本件商品の販売開始時以来本件審決の時点に至るまで,原告の製造・販売に係る本件商品を意味するものとして取引者,需要者の間で用いられる取引書類等で全国的に使用されてきたものと認められる。」と判示して,出願商標と使用商標の同一性を緩和して肯定した。
 標準文字制度とは,文字商標について出願人が特別の態様について権利要求をしないときは,商標登録を受けようとする商標を願書に記載するだけで,特許庁長官があらかじめ定めた一定の文字書体(標準文字)によるものをその商標の表示態様として公表し及び登録する制度である。事業活動においては,出願後に実際の使用態様が決まったり,後々使用態様が変わったりすることも多いため,出願商標と使用商標の同一性を厳格に要求すると,出願人の販売・広告活動を通じて著名に至っている商標が保護されないということになりかねない。その点で,商標の著名性を考慮し,出願商標と使用商標の同一性を,実情に即した判断がなされた本件は評価できる。
 しかしながら,本件では,出願商標と同一又はこれと外観上同視できる商標が使用されていた事実も認定されているため,このような使用例が全く存在しない場合には,出願商標と使用商標の同一性が認められない可能性がある点で注意が必要である。
 本判決は,商標が著名である場合に,商標法3条2項における出願商標と使用商標の同一性,指定商品役務と使用に係る商品役務の同一性が緩やかに判断される可能性を示した点で実務上参考になる。ただし,同様の判断がなされた裁判例はまだ多くないため,今後の裁判の動向に注意が必要である。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲