【平成30年4月17日判決(平成28年(ワ)第6074号) 不正競争行為差止等請求事件】

【キーワード】充足性、クレーム解釈、進歩性、不正競争防止法2条1項1号

【判旨】
 原告は、「堂島ロール」との原告標章でロールケーキを販売する会社であり、被告らは「堂島プレミアムロール」との被告標章でロールケーキを販売する会社及びその代表取締役である。原告が被告らに対し、被告標章の使用差止め及び損害賠償を求めたところ、裁判所はこれを認容した。主な争点は、原告標章と被告標章との類否である。
 裁判所は、原告のロールケーキの売上が高く、数多くのメディアに掲載されていることなどから原告標章の周知性(著名性)を認定し、被告標章は「プレミアム」との記載があるものの、これは品質を表示するに過ぎないから、「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられるとして、原告標章と類似すると判断した。原告標章である「堂島ロール」の「堂島」は地理的名称、「ロール」はロールケーキという普通名称の略称であるところ、この事情にもかかわらず、使用により周知性を獲得した標章であれば識別性が強く認められることを前提とする判決であり、事例判決ではあるものの、今後同様の事案における商品等表示の類否を判断するにあたり(さらには商標の類否を判断するにあたっても)有用であると思われる。

第1 事案の概要

1 原告標章
 原告標章2:

(上記以外にも、標準文字による原告標章1や、原告標章3ないし5が存在するが、本稿では割愛する。)

2 被告標章
 被告標章1:

(上記以外にも異なる態様で記載された被告標章2ないし5を含むが、本稿では割愛する。)

3 判旨抜粋
(1)周知性
 原告商品の売上げは、平成21年3月ないし5月には月2億円を超え、同年12月には再び月2億円を超えた
(中略)
 平成20年6月12日の産経新聞大阪版は、「ロールケーキ人気再来」、「『堂島ロール』など火付け」という見出しの記事であり、この記事は、「“関西発”で、今や全国区の知名度を誇る『モンシュシュ』…の『堂島ロール』」という説明をする…ほか、同年10月4日の日本経済新聞の日経プラスワンの全国で販売されているロールケーキを取り扱った「おすすめのロールケーキ」という記事では、原告商品を1位にランクしていた
(中略)
 平成21年以降も、別紙「主要掲載記事一覧」…新聞や雑誌等の記事で取り上げられていたほか、全国又は日本各地の様々なテレビ番組でも取り上げられていた
(中略)
 平成25年以降も…新聞や雑誌等の記事で取り上げられており、この記事でも、原告のことを「ロールケーキの『堂島ロール』で知られるモンシェール」…「『堂島ロール』でおなじみのモンシェール」…などと、やはり原告が、その商号ないし営業表示ではなく、原告商品の商品名である「堂島ロール」で一般に知られていることを前提にする表現が用いられていた。
(中略)
 原告商品は、遅くとも平成19年以降、全国又は日本各地の様々なテレビ番組でも人気商品として取り上げられるようになり、原告商品の商品名である「堂島ロール」が広く一般消費者に触れられるところとなった
 そして、例えば平成20年12月13日放送のテレビ朝日の「SmaSTATION!!」では、「2008年流行りものBEST30これで今年の流行がすべて分かる検定!!」と題する特別企画において、原告商品が取り上げられるなどした。
(中略)
 原告商品及びその商品等表示である「堂島ロール」は、平成18年頃から大阪市を中心に知られるようになって、そのことが、新聞や雑誌等の記事やテレビ番組で取り上げられるにつれて「堂島ロール」の商品名は全国に知られ始め、これと並行して原告がその販売店舗を急速に全国に展開していくことで売り上げが伸びるとともに、雑誌、テレビ等のマスコミで取り上げられる機会も一層増え、これらの相乗効果で、遅くとも被告会社が設立された平成24年6月までには、原告標章は、原告商品の出所を表示する商品等表示として、日本全国で需要者の間に広く認識され、その程度は周知の域を超え著名といえるほどになっていたものと認められる。

(2)標章の類否判断
ア 規範
 ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては、取引の実情の下において、取引者、需要者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷・民集37巻8号1082頁参照)。

イ 当てはめ
 これを本件についてみると、…「堂島プレミアムロール」は、「堂島」、「プレミアム」、「ロール」の3語で構成されているが、このうち、「プレミアム」との語は、優れたあるいは高品質なものを意味する語であり、商品が優れたり、高品質なものであったりすることを表現するため商品名に「プレミアム」という文字が付加される例も多い…ことが一般的に認められるから、「プレミアム」の部分は、これと結合する他の単語で表示される商品の品質を表すものと理解され、商品の出所識別機能があるものとは認められない。他方、「堂島」は地名、「ロール」は「ロールケーキ」の普通名詞の略称を表す語であるが、「プレミアム」が上記のとおり、品質を示す意味しか有しないことからすると、「プレミアム」を挟んで分離されているものの、被告標章…からは、プレミアムな、すなわち高品質な「堂島ロール」との観念が生じ、これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえるし、また称呼も同様に類似しているといえる
 そうすると、被告標章…と原告標章とは…取引者、需要者が外観、称呼又は観念の同一性に基づく印象、記憶、連想等から、両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。
…「堂島プレミアムロール」から、「堂島」と「ロール」という2語が需要者に強く印象付けられると考えられる。したがって、被告標章…からは…プレミアムな、すなわち高品質な「堂島ロール」という観念が生じるということができ、これは原告の商品等表示として周知である「堂島ロール」の観念と類似しているといえる
 また、称呼の点も、同様に「ドウジマプレミアムロール」との称呼が生じるといえるから、原告標章の「ドウジマロール」との称呼と類似しているといえる
 そうすると、被告標章…と原告標章とは、取引者、需要者が外観、称呼又は観念の同一性に基づく印象、記憶、連想等から、両者を全体として類似のものとして受け取るおそれがあるというべきである。

第2 検討

 「堂島ロール」との原告標章が全国的に著名であることに鑑みれば、本件の結論は是認できる。
 もっとも、本判決は、日本ウーマンパワー事件最高裁判決の規範を用い、商品等表示の類否は外観・称呼・観念によって判断すると述べるが、外観については一切検討がない。また、称呼について、本判決は「称呼の点も、同様に『ドウジマプレミアムロール』との称呼が生じるといえるから、原告標章の『ドウジマロール』との称呼と類似しているといえる」と述べているが、両者が類似するとする根拠が不明である。
 しかし、仮に外観および称呼の点で明確に類似すると言い切ることが難しいとしても、本件は、被告らが「堂島ロール」のブランドに対してフリーライドする意思が明確であるから(引用していないが、会社法429条の取締役の責任を肯定するにあたり、被告らの販売行為には悪意とまでは言えなくとも重過失があると認定されている。)、「堂島プレミアムロール」の標章から「堂島ロール」のバリエーションを想起すること、及び「プレミアム」が品質を表示するものであることのみを理由として、類似を認めてよい事案であると思われる。
 主に商標権侵害の事案において、裁判所は「つつみのおひなっこや事件」(最高裁平成20年9月8日判決(平成19年(行ヒ)第223号))の規範に基づき、分離観察によって類否を検討する例が多いが、本件のように被告標章が「堂島プレミアムロール」として一連一体に記載されている場合に、「プレミアム」と「堂島ロール」とに分離することは極めて難しいと思われる。本件は、このような状況のもとにおいて、原則として称呼や外観について類似とは言えない場合であっても、著名性を前提として観念のみから標章の類似が肯定された事例として理解すべきである。
 例えば、本件において著名性の認められた原告標章が「堂島ロール」ではなく、「堂島プレミアム」であった場合を考えると、「堂島プレミアムロール」から「堂島プレミアム」を分離して観察することは抵抗なく認められると思われる。従前、分離観察の可否における判断要素として、標章が一連一体として構成されているか、それとも視覚的に離隔して構成されているかが考慮されてきた(例えば、特許庁が公表する商標法4条1項11号の商標審査基準には、結合商標の結合の強弱の程度を考慮するにあたり、商標が「著しく離れて記載されていること」が考慮要素として挙げられている。)。しかし、これを分離観察の可否における考慮要素とした場合、原告標章が「堂島プレミアム」であった場合と、「堂島ロール」であった場合とで、類否判断が異なる可能性が生ずる。無論、判断が異なって良い場合も存在するであろうが、翻って本判決からは、結合商標(標章)における分離観察の可否について、専ら視覚的構成に頼って判断することの問題点が示唆されるのである。

以上
(文責)弁護士・弁理士 森下 梓