訴訟で何ができるかを確認しておきましょう。
特許が侵害されている場合,差止請求(特100条)と損害賠償請求(民709条)が訴訟における主な手段となります。
差止請求は,侵害者の現在又は将来の実施行為,例えば,侵害品の製造・販売の差止めを求めるものです(特100条1項)。
特許権は独占排他権です(特68条)。
すなわち,ある技術を独占的に実施する権利です。
差止請求は,侵害者による特許発明の実施を排除して,特許権者のみが実施し市場を独占するという本来の姿に戻すものです。
したがって,極めて直接的かつ強力な手段です。また,差止請求とともに,侵害品の廃棄,侵害行為に供した設備の除却等を求めることもできます(いわゆる「廃棄除却請求」。特100条2項)。
差止請求の要件は,
- 特許権が侵害されていること又は侵害されるおそれがあること
です(特100条1項)。
「侵害されていること」とは,現に侵害行為が継続していることです。
「侵害」の判断については,【実施例とそっくり!やばいのかな?】
「侵害されるおそれがあること」とは,将来侵害行為が生じるおそれがあることです。
例えば,相手方が侵害にならないと争っており,かつ,侵害行為を一旦中止したものの,在庫を保管している場合などに認められています。
廃棄除却請求の要件は,
- 差止請求に付随して請求すること
- 侵害の予防に必要な行為であること
です(特100条2項)。
「侵害の予防に必要な行為」は,差止請求権の行使を実効あらしめるものであって,かつ,それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであることを要する」とされています(最判平11・7・16「生理活性物質測定法事件」)。
例えば,苦労して立ち上げた市場に競合他社が侵入してきた,などの場合は差止請求しか救済の方法はないといえるでしょう。
このような場合,事案によっては,廃棄除却請求も併用すべきだと考えます。
他方,実施料が欲しい場合には,必ずしも差止請求を行う必要はないかもしれません。
損害賠償請求は,侵害者の過去の実施行為に対して,損害賠償を求めるものです。
損害賠償請求の要件は,1.権利の存在,2.侵害行為,3.故意又は過失,4.損害の発生及び額,5.2と4との因果関係(民709条)ですが,1は特許権の存在が前提ですし,3は過失の推定規定(特103条)により立証不要ですから,結局,
- 侵害行為
- 1と因果関係のある損害の発生及び額
が要件となります。
また,損害額や因果関係の立証の困難性を軽減すべく,特許法に特則が設けられています(特102条1項~3項)。
損害賠償請求は,消滅時効が損害および加害者を知った時から3年間(民法724条)と短いですが3年以上前の行為については,不当利得返還請求(同法703条,704条)により実施料相当額を請求することができます。
侵害者が同業他社ではなく,実施を停止してもらうよりも,実施の対価としてのロイヤリティが欲しいというような場合は,損害賠償請求が主体となります。なお,損害賠償請求訴訟は,特許権の消滅後でも提起可能です。
損害賠償請求は,特許権が登録された後の行為にしか適用されません。
特許になる前の第三者の行為に対しては,一定の要件を具備すれば,特許になった後,実施料相当額を請求することができる補償金請求権という制度があります(特65条)。
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