【平成13年4月24日(東京地裁 平成12年(ワ)第3545号)】

【概要】
「J-PHONE」等の表示を用いて営業活動を行っている原告が、「j-phone.co.jp」のドメイン名を使用する被告の行為が不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号、二号)に該当するとして、ドメイン名等の使用差止め、損害賠償等を求めた請求が認容された事例。

【キーワード】
ドメイン、商標的使用

1.判旨

(2) 上記(1)に認定の事実によれば、本来ドメイン名は登録者の名称やその有する商標等、登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていないが、登録者の名称、社名、その有する商標等をドメイン名として登録することが通常行われていることに照らせば、ドメイン名の登録につき先願主義が採られていること、登録に際して既存の商標等に関する権利との抵触の有無についての審査は行われていないことなどから、利用者としてはドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しつつも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが通常と認められる。
 そうすると、ドメイン名の登録者がその開設するウェブサイト上で商品の販売や役務の提供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し、あるいは注文を受け付けているような場合には、ドメイン名が当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得ることになり、そのような場合においては、ドメイン名が、不正競争防止法二条一項一号、二号にいう「商品等表示」に該当することになる。
 そして、個別の具体的事案においてドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に該当するかどうかは、当該ドメイン名が使用されている状況やウェブサイトに表示されたページの内容等から、総合的に判断するのが相当である
(3)  これを本件についてみるに、本件ウェブサイトには「J―PHONEをご利用頂きましてありがとうございます」といった表示がされたウェブページと共に、「御注文はここを今すぐクリック!!」という表示の下に「メディカス」、「スケルフォン」、「ノナール」という項目があり、これをクリックすると、それぞれ、ゴルフのレッスンビデオ、いわゆるスケルトン仕様(半透明の樹脂により透けて見える構造)の携帯電話機、アルコール消臭・酵母食品についての販売広告が表示される体裁となっていた(甲3の1により認められる。)。また、「J―PHONEへのご意見・ご質問をお寄せください」「ホームページにてご回答させていただきます」といった表示もされていた(当事者間に争いがない。)。
 上記によれば、本件ウェブサイトにおいては、レッスンビデオ、携帯電話機、酵母食品等についての販売広告とともに注文の受付がされているところ、ウェブページ上には前記のとおり「J―PHONE」の語を含む表示がされており、この表示においては「J―PHONE」の語が本件ウェブサイトの開設者を示すものとして用いられていることが明らかである。そうすると、本件ウェブサイトにおいて、「J―PHONE」の語は、本件ウェブサイトを開設し、ウェブサイト上で前記商品を販売する者を示すものとして用いられていると認められる。
 そこで、次に本件ドメイン名「j-phone.co.jp」と上記表示「J―PHONE」とを比較すると、本件ドメイン名から第二ドメイン以下の「co.jp」を除いた、登録者を示す第三ドメインである「j-phone.」は、「J―PHONE」のアルファベットが小文字になったにすぎないものである
 なお、本件ドメイン名は、ウェブサイトへのアクセス手段としては、「http://www.j-phone.co.jp」の形で用いられるものであるが、「http://www.」の部分は通信手段を示し、「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のもので、かつ登録者が会社であることを示しているにすぎず、多くのドメイン名に共通する要素であるから、商品又は役務の出所を表示する機能は有しない。したがって、本件ドメイン名「j-phone」は、「http://www.」の部分及び「co.jp」の部分と切り離して、それ自体で商品の出所表示となり得るものというべきである。
 以上を総合すれば、本件ドメイン名は、本件ウェブサイト中の「J―PHONE」の表示とあいまって、本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能を有していると認めるのが相当である。したがって、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法二条一項一号、二号にいう「商品等表示」の使用に該当するものというべきである。

2.検討

 ドメイン名の使用が商標的使用態様に該当する場合があるとしても、単にドメイン名に使用するだけで商標的使用態様になるのか、他の条件を具備しなければ商標的使用態様にならないのかが問題になります。
 具体的には、ドメイン名の使用態様を、
① ドメイン名に使用しているのみの場合
② ドメイン名に使用し、ウェブサイトで商品・サービスを提供している場合
③ ドメイン名に使用し、ウェブサイトで商品・サービスを提供し、ドメイン名を商品・サービスに使用している場合
の3段階に分けた場合に、上記①でも商標的使用になるのかや、上記③まで具備しないと商標的使用にならないのかという点が問題になると考えられます。
 本件で、「利用者としてはドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しつつも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが通常と認められる。」と判示されているとおり、「ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合など」には、「当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考える」ことを理由に、商標的使用態様に該当するものと考えられます。一方、「ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合」に関し、当該「特定の固有名詞」が何らかの形で使用等されていなければ、「特定の固有名詞」が存在するものとはいえないとも考えられます。そうすると、上記J-PHONE事件は、商標的使用態様に該当するには、上記②の場合だけでは不十分で、「当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考える」事情として、「ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合など」、例えば、上記③のように、ドメイン名を商品・サービスに使用されているような場合が必要としているものとも解釈し得ます。ただし、このように解釈したとしても、「ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合など」とされているとおり、「当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考える」事情であれば、必ずしも上記③の事情は必要ないものと考えられます。
 本件では、ウェブページ上で、ドメイン名の一部である「J‐PHONE」が使用されていること、ドメイン名「j-phone.co.jp」とウェブページ上の表示「J‐PHONE」の関連性の大きく2つの事情から、ドメイン名の商標的使用態様性を肯定しています。

以上
弁護士・弁理士 杉尾雄一