【令和4年5月13日(大阪高裁令和3年(ネ)2608号)】

【事案の概要】

控訴人は、控訴人が製造している車輪付き杖である原判決別紙商品目録記載の商品(本件商品)を「ローラーステッカー」との商品名(以下「控訴人標章」という。)で販売し、控訴人標章につき令和元年12月6日に商標登録を得たものであるが、卸売業者又は小売業者である被控訴人らが、本件商品を「ハンドレールステッキ」(以下「被控訴人ら標章」という。)との名称で販売した行為が、上記登録商標に係る商標権(本件商標権)の侵害に該当するとして、被控訴人らに対し、本件商品に対する被控訴人ら標章の使用の差止めを求めるとともに、控訴人が被控訴人フジホームとの取引を停止した令和元年8月以降、上記登録商標の公報が発行されるまで(前半期間)の被控訴人らの上記行為が、控訴人標章に化体する信用及び出所表示機能を毀損する共同不法行為に該当し、また、上記登録商標の公報が発行された令和2年1月7日から同年3月31日まで(後半期間)の被控訴人らの行為は、本件商標権侵害の共同不法行為に該当するとして、損害賠償300万円及びこれに対する共同不法行為後である同年4月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている。

原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は、これを不服として、本件控訴を提起した。

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人らは、控訴人の製造販売する原判決別紙商品目録記載の商品を販売するに際し、「ハンドレールステッキ」なる商標を付してはならない。

3 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して300万円及びこれに対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。

1 控訴人の請求と訴訟の経過

(中略)

2 前提事実

次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(中略)

3 争点

前記2のとおり、被控訴人らの行為は、大要、令和元年8月から同年11月までの被控訴人フジホームによる被控訴人サンリビングへの、被控訴人サンリビングによる株式会社ダイワ(ダイワ)への本件商品の各卸売(被控訴人ら行為〈1〉)、令和元年8月から令和2年3月までの被控訴人フジホームによる本件商品の個別販売(被控訴人ら行為〈2〉)、令和元年8月から令和2年3月までの、被控訴人サンリビングが控訴人から直接仕入れた本件商品をダイワに卸売した行為(被控訴人ら行為〈3〉)に区別される。これらの行為について、次のとおり、前半期間と後半期間における不法行為の成否等が争点となる。

(1) 前半期間における被控訴人らの共同不法行為の成否(被控訴人ら行為〈1〉ないし〈3〉)

(2) 後半期間における被控訴人らによる商標権侵害の成否(被控訴人ら行為〈2〉及び〈3〉)

(3) 損害の発生及び額

4 争点に関する当事者の主張

原判決「事実及び理由」第2の4に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決6頁19行目の「法的保護された」を「法的に保護された」に改める。

(2) 原判決7頁6行目の「していなった」を「していなかった」に改める。

(3) 原判決7頁13行目の「被告らの行為には関連共同性がある。」を「前半期間における被控訴人らの行為には関連共同性があり、共同不法行為を構成する。」に改める。

(4) 原判決10頁14行目末尾に「なお、被控訴人サンリビングは、ダイワとの取引契約を交わすに際して、ダイワに対して、本件商品を被控訴人ら標章で販売することを申し出、さらに取引資料として、被控訴人フジホームが作成した被控訴人ら説明書を提示していた。」を加える。

(5) 原判決10頁15行目の「被告らに」を「後半期間における被控訴人らの行為について」に改める。

(6) 原判決10頁24行目末尾に「また、被控訴人フジホームの行為が、控訴人が本件商品に付した控訴人標章を剥離するのと同価値の行為であるとの控訴人の主張は、否認ないし争う。」を加える。

(7) 原判決10頁26行目末尾に「仮に被控訴人フジホームの行為が形式的に本件商標権侵害に当たり得るとしても、前記(1)(被控訴人フジホームの主張)ウのとおり、控訴人は、当初から被控訴人フジホームが本件商品を被控訴人ら標章で販売することを承諾していたから、上記行為について不法行為は成立しない。」を加える。

(8) 原判決11頁4行目末尾に「なお、ダイワと本件商品の取引契約を交わすに際して、被控訴人サンリビングが、被控訴人ら標章で販売することを申し出たこと、取引資料として被控訴人ら説明書を提示したことは否認する。」を加える。

5 当審における控訴人の補充主張

(1) 商標権侵害の成否について

ア 権原を有する者により商品等に付された商標は、取引社会においてそのまま表示され続けることにより、商標自体に信用が化体して蓄積され、知的財産としての価値が増大していくものである。商標権者によって商標を付された商品が卸売業者等に第一譲渡された後も、商標の出所表示機能及び品質保証機能は、当該商品が市場を流通する過程においてなお発揮されるべきものである。そのような商標の性質に鑑みれば、ある商品に適正に商標が付された場合、業務上その商品の同一性が維持されて流通されている限りにおいて、当該商標がそのままその商品に使用され(付され)続けることは、商標法が当然に予定している法的に保護される権利・利益である。第一譲渡によって商標権がその役割を終えて消尽するとみるべきではなく、第一譲渡後もなお商標権侵害は成立し得ると考えるべきである。

イ そして、流通過程において、上記のような卸売業者等が、商標権者が付した商標を剥離抹消して自身の標章を新たに付す行為については、商標の出所表示機能や品質保証機能を害するものとして、商標権侵害が成立する。商標法37条は、商標権者以外の者による登録商標と同一又は類似の商標使用という典型的に商標権侵害が成立する場合を説明したにすぎず、商標権侵害をこのような場合に限定すべきではない。

ウ 本件において、被控訴人らは、商標権者である控訴人が控訴人標章を付した本件商品について、梱包箱に被控訴人らシールを貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を「ハンドレールステッキ取扱説明書」(以下「被控訴人ら説明書」という。)に差し替えており、これらの行為は、控訴人標章の出所表示機能等を積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価することができ、本件商標権の侵害に当たる。

なお、被控訴人サンリビングが、控訴人から直接仕入れた本件商品につき、本件商品と同梱されていた控訴人説明書を被控訴人ら説明書に差し替えて販売していた事実は、証拠により認められる。

(2) 未登録商標(標章)侵害による不法行為の成否について

前記のような商標の性質に鑑みれば、未登録商標(標章)であっても、標章が当初適正に付されたままの態様で使用され続けることは、法律上保護される利益に当たる。したがって、商品の流通過程の各段階において、標章の剥離抹消を行う行為は、標章への信用の化体を妨害する行為であり、また、剥離抹消にとどまらず無断で自己の標章を使用する行為は、本来的な商標に帰せられるべき信用を自己の標章に化体させる行為であるから、いずれも原則として不法行為に該当し、これら剥離抹消行為について、適正に標章を付した者の承諾がある場合に限って、例外的に違法性が阻却されると考えるべきである。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次のとおりである。

2 認定事実

次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決13頁16行目の「梱包箱」の次に「側面」を加える。

(2) 原判決14頁9行目の「販売価格」を「販売価格を」に改める。

(3) 原判決14頁12行目の「ねじを締め」を「ねじを緩め」に改める。

(4) 原判決14頁24行目の「原告に送付した」を「被控訴人フジホームに送付した」に改める。

(5) 原判決16頁10行目の「改定する共に」を「改定すると共に」に改める。

(6) 原判決16頁16行目の「7100円」を「7110円」に改める。

(7) 原判決18頁13行目の「同社」を「被控訴人フジホーム」に改める。

(8) 原判決18頁15行目の「同年9月6日」を「同年8月又は9月」に改める。

(9) 原判決19頁9行目末尾に「(なお、控訴人は、ダイワに発注して令和2年3月に配達された本件商品には、梱包箱側面に被控訴人フジホームを発売元とする被控訴人らシール〈1〉が貼られていないにもかかわらず、被控訴人ら説明書が同梱されていたとの写真撮影報告書等(甲5、16)を提出し、被控訴人サンリビングは控訴人から直接仕入れた本件商品の取扱説明書を自ら差し替えていた旨主張する。上記写真撮影報告書等の正確性は措くとしても、被控訴人ら説明書には「発売元 フジホーム株式会社」との記載しかなく(甲10)、被控訴人サンリビングが販売主体である旨の記載はないところ、被控訴人サンリビングが、被控訴人フジホームを介さずに控訴人から直接仕入れた本件商品の取扱説明書を上記のとおりの被控訴人ら説明書にわざわざ差し替えて販売することは考え難く、被控訴人フジホームが本件商品とは別に被控訴人ら説明書を被控訴人サンリビングに提供したことを窺わせる事情もないから、控訴人の上記主張は採用できない。他方、被控訴人フジホームが、控訴人との取引停止後に在庫として有していた本件商品を被控訴人サンリビングに販売した際に、被控訴人らシール〈1〉の梱包箱への貼付を失念等したとしても不自然とはいえない。)」を加える。

3 前半期間における被控訴人らの共同不法行為の成否(争点1)について

次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決20頁8行目の「しかしながら」から10行目の「考えられるから」までを「しかしながら、前半期間においては、控訴人標章は商標登録がされていないから、およそ商標法の問題とはなり得ず、また、控訴人から、前半期間における被控訴人らの行為が不正競争防止法の規律に抵触するとの主張もされていない。そうすると、卸売業者又は小売業者が製造者から商品名を付した商品の譲渡を受けた場合」に改める。

(2) 原判決22頁23行目末尾に「等」を加える。

(3) 原判決22頁26行目の「前記(2)によれば」を「以上によれば」に改める。

(4) 原判決23頁5行目の「被告ら標章による」を「被控訴人ら標章により」に改める。

(5) 原判決23頁11行目末尾に「そして、控訴人が、令和元年8月1日、被控訴人フジホームに対し、最初に本件商品の出荷停止を通告した際の直接の原因は、同被控訴人による本件商品販売価格の是正がされないことにあった。」を加える。

(6) 原判決23頁17行目の「納入」を「卸売」に改める。

4 後半期間における被控訴人らによる商標権侵害の成否(争点2)について

(1) 控訴人は、商標権者である控訴人が控訴人標章を付した本件商品について、その譲渡を受けた卸売業者等である被控訴人らが、梱包箱に被控訴人らシールを貼付し、本件商品とともに梱包されていた控訴人説明書を被控訴人ら説明書に差し替えた行為は、本件商標の出所表示機能及び品質保証機能を積極的に毀損するものとして、商標の剥離抹消行為と評価し得る本件商標権侵害に当たる旨主張するとともに、上記譲渡によって本件商標権が消尽するとみるべきではないとして原審の判断を非難する(前記第2の5(1))。

(2) 商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本である(商標法25条、37条)。すなわち、商標法は、登録商標の付された商品又は役務の出所が当該商標権者であると特定できる関係を確立することによって当該商標の保護を図っているということができる。

商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生ぜしめるものではなく、上記行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なるといわざるを得ない。したがって、上記のような登録商標の剥離抹消行為等が、それ自体で商標権侵害を構成するとは認められないというべきである。

(3) また、その点を措くとしても、後半期間における被控訴人らの行為(被控訴人らの行為〈2〉及び〈3〉に関する。)は、以下のとおり、控訴人標章の剥離抹消行為と評価し得る行為には当たらないと解される。

ア 前記第2の2で補正した上で引用した前提事実によれば、控訴人が被控訴人らに納入した本件商品の梱包箱の外側にはそもそも控訴人標章は表示されていないから、被控訴人らが仕入れ後に貼付した被控訴人らシールによって控訴人標章が覆い隠されたという事実はない。控訴人が被控訴人らシール〈1〉によって覆い隠されたのを問題としているのは、控訴人の屋号であって、控訴人標章ではない。また、被控訴人らの行為によって、本件商品本体に英文字で印字された「Roller Sticker」という標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)に何らかの変更が加えられたという事実もない(本件商品の品質にも変更はない。)。

イ そうすると、控訴人標章の剥離抹消行為として問題となり得る行為は、被控訴人フジホームが、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱されていた控訴人説明書を被控訴人説明書に差し替えた行為のみ(被控訴人ら行為〈2〉に関する。)であるが、控訴人説明書は、取引によって納入された本件商品の梱包箱の中に、本件商品の使用方法を説明する書面として、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものにすぎないから、本件商品に標章を付した(商標法2条3項1号)とはいえず、控訴人説明書が取引書類(同項8号)に当たると認めるに足りる事情も窺われない。したがって、控訴人説明書に「ローラーステッカー使用説明書」との記載があるのは、控訴人標章を商標として使用したものとは認められず、控訴人説明書を差し替えたことが控訴人標章の剥離抹消行為と評価すべきものとは認められない

ウ 以上のとおり、後半期間における被控訴人らの行為は、そもそも控訴人標章の剥離抹消行為と評価される行為には当たらないから、その余の点を判断するまでもなく、商標の剥離抹消を理由として商標権侵害をいう控訴人の主張は採用できない。

なお、被控訴人らの行為〈2〉及び〈3〉における本件商品について、控訴人が本件商品本体に付した標章(称呼及び観念において控訴人標章と同一のもの)と、被控訴人らが梱包箱に付した被控訴人ら標章とが併存しているとしても、控訴人から適法に本件商品を仕入れた被控訴人らが、再販売業者としての出所を明らかにするため本件商品に併存して自らの標章を付すことが一般的に禁止される理由もない。

(4) したがって、後半期間における被控訴人らの行為について、本件商標権侵害は成立しないから、商標権侵害の不法行為は成立しない。

5 未登録商標(標章)に関する当審における控訴人の補充主張について

控訴人は、前半期間における未登録の控訴人標章について、被控訴人らが、控訴人標章を剥離抹消した上で自己の標章を使用した行為が不法行為に当たる旨主張するが、被控訴人ら行為〈1〉に関する行為を含め、前半期間における被控訴人らの行為が、そもそも控訴人標章を剥離抹消したと評価される行為に当たらないことは、前記4(3)で述べたところと同様であるから、上記主張も採用することはできない。

第4 結論

以上のとおり、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

【解説】

本件は、製造者が登録商標を付した商品(本件商品)について、卸売業者または小売業者が別標章を付して販売した行為が、当該登録商標に係る商標権の侵害に該当するか否かが争われた事案の控訴審である。一審判決(大阪地裁令和3年11月9日)についても、以前本欄で紹介した。

一審判決では、「商標権侵害は、指定商品又は指定役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標を同一又は類似の商標を使用する場合に成立することがその基本であり(商標法25条、37条)、原告が原告標章を付した本件商標を被告らに譲渡した際に、原告標章と同一又は類似の商標を使用する競業者が存在しなかったことをもって、本件商標権はその役割を終えたと見ることができる」という、消尽論に基づいた理由により、商標権侵害は否定された。

控訴審においては、結論は同じであるが、一審とは異なる以下のような理由付けで商標権侵害は否定された。控訴審における理由付けは、商標法の目的は、信用化体の対象となる商標が登録された場合に、その登録商標を使用できる権利を商標権者に排他的に与え、商品又は役務の出所の誤認ないし混同を抑止することにあり、商標権侵害は、指定商品又は役務の同一類似の範囲内で、商標権者以外の者が、登録商標と同一又は類似の商標を使用する場合に成立することが基本であるところ、商標権者が指定商品に付した登録商標を、商標権者から譲渡を受けた卸売業者等が流通過程で剥離抹消し、さらには異なる自己の標章を付して流通させる行為は、登録商標の付された商品に接した取引者や需要者がその商品の出所を誤認混同するおそれを生じさせるものではなく、このような行為を抑止することは商標法の予定する保護の態様とは異なる、というものである。

また、その点は措くとしても、控訴人標章の剥離抹消行為として問題となり得る行為は、被控訴人が、控訴人から本件商品を仕入れた際に梱包箱に同梱されていた控訴人の商品説明書を被控訴人の商品説明書に差し替えた行為のみであるところ、商品説明書は、本件商品の使用方法を説明する書面として、本件商品に貼付等されずに単に同梱されていたものであるから、本件商品に標章を付した(商標の使用を定めた商標法2条3項1号)、とはいえず、控訴人の商品説明書が取引書類(同項8号)にも当たらない、とされた。

さらに、なお書きではあるが、本件商品について、控訴人の標章と被控訴人の標章が併存しているとしても、控訴人から適法に本件商品を仕入れた被控訴人らが、再販売業者としての出所を明らかにするため本件商品に併存して自らの標章を付すことが一般的に禁止される理由もない、と判断された。

商標権侵害が否定されたという控訴審の結論は、一審と同様であるが、控訴審の判断枠組みによれば、商標権が保護する対象は、「登録商標が付された商品又は役務の出所が当該商標権者であること」、であるから、あくまでも登録商標を介して商品又は役務の出所の誤認混同の抑止を目的とするのであり、「流通過程で登録商標が抹消され、登録商標が付されていない商品そのもの(物としては商標権者が譲渡した商品と同一)の出所を特定すること」、は商標権の保護対象ではないことが明らかになったと考えられる。

本件の判決を前提とすれば、(一審判決の解説でも述べたことであるが)商標権者の立場からすれば、商標権者が譲渡した商品を第三者に販売させる場合、商標権者の登録商標を付して販売させるのか、第三者の商標を付して(併存の場合も含む)販売させるのか(いわゆるOEMの場合はこれに該当する。)という点を契約によって明確にさせておくことが望ましいといえる。

以上
弁護士 石橋茂