自動車,冷蔵庫,ハンドバッグ,飲料用瓶・・・このような形のある物は,その物としての機能を発揮すること,商品として売れること,更には美的センスを発揮すること等を求められていますが,それだけでは形が一つに決まってくるものではなく,そのような求めに応じるように,デザインされています。
物の形態は,このデザインという人間の精神的活動の所産,砕けた言い方をすると「血と汗と涙の結晶」であるということです。
このような人間の精神的活動の所産を保護することにより,創作者に更なるデザインを行うインセンティブを与えることができます。

また,優れたデザインは他人に模倣され,粗悪品が出回りやすく,これは産業の健全な発達を阻害します。特徴的なデザインの商品が流行すると,たちまち雨後の竹の子のごとく追随商品が出てきます。
例えば,ちょっと古いですが,バンダイ社の「たまごっち」というキーホルダー型ゲーム機が流行した際,コピー商品,模倣品や類似商品が出回ったことがあります。

したがって,違法コピーや海賊版が市場に出回るのを防止して,「血と汗と涙の結晶」であるデザインを保護する必要があります。
このようなデザインの模倣の防止の観点から,物の形態は,意匠法,不正競争防止法等によって保護することとされています。

意匠法は,新規な意匠を創作した者に対し,意匠権を与えて保護します(意3条)。
意匠権者は,業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有するのです(意23条本文)。
すなわち,権原なき第三者が業として登録意匠又はこれに類似する意匠の実施(当該意匠に係る物品の製造等を意味します(意2条3項)。)をすると意匠権の侵害になるのです。

登録意匠に類似するか否かは,どのように判断されるのでしょうか。
意匠法は,この判断は需用者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする旨規定していますが(意24条2項),具体的なことは規定されていません。

実務上は,両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を認定し,ついで,その差異点を明らかにした上,意匠において看者(需用者)の注意を引く部分(要部)がどこかを認定し,両意匠が要部において共通性を有するか否かを中心に検討し,両意匠が看者に異なる美感を与えるか否かを結論づける手法が採られています(竹田稔「知的財産権侵害要論〔特許・意匠・商標編〕(第5版)669頁~670頁)。

先ほどの「たまごっち」の例でいうと,従来のゲーム機は略方形のもの及びその辺又は角に丸味を帯びさせたものが多かったから,「たまごっち」の登録意匠の要部は躯体の輪郭形状が全体に丸味を帯びた扁平な略卵形状をなしているという基本的構成態様と,正面略中央位置に開設された液晶表示画面の大きさ及び形状(具体的構成態様)とにあるとし,後発品の要部もこれとほぼ同一として,両者は類似であると判断した事例があります(東地判平10・2・25「たまごっち事件」)。

では,不正競争防止法による保護は,どのようなものでしょうか。
不正競争防止法は,他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等することを「不正競争」の1類型としています(不競2条1項3号)。

ここで,「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいいます(不競2条5項)。
したがって,不正競争防止法2条1項3号は,コピー商品,模倣品,中でも,そっくりそのまま真似をした,いわゆるデッドコピーを防止するための規定です。

例えば,ショルダーストラップのないブラジャーである「ヌーブラ」(米国ブラジェル社の商品)のコピー商品につき,使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなること,ショルダーストラップ,横ベルト等身体に装着する部材がないこと,各カップの内側に粘着層を備えていることから,「ヌーブラ」と,寸法,形状,色彩が極めてよく似ていることが認められるとして,不正競争防止法2条1項3号に基づく損害賠償請求を認めた事例があります(大地判平16・9・13(「ヌーブラ事件」)。

不正競争防止法2条1項3号の行為に対しては,差止め,損害賠償の請求をすることができますが(不競3条,4条),保護される商品は,日本国内において最初に販売された日から起算して3年以内の商品に限ります(不競19条1項5号イ)。最近、2条1項3号の「商品」該当正に関して、展示会に出されただけで、販売が開始されていなかったものについては「商品」にあたらず、不正競争防止法2条1項3号では保護されないという判決が出されました(東地判平28・1・14「スティック型加湿器事件」。まだ、商品化まで時間がかかるような新製品を展示会に発表する際には、先に意匠登録出願を済ましておく等十分な注意が必要です。

意匠権は,出願(意6条),審査(意16条)を経て,登録されて初めて発生しますが(意20条1項),ライフサイクルの短い商品については意匠権の登録を待っていては保護が間に合わない場合があるため,デッドコピーに対しては意匠登録を必要とすることなく先行者に保護を与えようというのが不正競争防止法2条1項3号の規定です。

したがって,コピー商品,違法コピー,海賊版への対策としては,まずは意匠権を取得しての権利行使,意匠権が取得できるまでの間でもデッドコピーについては不正競争防止法2条1項3号による差止め,損害賠償ということになります。

USLFでは,意匠権侵害やコピー商品,模倣品,違法コピー,海賊版に関する紛争について,多くの経験を持っています。お気軽にご相談ください。