【令和5年12月14日(大阪地裁 令和2年(ワ)第7918号)】

1 事案の概要(以下では、説明の必要のため事案を若干簡略化している)

 本件は、「データ処理装置及びコンピュータ」(第9類)等を指定商品・役務とする文字商標「Robot Shop」(標準文字)に係る登録商標(登録第5776371号。以下「本件商標」という。)の商標権者である原告が、被告が管理するウェブサイト等に被告標章を付してモータ・アクチュエータ等のロボット製作部品や、ドローンキット等の無人機・ドローン等(以下、総称して「被告商品」という。)を販売し、販売している商品の画像を公開している行為について、本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)に基づき、被告に対し、被告商品に関する広告等を内容とする情報に、被告標章を付して、インターネット上のホームページ等の広告を提供すること等の差止め、及び損害賠償を求めた事案である。

被告標章 本件商標
Robot Shop(標準文字)

裁判所は、原告の請求を一部認容したが、一部の被告商品について、本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されないとして、原告の請求を認めなかった。本稿では、禁反言の原則について判示した内容に限定して紹介をする。

2 判示内容(判決文中、下線部や(※)部は本記事執筆者が挿入)

 原告は、被告商品のうちドローンキット等の無人機・ドローンに係る商品が、本件商標の指定商品「データ処理装置及びコンピュータ」(第9類)に該当するとして、本件商標権を侵害している旨主張した。

 これに対し、被告は、原告が、本件商標の出願当初、「工業用ロボット、…その他ロボット」(第7類)を含めて指定商品としていたが、特許庁から、ロボット関連商品にRobotShopを使用しても記述的で識別力がない旨(商標法3条1項3号)を指摘され、これを削除して、最終的に本件商標権が登録されたという経緯がある。したがって、原告が「工業用ロボット、…その他ロボット」に該当する商品について本件商標権侵害を主張することは禁反言の原則により許されないと主張した。

 裁判所は、本件商標の出願経過に照らすと、原告が「ロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと解するのが相当である」とした。

3 本件商標の効力が被告標章に及ぶか(禁反言の原則の適否)(争点3)について

(1) 証拠…及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件商標の出願に当たり、「第7類工業用ロボット、娯楽用ロボット、研究用ロボット、その他ロボット」、「第28類ロボットおもちゃ並びにその部品」等、「第35類工業用ロボットの小売」等を指定商品及び指定役務としていたが、特許庁から、本件商標は、「ロボットの小売店」程の意味合いを容易に認識させるものであるところ、ロボットの販売及び修理等を取り扱う業界において、「RobotShоp」及び「ロボットショップ」の文字が、ロボットを取扱商品とする小売店であることを示す語として一般的に使用されている実情があることから、本件商標を第35類の工業用ロボットの小売等の指定役務に使用することは、商標法3条1項3号に該当すること等を理由とする拒絶理由通知書の送付を受け、前記商品及び役務を指定商品等から除外して、本件商標の登録を受けたことが認められる。

 被告は、被告各サイトにおいて、被告販売商品を販売しているところ、このような本件商標の出願経過に照らすと、原告が、被告販売商品のうちロボットと同一又は類似するものに対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則(民法1条2項)により許されないと解するのが相当である

裁判所は上記のとおり、本件に関する判断基準を示した上で、被告商品のうち「ロボットと同一又は類似するもの」があるかどうかを検討した。裁判所は、まず「ロボット」の字義等から、「ロボットに類似するもの」の範囲について、「所定の目的のために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似するものである」と画定した。その上で、裁判所は、被告商品のうちドローンキット等を「所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、少なくともロボットに類似するもの」と認定し、ドローンキット等について本件商標権の主張をすることは、禁反言の原則により許されないとした。

(2) ロボットの字義は、「複雑精巧な装置によって人間のように動く自動人形。一般に、目的とする操作・作業を自動的に行うことのできる機械又は装置」(広辞苑第七版)であるほか、証拠(甲24、25、乙31)及び弁論の全趣旨によれば、日本産業規格(JIS規格)は、ロボットについて、二つ以上の軸についてプログラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作をして所期の作業を実行する運動機構と定義し、産業用ロボットについて、産業オートメーション用途に用いるため、位置が固定又は移動し、3軸以上がプログラム可能で、自動制御され、再プログラム可能な多用途マニピュレータ(互いに連結され相対的に回転又は直進運動する一連の部材で構成され、対象物をつかみ、動かすことを目的とした機械)と定義していることが認められる。これらの字義等に照らすと、所定の目的のために自律性をもって動作等をする機械又は装置は、少なくともロボットに類似するものであるといえる

 別紙「被告商品の指定商品該当性」の「被告サイトにおける説明」欄によれば、非類似商品を除く被告商品のうち、「被告商品」欄の「2.無人機・ドローン」の「(1)無人機・ドローンキット/ARF/RTF」、「(2)完成品(RTF)/半完成品(ARF)」、「(3)無人機・ドローン完成品(RTF)」、「(4)小型/超小型無人機」、「(6)Vテール」、「(7)クワッドコプター」、「(8)ヘキサコプター/オクタコプター」及び「(9)飛行機」(以下、これらを「ロボット類似品」と総称する。)は、所定の目的のために自律飛行が可能なものが含まれるものと認められ、少なくともロボットに類似するものといえる。

 一方、ロボット類似品を除くその余の被告商品は、いずれもロボット製作に使用する部品や汎用的な部品、製作機器等であって、ロボットに類似するとはいえない。

(3) 以上から、原告が、ロボット類似品に対して本件商標権の侵害を主張することは、禁反言の原則により許されない。

3 若干のコメント

 本件は、原告がドローンキット等に対して本商標権の侵害を主張することが、本件商標の審査段階における出願人の対応を踏まえると、禁反言の原則に反すると判断した例である。出願経過における対応が後の権利行使の際に影響を及ぼし得ることは指摘されているところであるが、本件は、そのような実例として参考となる事案である。

以上

弁護士 藤田達郎