【知財高裁令和6年4月24日(令和5年(行ケ)第10109号)】
【キーワード】
商標法、商標権、商標法55条の2、商標法15条の2、審決取消訴訟
【事案の概要】
原告は、令和2年8月27日、「奇跡のラカンカ」の文字を横書きしてなる商標(本願商標)について商標登録出願した(本件出願)。原告は、令和4年1月25日付けで、本願商標が商標法3条1項3号に該当することを理由に拒絶査定を受けたため、同年4月29日、拒絶査定不服審判(本件審判)を請求した。特許庁は、前記請求を不服2022-6605号事件として審理を行い、令和5年8月17日、本願商標が商標法3条1項6号に該当するとして、本件審判を不成立とする審決(本件審決)を行った。原告は、拒絶査定の理由と異なる拒絶理由(3条1項6号)により審判請求不成立とした本件審判の手続上の瑕疵を取消事由として、審決取消訴訟[1](本訴)を提起した。
[1] [1] 商標法上の審決取消訴訟は、審決という特許庁の行った行政処分に関する訴訟であり、商標法に特別の定めがある場合を除いて行政事件訴訟法が適用され(行政事件訴訟法1条)、さらに行政事件訴訟法にも定めがない事項については民事訴訟法が適用される(行政事件訴訟法7条)。
【争点】
⑴ 本件審判の手続上の瑕疵(商標法55条の2第1項違反)の有無
⑵ 本件審判の手続上の瑕疵が審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
【判決(一部抜粋)】(下線は筆者が付した。以下同じ。)
第1~第3 省略
第4 当裁判所の判断
1 省略
2 本件審判の手続上の瑕疵について
(1) 15条の2は、特許庁審査官が拒絶査定をしようとするときは出願人に対し拒絶理由通知を行うことを必要的な手続として法定し、55条の2第1項は、拒絶査定不服審判において「査定の理由と異なる拒絶の理由」を発見した場合にこれを準用している。これらの規定は、拒絶理由について出願人・審判請求人に何らの弁明の機会が与えられないのは不公平であり、反論を通じて審査官・審判官に再考を求める機会を確保するのが適切であることから定められたものであり、特許法50条、159条2項等と同趣旨のものと理解される。
本件において、拒絶の原査定及びこれに先立つ拒絶理由通知の根拠条文としては3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決は同項6号を拒絶の理由としているが、本件審決に先立って新たな拒絶理由通知は行われていない(以上は争いがない。)。そこで、本件審決の理由が55条の2第1項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由」に当たるか否かを検討する必要がある。
(2) 商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号において限
定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定める具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。
この点、被告は、3条1項は出所表示機能を欠く商標を列挙するところ、例示的列挙である1号~5号による拒絶と総括規定である6号による拒絶とでは、判断内容が実質的に相違するものでないから、本件審決の理由と査定の理由は「異なる拒絶の理由」に当たらない旨主張している。しかし、3条1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言からも明らかなように、同項6号と同項1号~5号との間に概念上の上下関係、包摂関係があるわけではない(参考までに、本来的な意味での例示列挙の立法例として、著作権法30条の4、同法47条の4第1項があるが、3条1項がこれらと異なることは明らかである。)。
被告の上記主張は、3条1項の全体としての趣旨、各号の担う実質的な役割・機能を説明する文脈であれば、誤りとはいえないが、行政庁による公権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づいて行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである。根拠条文の異なる拒絶について、その背景にある立法趣旨において共通性があるからといって、「異なる拒絶の理由」に当たらないなどということはできない。
(3) 以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがって品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力するのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張はしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能を欠く商標かどうかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認められないというべきである。
なお、本件において、本件審尋書面の送付により反論の機会が事実上付与されているという事情は認められるものの、原査定の理由と本件審決の理由が客観的に同一といえるかという議論とは次元の異なる問題であるから、手続上の違法が審決に結論に影響を及ぼすか否かの場面(後記3参照)で考慮されることは格別、「拒絶の理由」の異同に関する上記判断を左右するものではない。
(4) 被告は、本件審判の手続を正当化する理由として、3条1項の適用上、識別力を有しない商標であること自体は明らかであっても、同項のいずれの類型に分類することが適切か明らかでなく、複数の号に重複して分類し得る商標もあり得る点を挙げる。
しかし、そのような問題があるとすれば、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において、複数の根拠条文を掲げておけば(本件に即していえば「3条1項3号又は6号」など)足りることであり、「異なる拒絶の理由」に当たる場合を限定的に解釈すべき根拠となるものではない。
なお、この点につき、被告はさらに、多数の拒絶理由を列挙することになり、拒絶理由相互の関係が不明確で複雑なものとなり、出願人にとっても防御の観点から不利益となるとも主張する。しかし、本件で問題となっている3条1項各号の選択に関していえば、合理的に適用が考えられる複数の号の組合せは限定的と解されるし、出願人の防御という観点からいっても、被告が主張するように3条1項各号の拒絶理由はどれも実質的に異ならないという前提での運用よりも、防御の範囲はむしろ明確になるといえる。
以上のとおり、被告の上記各主張は失当である。
(5) 次に、被告は、拒絶査定に対する審判の段階においては、実際上、16条(商標法施行令3条1項)の期間を経過しているのが大半であるから、新たな拒絶理由通知が必要になるとすると、実体上は登録要件に適合しない商標の登録も自動的に認めざるを得なくなり、不当である旨主張する。
仮に、被告が述べる上記のような実情が避け難いものだとすれば、拒絶理由通知の手続(15条の2)が審判手続について準用(55条の2第1項)される際に、16条所定の期間制限がどのように作用するのかを再検討することを含めた吟味が必要になると解されるが、それ以前の問題として、上記(4)で述べたように、最初の拒絶理由通知・拒絶査定において複数の根拠条文を掲げておくという実務上の運用による対応をまずは行うべきものであり、かつ、それで基本的に対処可能と考えられる。いずれにせよ、被告の上記主張は、「今更新たな拒絶理由通知ができないから異なる拒絶の理由ではないと強弁する」というに等しいものであり、採用することはできない。
(6) 以上に述べたところをまとめると、原査定の理由と本件審決の理由は、そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情も認められないから、両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。
そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ本件審判の手続には瑕疵があるというべきである(仮に16条の期間制限のために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があるとしても、瑕疵があることに変わりはない。)。
3 審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすようなものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりはない。)。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付をもって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。
加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章であるとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容となることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想されたところである。
本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
よって、原告主張の取消事由は採用できない。
(以下省略)
【若干の解説等】
1 総論
商標法55条の2第1項は、拒絶査定不服審判において「査定の理由と異なる拒絶の理由」を発見した場合に、特許庁審査官が拒絶査定をしようとするときは出願人に対し拒絶理由通知を行うことを定める商標法15条の2の規定を準用すると定めている。本件でも判示されるとおり、これは拒絶理由について出願人・審判請求人に何等の弁明の機会が与えられないのは不公平であり、反論を通じて審査官・審判官に再考を求める機会を確保するのが適切であることによる。
本件では、拒絶理由通知の根拠条文としては商標法3条1項3号が掲げられていたのに対し、本件審決(拒絶査定不服審判不成立)の根拠条文としては商標法3条1項3号ではなく同項6号が掲げられていたことから、これが商標法55条の2第1項にいう「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるかが争点となった。
商標法55条の2 商標法15条の2 |
本判決では、本件は「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当し、にもかかわらず審決に先立ち拒絶理由通知を行わなかったことは本件審判の手続上の瑕疵に該当すると判断された。しかしながら、本判決では同時に、上記の瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすものではないとも判断され、結論として、当該瑕疵は取消事由にならないとした。
以下、本判決での判断について若干の解説を加える。
2 本件の判断
⑴ 本件審判に関する手続上の瑕疵(商標法55条の2第1項違反)の有無
ア 判断方法
本件では、本件審判において根拠条文を商標法3条1項6号とする拒絶理由の通知が行われていないことには争いがなく、したがって、当該拒絶理由と、同項3号を根拠条文とする拒絶査定段階での拒絶理由とが「異なる拒絶の理由」といえるかが争点となった。
両者が「異なる拒絶の理由」と言えるかの判断方法について、裁判所は本判決において以下のとおり判示する。
商標法は、商標登録出願に対して拒絶査定をすべき場合を15条各号において限 定的に列挙し、法定の期間内に拒絶の理由を発見しないときは商標登録の査定をしなければならない旨を定める(16条)。このような商標法の構造に照らして、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定める具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。 |
以上の原則を踏まえつつも、個別具体的な事情により、査定と審決とで拒絶の根拠条文は異なっても、両者の判断内容が実質的に同一(大が小を兼ねる関係を含む。)であり、改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情が認められる場合には、「異なる拒絶の理由」に当たらないと解釈する余地もあり得るので、以下、この点について検討する。 |
すなわち、裁判所は、①商標法の構造から、拒絶理由につき根拠条文が異なる場合にはそれのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるとし、②この場合、両者の判断内容が実質的に同一であり改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情が認められる場合でない限り「異なる拒絶の理由」に当たることが否定される、という判断方法を採用した。
なお、被告は①について、3条1項は出所表示機能を欠く商標を列挙するもので、同項1号~5号は例示列挙、同項6号は総括規定であり、判断内容が実質的に相違しないから、査定の理由と本件審判の理由とは「異なる拒絶の理由」に当たらない、という旨の主張をしていたが、裁判所は「同項6号と同項1号~5号との間に概念上の上下関係、包摂関係があるわけではない」「行政庁による公権力の行使(本件では商標登録出願の拒絶)は、具体的な根拠条文に基づいて行われるのが法治国家の基本であり、「拒絶の理由」の異同についても、拒絶の根拠条文が第一義的な基準になると考えるべきである」として、これを否定している。
イ 判断の内容
以上で述べた判断方法を踏まえ、以下、裁判所の判断の内容について述べる。
まず、裁判所は、本件では査定段階の拒絶理由と審判段階の拒絶理由の根拠条文が異なることが明らかであるから、両拒絶理由は、上記①から、原則として、それのみをもって、「異なる拒絶の理由」ことになることを述べた。
次に上記②についても以下のように述べ、両者の判断内容が実質的に同一であり改めて弁明の機会を付与する必要がないといえる特段の事情はないものと判断した。
本件において、原査定を不服として本件審判を請求した原告の立場で考えると、原査定で示された理由(上記1(3))を争うべく、「本願商標の『奇跡の』は『栄養素が豊富な』という意味を表すものではなく、したがって品質等表示(3条1項3号)に該当するものではない」という反論に注力するのが自然な対応と解される。現に原告は審判請求書でその趣旨を含む主張をしている一方、3条1項6号が適用される可能性まで視野に入れた主張はしていない。これに対し、本件審決の判断(上記第2の2)は、本願商標の「奇跡の」について、「常識では考えられないような」程の意味合いで理解されるとして、原査定と異なる前提に立って、同項6号に当たるとの判断をしている。これらは、大きな意味において、出所表示機能を欠く商標かどうかという議論として括れないわけではないが、議論の出発点となるべき「奇跡の」の意味するところの認定に変更が生じているため、出願人・審判請求人に求められる防御の対象及び範囲も大きく異なったものとなっている。そうすると、原査定と本件審決の理由を対比する限りにおいて、その判断内容が実質的に同一であるなどということはできず、改めて弁明の機会を付与する必要があったと考えざるを得ない。本件において、上記特段の事情は認められないというべきである |
以上を整理すると、概ね以下のとおりとなる。
本願商標について査定段階では本願商標が含む「奇跡の」の文言は「栄養素が豊富な」という意味を表すものか否かが争われたのに対し、審判段階では、「奇跡の」の文言は「「常識では考えられないような」程の意味合い」という査定段階とは異なる前提で拒絶の判断がされている。このように、査定段階と審判段階では議論の出発点となる「奇跡の」の意味の認定が変更されていることから、原告に求められる防御の対象及び範囲は両段階で大きく異なることになる。このことから、査定段階と審判段階とで、その判断内容が実質的に同一などとはいえず、改めて原告に弁明の機会を付与する必要があった。したがって、特段の事情は認められない。
以上の判断により、裁判所は本件審判において、商標法55条の2第1項違反の手続上の瑕疵があったと判断した。
⑵ 本件の手続上の瑕疵が審決の結論に影響すべき瑕疵といえるか
上記のとおり、裁判所は本件審判に手続上の瑕疵があると判断したが、結論としては、これが審決の結論に影響を及ぼすような瑕疵といえないとして、本件審決の取消しを否定した。
まず、裁判所は以下のとおり、審決の結論に影響を及ぼすものと認められない審判手続の瑕疵(違法)は審決取消事由になり得ないと述べた。
審判手続に瑕疵(違法)があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすようなものと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される(手続上の違法に限らず、実体上の違法がある場合であっても、この理に変わりはない。)。 |
続いて、上記の規範に基づく判断に係る裁判所の判示は以下のとおりである。
そこでこの点を検討するに、本件審判手続においては、本件審尋書面が原告に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機会が与えられていたということができる。もちろん、本件審尋書面の送付をもって法定の手続である拒絶理由通知と同視することはできず、適式な弁明の機会が付与されていたということはできないが、審決の理由について何らの予告のないまま、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が大きく異なる。 加えて、本件審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が本件意見書中で主張していた内容(本願商標は「常識では考えられない神秘的な果物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章であるとの趣旨)を逆手に取って、本願商標の意味するところについては原告の主張を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6号に該当することになると切り返したものである。そして、当裁判所は、後記4で判断するとおり、取引者、需要者が理解・認識するであろう本願商標の意味内容について原告が本件意見書で主張したところを前提とすれば、やはり3条1項6号に該当することになると判断する。そうすると、仮に、原告に適式な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容となることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想されたところである。 本件における以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記2で述べた瑕疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。 |
ここでは主に以下の二つの理由が述べられている。
一つ目の理由は、本件では適式なものではないながらも原告に弁明の機会が与えられており、不意打ち的に判断が示された場合とは状況が異なるというものである。二つ目の理由は、本件審判での拒絶理由の判断は、原告が行った「本願商標は「常識では考えられない神秘的な果物:ラカンカ」という意味を普通に用いられる方法で表示している標章であるという主張を全面的に採用した上で、それでもなお本願商標が商標法3条1項6号に該当すると判断したものであって、仮に適式な弁明の機会が与えられていたとしても、原告から有意な反論が行われたとは考え難いというものである。
結論として、裁判所は主に上記二つの理由から、本件における瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすものではないと判断し、審決取消事由に該当することを否定した。
以上
弁護士 稲垣紀穂