ブランドは,商標法,不正競争防止法等によって保護されます。なぜブランドが保護されるのでしょうか。

商標(ブランド,トレードマーク)は,自己の営業に係る商品又は役務(サービス)を他人の営業に係る商品又は役務と識別するための標識としての機能(「自他商品役務識別機能」といいます。)を奏します。

例えば,目の前にテレビが一台あって,「AQUOS」と表示されているとします。
そうすると,そのテレビはシャープ社が製造販売したテレビだということが分かるでしょう。
この例で「AQUOS」という表示が商標なのですが,商標を付することによってこのテレビはソニー製でも東芝製でもなく,シャープ製だと分かります。
つまり,シャープ社からすると,「AQUOS」という商標は,自己の営業に係る商品(シャープ製テレビ)を他人の営業に係る商品(ソニー・東芝製テレビ)と識別するための「標識」として機能するわけです。

これが,自他商品役務識別機能であり,商標の本来的な機能です。
そして,ここから1.出所表示機能,2.品質保証機能,3.広告宣伝機能という三つの機能が派生するといわれています。

上記の例では,「AQUOS」がシャープ製テレビの製品名であることはみんな知っています。
そうすると,「シャープ製」とわざわざ表示しなくても,「AQUOS」と表示しておけば,「このテレビはシャープ製だな」とみんながわかるようになります。
これが,1.出所表示機能です。

また,「AQUOS」の画質が優れていることはテレビのCMでおなじみです。
そうすると,「AQUOS」という表示が付されているテレビを見た人は,「このテレビの画質はいいんだろうな。」と思います。
これが,2.品質保証機能です。

さらに,ある人が「AQUOS」を購入して満足したとする。
その人は,ブログでなんて書くかという「念願のAQUOS購入。なかなかきれい,満足」と書くでしょう。
もし,「AQUOS」という商標が存在しなければ,「念願のシャープ製カラーテレビ(型番○○)購入・・」となって,なんとなく伝わりません。
つまり,「AQUOS」という商標が存在するために,他人に対して製品の情報や感想をダイレクトに伝えることが容易になるわけで,この機能のことを3.広告宣伝機能といいます。

商標が継続的に使用されると,これらの機能が発揮されていきますが,その結果,名声・信頼が生じます。
例えば,「AQUOS」という商標をテレビで宣伝する,店頭でポスターを作る,テレビに付することによって,これらの機能が発揮され,「AQUOS」はシャープ製のテレビで,画像がきれいで,購入してみようかな,ということになります。

そして,店頭でいろいろなテレビが並んでいる中で「AQUOSはどれだ?」と探すことになる。
これが,「AQUOS」という商標に信用や顧客吸引力が化体した状態であり,この段階になると「AQUOS」はブランド化し,財産的価値を持ってきます。

さて,この「AQUOS」の顧客吸引力に着目して,「そうか。テレビを作って『AQUOS』と表示すれば売れるぞ~。」と考えて,他のメーカも「AQUOS」と表示し始めたらどうなるでしょうか。
ユーザからすれば,どれがお目当ての「シャープ製AQUOS」なのかがわからず,市場が混乱します。
また,シャープ社にしてみても,せっかく多額の宣伝広告費をかけて「AQUOS」に価値を持たせてきたのに,そんな状態が放置されるとしたら許されないと感じることでしょう。

商標法や不正競争防止法は,このようなブランド(商標に化体した財産的価値)を保護する法律です。
それでは,ブランドにはどの程度の財産的価値があるのでしょうか。それは,以下のように考えていただけると分かりやすいと思います。

今,目の前に同じメーカが同じ材質,仕様,デザインで製造した革の鞄が二つ並べてある。左の鞄には何もブランド表示がない,いわゆる「無印」です。

右の鞄には「Louis Vuitton」と表示されている。さて,あなたはどちらの鞄を買うでしょうか。
同じ値段ならば当然右の鞄です。
左の鞄,右の鞄がそれぞれ1000円,2000円だったらどうでしょうか。多くの方はそれでも右の鞄です。

それでは,1000円,5000円だったら?このあたりから結論は分かれるでしょうが,5倍もの値段になった右の鞄が全く売れなくなるとは思えません。

この現象は何を意味するかというと,わずか数文字の「Louis Vuitton」という文字(商標)を付するだけで,他は全く同じ鞄の価格が5倍に上がる,つまり,これが商標の財産的価値であるということができます。

より経営的に考えると,鞄の製造原価を500円だったと仮定すると,「無印」の鞄では粗利率は50%ですが,「Louis Vuitton」という商標を付せば粗利率が90%に上がることを意味します。
つまり,「Louis Vuitton」という商標は粗利率を飛躍的に向上させるマジックワードであり,ゆえに,適切な保護をしておかないとみんなが「Louis Vuitton」という表示を鞄につけて販売しかねないということになります。

ブランドがいかに利益率を上げるか,そして,そのブランドを侵害から守ることがいかに重要かということがおわかりいただけたでしょうか。

商標法や不正競争防止法は,ブランドを保護することにより,このような重要な財産的価値を保護するという役目を果たすのです。

商標権の侵害は,別途述べることとして【商標侵害はどうやって判断すればいいの?】,ここでは,不正競争防止法によるブランドの保護について,簡単に述べておきます。

不正競争防止法は,他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡等して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(不競2条1項1号。「周知表示混同惹起行為」),自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡等する行為(不競2条1項2号。「著名表示冒用行為」)を「不正競争」の類型としています。

ここで,「商品等表示」とは,人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいいます(不競2条1項1号かっこ書)。

したがって,「商品等表示」に該当するためには,商品又は営業について,自他を識別する機能(「自他識別機能」)を奏するものである必要があります。
いわゆるブランド品のブランド名(例えば,上記で挙げた「AQUOS」,「Louis Vuitton」)は,「商品等表示」に該当します。

不正競争防止法2条1項1号,2号の行為に対しては,差止め,損害賠償の請求をすることができます(不競3条,4条)。

1号は,1.他人の商品等表示の周知性,2.商品等表示の使用等,3.2の商品等表示と他人の商品等表示との類似性,4.3による他人の商品又は役務との混同が要件となります。

「混同」は,「他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と右他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為(以下『広義の混同惹起行為』という。)をも包含し,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しない」と解されています(最判平10・9・10「スナックシャネル事件」)。

例えば,アップルコンピュータ社のディスプレイ一体型デスクトップコンピュータ「iMac」が発売された直後,これと類似した形態のコンピュータについて,需要者が,両者を誤認混同したり,少なくともそのコンピュータを製造販売する債務者が債権者らと何らかの資本関係,提携関係等を有するのではないかと誤認混同するおそれがあるとして,差止請求を認めた事例があります(東地決平11・9・20「iMac事件」)。

また、最近、喫茶店の店舗外観が「商品等表示」に該当するとして、店舗外観等の使用差し止めを認める仮処分命令が発令されたことが話題となりました(東京地裁平28・12・19・平成27年(ヨ)第22042号「コメダ珈琲事件」)

2号は,1.他人の商品等表示の著名性,2.商品等表示の使用等,3.2の商品等表示と他人の商品等表示との類似性が要件となります。

1号との違いは,「混同」の要件がない代わりに,「周知性」ではなく「著名性」が要件とされていることです。
商品等表示が著名となり高い信用を備えた場合には,1号のような「混同」(すなわち,広義の混同)が生じないときであっても,その商品等表示が持っている信用・顧客吸引力へのただ乗り(「フリーライド」),その商品等表示の出所表示機能の希釈化(「ダイリューション」),その商品等表示のイメージの汚染(「ポリューション」)を防止する必要があると考えられているためです。

例えば,飲食店に「スナックシャネル」及び「SNACK CHANEL」の表示を用いて営業していた場合に,「シャネル」及び「CHANEL」がシャネル社の営業表示として著名であるとして,差止め,損害賠償の請求を認めた事例(東地判平20・3・12「横須賀スナックシャネル事件」)が2号の典型例です。

このように,不正競争防止法は,周知・著名な他人の商品等表示の使用について,一定要件下で,差止め,損害賠償の請求を認め,これにより商品等表示を保護しているのです。

したがって,他人が自己の商標と同一・類似の商標を使用している場合の対策としては,まずは商標権を取得しての権利行使,商標権が取得できるまでの間でも出所の混同が生じていたり,自己の商標が著名であったりする場合には,不正競争防止法2条1項1号,2号による差止め,損害賠償ということになります。

USLFでは,商標や不正競争防止法に関する紛争について,多くの経験を持っています。
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