【判旨】
指定商品を「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」とする「黒糖ドーナツ棒」との文字を手書き風の文字で2列に縦書きしてなる登録商標(本件商標)の商標法3条2項の該当性を認めた本件審決の判断に誤りはない。
【キーワード】
商標法3条1項3号、商標法3条2項、使用による識別性、4部判決

【事案の概要】
登録商標の無効審判の不成立審決に対する取消訴訟において、知財高裁は、本件商標は、商標法3条1項3号に該当するものの、外観において同一と見られる標章を付した包装が指定商品とされる商品に使用されており,その使用開始時期,使用期間,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する本件商標に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮するとき,本件商標は,使用をされた結果,登録審決時点において,需要者が商標権者の業務に係る商品であることを認識することができるものになっていたもの(商標法3条2項)と認められるとした。
本稿では、本件商標と、実際に使用された標章との同一性に着目しつつ判決を紹介する。

【争点】
本件商標の商標法3条2項の該当性に係る認定・判断に誤りがあるか。

【判旨抜粋】
1 本件商標・・・
登録番号:登録第5076547号・・・
商標の構成

指定商品:第30類「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」
・・・
第4 当裁判所の判断
1 本件商標の商標法3条1項3号の該当性について
・・・
(2) 「黒糖」とは,黒砂糖と同義であり,「まだ精製していない茶褐色の砂糖。甘蔗汁をしぼって鍋で煮詰めたままのもの。」・・・とされており,「ドーナツ」とは,「小麦粉に砂糖・バター・卵・ベーキング-パウダーまたはイーストなどをまぜてこね,輪形・円形などに作って油で揚げた洋菓子。」・・・とされているから,本件商標のうち「黒糖」と「ドーナツ」との部分は,洋菓子であるドーナツの品質及び原材料を普通に用いられる方法で表示している。そして,「棒」は,「ドーナツ」の文字の直後に置かれることによって,ドーナツの形状を普通に用いられる方法で表示しているといえる。したがって,本件商標は,その指定商品に用いられた場合,まさに「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」の品質,原材料及び形状を普通に用いられる方法で表示する標章であるといえる(商標法3条1項3号)。
2 本件商標の商標法3条2項の該当性について
(1) 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
ア 本件商標の使用開始時期等
被告は・・・平成6年秋ころ,日本生活協同組合連合会・学校生活協同組合の通信販売を通じた本件商品の販売を開始した。被告は,その際,上記通信販売カタログに本件商品の包装箱の写真を掲載したが,当該包装箱は,縦長直方体であり,黒色である包装箱表面には本件商標と形状において同一と見られ,「黒糖」部分が赤色で「ドーナツ棒」部分が金色の標章が掲示されており,併せて,当該包装箱側面の黒色部分には,当該標章の各文字を「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした標章が掲示されていた・・・。
イ 本件商標の使用期間,使用地域,使用態様等
(ア) 被告は,平成7年ころ,自社の通信販売カタログ(3000部)の刊行を開始して以来,平成19年6月までにこれを合計29回刊行し,遅くとも平成13年10月以降は,そこに前記包装箱や,本件商標と形状において同一と見られる前記標章を「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした紙片をその側面に貼付した金属製の包装箱又は本件商品の個別の透明ビニール製包装袋であって,当該標章を1段に横書きしたものが白色で印刷されたもの(以下,これらの包装箱及び包装袋を併せて「本件包装」という。)の写真を毎号掲載した。
・・・
さらに,被告は,岡山県所在の山陽新聞社が刊行する情報誌である「レディア」152号・・・琉球新報社刊行の情報誌「うない」平成17年5月・6月合併号・・・及び熊本日日新聞刊行の情報誌「デリすぱ」同年7月1日号・・・その他の印刷媒体に,いずれも自社名及び本件包装の写真とともに本件商品の広告を掲載した・・・。
・・・
被告は・・・遅くとも平成16年夏ころまでには,京都府所在の株式会社千趣会・・・による通信販売にも本件商品の供給を開始したが・・・これらの通信販売カタログには,本件包装の写真が掲載されており,自社名が掲載されているものもあった。
・・・
(オ) インターネット上のショッピングモールであるQVC・・・は,平成16年8月10日までには,楽天市場・・・及びYAHOOショッピング・・・は,平成17年12月18日までには,シャディOnline・・・は,平成18年6月26日までには,いずれも,本件包装の写真を掲示して本件商品をインターネット上で販売していた。
・・・
(2) 本件商標の商標法3条2項の該当性について
ア ある標章が商標法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべきである。
イ これを本件についてみると,前記認定のとおり,被告は,平成6年秋ころ以来,本件登録審決時点(平成19年7月11日)に至るまでの約13年弱の間,本件商標と形状において同一と見られ,「黒糖」部分が赤色で「ドーナツ棒」部分が金色の標章や,本件商標と形状において同一と見られる各文字を1段又は「黒糖」と「ドーナツ棒」とで2段に横書きした標章を,一貫して指定商品である黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子(本件商品)の包装(本件包装)に付して使用している。
 そして,被告は,上記の期間中,本件包装が付された本件商品を,九州地方を中心としつつもそれ以外の地の店舗や,テレビショッピング番組並びに自社及び複数のインターネット上のショッピングモールを通じて販売していたほか,本件商品を自社及び複数の大手百貨店等による通信販売により全国的に販売するに当たり,本件包装の写真を通信販売カタログ,テレビ広告,複数地域の各種情報誌又は新聞に,しばしば自社名とともに本件商品の広告として掲載しており,その宣伝広告費も,本件登録審決当時に先立つ1年間で8923万6193円に及んでいる。また,地方テレビ局の番組,各種情報誌及び新聞も,本件包装の写真とともに被告及び本件商品を紹介しており,その結果がインターネット上のホームページに掲載されたものもあった。
 さらに,被告による本件商品の生産数は,本件登録審決当時に先立つ1年間で3414万1976本と相当大量であり,同時期の売上高である約7億6244万円という金額も,1本概ね約23円ないし50円程度という本件商品の販売単価に比較するとき,相当高額なものに及んでいるといえる。
 他方で,本件商品と同種の商品は,我が国に少なからず存在し,これらに関する標章には各種のものがあるが,当該商品について,平成6年秋ころから本件登録審決時点(平成19年7月11日)までの間に「黒糖ドーナツ棒(コクトウドーナツボウ)」との外観又は称呼を有する標章を使用して販売していることが確認できるのは,被告のみである一方,他の商品に付された標章には「黒糖」,「ドーナツ」及び「棒」を組み合わせたものは存在せず,むしろ,本件商標とは外観及び称呼を異にするものしか証拠上は確認できない。
ウ 以上のとおり,本件商標と外観において同一と見られる標章を付した包装(本件包装)が指定商品とされる本件商品に使用されており,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び本件商品又はこれに類似した商品に関する本件商標に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮するとき,本件商標は,使用をされた結果,本件登録審決時点(平成19年7月11日)において,需要者が被告の業務に係る商品であることを認識することができるものになっていたものと認めることができる。

【解説】
 本判決は少し前のものではあり、判例タイムズにも紹介記事が掲載されているが(判例タイムズ1355号202頁)、ここでは、同紹介記事とは少し異なる視点から解説を試みたい。具体的には、登録商標と、実際に使用された標章との同一性という視点から解説を試みる。
 本件事案の事実認定によれば、登録商標は「黒糖」、「ドーナツ棒」を縦書き二段・黒色で表示したものであるところ、縦書きの標章(ただし色違い)が使用されたのはH6年の秋頃のみで、繰り返し使用されていたのは、横書き一段・白色で印刷された「黒糖 ドーナツ棒」である。
 このように、登録を受けようとする(又は登録を受けた)商標と、実際に使用されていた標章との形態が異なる場合、原則としては、商標法3条2項の適用を受けることはできないとされている(例えば、「商標法審査基準」の「第2 第3条2項」の欄の記載や、「商標の法律相談(小野昌延・小松陽一郎編 青林書院)」のp.144参照)。
 もっとも、商標法審査基準も、使用形態の厳密な同一性までをも求めているわけではなく、
「出願された商標と証明書に表示された商標とが厳密には一致しない場合であっても、例えば、その違いが明朝体とゴシック体、縦書きと横書きにすぎない等外観において同視できる程度に商標としての同一性を損なわないものと認められるときには、本項の判断において考慮するものとする。」
とし、商標法3条2項の適用の余地があるとしている。また、本判決においても、
「ある標章が商標法3条2項所定の『使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの』に該当するか否かは,出願に係る商標と外観において同一と見られる標章が指定商品とされる商品に使用されたことを前提として,その使用開始時期,使用期間,使用地域,使用態様,当該商品の数量又は売上高等及び当該商品又はこれに類似した商品に関する当該標章に類似した他の標章の存否などの事情を総合考慮して判断されるべき」
と判示されており、「外観において同一」であれば、商標法3条2項の適用の余地があるとしている。
 そして、本判決では、縦書き二段・黒色の「黒糖」「ドーナツ棒」の本件商標と、横書き一段・白色の標章又は横書き二段・赤色+金色の標章とを同一であるとしている。社会通念上も、この程度の違いであれば同一と判断されるべきであろう。このため、判決の結論は妥当であり、この結論に異論をいう者は少ないであろう。
 本件は、商標法3条2項の適用において、登録を受けようとする(又は登録された)商標と、実際に使用された標章との同一性の射程を考える上で実務上参考判決ゆえ、紹介する次第である。

2012.8.13 (文責)弁護士 栁下彰彦