【判旨】
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。
【キーワード】
主体、管理、支配、複製、カラオケ法理

第1 事案の概要
 本件は、「ロクラクⅡ」を用いたロケーションフリーサービスを提供する被上告人に対して、テレビ局である上告人が、複製権侵害(著作権法第21条、98条)を主張した事例である。
 ロクラクⅡは,2台の機器の一方を親機とし,他方を子機として用いることができる(以下,親機として用いられるロクラクⅡを「親機ロクラク」といい,子機として用いられるロクラクⅡを「子機ロクラク」という。)。親機ロクラクは,地上波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信した放送番組等をデジタルデータ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能を有し,子機ロクラクは,インターネットを介して,親機ロクラクにおける録画を指示し,その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け,これを再生する機能を有する。
 ロクラクⅡの利用者は,親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して1対1で対応させることにより,親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。その具体的な手順は,① 利用者が,手元の子機ロクラクを操作して特定の放送番組等について録画の指示をする,② その指示がインターネットを介して対応関係を有する親機ロクラクに伝えられる,③ 親機ロクラクには,テレビアンテナで受信された地上波アナログ放送が入力されており,上記録画の指示があると,指示に係る上記放送番組等が,親機ロクラクにより自動的にデジタルデータ化されて録画され,このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される,④ 利用者が,子機ロクラクを操作して上記データを再生し,当該放送番組等を視聴するというものである。
 被上告人は,平成17年3月ころから,初期登録料を3150円とし,レンタル料金を月額6825円ないし8925円として,親機ロクラク及び子機ロクラクを併せて貸与するサービスや,子機ロクラクを販売し,親機ロクラクのみを貸与するサービスを開始した(以下,これらのサービスを併せて「本件サービス」という。)。
 本件サービスの利用者は,子機ロクラクを操作して,親機ロクラクの設置されている地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより,当該放送番組等を視聴することができる。 

第2 争点
 被上告人は、ロクラクⅡを提供しているものの、実際に複製を行っているのは、ユーザである(ユーザの複製は、私的複製に当たり、複製権侵害とならない(著作権法30条1項))。かかる場合に、被上告人が複製権侵害の主体となりうるか。

第3 判決抜粋
法廷意見
 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
 以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとしても本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の機器の管理状況等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠志の補足意見がある。

裁判官金築誠志の補足意見
 著作権法上の複製等の主体の判断基準に関しては,従来の当審判例との関連等の問題があるので,私の考え方を述べておくこととしたい。
 1 上記判断基準に関しては,最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(民集42巻3号199頁)以来のいわゆる「カラオケ法理」が援用されることが多く,本件の第1審判決を含め,この法理に基づいて,複製等の主体であることを認めた裁判例は少なくないとされている。「カラオケ法理」は,物理的,自然的には行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。
 
このように,「カラオケ法理」は,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり,これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって,考慮されるべき要素も,行為類型によって変わり得るのであり,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は,社会的,経済的な観点から行為の主体を検討する際に,多くの場合,重要な要素であるというにとどまる。にもかかわらず,固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば,その点にこそ,「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。
 2 原判決は,本件録画の主体を被上告人ではなく利用者であると認定するに際し,番組の選択を含む録画の実行指示を利用者が自由に行っている点を重視したものと解される。これは,複製行為を,録画機器の操作という,利用者の物理的,自然的行為の側面に焦点を当てて観察したものといえよう。そして,原判決は,親機を利用者が自己管理している場合は私的使用として適法であるところ,被上告人の提供するサービスは,親機を被上告人が管理している場合であっても,親機の機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,利用者に代わって整備するものにすぎず,適法な私的使用を違法なものに転化させるものではないとしている。しかし,こうした見方には,いくつかの疑問がある。
 
法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。
 また,ロクラクⅡの機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わが国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。
 さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。
もっとも,本件は,親機に対する管理,支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるから,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。
 
3 原判決は,本件は前掲判例と事案を異にするとしている。そのこと自体は当然であるが,同判例は,著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当であるとの考え方を根底に置いているものと解される。原判断は,こうした総合的視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。

第4 検討・考察
 本件は、著作権侵害主体の一連の判決の最高裁判決であり、かつ、知財高裁の判決を覆した貴重な先例といえる。
 著作権侵害主体については、カラオケ法理と呼ばれる法理(実際の権利侵害者でなくても、①支配管理、②営業上の利益の要件を満たせば、規範的に侵害主体性を認める法理)を打ち立てた、最高裁判決昭和63年3月15日に続き、ロケーションフリーやファイル共有サービス等の事案において、これまでに様々な裁判例の集積があった(ファイルローグ事件、MYUTA事件、録画ネット事件等)。
 これらの事案においては、カラオケ法理又はカラオケ法理の拡大解釈により、規範的にサービス提供者を権利侵害者と認定してきた。
 ところが、本事案において、知財高裁では、ロクラクのサービス目的に照らして、海外にいる利用者が親機ロクラクを自己管理する場合であっても,その目的は,日本国内で利用者自身が管理する親機ロクラクで国内で放送されたテレビ番組を受信・複製・送信し,これを海外で視聴可能にすることにあるのであって、被上告人が提供するサービスとなんら変わらないなどと述べて、①支配管理及び②営業上の利益の要件を充足しないと判断した(後記参考知財高裁裁判例)。
 これに対して、最高裁では、まず、カラオケ法理ではなく、複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるとした。そして、本件では、放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がまさに枢要的な行為であって、これをサービス提供者である被上告人が行っていることから、被上告人は、複製主体というには十分であると認定した。
 この最高裁の判断は、著作権法が社会的・経済的側面を持つ著作物の利用という行為を規制するものであることからすると、ある程度一般的な基準を示したと言えるが、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合」の判決であることに注意を要する。

 (参考)知財高裁裁判例
ア 本件サービスの目的について
 被控訴人らは,本件サービスの目的は,海外に居住する利用者を対象に日本国内で放送されるテレビ番組をその複製物により視聴させることのみにある旨主張する。
 確かに,上記(1)によれば,本件サービスが,主として,海外に居住する者を対象として,日本国内で放送されるテレビ番組を受信・複製・送信して,海外での視聴を可能にするためのもの(日本国内で作成された複製情報を海外に移動させるもの)であることは明らかというべきである。
 しかしながら,海外にいる利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(この場合に,控訴人が本件複製を行っていないことは明らかである。)であっても,その目的は,日本国内で利用者自身が管理する親機ロクラクで国内で放送されたテレビ番組を受信・複製・送信し,これを海外で視聴可能にすることにあるのであるから,上記認定の本件サービスの目的と何ら変わりはないのである。もっとも,控訴人が親機ロクラクを管理する場合においては,他人である海外の利用者をしてテレビ番組の視聴を可能ならしめることを目的とする点で,当該利用者自身がテレビ番組の自己視聴を目的として親機ロクラクを自己管理する場合と異なるが,本件複製の決定及び実施過程への関与の態様・度合い等の複製主体の帰属を決定する上でより重要な考慮要素の検討を抜きにして上記の点のみをもって控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき根拠足り得る事情とみることはできない。
イ 機器の設置・管理について
 被控訴人らは,本件サービスにおいては,控訴人が,親機ロクラクとテレビアンテナ等の付属機器類とから成るシステムを一体として設置・管理している旨主張する。
 しかしながら,被控訴人らが主張する上記事実は,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情たり得ない。その理由は,次のとおりである。
 すなわち,本件サービスの利用者は,親機ロクラクの貸与を受けるなどすることにより,海外を含む遠隔地において,日本国内で放送されるテレビ番組の複製情報を視聴することができるところ,そのためには,親機ロクラクが,地上波アナログ放送を正しく受信し,デジタル録画機能やインターネット機能を正しく発揮することが必要不可欠の技術的前提条件となるが,この技術的前提条件の具備を必要とする点は,親機ロクラクを利用者自身が自己管理する場合も全く同様である。そして,この技術的前提条件の具備の問題は,受信・録画・送信を可能ならしめるための当然の技術的前提に止まるものであり,この技術的前提を基に,受信・録画・送信を実現する行為それ自体とは異なる次元の問題であり,かかる技術的前提を整備し提供したからといって直ちにその者において受信・録画・送信を行ったものということはできない。ところで,親機ロクラクが正しく機能する環境,条件等を整備し,維持するためには,その開発・製造者である控訴人において親機ロクラクを設置・管理することが技術上,経済上,最も確実かつ効率的な方法であることはいうまでもないところ,本件サービスを受ける上で,利用者自身が,その管理・支配する場所において親機ロクラクを自ら設置・管理することに特段の必要性や利点があるものとは認め難いから,親機ロクラクを控訴人において設置・管理することは,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の合理的意思にかなうものということができる。そして,そうであるからといって,前述したとおり,このことが利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
 さらに,控訴人において親機ロクラクを管理する場合,控訴人においてその作動環境,条件等(テレビアンテナとの正しい接続等)を整備しない限り,親機ロクラクが正しく作動することはないのであるから,テレビアンテナ等の付属機器類を控訴人が設置・管理することも,本件サービスが円滑に提供されることを欲する契約当事者双方の意思にかなうものであることは前同様であるが,前同様の理由によりこれをもって利用者の指示に基づいて行われる個々の録画行為自体の管理・支配を目的とする根拠となり得るものとみることは困難であるし,相当でもない。
 他方,本件サービスにおけるテレビ番組の録画及び当該録画に係るデータの子機ロクラクへの移動(送受信)は,専ら,利用者が子機ロクラクを操作することによってのみ実行されるのであるから,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を設置・管理すること自体は,当該録画の過程そのものに対し直接の影響を与えるものではない。
 そうすると,控訴人が親機ロクラクとその付属機器類を一体として設置・管理することは,結局,控訴人が,本件サービスにより利用者に提供すべき親機ロクラクの機能を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,主として技術的・経済的理由により,利用者自身に代わって整備するものにすぎず,そのことをもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
ウ 親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信の管理について
 被控訴人らは,親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信が控訴人の管理・支配の下に行われている旨主張し,その根拠として,①当該通信がhttpにより控訴人のサーバ等を経由して行われること,②当該サーバが録画予約及び番組データの送信のために控訴人が用意した専用サーバであること,③控訴人のサーバ等を経由するたびに,控訴人がID等による認証を行っていること,④当該通信を実行するロクラクⅡ及びそのファームウェアがすべて控訴人の開発・製造に係るものであり,控訴人の規定する方式(子機ロクラクの引渡後に変更が生じた場合の当該変更後の方式を含む。)によって当該通信が実行されること,⑤利用者が控訴人の規定する目的及び方法によるほかは当該通信機能を利用することができないことを挙げる。
 しかしながら,上記①については,http(hyper text transfer protocol)を採用したメールシステムにおいて,サーバを管理する者が専らメール利用者の自発的意思に基づいて行われるメール通信を管理・支配しているとみることは,技術常識に照らして困難であり,被控訴人らの主張は,独自の見解に基づくものであるといわざるを得ない(なお,甲20は,メールシステムのうち,smtp(simple mail transfer protocol)及びpop(post office protocol)又はimap(internet messaging access protocol)を採用するものについて言及するにすぎず,httpを採用するメールシステムについての上記判断を左右するものではない。)。
 また,上記③については,被控訴人らの主張の趣旨が必ずしも判然としないが,同主張がメールクライアントによるサーバへのアクセスの際に行われる一般的な認証をいう趣旨であるとすれば,そのような認証は,メールシステムにおいて当然に行われるものであり,そのような認証が行われることをもって,サーバを管理する者がメール通信を管理しているものとみることは,上記①と同様,技術常識に照らして困難であるから被控訴人らの独自の見解であるというべきであるし,被控訴人らの主張がこれと異なる特別の認証をいう趣旨であるとすれば,本件サービスにおいてそのような認証が行われているものと認めるに足りる証拠はない。
 さらに,上記①ないし⑤については,いずれも,利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(すなわち,控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても生じる事態であることからみても,かかる主張をもって控訴人によるメール通信の管理・支配の根拠足り得ないことは明らかであるといわざるを得ない。
 なお,上記(1)エ(オ)のとおり,控訴人は,先行仮処分決定の後,暫定的な措置として,同決定において複製禁止対象とされたテレビ番組を除外した控訴人作成の番組表を子機ロクラクが取得するとの新技術を開発し,本件サービスにおいて運用しているものであるが,このような事態は,本件サービスが本来的に予定するものではなく,控訴人も,先行仮処分決定を受けたことから,やむなく上記のような暫定的措置を採ったものと認められる(甲24の1)から,控訴人がそのような措置を暫定的に採ったことをもって,これを,控訴人が親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信を管理・支配しているとの事情とみるのは相当でない。
 その他,控訴人が親機ロクラクと子機ロクラクとの間の通信を実質的に管理・支配しているものと認めるに足りる証拠はない。
エ 複製可能な放送及びテレビ番組の範囲について
 被控訴人らは,①本件サービスにおいて録画可能な放送が,控訴人が親機ロクラクを管理する場所(静岡県又は東京都)において受信される地上波アナログ放送に限定されていること,②本件サービスにおいて録画可能なテレビ番組が,控訴人のサーバから控訴人により提供される番組表に記載されたものに限定されていることをもって,控訴人が本件複製を管理・支配している旨主張する。
 しかしながら,本件サービスにおいて録画可能な放送が,親機ロクラクにより受信することができるものに限定されるのは当然のことである(テレビ放送の受信がなければ,その録画はあり得ない。)ところ,テレビチューナーを備えた機器において,当該機器により受信することのできるテレビ放送が当該機器の設置場所により制限されるのは,親機ロクラクに限らず,すべての機器に当てはまることであるから,上記①をもって,本件サービスにおいて録画可能な放送の範囲の限定が控訴人により行われているものとみることはできない。
 また,上記②については,利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(すなわち,控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎない。
 以上からすると,被控訴人らが主張する上記事実をもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
オ 複製のための環境整備について
 被控訴人らは,①本件サービスにおいては,子機ロクラクを用い,これが示す手順に従わなければ,親機ロクラクにアクセスしてテレビ番組の録画や録画されたデータのダウンロードを行うことができず,また,②控訴人は,親子機能を実現するための特別のファームウェアを開発して,これを親子ロクラクに組み込み,かつ,控訴人のサーバ等を経由することのみによって録画予約等が可能となるように設定しており,さらに,③親子ロクラクは,本件サービス又はこれと同種のサービスのための専用品とみることができる旨主張する。
 しかしながら,これらの事情は,いずれも,利用者が親機ロクラクを自己管理する場合(控訴人が本件複製を行っているものとみることができない場合)であっても同様に生じる事態を指摘するものにすぎないから,これらの事情をもって,控訴人が本件複製を実質的に管理・支配しているものとみることはできない。
カ 控訴人が得ている経済的利益について
 被控訴人らは,控訴人が,①初期登録料(3000円),②毎月のロクラクⅡのレンタル料(本件Aサービスにつき8500円,本件Bサービスにつき6500円),③毎月の「ロクラクアパート」の賃料(2000円)の名目で,利用者から本件サービスの対価を受領している旨主張する。
 
しかしながら,本件サービスは,機器(親子ロクラク又は親機ロクラク)自体の賃貸借及び親機ロクラクの保守・管理等を伴うものであるから当然これに見合う相当額の対価の支払が必要となるところ,上記(1)エ(ウ)によれば,上記①及び②の各金員は,録画の有無や回数及び時間等によって何ら影響を受けない一定額と定められているものと認められるから,当該各金員が,当該機器自体の賃料等の対価の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するものとまで認めることはできず(なお,被控訴人NHKの番組を視聴する場合には,上記の料金とは別に受信契約の締結が必要となる旨控訴人サイトに記載されている。),その他,当該各金員が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 また,仮に,控訴人が上記③の金員を受領しているとしても,それが,「ロクラクアパート」の賃料の趣旨を超え,本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価の趣旨をも有するとまで認めるに足りる証拠はない。
 以上からすると,控訴人が上記①ないし③の各金員を受領しているとの事実をもって,控訴人が本件複製ないしそれにより作成された複製情報の対価を得ているものということはできない。
キ 小括
 以上のとおり,被控訴人らが主張する各事情は,いずれも,控訴人が本件複製を行っているものと認めるべき事情ということはできない。

以上

2012.8.6 (文責)弁護士 溝田宗司