【大阪地判平23・10・3[水切りざる](平成22(ワ)9684号)裁判所ウェブサイト】
【ポイント】
被控訴人が不正競争2号1項1号に基づいて控訴人の当該商品について差止請求、損害賠償請求がしたことについて、被控訴人の請求が肯定された事例
【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同
事案の概要
本件は、原告は、被告ら水切りざるを販売等する行為が、不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項1号の他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告商品の形態からなる商品表示と同一若しくは類似の商品表示を使用した商品を譲渡などする行為、又は同項3号の他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為に当たるとして、法3条に基づき、被告らの行為の差止め及び被告ら商品の廃棄を求めるとともに、法4条本文及び5条1項に基づき、2億9646万9436円の損害賠償及びこれに対する請求拡張の申立書送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
争点
原告商品の形態は、法2条1項1号の商品等表示に当たるか。
結論
原告商品の形態は、法2条1項1号の商品等表示に当たらない。
判旨抜粋
「 (1) 法2条1項1号の趣旨は、他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する他人の利益が不当に害されることを防止することにあり、商品本体が本来有している形態、構成や、それによって達成される実質的機能を、他者の模倣から保護することにあるわけではない。
仮に、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を商品表示と認めると、商品表示に化体された他人の営業上の信用を保護するというにとどまらず、当該商品本体が本来有している形態、構成やそれによって達成される実質的機能、効用を、他者が商品として利用することを許さず、差止請求権者に独占利用させることとなり、同一商品についての業者間の競争それ自体を制約することとなってしまう。
これは差止請求権者に同号が本来予定した保護を上回る保護を与える反面、相手方に予定された以上の制約を加え、市場の競争形態に与える影響も本来予定したものと全く異なる結果を生ずることとなる。
これらのことからすると、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は、同号の商品等表示には該当しないものと解するのが相当である。
(2) 前記第3の1、2のとおり、原告は、原告商品の形態について、基本的形態と使用時形態とからなり、これらは使用する際に柔軟に変形させることができるという従来の固定型ざるには全く存在しなかった新規かつ画期的な形態的特徴であり、原告の商品表示として需要者の間に広く認識されている旨主張する。
そこで検討すると、原告商品は、ざるとしての機能に加え、柔軟性があり、変形させることができるという機能もあり、これにより従来のざるにはない用途に用いることができるというものである。
そうすると、柔軟性があり、変形させることができるという形態的特徴は、原告商品の機能そのもの又は機能を達成するための構成に由来する形態であり、上記(1)のとおり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態として、法2条1項1号の商品等表示には当たらないというべきである。
具体的にみると、基本的形態として原告が主張する構成は、いずれも、柔軟性を持たせるための構成若しくは柔軟性があるという機能それ自体又はざるとしての機能を発揮させるための構成であり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるというほかない。
また、使用時形態も、柔軟性があり、変形させることができるという機能の結果生じる形態であり、これも商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態、結果である。
したがって、原告が、商品表示に当たると主張する原告商品の形態をもって、法2条1項1号の商品等表示に当たると認めることができない。」
検討
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号により保護できるとするものが多数である。
不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)である。
商品の形態の保護が争われた裁判例では、「商品の機能ないし効果と必然的結びつく形態」の場合や(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕)、「商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合(東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕は商品等表示性が否定されてきた。
本件は、水切りざるの形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示にあたるかが争点とされた事例であり、これについて裁判所は、「法2条1項1号の趣旨は、他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する他人の利益が不当に害されることを防止することにあり、商品本体が本来有している形態、構成や、それによって達成される実質的機能を、他者の模倣から保護することにあるわけではない。仮に、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を商品表示と認めると、商品表示に化体された他人の営業上の信用を保護するというにとどまらず、当該商品本体が本来有している形態、構成やそれによって達成される実質的機能、効用を、他者が商品として利用することを許さず、差止請求権者に独占利用させることとなり、同一商品についての業者間の競争それ自体を制約することとなってしまう。 これは差止請求権者に同号が本来予定した保護を上回る保護を与える反面、相手方に予定された以上の制約を加え、市場の競争形態に与える影響も本来予定したものと全く異なる結果を生ずることとなる。これらのことからすると、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は、同号の商品等表示には該当しないものと解するのが相当である。」と一般論を述べた上で(下線は筆者による)、具体的あてはめでは、「そこで検討すると、原告商品は、ざるとしての機能に加え、柔軟性があり、変形させることができるという機能もあり、これにより従来のざるにはない用途に用いることができるというものである。そうすると、柔軟性があり、変形させることができるという形態的特徴は、原告商品の機能そのもの又は機能を達成するための構成に由来する形態であり、上記(1)のとおり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態として、法2条1項1号の商品等表示には当たらないというべきである。具体的にみると、基本的形態として原告が主張する構成は、いずれも、柔軟性を持たせるための構成若しくは柔軟性があるという機能それ自体又はざるとしての機能を発揮させるための構成であり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるというほかない。また、使用時形態も、柔軟性があり、変形させることができるという機能の結果生じる形態であり、これも商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態、結果である。したがって、原告が、商品表示に当たると主張する原告商品の形態をもって、法2条1項1号の商品等表示に当たると認めることができない。」と判示し、商品等表示性を否定した。
本件は、不正競争防止法2条1項1号の商品等表示の判断にあたって、「商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態」であることを理由として、商品等表示性を否定した事例として特徴を有するといえよう。
以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲