御社の新商品の名称が,他社の商標とそっくりであったことが判明しました。どうしたらいいでしょう!

商標権の侵害とは,権原なき第三者が,登録商標と同一又は類似の商標を,指定商品等と同一又は類似の商品等について使用することでした【商標侵害はどうやって判断すればいいの?】。
したがって,御社の新商品の名称が他社の商標と同一又は類似であり,他社の商標が商標登録されているものであり,その指定商品等と御社の新商品とが同一又は類似であれば,原則として,御社の新商品の製造販売は他社の商標権の侵害となります。

しかし,商標権の侵害とならない場合もあります。
例えば,商標としての使用に該当しない場合,商品又は役務についての使用に該当しない場合,商標法26条に該当する場合が挙げられます。
また,本件とは直接関係ありませんが,真正商品の並行輸入の場合も一定要件下では侵害になりません(最判平15・2・27「フレッドペリー事件」)。

「商標としての使用」に該当しない場合とは,どういうことでしょうか。
これは,商標の本質が自他商品役務識別機能(詳しくは・ブランドを守るための法律って?)にあると考え,自他商品役務識別機能を奏しない態様での標章の使用は,「商標としての使用」に該当しないという考え方です。
この考え方は,多くの裁判例,学説において認められています。

よく問題になる例として,使用された標章が商品等の属性,内容等を示している場合に,自他商品役務識別機能を奏しないとして,商標権の侵害とならないとされるケースが挙げられます。

また,著作物の題号(例えば,書籍の題号(東地判昭63・9・16「POS事件」),音楽CDのタイトル(東地判平7・2・22「UNDER THE SUN事件」)の場合も,自他商品役務識別機能を奏しないとして,商標権の侵害とならないとされます。

商品又は役務についての使用に該当しない場合とは,物やサービスに商標を付したりする行為ではあるが,その物やサービスが商標法上の「商品」又は「役務」に該当しないような場合のことをいいます。

商標法上の「商品」とは,「商取引の目的物として流通性のあるもの,すなわち,一般市場で流通に供されることを目的として生産され又は取引される有体物である」と解されています(東高判平1・11・7)。
いわゆる販促品やノベルティグッズは,商品に該当しません。
したがって,御社の「新商品」が単なる販促品であった場合は,商品についての使用に該当せず,商標権の侵害にもならないのです。

また,商標法上の「役務」とは,「他人のためにする労務又は便益であって,付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るもの」と解されています(東高判平12・8・29「シャディ事件」)。商品の譲渡に伴い,付随的に行われるサービスは,役務に該当しません。
ただし,小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供は,役務に含まれます(商2条2項)。

商標法26条は,商標権の効力が及ばない範囲を規定しています。例えば,自己の氏名,名称等を普通に用いられる方法で表示する商標(商26条1項1号)には,商標権の効力が及びません。
「自己の名称」には,企業グループの名称(例えば,フランチャイズチェーンの名称)が含まれます(最判平9・3・11「小僧寿し事件」)。

また,指定商品等又はそれに類似する商品等の普通名称等を普通に用いられる方法で表示する商標(商26条1項2号,3号)等にも,商標権の効力は及びません(知高判平19・9・27「一枚甲事件」,知高判平19・10・11「正露丸事件」(上告不受理で確定))。

さて,御社の新商品の製造販売が,他社の商標権の侵害であった場合,どのように対応したらよいでしょうか。

まず,他社の商標登録に先登録商標があるなどの無効理由がある場合は,無効審判で無効にすることができますし(商46条),侵害訴訟で無効の抗弁(商39条で準用する特104条の3)により権利行使が制限されます。
これは特許の場合と同じです【詳しくは・本当に勝てるのかな?】。

また,登録異議申立制度があります(商43条の2)。
これは,商標登録に異議申立理由(無効理由とほぼ同じです。)がある場合に,公報発行日から2か月以内にのみ異議申立てが認められる制度です。
無効審判と異なり,申立人が審理に関与しない手続であり,負担が軽いこと,申立人としてダミーを立てやすく,商標権者に申立人が誰であるか知られずに申立てをすることができること等の利点があります。
逆に,維持決定の場合,申立人が不服申立てをすることができないという欠点もあります(商43条の3第5項)。

さらに,商標独自の制度として,不使用取消審判があります(商50条)。
これは,継続して3年以上日本国内において商標権者等が指定商品等についての登録商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしていないときに,商標登録を取り消すことができるという審判です。
取消審決の効果は,審判請求の登録日まで遡及しますから(商54条2項),それより後に新商品を発売する場合には,商標権の侵害に該当しないということになります。登録だけされて、使用されていないという登録商標は意外に多く、この不使用取消審判は頻繁に検討の俎上に上がります。

実務的には,上記のような無効審判や不使用取消審判の請求を相手方にちらつかせつつ,商標権の譲渡や一部譲渡(商24条の2第1項)の交渉をするということが行われています。

商標登録に無効理由がなく,実際に相手方が使用している場合であって,相手方が譲渡交渉に応じない場合は,ライセンス(商30条,31条)をしてもらうということもできます。ライセンスも受けられない場合は,やむを得ず商品名を変更することになります。

なお、ここでは新商品の名称使用が他社の商標権の侵害になるかどうか検討しましたが、新商品の名称に類似した登録商標が存在する場合には、当該新商品の名称を出願しても拒絶されてしまう可能性があるため(商標法4条1項11号)、その点についての検討も必要になります。具体的には、他社の登録商標を不使用取消審判で取り消したり、登録商標の所有者に連絡して商標権を譲渡してもらう、といったことが行われます。

USLFでは,商標権の侵害のおそれがある場合や警告状が来た場合などにおいて,無効審判や不使用取消審判の請求や,商標権者との交渉の代理業務を行っています。お気軽にご相談ください。