【令和5年11月10日(東京地裁 令和4年(ワ)第2551号】

 

【事案の概要】

 本件は、生ごみ処理機を販売する原告が、被告に対し、被告の管理するウェブサイトにおける、被告の販売する業務用生ごみ処理機に係る表示は、その品質について誤認させるような表示であり、同表示をする行為は不正競争(不正競争防止法2条1項20号)に該当し、これにより原告の営業上の利益が侵害されたとして、不正競争防止法4条に基づき、同法5条2項により算定される損害金1億3605万6823円の一部である9164万3940円並びにうち4928万円に対する令和4年2月2日(不正競争行為の後の日)から支払済みまで及びうち4236万3940円に対する令和5年5月27日(令和5年5月23日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまでそれぞれ民法所定年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 

【判決文抜粋】(下線は筆者)

主文

1 被告は、原告に対し、9164万3940円並びにうち4928万円に対する令和4年2月2日から支払済みまで及びうち4236万3940円に対する令和5年5月27日から支払済みまでそれぞれ年3パーセントの割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要等

1 事案の要旨

(中略)

2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

⑴当事者

ア 原告は、生ごみを分解及び消滅させる生ごみ処理機をはじめとする、各種ミキサーの製造及び販売を主たる業務とする株式会社である。

イ 被告は、業務用の生ごみ処理機等の各種機器の販売及び製造委託を業務とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

⑵原告の事業

 原告は、平成4年に、業務用生ごみ処理機を製品化し、現在に至るまで、「ゴミサー」との名称で同業務用生ごみ処理機を販売している(以下、原告販売に係る業務用生ごみ処理機を「原告商品」という。)。

(3)被告の事業

 被告は、平成8年頃から、原告商品の販売代理店として原告商品を販売していたが、令和元年頃、原告と被告との間の原告商品の販売代理店契約が終了したことから、原告からの令和元年5月7日納入分を最後に、原告商品の販売を停止した(甲41、弁論の全趣旨)。

(4)原告と被告との取引の停止後の被告の事業(乙76、弁論の全趣旨)

 株式会社テクノウェーブ(以下「テクノウェーブ」という。)は、平成14年頃から、「イーキューブ」との名称の業務用生ごみ処理機を製造していたところ、被告は、前記(3)の原告商品の販売を終了した後、テクノウェーブが製造する上記業務用生ごみ処理機(以下「被告商品」という。)を「ゴミサー」の名称で販売するようになり、令和元年5月8日から令和5年4月末までに、合計258台の被告商品を販売した。同販売による被告の限界利益の額は1億2368万8021円である。

⑸ 被告ウェブページの表示

 被告は、令和元年5月8日から、被告が管理するウェブページ(以下「被告ウェブページ」という。)上において、被告の販売する製品の紹介等として、次の広告表示(以下「被告表示」という。)をした。

ア 令和3年8月30日まで(甲4ないし6、9ないし14、弁論の全趣旨)

①「ゴミサー」との名称を表示

②原告商品の写真を表示

③「生ゴミ処理機ゴミサー製造元エスキー工機株式会社」との表示

④「業界1位の業務用生ごみ処理機です。」、「全国導入実績2,500台以上」、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」、「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」及び「発売開始から25年!生ゴミ処理機ゴミサーは「水になる処理機」のパイオニア」との表示

イ 令和3年8月31日から令和5年3月6日頃まで(甲15、16、18、弁論の全趣旨)

①「ゴミサー」との名称を表示

② 原告商品の写真を表示

③「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」、「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」及び「販売開始から25年!生ゴミ処理機ゴミサーは「水になる処理機」のパイオニア」との表示

ウ 令和5年3月7日頃から同年4月30日まで(甲40、弁論の全趣旨)

①「実績紹介」として、「都道府県別実績数」及び「施設別実績数」が掲載され、合計3049台の実績がある旨の表示

②「全国2,300台以上の導入実績」、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,500台以上が稼働しています。」、「おかげ様で全国で2500台以上」、「25年の実績」及び「日本全国の導入実績3,500台以上の実績」との表示

エ 被告商品の販売等実績について(甲7、乙69、76)

 被告による原告商品の累計販売実績は合計956台、令和5年4月末までの被告商品の累計販売実績は258台であり、原告商品と被告商品を併せても、前記ア④、イ③及びウの販売実績に満たない。

3 争点

⑴品質誤認表示該当性(争点1)

⑵被告の故意の有無(争点2)

⑶原告の損害発生の有無及び損害額(争点3)

4 争点に関する当事者の主張

(中略)

第3 当裁判所の判断

1 争点1(品質誤認表示該当性)について

(1) 不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法とされるのは、事業者が商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるような表示を行って、需要者の需要を不当に喚起した場合、このような事業者は適正な表示を行う事業者より競争上優位に立つことになる一方、適正な表示を行う事業者は顧客を奪われ、公正な競争秩序を阻害することになるからである。

 このような趣旨に照らすと、「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討するのが相当である。

(2) 被告表示が「品質」について「誤認させるような表示」に該当するかについて

ア 令和元年5月8日から令和3年8月30日までの表示について

 前提事実(5)ア④の「全国導入実績2,500台以上」との表示は、被告が販売している業務用生ごみ処理機、すなわち被告商品は、全国で2500台以上が販売されているとの事実を、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」との表示は、被告商品は、その処理方法及び性能が多くの企業や施設で認められたため、全国で2300台以上が販売されたとの事実を、「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」との表示は、被告商品は、全国及び海外で3500台以上が販売されたとの事実を需要者に対し認識させるものであると認められる。

 他方で、前提事実(5)エによれば、被告が令和元年5月8日以降販売している被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないことが認められ、少なくとも、上記「全国導入実績2,500台以上」、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」及び「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示(以下、これらを併せて「本件誤認惹起表示①」という。)は、いずれも、実際の販売実績とは異なるにもかかわらず、多数の被告商品が販売されており、このような販売実績は、被告商品のごみ処理方法及びその性能が他の同種商品に比べて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結果、需要者に対し、被告商品がその品質において優れた商品であるとの権威付けがされ、また、他の需要者も購入しているという安心感を与えることになるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるというべきである。そうすると、本件誤認惹起表示①は、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

 この点について、被告は、本件誤認惹起表示①は、原告と被告との間の取引が終了した後、一時的かつ短期的に残存していたものにすぎず、かつ、被告が販売した原告商品の販売実績を記載したものであるから、虚偽ではなく真実そのものであると主張する。しかし、前記のとおり、需要者は、本件誤認惹起表示①が被告が過去に販売していた製品についての記載であると認識することはなく、現在(被告ウェブページ掲載時)販売している被告商品についての記載であると認識するといえるから、その表示の残存が一時的かつ短期的であったとしても、需要者が購入するか否かを決断する時点において、その合理的な判断を誤らせる可能性は否定できない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

イ 令和3年8月31日から令和5年3月6日頃まで

 前提事実(5)イ③の「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」との表示は、前記アのとおり、被告商品は、その処理方法及び性能が多くの企業や施設で認められたため、全国で2300台以上が販売されたとの事実を、「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」との表示は、前記アのとおり、被告商品は、全国及び海外で合計3500台以上が販売されたとの事実を需要者に対し認識させるものである。

 そして、前記アのとおり、被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないことが認められるから、少なくとも「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,300台以上が稼働しています。」及び「全国・海外での導入実績は3,500台以上。」の表示(以下、これらを併せて「本件誤認惹起表示②」という。)は、前記アで説示したのと同様の理由により、いずれも、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

ウ 令和5年3月7日頃から同年4月30日まで

 前提事実(5)ウ①の「実績紹介」として、「都道府県別実績数」及び「施設別実績数」が掲載され、合計3049台の実績がある旨の表示は、被告商品は、全国で合計3049台が販売されたとの事実を、同②の「全国2、300台以上の導入実績」は、被告商品は、全国で2300台以上が販売されたとの事実を、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,500台以上が稼働しています。」及び「おかげ様で全国で2500台以上」との表示は、被告商品は、その処理方法及び性能が多くの企業や施設で認められたため、全国で2500台以上が販売されたとの事実を、「日本全国の導入実績3,500台以上の実績」との表示は、前記アのとおり、被告商品は、全国で3500台以上が販売されたとの事実を需要者に対して認識させるものである。

 そして、前記アのとおり、被告商品の過去の累計販売数は2300台に達するものではないことが認められるから、少なくとも「都道府県別実績数」及び「施設別実績数」が掲載され、合計3049台の実績がある旨の表示並びに「全国2,300台以上の導入実績」、「ゴミサー/ゴミサポーターはその処理方法・性能が多くの企業・施設で認められ、おかげ様で現在、全国で2,500台以上が稼働しています。」、「おかげ様で全国で2500台以上」及び「日本全国の導入実績3,500台以上の実績」の表示(以下、これらを併せて「本件誤認惹起表示③」という。)は、前記アで説示したのと同様の理由により、いずれも、「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認められる。

⑶ 被告の主張について

 被告は、販売実績の違いは、商品の品質の違いを推認するものにすぎず原告商品及び被告商品の間に、性能及び機能における違いがない本件においては、原告商品と被告商品の品質の違いが推認されるものではないと主張する。

 しかし、前記(1)で説示した不正競争防止法2条1項20号の誤認惹起行為が不正競争に該当し違法とされる趣旨に照らすと、客観的な性能及び機能における違いがないとしても、前記(2)のとおり、本件誤認惹起表示①ないし③は、いずれも、販売実績について事実と異なる表示をするとともに、同販売実績が品質の優位性に起因するものであるとの表示をすることによって、そのような販売実績をもたらす「品質」であるとの誤解を需要者に与え、その結果、公正な競争秩序を阻害するものである以上、同号の「品質」について「誤認させるような表示」に該当すると認めるのが相当である。

よって、被告の上記主張を採用することはできない。

2 争点2(被告の故意の有無)について

⑴ 弁論の全趣旨によれば、被告は、原告商品を原告の代理店として販売していた頃から掲載していた前提事実(5)アの被告表示を、原告との代理店契約を中止した後もそのまま掲載し続けていたと認められることに加え、前提事実(5)ア①ないし③の記載内容に照らすと、本件誤認惹起表示①は、原告商品に係る販売実績を内容とするものであったことが認められる。

 そして、被告は、本件誤認惹起表示①が、原告商品に関するものであり、被告商品に関するものではないことを認識しつつも、被告商品の販売を開始した令和元年5月から令和3年8月30日までこれを掲載し続け、その後も、文言や販売台数を若干変更してはいるものの、本件誤認惹起表示①とほぼ同一内容の本件誤認惹起表示②及び③を掲載しているのであるから、被告は、同期間中、故意により、虚偽の販売実績を被告ウェブページ上に表示させていたものと認めるのが相当である。

⑵ 被告は、本件誤認惹起表示①は、原告との取引終了後もたまたま残存していたにすぎず、被告が削除することを失念していたにすぎないと主張する。

 しかし、被告が現在に至るまで本件誤認惹起表示①ないし③を掲載し続けていると認められること(弁論の全趣旨)に照らすと、単に削除を失念していただけであるとの被告の主張を採用することはできない。

3 争点3(原告の損害発生の有無及び損害額)について

(中略)

第4 結論

 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

 

【解説】

 本稿では、争点1及び2について取り上げる。

 不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項20号では、商品等の品質、内容などを偽り、又は誤認を与えるような表示を行うことが不正競争に該当すると規定されている。品質について誤認を与える表示は、典型的には虚偽広告や誇大広告が考えられるが、本事案では、被告表示における被告商品(生ごみ処理機)の販売台数が、実際に販売された台数よりも過大であったことが、「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか、という点が争点となった。

 裁判所は、同号の趣旨から、「品質」について「誤認させるような表示」に該当するか否かを判断するに当たっては、需要者を基準として、商品の品質についての誤認を生ぜしめることにより、商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性の有無を検討する、との規範を示した上で、実際の販売実績より多い被告商品の販売数は、被告商品の性能が他の同種製品に比べて優れたものであることに起因することを強調するものであって、その結果、需要者に対し、被告商品の品質が優れた商品であることの権威付けや、他の需要者も購入しているとの安心感を与えるため、需要者が商品を購入するか否かの合理的な判断を誤らせる可能性があるとして、被告の表示(本件誤認惹起表示①~③)は品質について誤認させるような表示に該当すると判断した。

 被告による原告商品の販売実績は約1000台、被告商品の販売実績は約250台なので、原告商品と被告商品を併せても、被告の表示の3500台の半分にも満たず、被告商品のみを考えると、被告の表示の10%にも満たない。販売台数そのもの(例えば3500台という数字それ自体)が需要者の判断に与える影響がどの程度大きいかという点にやや疑問はあるものの、被告の表示と実際の販売実績の乖離が相当程度大きいことから、裁判所の判断は妥当なものと考えられる。

 これに対し、被告は、販売実績の違いは、商品の品質の違いを推認するものにすぎないと主張したが、販売実績は品質の優位性に起因するものであるとの表示があることから、当該主張は認められなかった。

 争点2においては、被告の故意について、本件誤認惹起表示①~③は、原告との取引終了後も被告が削除することを失念してたまたま残存していたにすぎないと主張したが、被告商品の販売を開始した令和元年5月から2年以上表示されていたのであるから、故意によるものと判断された。表示されていた期間の長さからすれば、被告に故意が認められるとの判断は妥当なものと考えられる。

 本事案は、販売実績(台数)の表示が、法2条1項20号の「品質」について「誤認させるような表示」と判断された例として取り上げさせていただいた。

 

以上

弁護士 石橋茂