【判旨】
著作権者との契約により、日本以外の国において当該著作権の独占的利用権を許諾されたと主張する者(独占的利用権者)が、著作権者に対し、著作権者が第三者との間で当該著作物等のライセンス契約を締結し更新した行為は債務不履行に当たるとして、損害賠償又は不当利得返還を請求したところ、上記行為は債務不履行に当たるとしても、それによる独占的利用権者の損害ないし損失は認められないと判断された事例。
【キーワード】
ウルトラマン、著作権、著作権の独占的利用権

 

【事案の概要】

【事案の概要】
本件は、ウルトラマンのキャラクター等の利用権についての著名な争いである。
 1審被告はウルトラマンのキャラクターの登場する一連の作品(以下「本件著作物」という。)の著作権者であり、1審脱退原告は、被告から日本国外の本件著作物の独占的利用権を許諾(以下「本件契約」という。)されたと主張する(本件契約の成否等は本邦における別訴にて被告が原告に対して、著作権の譲渡契約ではなく、独占的利用権のライセンス契約であったとする判決が確定している。平成15年(ネ)第1532号H15・12・10)。脱退原告は、被告が複数の第三者との間で、本件著作物などの利用許諾を日本国外において利用を許諾する契約を締結・更新したことは、本件契約に違反し、債務不履行にあたるとして、損害賠償又は不当利得返還を請求した。その後、当該請求権を原告より譲り受けたとする参加人が訴訟を承継した。
 本件原判決は、参加人主張の被告の債務不履行のうち、被告が、バンダイ(当審における被告補助参加人。以下「補助参加人」という。)に対し、平成8年9月1日から平成9年12月31日まで、・・・旧ウルトラマンキャラクター・・・に属する5個のキャラクターについて韓国等の外国における利用権をライセンスし、当該ライセンス期間を現在に至るまで更新している行為が本件契約の債務不履行に当たり、脱退原告にライセンス料相当額の損害が発生しており、かつ、当該ライセンス料相当額について脱退原告に損失が生じ、被告が利得したと認定した上、・・・被告に対する不当利得返還請求に基づき1636万3636円及びこれに対する平成18年5月26日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。
【争点】
控訴審において、被告側に補助参加した。補助参加人と原告が平成10年に締結した契約(以下「平成10年契約」という。)において、原告は本件契約上の一切の権利に関し、補助参加人に対して想定されるいかなる権利の行使も放棄することを約し、現在及び将来に和わたって想定される全世界における紛争からの解放を約したとの主張が認められるか。
【判旨】
脱退原告は,平成10年契約において,補助参加人との間で,原告権利,すなわち本件契約上の一切の権利に関し,現在又は将来に亘って,補助参加人・グループに対して想定されるいかなる権利の行使も放棄するとともに,現在又は将来に亘って,想定される全世界における一切の法律又は規則に基づく,司法上・非司法上,及び刑事上・民事上のあらゆる訴訟及び請求原因から補助参加人・グループを解放することを約し・・・補助参加人から,平成10年契約に基づき合計1億円の支払を受けたことが認められる。
上記の平成10年契約第2.3条の内容からすると,脱退原告は,同契約時以降,本件契約上の一切の権利に関し,補助参加人との間で,平成10年契約とは別にライセンス契約を締結してライセンス料を得ることはできないと解されるのみならず,仮に,平成10年契約以前に,補助参加人が脱退原告の承諾なく本件契約上の権利を利用したために脱退原告がライセンス料を得る機会を逸していたとしても,平成10年契約において,そのライセンス料相当額の損害ないし損失を全て精算する意思の下に,平成10年契約を締結したものと解される。そして,平成10年契約に基づいて脱退原告が受領した1億円は,同契約の有効期間中,脱退原告が原則として本件契約上の権利に基づく商品の製造,使用,販売をせず,いかなる国・地域においても,同権利のライセンス,譲渡,質入等の処分をしないことの対価であるほか,同契約以前に,補助参加人の行為により脱退原告の本件契約上の権利に関し何らかの損害ないし損失が発生していた場合は,その補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である。
そうすると,脱退原告は補助参加人との間で別途ライセンス契約を締結してライセンス料を得る機会を有しないと解されるから,そうである以上,被告が補助参加人との間で本件ライセンス契約①(そのライセンス期間の更新を含む。)を締結したとしても,脱退原告に,上記債務不履行による損害,又は被告のライセンス料取得による損失が発生したことを認めることはできない。
 
【解説】
 本件は、初期のウルトラマンの著作権、及び独占的利用権を巡る極めて長期の紛争の中の一つである。また、日本での裁判結果とタイでの裁判結果が異なるなどしており、本件でも、国際裁判管轄等幅広い論点につき争いがある。
 本件では、本件契約の債務不履行に当たるとしても、控訴審から被告に補助参加した補助参加人が、平成10年契約が存在を立証し、その結果、損害が原告に生じていないとしたものである。平成10年契約では、裁判所の認定によれば、「補償をも含む趣旨であったと考えるのが合理的である」と認定しており、これは、反対解釈すれば、平成10年契約には、明示的にはどのような趣旨で1億円を支払うのかということが、記載されていなかったことを示している。
 実務的には、ライセンス契約の文言をいかに慎重に検討しなくてはならないかを示す一事例といえる。この点、弊所においては、こういったライセンス契約を数多くこなしており、こういった事態に発展しない、紛争予防的な観点からも十二分に契約を検討している

2011.9.20 (文責)弁護士 宅間仁志