【判旨】
特許出願中の権利につき、そのクレームの一部にかかる、特許を受ける権利の帰属に関する確認訴訟について、訴えの利益が認められる。
【キーワード】
訴えの利益 確認の利益

【事案の概要】
本件は、原告が、被告らの出願に係る特許出願のうちのいくつかの請求項の発明は、いずれも原告が発明したものであると主張して、被告らとの間において、本件各発明について、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めるというものである。
【争点】
特許を受ける権利の帰属についての確認の利益は認められるか。
【判旨抜粋】
発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということができるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告は,被告らが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告らはこれを争っているから,原告と被告らとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え・・・によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告らとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる。
また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告らに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
以上に検討したところによれば,本件訴えによって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴えには確認の利益が認められるというべきである。
 
【解説】
 民事訴訟法134条は「確認の訴えは、法律関係を証する書面の成立の真否を確定するために提起することができる。」と定めており、確認の訴えを認めている。
 確認の訴えを提起するためには、確認の利益が認められなくてはならない。そして、確認の利益①確認訴訟→確認判決という手段が有効・適切であるか、②確認対象が適切であるか、③紛争の現実性、即時解決の必要性があるか、④適切な被告を選んでいるかという点から判断される(新堂幸司 新民事訴訟法)。
 本件判決は、「特許を受ける権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできない」として、①確認訴訟→確認判決という手段が有効適切であることを認め、②「特許を受ける権利」は「財産的価値を有する権利」であるから、確認対象として適切であり、③「権利の帰属について争いがあり」、「将来の紛争を抜本的に解決すること」ができることをもって即時解決の必要性を認めた。適切な被告としては出願人しか考えられないのであるから④もみたす。
 被告は、これに対して、
A 1個の特許出願のうち一部の発明について特許を受ける権利の有無を問題とするような請求権は存在せず,1個の特許出願のうち一部の発明についてのみ名義変更手続を求める給付請求が成り立たない以上,本件のような確認請求について訴えの利益が認められない
B 本件各原告出願の審査において,第一次的には特許庁が新規性,進歩性等の要件を備えているか否かと併せて判断すべき問題であるから,かかる意味においても訴えの利益が認められない
 
との反論を行った。裁判所はこれに対して、
Aに対しては、特許を受ける権利は発明の完成と同時に発生し、それを発明者以外の人間が出願したとしても、権利の性質は変わらず、当事者は、権利帰属に争いがある以上は裁判所に権利帰属を主張することができ、また、現行法上、あるいは実務の取扱い上,1個の特許権又は1個の特許出願の一部について名義変更手続が定められていないことは、確認の利益の有無を左右するものではないとした。
Bに対しては、最高裁平成13年6月12日判決が判示するように、権利の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であって、本件訴えは、正に権利の帰属の争いであるので、特許庁が第一時的判断を加えなくても良いとした。
 
今後、特許を受ける権利の真の権利者の取戻請求権が法改正によって導入されることが決定されており、冒認出願の場合は、端的に取り戻し訴訟を行うことになろう。

2011.10.17 (文責)弁護士 宅間仁志

→トピックス一覧へ戻る