【ポイント】
訂正を理由とする対抗主張が時機に後れた攻撃防御方法として却下された事例。
【キーワード】
時機に後れた攻撃防御方法、民事訴訟法157条1項
 


【事案の概要】
X:特許権者Y:Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者 XはYに対して、X特許権を侵害するとして、Y製品の生産等の差止、損害賠償請求訴訟を提起した。Yは、Y製品が本件発明の技術的範囲に属することを争うとともに、特許法104条の3の抗弁(無効の抗弁)を主張した。Xは、Yの無効の抗弁に対し、訂正を理由とする対抗主張をした。

【争点】
Xのした訂正を理由とする対抗主張が、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法に該当するか。 

【結論】
Xのした訂正を理由とする対抗主張は、重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防御方法に該当する。 

【判旨抜粋】
3 訂正を理由とする対抗主張について
 原告は,平成23年9月22日付け原告第6準備書面をもって,本件訂正発明には無効理由がなく,かつ,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属すると主張し,これに対し,被告は,原告の上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する。
 そこで検討するに,原告の上記対抗主張は,前記平成23年7月12日付け被告準備書面(4)をもってなされた無効理由2~4に対するものであるところ,受命裁判官は第5回弁論準備手続期日(同年8月5日)において,原告に対し,上記無効理由についても審理するので,これに対する反論があれば次回までに提出するよう促し,反論の機会を与えたにもかかわらず,原告は,第6回弁論準備手続期日(同年9月9日)までに上記対抗主張をすることなく,同期日で弁論準備手続を終結することについても何ら異議を述べなかったものである。
 無効理由2及び3は,いずれも既出の証拠(乙2及び乙3)を主引用例とする無効主張であり,無効理由4も,平成14年5月20日付け特許異議申立てにおいて既に刊行物として引用されていた乙6に基づくものであるから,原告は,上記無効理由の主張があった第4回弁論準備手続期日から弁論準備手続を終結した第6回弁論準備手続期日までの間に対抗主張を提出することが可能であったと認められる(原告は,乙6に基づく無効理由4を回避するために訂正請求を行うことができるのは第2次無効審判請求の無効審判請求書副本の送達日である平成23年8月19日から答弁書提出期限である同年10月18日までの期間のみであると主張するが,本件訴訟において対抗主張を提出することはできたものというべきである。原告は,対抗主張が認められる要件として現に訂正審判の請求あるいは訂正請求を行ったことが必要とする見解が多数であるとも主張するが,訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出自体が許されないわけではなく,理由がない。)にもかかわらず,これを提出せず,弁論準備手続の終結後,最終の口頭弁論期日になって上記対抗主張に及ぶことは,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。
 よって,原告の上記対抗主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。 

【解説】
民事訴訟法157条1項は、
「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」と規定する。「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した」か否かは案件に応じ個別具体的に判断されるが、無効の抗弁や訂正による対抗主張の提出時期との関係で問題となる。本件訴訟は、訂正による対抗主張の提出時期が問題となった。
 本件訴訟の事実経過は以下のとおりである。

判決は、Xの対抗主張の内容が、弁論準備手続④までになされていた無効理由に対するもので、かつ当該無効主張が既に提出されていた刊行物に基づくものであること、弁論準備手続⑤で反論の機会を与えたことから、弁論準備手続④~⑥までに対抗主張を提出可能であったにもかかわらず、これを提出せず、弁論準備手続を終結した最終口頭弁論で当該対抗主張に及ぶことは、少なくとも重大な過失により時機に後れた攻撃防御方法と認定し、当該主張を却下した(民事訴訟法157条1項)。
Xは、対抗主張が認められる要件として現に訂正審判の請求あるいは訂正請求を行ったことが必要とする見解が多数である(から、訂正請求をした後に対抗主張をしたことはやむを得ない)と主張したが、対抗主張自体の提出が許されないわけでないとの理由で、当該主張を排斥した。
対抗主張が認められる要件として、訂正審判の請求あるいは訂正請求を行っていることが原則として必要とする見解と、必ずしもこれらを必要とせず、当該訂正が認められる可能性があることが要件であるとする見解とで実務上も分かれており、いずれの見解を有する合議体の審理の下でも対応するには、少なくとも答弁書提出期間であって弁論準備手続⑥までには、訂正の対抗主張をすることが肝要である。特に、弁理士と弁護士で無効審判と侵害訴訟を分担している場合、注意を要する。

2011.10.24 (文責)弁護士 和田祐造