【判旨】
テレビドラマの番組ホームページに「吹きゴマ」の折り図を掲載した被控訴人(被告)の行為は、控訴人(原告)の書籍に掲載された「へんしんふきごま」の折り図を複製又は翻案したものであり、著作権及び著作者人格権の侵害に当たると主張したところ、判決は被控訴人の折り図から原告折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないとして、請求を棄却した
【キーワード】
本質的特徴 直接感得 思想・表現二分論
 


【事案の概要】
 
折り紙作家である原告は被告に対し,被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページ(「http://www.tbs.co.jp/bokunoimouto/news.html」。本件ホームページ)に被告折り図(原判決の別紙2記載の「吹きゴマ」の折り図。説明文を含む。)を掲載した被告の行為について,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」と題する原告書籍に掲載された本件折り図(原判決の別紙1記載の「へんしんふきごま」の折り図。説明文を含む。)を複製又は翻案したものであり・・・著作権(複製権ないし翻案権・・・)・・・の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害・・・による損害賠償・・・を求め・・・原判決は,本件折り図の著作物性を認めたが,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴部分を直接感得することができないとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の複製権ないし翻案権・・・の侵害にも当たらない・・・と判断し,原告・・・請求は理由がないとした。原告は,これを不服として,控訴の趣旨記載の判決を求めた。

 【争点】
被控訴人の行為が複製権、翻案権の侵害に当たるか。

 【判旨】
 (1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)・・・②各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
しかし,他方で,本件折り図は,・・・矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,・・・工程の大部分・・・について説明文を付したものであって・・・読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
このような相違点に加えて・・・記載内容が異なる点などにおいて相違する。
以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する
原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。
イ また,原告は,・・・「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,・・・共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。しかし,原告の主張は,主張自体失当である。すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。 

【解説】
 本件第1審において、最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(民集55巻4号837頁)を基礎として、「複製権ないし翻案権の侵害に該当するかという点については、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照)、著作物の再製は、当該著作物に依拠して、その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することを意味するものと解され、また、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。」との規範に則って、本件折り図について判断し、本件控訴審においてもこの判断が維持されている。
 また、「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」については、表現ではなく、思想、すなわちアイディアに該当すると判断している。これは、伝統的な思想・表現二分論の判断手法に則ったものである。
 なお、前掲、平成13年最高裁判決は、「言語の著作物の翻案」に限定しているとも読めるが、本件の様に図表についての著作物についても適用されており、二次的著作物の一般論として通用するという考え方に合致した判断であり、実務的にも有益であると考えられる。

2012.1.16 (文責)弁護士 宅間仁志