【判旨】
原告商品の形態が、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるとして、不正競争防止法第2条第1項第1号の商品等表示に該当しないとした。
商品の独占的販売権者についても、不正競争防止法第2条第1項第3号による保護の主体になるとして、同法第4条に基づく損害賠償請求を認めた。
【キーワード】
不正競争防止法第2条第1項第1号、商品の形態、商品の機能、商品表示、不正競争防止法第2条第1項第3号、不正競争防止法第4条、独占的販売権者、保護の主体


【事案の概要】
原告商品(シリコン性水切りざる)に係る発明の発明者から許諾を受けて原告商品を商品化し、独占的販売権の設定を受けた原告が、シリコン性水切りざるを輸入、販売する被告の行為に対し、商品・営業主体混合行為(不正競争防止法第2条第1項第1号)又は商品形態模倣行為(同項3号)にあたるとして、差止及び被告ら商品の廃棄を求めるとともに、損害賠償を求めた事案。
【争点】
①原告商品の形態は不正競争防止法第2条第1項第1号の商品表示にあたるか
②原告商品に係る発明の発明者から専用実施権の設定を受け、独占的販売権の設定を受けた原告は、不正競争防止法第2条第1項第3号による保護の主体となるか
【判旨抜粋】
争点①について
「法2条1項1号の趣旨は、他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する他人の利益が不当に害されることを防止することにあり、商品本体が本来有している形態、構成や、それによって達成される実質的機能を、他者の模倣から保護することにあるわけではない。仮に、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を商品表示と認めると、商品表示に化体された他人の営業上の信用を保護するというにとどまらず、当該商品本体が本来有している形態、構成やそれによって達成される実質的機能、効用を、他者が商品として利用することを許さず、差止請求権者に独占利用させることとなり、同一商品についての業者間の競争それ自体を制約することとなってしまう。これは差止請求権者に同号が本来予定した保護を上回る保護を与える反面、相手方に予定された以上の制約を加え、市場の競争形態に与える影響も本来予定したものと全く異なる結果を生ずることとなる。これらのことからすると、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は、同号の商品等表示には該当しないものと解するのが相当である。」
「具体的にみると、基本的形態として原告が主張する構成は、いずれも、柔軟性を持たせるための構成若しくは柔軟性があるという機能それ自体又はざるとしての機能を発揮させるための構成であり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるというほかない。また、使用時形態も、柔軟性があり、変形させることができるという機能の結果生じる形態であり、これも商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態、結果である。 したがって、原告が、商品表示に当たると主張する原告商品の形態をもって、法2条1項1号の商品等表示に当たると認めることができない。」
争点②について
「法2条1項3号による保護の主体は、自ら資金、労力を投下して商品化した先行者のみならず、先行者から独占的な販売権を与えられている独占的販売権者のように、自己の利益を守るために、模倣による不正競争を阻止して先行者の商品形態の独占を維持することが必要であり、商品形態の独占について強い利害関係を有する者も含まれる。」
【解説】
争点①について
 不正競争防止法(以下単に「法」という。)第2条第1項第1号の「商品等表示」は、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定義されているが、商品の形態がその商品を表示するものとして自他商品の識別機能を持つときに、商品表示となることは、通説・判例で認められている(竹田稔「知的財産兼侵害要論[不正競業編]」(第3版)49頁)。ここで、商品の形態が技術的機能に由来する場合に、商品表示に該当するか否かが問題となる。
 本裁判例では、「商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は、同号の商品等表示には該当しない」との判断基準を示した上で、原告商品の形態は、柔軟性をもったざるという商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるとの評価をし、商品表示性を否定している。
 なお、原告が、原告商品の、外力を加えない状態の「基本的形態」と外力を加えた状態における「使用時形態」について、法2条1項1号の商品表示に当たるとの主張をしたのに対し、被告は、外力が加えられた場合に現れる「使用時形態」は商品の本来的形態ではなく、商品表示にあたらないとの反論をしている。この点について、裁判所は、「使用時形態」についても商品表示該当性を検討する対象となることを前提とした上で、商品表示性を検討している。
争点②について
 不正競争に対して差止請求権を行使しうる者は、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(法第3条第1項)であり、損害賠償請求権を行使しうる者は、不正競争によって営業上の利益を侵害された者である(法第4条)。
 そこで、法第2条第1項第3号に定められる不正競争(商品形態模倣行為)に対して損害賠償を請求できる主体を検討するに際しては、どの範囲の者が「営業上の利益を侵害された者」といえるかが問題となる。
 この点、本裁判例においては、商品化を行った先行者のみならず、先行者から独占的な販売権の設定を受けた者についても、請求主体となることを判示し、原告が、原告商品に係る実用新案の実用新案権者から専用実施権の設定を受け、独占的な販売権を付与されていることを認定した上で、原告が請求権者となることを認めている。
 従前の裁判例(キャディバッグ事件 東京地裁平成11年1月28日判決)では、「不正競争防止法二条一項三号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を、自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られる」として、考案者から独占的販売権の設定を受けて輸入、製造及び販売を行っていた者は、請求主体となりえない旨判示したものがある。今回取り上げた裁判例は、上記キャディバッグ事件とは異なる判断を示したものといえる。
 なお、本裁判例においては、原告が、助成金の申請、図面作成、試作品作成の委託、商品化のための協議、商品化のための費用支出等を行った事実を認定したうえで、「自ら資金、労力を投下して原告商品を商品化した先行者でもある」との評価をし、この点からも法第2条第1項第3号による保護の主体となることを認めている。

2012.4.10 (文責)弁護士 久礼美紀子