平成26年5月14日判決(知財高裁平成25年(行ケ)第10341号)
 【キーワード】
 商標法第3条第1項第3号、商標法第3条第2項、自他役務識別力、基準時

【事案の概要】
 原告は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなり,指定役務を下記のとおりとする商標登録第5544516号商標(平成24年1月24日出願,同年12月6日登録査定,同月21日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

(指定役務)
 第45類「結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,インターネット上でのウェブサイトを利用した異性の紹介及びこれに関する情報の提供,インターネットを利用した結婚に必要な情報の提供」

 Aは,平成25年3月14日,本件商標の商標登録が商標法3条1項3号及び4条1項7号に違反してされたことを理由に,本件商標の商標登録に対して登録異議の申立てをした。特許庁は,上記申立てについて,異議2013-900069号事件として審理を行い,平成25年11月22日,「登録第5544516号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,同月30日,その謄本が原告に送達された。
原告は,平成25年12月24日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。

【本件決定の理由の要旨】
 ・・・本件商標は,「オタクの婚活(オタクの結婚するための活動)」の意味合いをもって取引者,需要者に認識されるものであって,その指定役務について役務の質(内容)・用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから,商標法3条1項3号に該当し,また,本件商標が使用をされた結果,その登録査定時において,需要者が本件商標を原告の業務に係る役務を表示するものとして認識するに至っていたものとは認められず,本件商標が同条2項に該当するものと認めることができないから,本件商標の商標登録は同条1項3号に違反してされたものであるというものである。

【争点】
 本件における争点は、商標法第3条1項3号に該当するか、該当したとしても同条2項に該当し商標登録を受けることができるものであるかということである。

【判旨抜粋】
⑴ 商標法3条1項3号該当性について

ア 商標法3条1項3号が,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格又は提供の方法若し くは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定役務との関係で,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他役務識別力を欠くものであることによるものと解される。そうすると,本件商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件商標の登録査定日である平成24年12月6日の時点において,本件商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本件商標の指定役務の取引者,需要者によって本件商標がその指定役務に使用された場合に,将来を含め,役務の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。
イ 本件商標は,「オタク婚活」の文字を標準文字により書してなる商標であり,「オタク」のカタカナ3字と「婚活」の漢字2字とを結合して一連表記した結合商標である。本件商標からは「オタクコンカツ」の称呼が自然に生じる。
本件商標を構成する「オタク」の語については,・・・アニメーション,テレビゲーム,アイドルなどのような特定の趣味の愛好 家を示す用語として,一般に認識され,普通に用いられていたことが認められる。
 また,本件商標を構成する「婚活」の語は,本件商標の登録査定日当時,「結婚するための活動」を意味する語として,一般に認識され,普通に用いられていたことは,当裁判所に顕著である。
 そして,本件商標の登録査定日前の新聞記事情報には,主に30歳前後の人向けの結婚するための活動を「アラサー婚活」・・・,「シニア婚活」・・・,「熟年婚活」・・・などと称される例があることからすると,「婚活」の語の前に対象者の属性を表す語を結合した語は,当該対象者向けの結婚するための活動を意味する語として,本件商標の登録査定日当時,一般に理解されていたことが認められる。
 ・・・以上によれば,本件商標の登録査定日当時,本件商標は,その指定役務に使用されたときは,「オタク」と称される人向けの結婚するための活動を支援する異性の紹介,情報の提供などといった役務の質(内容)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務識別力を欠くものというべきである。
加えて,本件商標は,標準文字で構成されているから,「オタク婚活」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるというべきである。したがって,本件商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
(中略)

⑵ 商標法3条2項該当性について
原告は,原告の事業内容は,多数のメディアで取り上げられ,紹介されており・・・本件商標を使用している原告の事業は全国的に知られており,本件商標は商標法3条2項に該当するから,本件商標が同項に該当することを否定した本件決定の判断は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
 ア 原告が挙げるメディアにおける紹介記事等(中略)
 イ 原告作成の「オタク婚活パーティー」の開催実績一覧(中略)
 ウ ・・・次のようなインターネット情報及び新聞記事情報(中略)
 エ 以上によれば,本件商標の登録査定日(平成24年12月6日)の時点において,オタクと称される人たち向けの結婚するための活動として「オタク婚活」と称する婚姻パーティーが盛んに行われていたが,原告の事業が全国的に知られていたものということはできず,原告が本件商標を使用していても,それは,原告が上記オタクと称される人たち向けの婚姻パーティーを開催していると認識されていたにすぎず,需要者が本件商標を原告の業務に係る役務を表示するものとして認識するに至っていたものと認めることはできない。
 したがって,本件商標がその登録査定時において商標法3条2項に該当する商標であったものと認められない。

【解説】
 本件は商標法第3条第1項第3号 及び同条第2項 の該当性が争われた事案である。
商標法第3条第1項第3号は、記述的商標と言われ、役務の提供の場所等を不通の態様で表示する標章のみからなる商標であり、本件では「オタク婚活」との標章は、役務の提供にかかる質(内容)を表しているにすぎないと判断された。
記述的商標は「特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でない」ことに加え、「多くの場合自他役務識別力を欠くものであること」から商標登録が認められない。一般的に「オタク」と「婚活」は組み合わせに意外性はあるかもしれないが、自他役務識別力は有しないと考えられ、判旨は妥当であろう。
 つぎに、仮に商標法第3条第1項第3号に該当したとしても、特定の者、本件であれば原告の努力によって、かかる標章を商標として使用し続け、自他役務識別力を有するに至れば例外的に商標登録が認められる。当該識別力を有したと言うためには、公益上適当でないことを覆すことが必要であることから、役務の需要者の間で全国的に認識されているひつようがあり、これを特別顕著性を有する場合という。
 本件では、原告は、ア~ウのような様々な根拠を主張したが、そのいずれも、「『オタク婚活』の語が原告の事業の出所を示すものとして広く知られていることの根拠となるものではない」と判断された。その結果、判旨のような結論に至ったものである。
以上、実務上興味深い事案であると考えられるため、ここに紹介する。


1第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。 (中略)
 三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
22  前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

以上
 (文責)弁護士 宅間仁志