【平成26年8月27日判決(知財高裁 平成25年(ネ)第10085号)】

【ポイント】
著作権侵害をしたとされるソフトウェア(本件ソフトウェア部品)と,被侵害ソフトウェア(先行ソフトウェア部品)について,どちらのソースコードも証拠提出がなされなかったにもかかわらず,先行ソフトウェア部品の著作物性を認定した上で,複製または翻案にあたるかを検討し,「本件ソフトウェア部品は,先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製又は翻案したものを含む」と認定し,著作権侵害を認めた事案。

【キーワード】
プログラム,ソースコード,著作権,著作物性,複製,翻案


【事案の概要】
 被控訴人(原審原告)は,控訴人(原審被告)との間で,控訴人から被控訴人に本件ソフトウェア部品を卸し,被控訴人がこれを使用,再販及び複製等をすることなどを内容とするパートナー契約を締結した。被控訴人は,この契約に基づき,代金を支払ったが,後に本件ソフトウェア部品中のプログラムが,他社が有する著作権を侵害するものであることが判明し,被控訴人がこれを利用,再販することができないとして,本契約を解除し,約200万円の損害金の支払いを求めた。原審はこれを認容している。
 控訴人が本件ソフトウェア部品を入手した経緯は,訴外A(本件ソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品の主要な開発者。証人として出廷している。以下,「A」という。)が代表取締役を務める会社(以下,「A会社」という。)から,本件ソフトウェア部品を含む事業の譲渡を受けたというものである。しかし,A会社は,上記事業譲渡に先立って,先行ソフトウェア部品の著作権を他社に譲渡していた。その先行ソフトウェア部品の著作権を譲渡された会社が,被控訴人に指摘したことから,本件の事件に発展した。(実際には他に複数の会社を挟むが,ここでは簡略化した。)
 本件の特徴として,控訴人(原審被告)に代理人はついていないこと,本件ソフトウェア部品と,先行ソフトウェア部品のどちらのソースコードも証拠提出されていないこと,本件ソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品の主要な開発者は同一人物であること,が挙げられる。

【ここで取り上げる争点】

1.    先行ソフトウェア部品の著作物性の有無
2.    複製または翻案の成否及び著作権侵害の有無

【裁判所の判断】
1.    先行ソフトウェア部品の著作物性の有無
 当該争点は,控訴審において控訴人によって主張追加されたことから新たに争点になったものであり,原審では争われていない。

 まず,一般的な著作物性の要件に加え,プログラムの著作物性が認められる要件を挙げる。
「ある表現物が「著作物」として著作権法の保護を受けるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることを要し(著作権法2条1項1号),「創作的に表現したもの」といえるためには,当該表現が,厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの,作成者の個性が発揮されたものでなければならない。」
 「プログラムの表現物についてみると,プログラムとは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であること(著作権法2条1項10号の2)に鑑みれば,プログラムの著作物性が認められるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ及び表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れていることを要するものと解される。」

 プログラムの著作物性のあてはめは,プログラムそのものであるソースコードから認定することが直接的であるが,本件ではソースコードの証拠提出はないため,他の証拠から推認している。
 第一に,先行ソフトウェア部品のカタログから「現場における具体的業務の態様に則して細分化された作業に係る機能をそれぞれ有している」として,多数の機能があること,Aの証人尋問等から「その概算ステップ数は約480万であるところ,先行ソフトウェア部品の総数は約1500本であるから,1本当たりのソースコードのステップ数は数千単位に及ぶものと推認」できることから,「先行ソフトウェア部品はかなり大量のソースコードから成るものと認められる」。「これらの事実によれば,先行ソフトウェア部品の指令の表現自体,組合せ,表現順序がそのすべてにおいておよそ定型的,没個性的なものであるとは考え難い。」と認定する。
 第二に,雑誌のAのインタビュー記事などを引用し,「控訴人及びAら関係者は,先行ソフトウェア部品のプログラムとしての使用価値,経済的価値につき,かなり高く評価するとともに,その点に強い顧客誘引力が存在すると認識していたものと推認できる。このことに鑑みれば,先行ソフトウェア部品全体が,その表現においておよそ個性的な特徴を備えない,ありふれたものにすぎないとは考え難い。」と認定する。
 第三に,控訴人自身が「ほかの争点については,先行ソフトウェア部品が著作物であることを前提とする主張もしている」ことも挙げている。
 これらの事実から,「先行ソフトウェア部品の一部は著作物性を有するものと認められる」と結論づけた。

2.    複製または翻案の成否及び著作権侵害の有無
 まず,言語の著作物の複製及び翻案の規範を挙げる。
 「言語の著作物の翻案及び複製は,いずれも,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる著作物を創作するものであり,①既存の著作物の具体的表現に修正,増減,変更等(以下「修正等」という。)を加え,これにより,新たに思想又は感情を創作的に表現して別の著作物,すなわち,二次的著作物を創作する行為が翻案であり(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照),他方,②既存の著作物と全く同一のものを作成する行為,既存の著作物の具体的表現に修正等を加えたが,これによっても新たな創作的表現の付加がなく,二次的著作物の創作に至っていない行為が複製に当たると解される。したがって,新たな創作的表現の付加の有無が,翻案と複製を区別する主要な基準になるものということができる。」

 複製及び翻案のあてはめにおいても,ソースコードそのものがないことから,A証人尋問等の他の証拠から推認するという過程を経ている。
 「控訴人が,本件ソフトウェア部品は先行ソフトウェア部品を翻案して作成したものである旨を主張」(控訴理由書)していること,A会社は「先行ソフトウェア部品に大きく手を加え,グラフ表示機能,部品間連動機能等を付加して一新し,本件ソフトウェア部品の一部としたこと」,「本件ソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品の各ソースコードは,前者が後者よりも量において多いものの,内容において特段の相違はない
こと」(原審のA証人尋問)から,「本件ソフトウェア部品は,先行ソフトウェア部品に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正等を施したものと推認でき,したがって,本件ソフトウェア部品は,先行ソフトウェア部品の少なくとも一部を複製又は翻案したものを含むということができる。」と結論づけた。
 複製か翻案かの判断をしなかった理由について,末尾に「(なお,本件においては,本件ソフトウェア部品,先行ソフトウェア部品いずれのソースコードも提出されていないことから,各ソースコードを比較,照合できず,本件ソフトウェア部品について,先行ソフトウェア部品の一部に新たな創作的表現が付加されたか否かは不明である。)」とある。

【解説】
 控訴人に代理人がついていないためか,主張に矛盾があり,それが不利に働くなど,本件事案の判断事由になったことは否めない。しかし,その点を除いても,著作物性,複製及び翻案の判断について,著作物そのものであるソースコードが証拠提出されていないにもかかわらず,著作権侵害が認められた例として参考になると考え,取り上げた。

 プログラムの著作物性の判断については,東京地判平成15年1月31日が有名である。その後の裁判例も含めて,「最近では、選択の幅が極めて小さいこと、解法そのものであること、ありふれた記述であることなどを理由として、プログラムの創作性を否定した裁判例と、膨大な量のソースコードと関数から構成されていることを根拠に指令の組合せには多様な選択の隔があるなどとして、プログラムの創作性を認める裁判例に別れている状況にある。」1 というまとめがわかりやすい。
 本件においても,「プログラムの著作物性が認められるためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ及び表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れていることを要するものと解される。」と,上記まとめと同趣旨の規範を立てている。その上で,あてはめの第一では,ソースコードが大量であることを認定した上で,大量である以上は,その表現が定型的,没個性的なものであるとは考え難い,とし,第二では,ソフトウェアの使用価値,経済的価値の高さから,その表現が個性的な特徴を備えない,ありふれたものにすぎないとは考え難い,として,結論として著作物性を肯定している。(第三で,控訴人の他の主張との矛盾も指摘されているが,ここでは措く。)
 仮にソースコードの証拠提出があったとしても,その内容を仔細に分析した上で「個性的な特徴を備えない,ありふれたものにすぎない」ものではないことを立証することは,困難な場合が多いだろう。むしろ,ソースコードの分量がある程度以上であり,機能も少なくないことが認められれば,「個性的な特徴を備えない,ありふれたものにすぎない」ものではないことの,有力な間接事実になる2。ソースコードの証拠提出のない本件でも,Aの証人尋問等を根拠にして,同様の判断がなされたと考えられる。

 複製または翻案の判断については,まず一般的な複製及び翻案の判断基準を挙げ,あてはめをした上で,「少なくとも一部を複製又は翻案したものを含む」と結論づける。あてはめについては,最初に控訴理由書の「控訴人が,本件ソフトウェア部品は先行ソフトウェア部品を翻案して作成したものである旨を主張」した点が記載されているので,これが大きな判断根拠になっていると考えられるが,加えて,原審でのA証人尋問等から「先行ソフトウェア部品を…本件ソフトウェア部品の一部とした」こと,「本件ソフトウェア部品と先行ソフトウェア部品の各ソースコードは…内容において特段の相違はない」ことを認定している。Aは控訴人側の立場の人間であり,先行ソフトウェア部品と本件ソフトウェア部品,両方の主要な開発者であるから,そのAによる控訴人に不利益な証言の信用性は高いと考えられ,結果,これが控訴人に不利益に働くという皮肉な結果となっている。

 本件では,ソースコードの証拠提出はないが,主要な開発者の証人尋問が行われ,かつその証言の信用性が高いと判断されたため,請求が認容される結果になっている。このようなケースを一般化することはできないが,著作物そのものであるソースコードを証拠提出できないことが,すなわちプログラムの著作権侵害の立証が不可能になることを意味するものではない,という点において,興味深い裁判例であるといえる。

以上
(文責)弁護士 松原 正和


1 編者 髙部眞規子 2015年 裁判実務シリーズ8 著作権・商標・不競法関係訴訟の実務 商事法務 39頁
2 松島淳也, 伊藤雅浩 2015年 システム開発紛争ハンドブック―発注から運用までの実務対応 レクシスネクシス・ジャパン 267頁