【平成26年3月27日(知財高裁 平成25年(ネ)10026号、平成25年(ネ)10049号[流動ホッパー事件])】

【判旨】

特許権の侵害を理由とする差止請求について、特許権侵害が肯定された。

【キーワード】

充足論、文言侵害、特許発明の技術的範囲、特許請求の範囲基準の原則、明細書参酌の原則、特許法70条

1.事案の概要(特許発明の内容)

2.争点

 イ号製品において、すでに混合された材料をホッパー装置内で攪拌・流動させる場合は、構成要件Fの「混合」を充足するか

3.判旨(下線部は当職が付した)

 なお,被控訴人は,本件明細書には,解決課題として,材料の一部が「未混合のまま」一時貯留ホッパーへ直接送られることを防止することであるとの記載があることに照らすならば,既に混合された材料について「未混合のまま」と解することはできず,既に混合された材料を混ぜ合わせても「混合」には該当しないと主張する。
 しかし,複数の材料(異種材料)が混合ホッパーに輸送される以前に混合されているとしても,混合状態が十分でなく,さらに混合することを要する場合もあり得ること等を考えるならば,一旦混ざり合った材料であっても,その一部がさらに混合されることなく一時貯留ホッパーへ直接落下する場合にこれを防止することも,本件各特許発明の解決課題から排除されるものではないと解するのが合理的である。
 したがって,複数の材料が一旦混合されていた場合でも,「混合」を含む構成要件を充足すると解するのが相当である。

4.検討

 クレーム解釈は、特許請求の範囲を基準になされ(特許法第70条第1項)、明細書及び図面の記載が参酌される(同2項)。明細書の参酌においては、明細書中の課題(正確には、課題の他に、作用効果、技術的意義、技術的思想も含まれるため課題等)の記載が与える影響が大きいとの指摘がされている[1]
 原審の判決では、従来技術では,材料の輸送が開始されると,材料の大部分は混合ホッパーへ吸引輸送されるものの,材料の一部は未混合のまま一時貯留ホッパーへ直接に落下してしまうという課題の記載に基づき、構成要件の「混合」の意義を解釈していた。課題の記載以外に、「混合」の意義を解釈する手がかりが明細書等においてなかったことから、課題の記載を直接の根拠として、クレーム解釈をしているものであった。
 一方で、課題の記載だけを根拠とするわりには、課題の「未混合」が、一切混合されていないか、一部混合されている場合を含むかについては十分な検討が加えられておらず、やや論理に飛躍があるように思えた。
 控訴審判決ではこの点について、合理性(技術常識等の証拠の提示はないものと思われる)に基づき、十分に混合されていないものを混合することも課題に含むと認定した点で、原判決を補足したものと考えられる。
 課題の認定においては、課題の記載自体が不明確であり、解釈の余地がある場合が多いが、その場合に、技術常識等を用いて、課題を解釈することになる。本判決では、技術常識までは用いられてなかったが、合理性を根拠に、解釈をしたという点が参考になる。

弁護士・弁理士 杉尾雄一


[1] 「特許権侵害訴訟において本件発明の課題が与える影響」(パテント2020 Vol. 73 No. 10)