【平成26年11月14日(知財高裁平成25年(ワ)第34269号)】

【第1 事案の概要】
本件は,「SHIPS」の文字を書してなる商標につき登録商標第4862594号の商標権(以下「原告商標権」といい,登録商標は下記のとおりである。)を有する両事件原告(以下,単に「原告」という。)が,①下記「SHIPS」の文字列を含むデザインを有する布地を製造・販売する被告ダイワボウテックス株式会社(以下「被告ダイワボウテックス」という。)に対して,商標法36条1項,2項に基づき,別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を布地に付すこと及び被告標章を付した布地の販売等の差止め並びに同布地の廃棄を求め(甲事件),②被告ダイワボウテックスから購入した上記布地を販売する被告株式会社Y2(以下「被告Y2」という。)に対して,同条項に基づき,同布地の販売等の差止め及び廃棄を求める(乙事件)事案である。

【キーワード】
 商標,商標的使用,意匠的使用,布地,プリント,模様,SHIPS,商標法26条1項6号

第2 判旨(下線は筆者による)
1 本件商標について
 「本件商標は,前記第2,2(2)記載のとおり,「SHIPS」の五つの英文字を横書きしてなるものである。
 証拠〈略〉及び弁論の全趣旨によれば,原告の営業及び本件商標に関して,昭和50年に設立された原告(設立当時の商号は「有限会社A」。昭和62年に現商号「株式会社シップス」に変更。)は,昭和52年に「SHIPS」の名称の店舗をオープンさせ,その後,いわゆるセレクトショップとして,様々なブランドの商品を独自のコンセプトに基づいて直接買い付け,また,「SHIPS」のブランド名の自社商品を開発して,紳士服,婦人服のほか,ネクタイ,ハンカチ,靴下,バッグ,財布等の各種服飾品などの販売を行っていること,原告は,全国に,「SHIPS」又はこれを含む名称の店舗を,昭和60年当時9店,平成3年当時26店,本件訴え提起当時約58店を展開しており,平成25年2月期の原告の売上高が215億4400万円に上ること,原告は,「SHIPS」ブランドの宣伝用カタログを毎年2回発行,頒布し(平成25年度の発行部数は,5種類のカタログの合計で17万1000部。),フリーペーパー「SHIPS MAG」を毎年4回頒布している(同年度の発行部数は,合計24万部。)ほか,雑誌等の多くの媒体に「SHIPS」ブランドの宣伝広告を行っていること,原告の発行するSHIPSメンバーズクラブカードの顧客会員数は,平成25年8月末時点で67万9000名を数えること,原告は,第24類(織物,布製身の回り品など)のほか21の区分にわたる指定商品を有する本件商標権に加えて,同様に「SHIPS」の文字列から成り,第35類,第37類,第44類及び第45類の指定役務を有する商標権(第5185503号)を取得し,その営業において使用していることが,それぞれ認められる。
 これらの事実によれば,本件商標は,服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識されており,強い識別力を持つ商標であると認められる。

2 被告商品について
 「被告商品は,幅110cmの長尺物の布地であり,そのデザインは,30cm四方が一つの単位となり,それが生地の端部を除く全面にわたってプリントされている。この30cm四方の一単位の中には,8個の大きめの錨マークがそれぞれ異なる方向を向いて散らばって配置されており、そのうち一つの錨マークの上下にはそれぞれ「SINCE1981」,「SHIPS」(被告標章)と表記され,他の一つの錨マークの上下にはそれぞれ「ANCHOR」,「Anchors can either be temporary or permanent.」と表記され,他の一つの錨マークの下には「A port is a location on a coast.」と表記され,他の一つの錨マークの上には「SOME ANCHORS ARE VARIOUS-SHAPED.」と表記され,他の二つの錨マークの下にはそれぞれ「Ships were key in history’s.」と表記され,他の一つの錨マークは「Humans have navigated the seas since antiquity.」との英文に円環状に囲まれており,残りの一つの錨マークは文字列等を伴わずに,単独で表示されている。これらの錨マーク及びそれに伴う各表記以外の部分には,「The earliest anchors were rocks.」及び「Anchors achieve holding power」との各英文の表示と,錨,ヨット,舵,文字からなる5種類の郵便スタンプマークが配されている(なお,上記の英文字の中には,ところどころかすれており,読み取り難い部分がある。ただし,「SHIPS」の英文字は,容易に読み取れる。)。
 また,被告商品の端の余白部分(デザインがプリントされていない部分)には,被告ダイワボウテックスの完全親会社である株式会社ダイワボウホールディングス株式会社の登録商標であるダイワボウ商標(「D’s SELECTION」)が表示されている。」

3 商標的使用について
 「被告商品においては,30cm四方のデザインの一単位に一つの被告標章が配されているところ,証拠〈略〉によれば,被告標章は,そのデザインの中において,他の文字列から分離して表記されており,その「SHIPS」の文字列は,全て大文字で,かつ,「ANCHOR」の文字列とともに,他の文字列よりもやや大きい文字サイズであり,さらに,他の文字列がいずれも文又は句を構成しているのに対して,この「SHIPS」及び「ANCHOR」はそれぞれ一単語のみで独立して用いられていることが認められる。そして,「ANCHOR」の文字列は,それが意味するところの「錨」のマークの上に配置され,同マークの下の「Anchors can either be temporary or permanent.」の英文を含めて,一つの固まりとして一体的に表示されているのに対して被告標章は,それが意味するところの「船」ではなく,「錨」のマークの下に配置され,同マークの上の「SINCE1981」の文字列を含めて,一つの固まりとして一体的に表示されている。
 このような被告商品における被告標章の配置,文字の大きさ及び表示態様からすれば,被告標章は,被告商品のデザインの中で,十分に独立して認識可能な標章として表示されているということができる。
 このことに加えて,被告標章が,一般に企業や団体の創業年又はブランドの設立年などを表す際に用いられる「SINCE」の表記を伴い,上記のとおり「SINCE1981」の文字列と一体的に表示されていること,及び,前記(1)のとおり,「SHIPS」の文字列からなる本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識され強い識別力を持つ商標であることを総合すると,被告商品において被告標章は,その需要者に対して,商品の自他を識別し,出所を表示する態様で用いられていると認めることができる。
 したがって,被告標章は,被告商品において,商標として使用されていると認めるのが相当である。」

4 被告らの主張について
ア この点に関して被告らは,被告商品において被告標章は装飾的・意匠的な図柄の一部をなしているにすぎず,商標的使用に当たらないと主張する。
 しかし,仮に被告標章が被告商品のデザインの一部であるといえるとしても,そのことによって,直ちに商標としての使用が否定されるものではなく,装飾的・意匠的な図柄の一部をなしている標章であっても,その標章に装飾的・意匠的な図柄を超える強い識別力が認められるときは,装飾的・意匠的図柄であると同時に自他識別機能・出所表示機能を有する商標としての役割を果たす場合があるというべきである。そして,被告商品のデザインにおいては,約30cm四方の一単位に,被告標章以外にも複数のマークや文字が表示されており,赤色で表示された「ANCHOR」の文字が目立つ態様であることは否めないが,それらの中においても被告標章が十分に独立した標章として認識されて,被告商品において自他識別・出所表示の機能を果たしていると認められることは前記(3)のとおりであるから,被告らの上記主張は採用することができない。
 また,被告らは,被告標章が錨マークと一体となって分離不能な「単位表示部」を形成しているから,単独で取り出すことができないと主張する。
 この点,確かに被告標章は,錨マークのすぐ下に記載されているから,同マーク及びそのすぐ上に記載された「SINCE1981」の表示も合わせて,一つの固まりとして一体的に配置されているといえる。しかし,錨マークは,「錨」の形をした図形であり,一方,被告標章である「SHIPS」の文字列は「船」を意味する英単語であるから,一つの固まりの中でも,それぞれが異なる観念を持つものとして,独立して認識し得ることは明らかである。
 したがって,被告標章が錨マークと分離不能であるとの被告らの主張は採用できない。
イ 被告らは,「ship(s)」は平易かつ一般的な英単語であり,錨マークの説明的な表示でもあるから,その識別力は極めて弱いと主張する。
 しかし,「ship」が「船」を表す平易かつ一般的な英単語であり,「s」がその複数形を表すものであるとしても,被告標章は,「ship」又は「ships」ではなく,本件商標と同じく「SHIPS」の文字列から成るものであり,かつ,その文字列の配置,文字の大きさ及び表示態様は,前記(3)に記載のとおりであって,しかも,前記(1)のとおり,同じ文字列から成る本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識され強い識別力を有していることにも照らせば,被告商品のデザインの中にあって被告標章の識別力が弱いということはできない。また,被告標章(「SHIPS」)は「船」を意味するものであるから,「錨」のマークの説明的な表示であるということもできない。
 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 被告らは,原告が布地を販売していないため,布地の需要者に対しては,本件商標は周知ではなく,また,本件商標は,セレクトショップである原告の販売形態と切り離せないから,原告の店舗で販売される商品だけに向けられるものであると主張する。
 しかし,本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識されていると認められることは,前記(1)のとおりであるところ,服飾品の多くは布製品であり,また,布地の需要者はその購入した布地で服飾品を作ることも少なくないと解されることからすれば,服飾品と布地の関連性は強いというべきであり,しかも,服飾品は,広く一般消費者が需要者となるべきものであるところ,そのように一般消費者に広く認識されている本件商標が,その中の布地の需要者に限って周知でないと認めるべき事情があることは窺えない。
 また,原告が「SHIPS」の名称でセレクトショップを展開し,そこで他社ブランドの商品を販売していることは事実であるが,前記(1)のとおり,原告は,自社の「SHIPS」ブランドの服飾品の販売も行っており,証拠〈略〉によれば,原告が取り扱う商品の多くには,本件商標が,単独で,又はメーカー等の他社の商標とともに,付されていると認められることからすれば,本件商標は,商品自体に付されることでその商品の出所表示として機能していることが明らかであるから,そのような機能が原告の店舗で販売される商品にしか及ばないものとは認められない。
 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
エ 被告らは,被告商品の端部分にはダイワボウ商標が付されており,しかも,布地がロール状に巻かれた状態では,被告標章よりもダイワボウ商標のほうが確認されやすいから,ダイワボウ商標のみが被告商品における自他識別・出所表示の機能を有していると主張する。
 この点,証拠〈略〉によれば,布地には,その端部分に,布地の製造者の名称やブランド名などが表示されることがあり,被告商品においても,布地の端部分に,被告ダイワボウテックスの親会社の登録商標であるダイワボウ商標が表示されていることが認められる。
 しかし,商標は,単に商品の製造者を表すためだけに用いられるものではなく,その販売者や輸入者,使用許諾を与えたライセンサーなどを表すために用いられるものでもあり,さらには,当該商品の商品名やブランド名を表すものとしても用いられるのであって,しかも,それらの複数の商標が一つの商品に同時に付されることも少なくないと考えられることからすれば,商品に付された一つの商標からその製造者が認識されるからといって,同商品に付された他の標章が商標として認識されないということにはならないというべきである。
 そして,被告商品においては,そのデザインの全面にわたって,被告標章が30cm四方に一つずつ表示されており,しかも,前記ウのとおり,布地の需要者においても本件商標が広く認識されているといえることからすれば,被告商品において,被告標章が自他識別機能を有する態様で表示されていることを否定することはできない。また,布地がロール状に巻かれた状態で販売されているとしても,需要者が布地を選択して購入する際には,その生地のデザインを確認することは当然であるから,被告商品の需要者が生地に付された被告標章を認識しないということはできない。
 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
オ 被告らは,「SINCE1981」の表示は,デザイナーの誕生年を記載したものにすぎないこと,及び,この表示と被告標章とが錨マークを挟んで配置され分断されているから,「SINCE1981」の表示があることをもって被告標章が商標的に使用されている根拠とすることはできない旨主張する。
 この点,証拠〈略〉によれば,被告商品に付された「SINCE1981」の表示は,そのデザインの作成者が,自己の誕生年(1981年)に由来して記載したものであることが窺われるが,仮にそうであるとしても,被告商品に接した需要者が,上記表示について,それをデザイン作成者の誕生年の表示であると認識するとは到底認められず,かえって,「SHIPS」という商標が広く一般消費者に認識され強い識別力を持っていること,並びに「SINCE1981」の表示の仕方,被告標章との位置関係及び配置に照らすと,需要者は,上記「SINCE1981」の表示をもって,原告又は「SHIPS」というブランドの設立年を表すものと認識するのが通常と認められるから,デザイン作成者の上記意図は,被告標章が商標的使用に当たるか否かの判断を左右するものとはいえない。
 また,前記(3)のとおり,「SINCE1981」及び「SHIPS」(被告標章)の各文字列並びにこれらに挟まれた錨マークは,被告商品のデザインの中で一つの固まりとして一体的に配置されているところ,このうち錨マークは図形であって,英語である「SINCE1981」及び「SHIPS」の各文字列とは性質の異なるものであるから,これらの二つの文字列は,錨マークを挟んでいても,互いに繋がりのあるものとして認識されるものと認められる。
 したがって,被告らの上記主張は採用することができない。」

第3 若干のコメント
 本件は,布地にプリントされた「SHIPS」との文字列の使用形態が,原告商標の商標的使用1 であるか否かが争われた事案である。
 まず,本判決が抽象論として示した「仮に被告標章が被告商品のデザインの一部であるといえるとしても,そのことによって,直ちに商標としての使用が否定されるものではなく,装飾的・意匠的な図柄の一部をなしている標章であっても,その標章に装飾的・意匠的な図柄を超える強い識別力が認められるときは,装飾的・意匠的図柄であると同時に自他識別機能・出所表示機能を有する商標としての役割を果たす場合がある」との指摘は,正当と考える。デザインであると共に商標的使用であるという場合は十分にあり得るだろう(Louis Vuitton等のモノグラム柄はまさにそのような代表例であろう。)。
 つぎに,問題となった被告の布地(以下「被告布地」という。具体的な態様は,以下【布地の模様】を参照。)は,30cm四方が一つの単位として以下のデザインがなされているものであったところ,「SHIPS」の文字列は模様の一部に過ぎず,需要者に対して,商品の自他を識別し,出所を表示する態様で用いられていないのではないか(商標的使用ではないのではないか)という点についての具体的判断について検討する。
 【布地の模様】
 ・8個の大きめの錨マークがそれぞれ異なる方向を向いて散らばって配置
 ・一つの錨マークの上下にはそれぞれ「SINCE1981」,「SHIPS」(被告標章)と表記
 ・他の一つの錨マークの上下にはそれぞれ「ANCHOR」,「Anchors can either be temporary or permanent.」と表記
 ・他の一つの錨マークの下には「A port is a location on a coast.」と表記
 ・他の一つの錨マークの上には「SOME ANCHORS ARE VARIOUS-SHAPED.」と表記
 ・他の二つの錨マークの下にはそれぞれ「Ships were key in history’s.」と表記
 ・他の一つの錨マークは「Humans have navigated the seas since antiquity.」との英文に円環状に囲まれており,
 ・残りの一つの錨マークは文字列等を伴わずに,単独で表示
 ・これらの錨マーク及びそれに伴う各表記以外の部分には,「The earliest anchors were rocks.」及び「Anchors achieve holding power」との各英文の表示と,錨,ヨット,舵,文字からなる5種類の郵便スタンプマークが配されている
 ・被告商品の端の余白部分(デザインがプリントされていない部分)には,被告ダイワボウテックスの完全親会社である株式会社ダイワボウホールディングス株式会社の登録商標であるダイワボウ商標(「D’s SELECTION」)が表示

 以上の使用態様からすると,被告布地は,碇や英文等で構成されたマリンテイストのデザインであり,そこに「SHIPS」という「船」を示す文字列が記載されていたとしても,模様の一部に過ぎず,何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用,すなわち商標的使用ではないようにも思える。
 もっとも,裁判所は以下に列挙する詳細事情を検討したうえで,被告における「SHIPS」標章が,被告商品のデザインの中で,十分に独立して認識可能な標章として表示されているものとして商標的使用であると判断した。
 ・「SHIPS」が他の文字列から分離して表記されている。
 ・「SHIPS」は全て大文字で,かつ,「ANCHOR」の文字列とともに,他の文字列よりもやや大きい文字サイズで表記されている。
 ・他の文字列がいずれも文又は句を構成しているのに対して,「SHIPS」及び「ANCHOR 」はそれぞれ一単語のみで独立している。
 ・「ANCHOR」の文字列は,それが意味するところの「錨」のマークの上に配置され,同マークの下の「Anchors can either be temporary or permanent.」の英文を含めて,一つの固まりとして一体的に表示されているのに対して,被告標章は,それが意味するところの「船」ではなく,「錨」のマークの下に配置され,同マークの上の「SINCE1981」の文字列を含めて,一つの固まりとして一体的に表示されている。
 ・一般に企業や団体の創業年又はブランドの設立年などを表す際に用いられる「SINCE」の表記を伴い,上記のとおり「SINCE1981」の文字列と一体的に表示されている。
 ・「SHIPS」の文字列からなる本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識され強い識別力を持つ商標である。

 したがって,模様的の一部であっても,何らかの理由により当該標章部分が目立ってしまい,他のデザインから独立して認識される場合には,商標的使用と判断され得ることになる。そして,当該部分が目立ってしまう「何らかの理由」としては,①文字の大きさ,②他の模様との関係性,③当該文字列自体の識別力の強さ,④商標的使用と判断されやすい使用態様であるか等の事情が重要になるといえるだろう。
本件では,特に③について,原告の商標が服飾品のブランドとして有名であることを参酌している点で特徴的である。「SHIPS」という単語自体は造語ではなく一般的なものであるため,生来的に識別力が強い単語とは言い難いが,本件のようにブランドとして有名となった場合には,需要者にとって当該部分が目立って認識されやすいとの判断がされ得る。
 また,④について,一般的にブランドの設立年などを表す際に用いられる「SINCE」という表記を伴って,「SINCE1981」との文字列と一体的に表記されている点を商標的使用であることを肯定する事情として参酌している点も特徴的である。一体的に用いられている他の表記の存在によって,商標的使用と判断されやすくなる場合があり得ることに留意が必要であろう。
 一方,本判決は,通常であれば商標的使用であることを否定する事情であるところの被告自身の商標(「D’s SELECTION」)の使用について検討しつつも,商標的使用であることを肯定した点でも特徴的である。いかに自己の商標を付していようとも,それを上回って他人の商標が独立して識別される場合には,商標的使用が否定されないという点に注意すべきである。
 以上のとおり,本判決はデザイン・模様的な使用である場合における商標的使用の判断について,詳細な検討を加えており,同様の事案を判断するうえで参考になるものと考える。

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子

1 なお,商標的使用という概念について本判決時においては明文規定がなかったところ,平成26年改正(平成27年4月1日施行)によって「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)には商標権の効力が及ばないものとして明文化されるに至った。