平成26年9月11日判決(知財高裁 平成26年(ネ)第10022号)

【判旨】
 被告の実施製品について,第1要件及び第5要件を充足せず,均等侵害は成立しないと判断した。

【キーワード】
 均等侵害、第1要件(本質的部分)、第5要件(特段の事情)

【事案の概要】
 本件において,知財高裁は,以下のように述べて原審の判断をそのまま支持した。そこで,原審である平成21年(ワ)第32515号事件東京地方裁判所平成26年1月30日(以下「原審」,「原審の判断」等という。)の判断をもとに述べる。

「当裁判所も,・・・第1審被告装置5は本件発明と均等なものともいえない」
 
 原審の認定した,事案の概要は以下のとおり。
 本件は,原告が,被告による・・・装置の製造及び使用が,原告の有する特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,上記装置(ただし,後記別件被告装置を除く。)の製造及び使用の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金のうち5億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年10月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

【本件特許】
   ア 原告は次の特許の特許権者である(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面(ただし,補正後のもの)を「本件明細書」という。)。

    番号    特許第3998284号
    発明の名称 「電話番号情報の自動作成装置」
    出願年月日 平成8年10月9日(特願平8-285900)
    登録年月日 平成19年8月17日

   イ 本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。

    「【請求項1】市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。」

   ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。

    A 市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段と,
    B 前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての有効性を判断し,有効となった番号を実在する有効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,
    C 前記番号テーブルを利用し,オートダイヤル発信手段を用いて電話をかけたときの接続信号により電話番号としての無効性を判断し,無効となった電話番号の中で,接続信号中の応答メッセージに基づいて,新電話番号を案内している電話番号,新電話番号を案内していない電話番号,一時取り外し案内しているが新電話番号を案内していない電話番号,の3種類の番号に仕分けして,実在しない無効電話番号として収集し前記ハードディスクに登録する手段と,
    D を備えたことを特徴とする電話番号情報の自動作成装置。

【被告製品】
  被告装置目録5
  (被告装置5)

(前略)
1 下記各手段により,平成21年2月26日以前から付与されていた局番を持つ固定電話用の電話番号を調査する機能(実施態様(a))

 (1) 平成21年2月26日以前から付与されていた局番を持つ電話番号であって,使用されたことがあるか又は使用される可能性が高い電話番号群であって有効と判断されていた電話番号群(「流通群有効」(流通群は,被告装置3のA群及びB群に対応する。))と,使用されたことがあるか又は使用される可能性が高い電話番号群であって無効と判断されていた電話番号群(「流通群無効」)と,使用されたことがないと判断されていた電話番号群(「非流通群」(非流通群は,被告装置3のC群に対応する。))とに分けられ,流通群有効,流通群無効及び非流通群につきそれぞれ,同一局番の電話番号が連続して発呼されないように電話番号の下4桁の同じ番号が集めて並べられ,さらに1ファイルの収録数が最大約90万件にとどまるように分割された電話番号を記録した約300個の電話番号ファイルを記録したハードディスクを有し,これらの番号は総務省の指定する市外局番や市内局番に廃番や追加が生じた場合であっても恒久的に記録されており,その中から使用者が調査を指示した特定の電話番号ファイルに記録された電話番号を読み込んで,特定の市外局番,市内局番を有する電話番号を除き,上記柱書記載の方法により発呼する手段
 
 (2) 調査対象の電話番号に対して発呼を行った場合に返される,デジタル信号である切断メッセージ(着呼音,話中音,極性反転及び音声メッセージのいずれにも当たらない)の理由番号により,その電話番号を,「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」にそれぞれ判定し,判定結果とともにハードディスクに登録する手段

2 下記各手段により,平成21年2月27日以降に付与された局番を持つ固定電話用の電話番号を調査する機能(実施態様(b))

 (1) 平成21年2月27日以降に新たに割り当てられた局番のうち,使用者が入力して指定した局番のそれぞれに,0000から順次連続した番号を付加し,生成した調査対象の各電話番号につきそれぞれ一つのファイルを作成して番号フォルダに書き込む(番号フォルダに書き込まれるファイルの数は指定された数(使用回線数に応じ約50~100が設定される)を上限とする。番号及びファイルの生成は各局番につき9999まで繰り返される)一方で,0.5秒ごとに番号フォルダに記録されているファイルに記録された電話番号を読み込んで,特定の市外局番,市内局番を有する電話番号を除き上記柱書記載の方法により発呼する手段

 (2) 調査対象の電話番号に対して発呼を行った場合に返される,デジタル信号である切断メッセージ(着呼音,話中音,極性反転及び音声メッセージのいずれにも当たらない)の理由番号により,その電話番号を,「有効」,「無効」,「移転」,「都合停止」,「エラー」,「局預け」,「再調査」,「INS回線有効」にそれぞれ判定し,判定結果とともにハードディスクに登録する手段
(以下略)

【争点】
被告装置5の構成要件Aに係る実施態様a及びbに変更した場合において,被告製品5に本件特許に対する均等侵害が成立するか否か。

【判旨抜粋】
   被告装置5は,構成要件Aの「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」との部分を,「平成21年2月26日以前に被告装置4に蓄積された既存の電話番号データ」という実施態様(a)及び「市外局番と市内局番について新たな総務省からの割当ての度に装置に手動で入力し,連続する予め電話番号が存在すると想定される下4桁の番号を付加した電話番号を一つずつ自動生成する手段」という実施態様(b)に置き換えたものであるところ,原告は,「番号テーブル」の内容が本件発明の本質的部分であるから,その内容を備えていれば,これをコンピュータ装置で利用できるようにする方法は当業者が適宜に選択することで足りると主張するものである。
   イ そこで判断するに,本件発明は,従来,実在する電話番号を知る方法や実在する電話番号の変更情報を全て得る方法が存在しなかったところ,実在する電話番号を収集し,正確な電話番号の利用状況を示す電話番号情報として提供するという課題の解決手段として,電話番号が実在すると想定される番号の番号テーブルを作成し,これを利用して電話番号の利用状況の調査をするものである・・・。
     これに加え,・・・本件特許の出願経過について,① 原告が,本件特許の特許出願時の特許請求の範囲の請求項1の構成要件Aに相当する記載(「予め電話番号が実在すると想定される番号の番号テーブルを作成する手段」)を,平成15年3月26日提出の手続補正書(乙179の11)により「市外局番と市内局番と連続する4桁の番号から構成されている電話番号が実在すると想定される番号の番号テーブルを自動的に作成する手段」と補正したところ,特許庁審査官は,引用文献(特開平7-177214号公報。乙180)を引用例として進歩性を欠くとの拒絶理由通知(乙179の23)を発したこと,② 原告は,平成16年1月19日提出の手続補正書(乙179の28)により,上記部分を「市外局番に該当する市内局番と,各局番に対応する下4桁の連番数字を生成し,実在すると想定される電話番号の番号テーブルを自動的に作成しハードディスクに登録する手段」と補正するとともに,同日提出の意見書(乙179の26)において,引用例には,番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段の開示がない旨を述べたこと,③ 上記②の補正にもかかわらず,上記拒絶理由通知の理由により拒絶査定(乙179の33)がされたため,原告は,拒絶査定不服審判の審判請求書(乙19)において,本件発明は「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」が中核的構成要件であると述べるとともに,平成19年6月15日提出の補正書(乙179の37)により,上記部分を「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」と補正し,本件特許の特許登録がされるに至ったこと,以上の事実が認められる。
   ウ 上記事実関係によれば,本件発明の本質的部分は,実在する電話番号を収集しその利用状況を調査するために,実在すると想定される市外局番及び市内局番とこれに連続する4桁の番号からなる全ての電話番号の番号テーブルを作成してこれをハードディスクに登録するという構成を採用した点にあると解される。したがって,特許請求の範囲に記載された構成と被告装置5の相違点は,本件発明の本質的部分に当たるということができる。
     さらに,上記出願経過に照らせば,原告は,拒絶理由を回避するために,特許請求の範囲を「ハードディスクに登録する手段」を有する構成に意識的に限定したものと認められる。
     したがって,均等の第1要件及び第5要件を欠くから,被告装置5は,本件発明と均等なものとはいえず,その技術的範囲に属しないというべきである。

【解説】
 本件特許は,電話番号を自動生成し,これが有効なものであるか(利用されているものであるか。),無効なものであるか等を自動に判別しハードディスクに保存するものである。
 そして,問題となっている構成は,構成要件Aの「市外局番と市内局番と連続する予め電話番号が存在すると想定される番号の番号テーブルを作成しハードディスクに登録する手段」を「『平成21年2月26日以前に被告装置4に蓄積された既存の電話番号データ』という実施態様(a)及び『市外局番と市内局番について新たな総務省からの割当ての度に装置に手動で入力し,連続する予め電話番号が存在すると想定される下4桁の番号を付加した電話番号を一つずつ自動生成する手段』という実施態様(b)に置き換え」た部分である。
 裁判所は,本件発明の課題と課題解決手段とを認定した上で,出願経過を詳細に認定し,本件発明の本質的部分を「実在する電話番号を収集しその利用状況を調査するために,実在すると想定される市外局番及び市内局番とこれに連続する4桁の番号からなる全ての電話番号の番号テーブルを作成してこれをハードディスクに登録するという構成を採用した点にあると解される」と認定して,本質的部分に該当し,均等侵害は成立しないとした。
 なお,第5要件についても,出願経過からこれを否定した。
 どのような場合に,均等侵害が否定されるのかという点について,実務上参考となる事例であるため,ここに紹介する。

以上
(文責)弁護士 宅間仁志