平成26年1月30日判決(東京地裁 平成21年(ワ)第32515号)
【ポイント】
特許権者が特許品を実施していなくても、被告と同種の営業を行っていたことを理由に、特許法102条2項の適用が認められた事例
【キーワード】特許法102条2項、損害論、ごみ貯蔵機器事件


【事案の概要】
本件は,原告が,被告による装置の製造及び使用が,原告の有する特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,上記装置の製造及び使用の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金のうち5億円及び遅延損害金の支払を求めた事案。

【争点】
被告が賠償すべき原告の損害額。特に、特許法102条2項の適用の有無。

【結論】
特許法102条2項が適用される。

【判旨抜粋】
 イ 特許法102条2項は特許権者における損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であるから,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合にはその適用が認められ,特許権者が特許に係る発明を実施していないことは,その適用を排除する理由にはならないと解される。
 上記ア認定の事実によれば,原告は電話番号の利用状況の調査を必要とする顧客に原告装置を使用して蓄積された電話番号の利用状況履歴データベースを提供しているところ,原告装置が本件発明の実施品に当たらないとしても,被告と同種の営業を行っているものといえるから,侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情があるものと認められる。
 被告は,① 原告装置は特定の566個の局番を発呼の対象から除外しているため,原告は本件発明を実施していないこと,② 被告の顧客は本件特許権の特許登録前からの顧客であり,原告の売上高はその後も減少していないこと,③ 原告と被告の事業のほかにも他社による同種のサービスが多数存在すること,④ 本件発明は物の発明であり,原告には本件発明に係る装置を利用して得られたデータの独占権があるわけではないことを根拠に,特許法102条2項の適用はないと主張する。しかし,①については,原告は調査を必要としない局番を発呼の対象から除いているにすぎず,原告の逸失利益の発生を否定する事情ではない。また,②~④については,同項の推定の覆滅事由として考慮する余地があるとしても(後記(4)参照),被告が本件発明の技術的範囲に属する装置を使用して利益を得ている以上,同項の規定の適用を排除する理由にはならないと解される。

【解説】
「ごみ貯蔵機器」大合議事件(知財高判H25.2.1)に沿った判示であるが、本件発明の実施品に当たらないとしても,被告と同種の営業を行っているものといえることを理由に102条2項適用を認めている点で(特に競合することの条件は示されていない)、同大合議事件前までに認められていた同項の射程が若干広がった事例の一つといえると思われる。

(文責)弁護士・弁理士 和田祐造