【平成23年4月26日(東京地裁平成21年(ワ)第26662号)】

【キーワード】
不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,デザイン,模倣,実質的同一性,需要者,創作者,改変者,アパレル,衣服,被服,衣類,衣料品,服飾,COCOLULU,ココルル,しまむら

第1 事案の概要
 本件は,原告が,下記左側の原告商品の形態を被告が模倣したとして,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項3号,3条,及び4条の基づき下記右側の被告商品1及び被告商品2(被告商品1のショートパンツ版である。)の販売行為の差止,並びに損害賠償等を求めた事案である。



原告商品(表)  被告商品(表) 


原告商品(裏)  被告商品(裏)
最高裁判所HPより引用

第2 判旨(下線は筆者による)
 「不競法2条1項3号にいう「模倣」とは,他人の商品の形態に依拠してこれと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい(同条5項),同条1項3号がいわゆるデッドコピーを禁止することを目的とするものであることから,実質的に同一の形態であるといえるためには,作り出された商品の形態が他人の商品の形態と同一であるか,又は,実質的に同一といえるほどに酷似していることを要するというべきである。」
 「これを本件についてみるに,前記(1)認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,原告商品の形態において特徴的な点は,①総柄のデニムパンツであること,②パンツの表面に,米国の交通標識を想起させる円形,三角形,四角形,六角形及びハート型の図柄と,スマイリーマークの図柄(同マークは,雑貨品,衣料品の図柄としてしばしば用いられる,著名なものである。)とが,不規則に隙間なく重なり合って配されていること,③上記②の交通標識様の図柄の内部には,英語,算用数字又は矢印が表記され,英語等を白くしているものと周囲を白抜きにしているものとを組み合わせていること,④商品全体のシルエットが,ゆったりとした,だぼっとしたものであること,⑤オーバーダイ加工を用いることにより,古着のような風合いを出していること,にあり,このうち①ないし③の点(ただし,②の点のうちスマイリーマークの図柄を配しているとの点は除く。)については,被告商品の形態と共通することが認められる。
 他方,被告商品に用いられている交通標識の図柄は,原告商品に用いられている図柄と同一のものではなく,各図柄の大きさ(面積)も,被告商品に用いられているものは,原告商品に用いられているものの2分の1ないし3分の1程度であり(そのため,被告商品の図柄は,原告商品よりも相当密集しているとの印象を需要者に与える。),被告商品1の図柄については,原告商品の図柄よりも明瞭でくっきりと印刷されている。また,原告商品は,上記のとおり,パンツの表面に相当の数のスマイリーマークを配することにより需要者に同マークを印象付けている点や,パンツのシルエットが全体的にだぼっとしたものである点,オーバーダイ加工を用いて古着のような風合いを出している点なども特徴とするのに対し,被告商品は,前記(1)イのとおり,パンツの表面にスマイリーマークの図柄を配しておらず,パンツのシルエットは全体的に原告商品よりも引き締まったものであり(なお,被告商品2は,ショートパンツである点でも原告商品の形態と相違する。),オーバーダイ加工も用いていないものであって,原告商品の上記特徴を有するものではない。
 さらに,被告商品は,ボタンやリベットの色彩,後面におけるリベットの配置位置,パッチの色彩等についても,原告商品の形態と相違する。」
 「このように,被告商品は,総柄のデニムパンツの図柄に米国の交通標識様のものを用い,この図柄を不規則に隙間なく重なり合わせて配するという,商品の形態の特徴の一部について,原告商品と共通する点があるものの,スマイリーマークの図柄の有無,パンツのシルエット,オーバーダイ加工の採否という特徴については,共通するものではなく,交通標識様の図柄の大きさや,ボタンやリベットの色彩等についても,原告商品と相違する。そして,これらの相違点が存在することにより,被告商品の形態は,全体として,需要者に対して原告商品とかなり異なる印象を与えるものと認められる。
 また,証拠(乙3,4,5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,①総柄のデニムパンツは,原告商品以外にも,ヒステリックグラマーやオゾンコミュニティというブランドによって,原告商品の発売される以前である平成12年ころに販売されていたこと,②パンツの表面に,円形,三角形,四角形及び六角形の交通標識様の図柄を不規則に隙間なく重なり合わせて配するというデザインも,原告商品の製造,販売に先立ち,ジェレミースコットというブランドによって,世界的に著名なコレクションの一つである2008年春夏のパリコレクションにおいて発表され(ただし,同ブランドの交通標識様の図柄は,原告商品よりもカラフルなものである。),日本にも紹介されていたこと,が認められるものであり,原告商品の特徴とされる総柄のデニムパンツであるという点や,米国の交通標識を想起させる図柄をパンツの表面に不規則に隙間なく重なり合って配するというデザイン自体は,いずれも,先行商品にもみられるものであって,原告商品独自のものではないと認められる。」
 「上記の事情等を総合的に考慮すると,原告商品の形態と被告商品の形態とは,これらが実質的に同一といえるほどに酷似していると認めることはできないというべきである。」
 「したがって,被告商品の形態が原告商品の形態と実質的に同一であるということはできない。」

第3 若干のコメント
 本判決については,特に①実質的同一性の判断における判断が誰の視点でなされるのか,及び②先行商品の存在が実質的同一性判断に与える影響という点にかかる判断に注目したい。
 まず,①については,実質的同一性を需要者又は創作者(改変者)いずれの視点で判断するかという問題 1があるところ,本判決は「被告商品の形態は,全体として,需要者に対して原告商品とかなり異なる印象を与えるものと認められる。」として,改変者ではなく需要者の視点に立っていることが分かる。本事案では,原被告商品において,図柄,シルエット,及び加工の採否等重要な点で複数の相違点があり,仮に創作者(改変者)の視点に立って改変容易性等を検討した場合であっても実質的同一性は否定されたと考えられるため,「需要者」の視点から判断していることに大きな意味はないとも考えられるが,明確に「需要者」との記載があることは一定程度参考になろう。
 つぎに,②については,原告商品形態のうち「原告商品の特徴とされる総柄のデニムパンツであるという点や,米国の交通標識を想起させる図柄をパンツの表面に不規則に隙間なく重なり合って配するというデザイン」が「先行商品にもみられるものであって,原告商品独自のものではない」という事情が,実質的同一性の範囲を狭める事情として参酌されていることが分かる。不競法2条1項3号においては,ありふれた形態は保護対象から除外される 2が,仮に被告が,原告商品形態全体がありふれた形態であるとまでの立証をできない場合であっても,大部分の要素において共通する先行商品が存在を立証できれば,実質的同一性判断において重要な考慮要素として取り上げてもらえる可能性があることが分かる。
 これらの点は,いずれも実務において参考になるといえるだろう。

1
当該問題については,田村善之「商品形態のデッド・コピー規制の動向 ―制度趣旨からみた法改正と裁判例の評価―」(知的財産法政策学研究第25号・2009年),及び蘭々「商品形態の実質的同一性判断における評価基準の構築 ―近時の裁判例を素材として―」(知的財産法政策学研究第25号・2009年)において詳細な検討がなされている。
2
ありふれた形態に関する近年の裁判所の判断については,泉克幸「不正競争防止法2条1項3号とありふれた形態」(Law and Technology No67・2015年)が詳しい。

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