【平成23年3月24日[角膜除去用具](知財高判平成22年(ネ)第10077号裁判所ウェブサイト】

【ポイント】
被控訴人が不正競争2号1項1号に基づいて控訴人の当該商品について差止請求、損害賠償請求がしたことについて、被控訴人の請求が肯定された事例

【キーワード】
商品形態、不正競争防止法2条1項1号、形態模倣、類似性、特定商品等表示性、混同


【事案の概要】
 本件は、被控訴人は、角膜除去用具にかかる控訴人商品の形態は被控訴人商品との混同を生じさせるものであり、また、控訴人商品は被控訴人商品の形態を模倣した商品であるから、控訴人による控訴人商品の販売は、不競法2条1項1号又は3号の不正競争行為に当たると主張して、控訴人に対し、不競法3条1項に基づき、控訴人商品の譲渡等の差止めを求めるとともに、同法4条に基づき、損害賠償として3996万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 原審は、控訴人商品を販売する控訴人の行為は不競法2条1項1号の不正競争行為に当たるとして、控訴人商品の譲渡等の差止請求を認めるとともに、被控訴人は控訴人の上記不正競争行為により183万円6180円の損害を被ったとして、183万円6180円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で、被控訴人の損害賠償請求を認めた。

【争点】
控訴人商品を販売する控訴人の行為は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するか。

【結論】
控訴人商品を販売する控訴人の行為は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当する。

【判旨抜粋】
 「当裁判所も、控訴人商品を販売する控訴人の行為は、不競法2条1項1号の不正競争行為に該当するものと認め、被控訴人は控訴人の上記不正競争行為によって被控訴人商品に係る営業上の利益を侵害されているものであるから、不競法3条1項に基づき、控訴人に対し、控訴人商品の譲渡、引渡し、又は譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを請求することができるとともに、不競法4条に基づき、控訴人が控訴人商品の販売によって受けた損害の額(控訴人が控訴人商品の販売によって受けた利益の額である183万6180円)及びこれに対する遅延損害金につき損害賠償請求ができると判断する。この点に関する当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、控訴人の当審補充主張についての判断を次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」記載のとおりである。
 1 商品等表示について(争点1-1)
  (1) 控訴人は、被控訴人商品の形態の独自性につき、販売開始時期は不明であっても、現段階においては被控訴人商品と同種商品が多数流通しているし、被控訴人商品の商品形態は長さ数センチ程度の小さな円筒形状の金属製パイプであり、商品それ自体の形態では何らの独自性を有するものではないと主張する。
 しかし、被控訴人商品の形態が、被控訴人が被控訴人商品の販売を開始した平成18年9月26日当時、他の商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものであることは、原判決23頁以下のイの項で認定されているとおりである上、平成19年11月の時点においても、控訴人が指摘する同種商品(乙23~25)の商品の販売が開始されていたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、現段階で控訴人が指摘する同種商品が流通しているとしても、それをもって被控訴人商品の形態の独自性を否定する事情にはならないというべきである。
  (2) 控訴人は、被控訴人商品の形態の周知性につき、被控訴人商品の販売開始時期から被告製品の販売開始時期まではわずか1年2か月であり、このような短期間で周知性を取得したとするためには、表示の識別力が特に顕著であるとか、広告宣伝に莫大な費用を投じた等の特殊な事情が認められる例外的な場合に限られると解すべきであるところ、被控訴人商品につき広くテレビコマーシャルが流されたこともなく新聞広告も行われておらず、雑誌等での紹介も他の美容品と合わせてものにすぎないのであり、被控訴人商品は出所識別機能を有するほどの周知性を獲得したとはいえないなどと主張する。
 しかし、被控訴人商品につきテレビコマーシャルが流されたり、新聞広告が行われたことがなかったからといって、1年2か月間で周知性が獲得できないというものではなく、被控訴人商品が、多くの全国的な雑誌、新聞、テレビ番組等で繰り返し取り上げられて効果的な宣伝広告がなされるなどした結果、周知性を獲得したと認められることは、原判決34頁以下のエ(ア)の項で小括して認定したとおりである。控訴人の上記主張は採用することができない。
  (3) 控訴人は、被控訴人商品の形態の持つ意味につき、被控訴人商品の形態は角質除去用具としての機能と密接に関連しており、需要者はその機能性に着目して被控訴人商品を購入しているのであって、不競法2条1項1号が保護する周知商品等表示の営業上の信用に由来するものではないなどと主張するが、需要者の中に被控訴人商品の機能性に着目して購入している者があったとしても、そのことが被控訴人商品の形態が周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するか否かの認定を左右するものではない。
 2 類似性(争点1-2)及び混同のおそれの有無(争点1-3)について
 控訴人は、被控訴人商品と控訴人商品のパッケージ形状・色彩の違いといった販売形態の差異からすれば、被控訴人商品と控訴人商品との混同が生じるおそれは全くないと主張する。
 しかし、被控訴人商品と控訴人商品の形態が類似することは、原判決36頁以下の(2)の項で認定したとおりであるところ、需要者である一般消費者において、商品選別の主たる要素は商品本体であるから、被控訴人商品本体の形態と類似した控訴人商品本体を見て被控訴人商品と混同するおそれはあると容易に認めることができるというべきである。
第5 結論
 以上より、被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決部分は相当であって、本件控訴は理由がない。
 よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。」

【検討】
 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為は不正競争防止法2条1項3号により規制される。しかし、同号における規制では、被告が原告の商品と実質同一の商品を譲渡等したこと(不正競争防止法2条1項3号)、及び最初に販売された日から3年を経過していないこと(不正競争防止法19条1項5号イ)等が要件とされるため、同号による保護のみでは、必ずしも商品形態の十分な保護とは言えない。
 そこで、不正競争防止法2条1項1号により商品の形態を保護できるかが問題となる。
 この点について、不正競争防止2条1項1号は、保護をうける商品等表示の具体例として、「容器、包装」を列挙しており、学説も商品形態を同号によ
り保護できるとするものが多数である。
 不正競争2条1項1号の要件は、①原告の商品等表示が(特定商品表示性)、②需用者の間に広く認識されていること(周知性)、③被告が①の商品等表示と同一又は類似の表示を使用し又は使用した商品等を譲渡していること(類似性)、④①が原告の商品又は営業と混同を生じさせるおそれがあること(混同)である。
 商品の形態が問題となった裁判例を見ると、商品の形態が技術的形態である場合には商品等表示にあたらないとされる(東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕)。また、周知性、類似性、混同の各要件も通常の出所識別標章を対象とした1号事案と同様に必要となる。たとえば、周知性では、商品の形態がそれが特定の者の商品であることを示す表示であると需用者の間で広く認識される必要があるとされる(大阪地判平成20年10月14日判時2048号91頁〔マスカラ容器〕等)。
 このように、不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を要求するにはハードルが高いといえる(不正競争防止法2条1項1号にて形態模倣の保護を求めた原告の請求を否定した例として、東京地判平8 年12月25日知裁集28巻4 号821 頁[ドラゴン・ソード]、東京地判平成12年10月31日平成9(ワ)12191〔MAGIC CUBE〕東京地判平成17年2月15日判時1891号147頁〔マンホール用ステップ〕、大阪地判平成23年10月3日平成22(ワ)9684〔水切りざる〕、東京地判平成26年10月17日平成25(ワ)22468〔フランクフェイス〕 等多数ある)。
 本件は、角膜除去用具の形態が不正競争防止法2条1項1号により保護されるかが争われた事例であり、これについて裁判所は、「被控訴人商品の形態が、被控訴人が被控訴人商品の販売を開始した平成18年9月26日当時、他の商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものであることは、原判決23頁以下のイの項で認定されているとおりである上、平成19年11月の時点においても、控訴人が指摘する同種商品(乙23~25)の商品の販売が開始されていたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、現段階で控訴人が指摘する同種商品が流通しているとしても、それをもって被控訴人商品の形態の独自性を否定する事情にはならないというべきである。」として商品等表示性を肯定した。また、「被控訴人商品につきテレビコマーシャルが流されたり、新聞広告が行われたことがなかったからといって、1年2か月間で周知性が獲得できないというものではなく、被控訴人商品が、多くの全国的な雑誌、新聞、テレビ番組等で繰り返し取り上げられて効果的な宣伝広告がなされるなどした結果、周知性を獲得したと認められることは、原判決34頁以下のエ(ア)の項で小括して認定したとおりである。控訴人の上記主張は採用することができない。」として周知性も肯定した。さらに、「被控訴人商品と控訴人商品の形態が類似することは、原判決36頁以下の(2)の項で認定したとおりであるところ、需要者である一般消費者において、商品選別の主たる要素は商品本体であるから、被控訴人商品本体の形態と類似した控訴人商品本体を見て被控訴人商品と混同するおそれはあると容易に認めることができるというべきである。」として、混同のおそれも肯定した。
 本件は、保護のハードルが高いとされる不正競争防止法2条1項1号での商品形態の保護を肯定した事案として特徴を有するといえよう。

以上
(文責)弁理士・弁護士 高橋 正憲