【知財高裁平成23年4月21日・平22年(行ケ)10406号】

【キーワード】立体商標,香水瓶,JEAN PAUL GAULTIER,ジャンポール・ゴルチエ,JEAN PAUL GAULTIER“Le Mâle”,ジャンポール・ゴルチエ「ルマル,Flacon Le Mâle,フラコンルマル,第3条1項3号,3条2項,4条1項18号


第1 事案の概要
 本件は,原告が,下記の本願商標にかかる登録出願に対する手続において,原告の拒絶査定不服審判請求について特許庁が同請求は成り立たないとする審決をしたことについて,当該審決には取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

本願商標

第2 判旨(下線は筆者による)
 裁判所は、以下のとおり判示し、特許庁が不服2008-650020号事件について平成22年8月10日にした審決を取り消さず,原告の請求を棄却した。
1 商標法3条1項3号該当性
 「商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を規定し,同条2項は,「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を規定している。その趣旨は,同条1項3号に該当する商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとして,商標登録の要件を欠くが,使用をされた結果,自他商品識別力を有するに至った場合に商標登録を認めることとしたものである。
 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。」
 「商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
 そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。
また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。
 よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。」
「なお,商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない立体的形状については,それが商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であったとしても,商品等の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられ,又は使用をされた結果,その形状が自他商品識別力を獲得した場合には,商標登録を受けることができるものとされている(商標法3条2項)。」

「本願商標は,指定商品である香水等の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり,その形状は,その構成上部に蓋兼噴霧器を有し,その下に男性の胴体部分をモチーフにデザイン化したボトルからなる。蓋兼噴霧器は,銀色の円筒状であり,ボトル部分はなだらかな曲面の途中にくびれがあり,くびれの上部は青と白のストライプ模様であり,くびれの下側は青色である。あたかも四肢のない男性の胴体の形状に,ストライプ模様のセーラーTシャツに青色の短パンを着用したかのような印象を与える。」
「本願の指定商品の1つである香水等の容器には,洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ,上部に蓋兼噴霧器を有するものが多い。また,その下の容器部分の形状が,くびれを有するなだらかな曲面からなる立体形状からなるものもあり,人間の身体をモチーフとした容器として,原告の販売に係るJEANPAUL GAULTIER CLASSICのほか,ロッキーマン EDP・SP,ジュット デ スキャパレリ EDP・SP,ダリフローレ EDT・SP,エビータ EDP・SP,サイレン EDP・SP,ドーリーガール ボンジュール ラムール EDT・SP等が存在する(乙4の1~7)。
 また,青色を基調とした香水の容器も,複数存在する(甲8,20,23,乙4の2)。
 もっとも,人間の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような,男性の胴体がストライプ模様のセーラーTシャツと青色の短パンを着用したような容器の形状を有するものは,他に見当たらない。」
「本願商標の立体的形状のうち,上部の蓋部兼噴霧器部分は,液体である香水を収納し,これを取り出すという容器の基本的な形状であって,スプレーという機能をより効果的に発揮させるものであり,その下の容器部分の形状は,容器の輪郭の美感をより優れたものにするためのものであることが認められる。なお,本願商標に係る立
体的形状は,一定の特徴を有するものではあるが,人間の身体をモチーフした香水の容器や青色を基調とした香水の容器は,他にもあり,香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるものとまでは認められない。

 そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。」
「原告は,本願商標のような形状は,それまで何人も着想しなかったものであり,また,製造する上での困難性を伴うから,一般的に使用されるものではなく,自他商品識別力を有すると主張する。
 しかし,原告の主観的な意図が,本願商標の形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであったとしても,そのことにより,本願商標の立体的形状が有する客観的な性質に関する判断が左右されるものではない。また,製造上の困難性を認めるに足りる証拠はない上,前記のとおり,本件審決の時点で,現に,人間の身体等をモチーフとした香水が他にも相当数存在することに照らすと,本願商標の形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。

2 商標法3条2項該当性
「なお,本件審決は,同条2項の要件を具備しない旨判断し,被告も,本訴においてその旨の主張をしているにもかかわらず,原告は,同条2項について何らの主張をしない。そして,本件全証拠によっても,本願商標が「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤,清浄剤,つや出し剤,擦り磨き剤及び研磨剤」等の商品を含む指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができると認めるに足りない。」

第3 コメント
 本判決は,本願商標について,3条1項3号該当性を認めたうえで,3条2項該当性を認めず,すなわち立体商標登録を認めなかった。
 本判決は,まず,3条1項3号の適用について,①客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情がない限り,また②当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するという規範を定立している。当該規範は,出願に係る商標の形状が新規であることや特徴的であることを強調して同条同号該当性を否定したGuyLiANチョコレート事件(知財高裁平成20年6月30日,平成19年(行ケ)第10293号)よりも厳しい一方で,上記①②と同様の規範のほかに「当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるとき」は同号に該当するとしたコカ・コーラ立体商標事件(知財高裁平成20年5月29日・平成19年(行ケ)第10215号)よりは緩やかな規範であると位置づけることができる 。1

 そして,本判決は,本願商標について当該規範を適用し,「上部の蓋部兼噴霧器部分」が香水容器の基本的形状であって,スプレーという機能を効果的に発揮させるものであり,「その下の容器部分の形状」は,容器の輪郭の美観をより優れたものにするためのものであるとして,3条1項3号に該当するものと判断した。また,本願商標に係る立体的形状が一定の特徴性を有することは認めつつも,「人間の身体をモチーフした香水の容器」や「青色を基調とした香水の容器」はほかにも存在することをもって,「香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるもの」とは認められないと判断している。このことから,従来同種分野において他にも見られたコンセプトのデザインが採用されている場合には,3条1項3号該当性を回避することは難しいように思われる。
 つぎに,3条2項については,原告からの主張がないとしつつも,証拠関係から「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤,清浄剤,つや出し剤,擦り磨き剤及び研磨剤」等の商品を含む指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができると認めるに足りない。」として,同項の適用を認めなかった。これに対して,同日に出された知財高裁平成23年4月21日(平成22年(行ケ)第10366号)では,香水瓶の立体的形状にかかる商標の3条2項の適用について,使用実績についての立証が「香水」に関するものであったにもかかわらず,香水のみならず,その他の香水と「極めて密接な関係にある化粧品等」の指定商品についても3条2項の適用が認められているが,同判決においても「洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤,清浄剤,つや出し剤,擦り磨き剤及び研磨剤」といった香水との関係性が必ずしも高いとはいえない商品についてまでは3条2項の適用が認められているわけではない。このことから,3条2項の適用を主張する場合には,本願商標の指定商品を,使用実績を立証し得る商品と「極めて密接な関係にある」ものに限定することが重要であることが分かり,実務上参考になると思われる。

以上

(文責)弁護士 山本 真祐子


 1 青木大也「香水等の容器の立体的形状に係る立体商標登録の可否」(ジュリスト1457号・2013年)参照。