【平成23年4月21日(知財高裁平成22年(行ケ)第10366号)】

【キーワード】
 立体商標,商標法3条1項3号,商標法3条2項,香水瓶,ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」

第1 事案の概要
下記本願商標につき商標登録出願をした原告が,拒絶査定に対する不服審判の請求をしたところ,審判請求不成立の審決があったため,その取消を求めた事案である。

本願商標(最高裁判所HPより引用)

第2 判旨(下線は筆者による)
1 商標法3条1項3号該当性
 「商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を規定し,同条2項は,「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を規定している。その趣旨は,同条1項3号に該当する商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものとして,商標登録の要件を欠くが,使用をされた結果,自他商品識別力を有するに至った場合に商標登録を認めることとしたものである。」
 「商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定するが(同法2条1項,5条2項),同法4条1項18号において,「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を規定していることに照らすと,商品及び商品の包装の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないものとしたものと解される。」
 「商品及び商品の包装の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。」
 「そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することになる。」
 「また,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。」
 「よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。」
 「他方,商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない立体的形状については,それが商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であったとしても,商品等の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられ,又は使用をされた結果,その形状が自他商品識別力を獲得した場合には,商標登録を受けることができるものとされている(商標法3条2項)。」
 「本願商標は・・・商標に関する記述(Description of the mark)として,「Bottle resembling a naked female body;side and 3/4 view(裸の女性の体に似たボトルで,側面から見たもの及び真正面(180度)から3/4角度をずらした方向から見たもの)との記載があり,色彩に係る主張(colors)として,「silver cap, partly transparent or translucent lightly-tinged pink bottle(銀色のキャップ及び部分的に透明又は半透明でわずかにピンク色の付いたボトル)との記載がある(甲134,乙1)。
 これによれば,本願商標は,指定商品である香水等の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり,その形状は,上部に蓋兼噴霧器の用途を有するキャップと,その下に女性の胴体部分をモチーフにデザイン化した形状の容器部分たるボトルからなるものである。
 そして,その蓋部兼噴霧器部分のうち,蓋に相当する部分が,同径の円盤を何枚も重ねたような形状をしており,それに続く噴霧器部分は,上端に押し下げ式レバーが付いている。その容器部分は,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状からなり,下部に一部すりガラス風の半透明となった部分が存在する。
 上部の蓋部兼噴霧器部分は,銀色であり,下部の容器部分は,部分的に透明又は半透明で,2つの突起部分が茶色がかっており,薄ピンク色のボトルである(甲1,134)。」
 「本願商標の形状は,デザイナーであるジャン・ポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)が香水の容器として,女性の身体のラインをイメージしてデザインしたものである(甲108,弁論の全趣旨)。」
 「本願の指定商品の1つである香水等の容器には,洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ,上部に蓋兼噴霧器を有する立体形状からなるものが多い(甲97,107,115~117,乙2~4)。また,その下の容器部分の形状が,人間の身体等をモチーフとした容器として,原告の販売に係るJEAN-PAUL GAULTIER LE MALEのほか,クロード・モンタナ,ヒーローズ ウォモ EDT・SP,ジュット デ スキャパレリ EDP・SP,ダリフローレ EDT・SP,エビータ EDP・SP,サイレン EDP・SP,ドーリーガール EDT・SP等が存在する(甲108,乙4)。
 もっとも,女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した容器の形状を有するものは,他に見当たらない。」
 「本願商標の立体的形状のうち,上部の蓋部兼噴霧器部分は,液体である香水を収納し,これを取り出すという容器の基本的な形状であって,スプレーという機能をより効果的に発揮させるものであり,その下の容器部分の形状は,容器の輪郭の美感をより優れたものにするためのものであることが認められる。なお,本願商標に係る立体的形状は,一定の特徴を有するものではあるが,女性の身体をモチーフした香水の容器は,他にもあり,香水の容器において通常採用されている形状の範囲を大きく超えるものとまでは認められない。」
 「そうすると,本願商標の立体的形状は,本件審決時を基準として客観的に見れば,香水の容器について,機能又は美感に資することを目的として採用されたものと認められ,また,香水の容器の形状として,需要者において,機能又は美感に資することを目的とする形状と予測し得る範囲のものであるから,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するというべきである。」
2 商標法3条2項該当性
 「商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している。
そして,立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,①当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否,②当該商標が使用された期間,商品の販売数量,広告宣伝がされた期間及び規模等の使用の事情を総合考慮して判断すべきである。なお,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要するが,機能を維持するため又は新商品の販売のため,商品等の形状を変更することもあり得ることに照らすと,使用に係る商品等の立体的形状が,出願に係る商標の形状と僅かな相違が存在しても,なお,立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。」
  「本願商標は,指定商品である香水等の容器(包装容器)の立体的形状に係るものであり,その形状は,上部に蓋兼噴霧器としてのキャップと,その下に女性の胴体部分をモチーフにデザイン化した形状の容器部分たるボトルからなり,女性の身体のラインをイメージしてデザインされたものである。本願の指定商品の1つである香水等の容器としては,洗練されたデザインからなる多種多様な形状があるところ,上部に蓋兼噴霧器を有する立体形状からなるものが多く,容器部分の形状が,人間等をモチーフとした容器も存在する。本願商標は,香水の容器の形状として通常採用されている範囲を大きく超えるものとまでは認められず,需要者において予測可能な範囲内のものというべきであることは,前記1のとおりであるが,女性の身体をモチーフとした香水の容器の中でも,本願商標のような人間の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状は,他に見当たらない。」
 「そして,本願商標に係る香水(ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」)が販売開始された平成5ないし6年以降,そのパッケージデザインないしボトルデザインについて,斬新,インパクト,刺激的,大胆で挑発的,ユニークで優美,規範に捉われることなく逆に新しいルールを作り出してしまう,神秘的だが同時に生きているような現実感があるといった評価が雑誌等に数多く採り上げられ,今日に至っている(甲6~8,25,26,32,35,50~58,108~110)。」
 「このように,本願商標の立体的形状は,一定の特異性を有しているということができ,その立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものである。
 「原告は,フランスに本社を置く化粧品会社であり,資生堂のグループ会社である(甲2,3)。原告は,「JEAN PAUL GAULTIER」(ジャンポール・ゴルチエ)という香水のブランドを有している。」
 「原告は,平成5年,本願商標に係る立体的形状の容器に入れた香水JEAN PAUL GAULTIER “Classique”(ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」)の販売を開始し,我が国においても,平成6年に販売を開始して,本件審決時まで販売を継続している(甲135,弁論の全趣旨)。
 我が国におけるジャンポール・ゴルチエ「クラシック」の売上高は,平成16年以降,年間4500万円から5800万円程度である(甲135)。」
「ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」は,たびたび香水専門誌やファッション雑誌等に掲載され紹介されたり,広告されたりしている(甲4~107、115~117,120)。」
 「我が国で販売され,雑誌等に掲載されたジャンポール・ゴルチエ「クラシック」の形状は,本願商標とはごく僅かな形状の相違が存在するものもあるが,実質的にみてほぼ同一の形状である。 
 なお,その容器部分の色彩については,オレンジ色等,本願商標と同一ではない色彩によるものや,衣装を思わせる装飾を施したものもあるが(甲11,24,40,53,57,58,60,63,68,75,81,83,99,115,117),使用された商品の形状と本願商標の立体的形状とがほぼ同一であることは,被告の自認するところである。」
 「上記のとおり,本願商標の容器部分が女性の身体の形状をモチーフにしており,女性の胸部に該当する部分に2つの突起を有し,そこから腹部に該当する部分にかけてくびれを有し,そこから下部にかけて,なだらかに膨らみを有した形状の容器は,他に見当たらない特異性を有することからすると,本願商標の立体的形状は,需要者の目につきやすく,強い印象を与えるものであって,平成6年以降15年以上にわたって販売され,香水専門誌やファッション雑誌等に掲載されて使用をされてきたことに照らすと,本願商標の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っており,香水等の取引者・需要者がこれをみれば,原告の販売に係る香水等であることを識別することができるといって差し支えない。
 以上の諸事情を総合すれば,本願商標は,指定商品に使用された場合,原告の販売に係る商品であることを認識することができ,商標法3条2項の要件を充足するというべきである。」
 「被告は,原告が提出する証拠の内容は,香水に関するもののみに限られ,その他の商品については,何ら主張及び立証されていないなどとして,本願商標は,使用により識別力を有するに至った商標と認めることができないと主張する。
 しかしながら,原告は,平成20年(2008年)12月17日付け国際登録簿に記載された限定の通報により,当初の指定商品から,第3類「Bleaching preparations and other substances for laundry use; cleaning, polishing, scouring and abrasive preparations; essential oils, hair lotions; dentifrices.」(洗濯用漂白剤その他の洗濯用剤,清浄剤,つや出し剤,擦り磨き剤及び研磨剤,精油,ヘアーローション,歯磨き)を削除し,「beauty products(cosmetics),soaps,perfumery,cosmetics」(美容製品,せっけん,香料類及び香水類,化粧品)に限定したものである。
 そして,原告は,「ジャンポール・ゴルチエ」ブランドのパフュームド バスアンドシャワージェル,パフュームド ボディーローションやパフュームド ボディークリームを販売し(甲83,106,116),ジャンポール・ゴルチエ「クラシック」のオードトワレとバスアンドシャワージェルやボディーローションとをセット商品として販売するなど(甲76~78,90,91,101~103,105),香水と,それ以外の本願の指定商品(美容製品,せっけん,香料類及び化粧品)とは,極めて密接な関連を有し,取引者や需要者も共通している。
 そうすると,本願商標が香水について自他商品識別力を有するに至った結果,これと極めて密接な関係にある化粧品等の本願の前記限定された指定商品に,本願商標が使用された場合にも,香水に係る取引者・需要者と重なる上記指定商品の取引者・需要者において,上記商品が香水に係る「ジャンポール・ゴルチエ」ブランドを販売する原告の販売に係る商品であることを認識することができるというべきである。」

第3 若干のコメント
 本判決は,本願商標について,3条1項3号該当性を認めたうえで,3条2項該当性も認め,立体商標登録を認めたものである。
本判決では,まず,3条1項3号の適用について,①客観的に見て,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情がない限り,また②当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するという規範を定立している。当該規範は,出願に係る商標の形状が新規であることや特徴的であることを強調して同条同号該当性を否定したGuyLiANチョコレート事件(知財高裁平成20年6月30日,平成19年(行ケ)第10293号)よりも厳しい一方で,上記①②と同様の規範のほかに「当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるとき」は同号に該当するとしたコカ・コーラ立体商標事件(知財高裁平成20年5月29日・平成19年(行ケ)第10215号)よりは緩やかな規範であると位置づけることができる
 つぎに,3条2項については,まず,販売数量や販売数量が明らかにされていないにもかかわらず,同項該当性が認められている点が注目される。この点については,「本願商標の立体的形状は,一定の特異性を有しているということができ,その立体的形状が需要者の目につきやすく,強い印象を与える」という商標自体の要素が重視されたことに加え,「指定商品たる香水特有の事情として,販売数量等がそれほど期待できないものであり,むしろ専門誌等への掲載や広告の重要性を明らかにしたものといえよう」といった指摘がなされている
 また,使用実績についての立証が「香水」に関するものであったにもかかわらず,香水のみならず,その他の化粧品等における指定商品についても3条2項の適用が認められている点も重要である。ある指定商品について3条2項該当性が認められた場合に,その効果が,当該商品と取引者・需要者が重なる他の商品にも波及する可能性を認めた点において,実務上参考になると思われる。


 青木大也「香水等の容器の立体的形状に係る立体商標登録の可否」(ジュリスト1457号・2013年)参照。
  同上

以上

(文責)弁護士 山本 真祐子