平成23年3月31日判決(東京地裁 平成21年(ワ)第17435号)

【キーワード】
不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,模倣品,実質的同一性,婦人服,衣料品,衣服,被服,アパレル,OEM

第1 事案の概要
   原告が,被告との間の婦人服の製造物供給契約に基づいて,被告に対し,婦人服の製造代金及び遅延損害金の支払を求めたところ,被告が,第1商品ないし第3商品は,それぞれ被告が独自にデザインをした被告商品1ないし3の形態を模倣した商品であり,原告の訴外アルファベット社に対する第1商品ないし第3商品の販売は不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当する旨主張し,同法4条,5条1項に基づく損害賠償請求権を自働債権とし,原告の製造代金及び遅延損害金にかかる債権を受動債権として,対当額で相殺する旨の意思表示をした事案である。本件では,被告の本件相殺による原告の本件代金請求権の消滅の有無,すなわち原告のアルファベット社に対する第1商品ないし第3商品の販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当性が争点になった。本稿では,実質的同一性の判断についてのみ取り上げる。

第2 判旨(下線は筆者による)
   裁判所は,以下のとおり,被告商品1及び第1商品についてのみ形態の実質的同一を認め,被告商品2及び第2商品,並びに被告商品3及び第3商品については実質的同一性を否定した。  

1 被告商品1及び第1商品の形態の実質的同一性の有無に関する判示

         

         

                   最高裁判所HPより引用   

   「両商品は,①比較的濃い色のビンテージシフォンと比較的薄い色のビンテージサテンの2種類の生地を使用し,胸部(112F,112B,212F,212B)の略2分の1の高さを境にして,上側が濃い色,下側が薄い色となっているという基本的な構成(前記ア(イ)A①,②)において共通し,②前身頃及び後ろ身頃において,胸部に横方向全面に幅約1.5cmのステッチのひだが約1.3cmピッチで形成され,しかも,上記ステッチのひだが,前身頃(112F,212F)においてはビンテージシフォン及びビンテージサテンの2種類の生地部分に形成されているのに対し,後ろ身頃(112B,212B)においてはビンテージシフォンの生地部分にのみ形成されている点,身頃と両袖部との取り合い部(114L,114R,214L,214R)においては,胸部側に,ステッチのひだが自然に平面に拡散する納まりとなるギャザーが形成されている点という特徴的な形態(前記ア(イ)A③ないし⑤)においても共通していることによれば,被告商品1と第1商品は,商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるものと認められる。
   もっとも,被告商品1と第1商品には,前記ア(イ)B①ないし③のとおりの相違点や袖口等の寸法の違い(甲18,乙4,検乙1,4)がある点で相違するが,これらの相違は,商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体からみるとささいな相違にとどまるものと認められるから,被告商品1及び第1商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではないというべきである。」
「原告は,上下2色で形成された胸部のひだ及びギャザーを有する商品は,被告商品1のほかにも多数存在し,被告商品1が当該ひだ等を有すること(前記ア(イ)A③ないし⑤)が,他商品に比して特徴的であるといえず,また,当該デザインはシフォン及びサテンの2種類の異なる生地を与えられた場合比較的容易に想起し得るありふれたものであって,保護されるべき商品形態に当たらない旨主張する。
   しかし,原告がアルファベット社に第1商品を製造販売した当時,被告商品1のように,上下2色で形成された胸部のひだ及びギャザーを有する商品が,他に多数存在していたことを認めるに足りる証拠はなく,また,被告商品1の前記ア(イ)A③ないし⑤の形態がありふれたものであることを認めるに足りる証拠もない。
   したがって,原告の上記主張は,理由がない。」
   「次に,原告は,①今日のアパレル業界のOEM取引においては,製造供給業者は同時に複数のアパレル業者との間で取引を行い,しかも,製造供給業者が流行予測に基づき購入した生地又は製造した提案サンプルを利用した商品開発が一般に行われていること,そのため同一の製造供給業者と取引を行う各業者の商品のデザインにある程度共通性が生じることは不可避であり,このような共通性が生じることを許容され,ディテールに相違点があればオリジナルデザインを有する別個の商品とみなされていることなどの実情に鑑みると,被告商品1と第1商品のように,同一の製造供給業者とのOEMにより製造された商品間における形態の実質的同一性の判断に際しては,寸法,装飾等に相当程度の相違が存すれば実質的同一性は否定されると解さなければならない,②被告商品1と第1商品とを対比して観察した場合に,着丈の長さ,肩のライン及び袖の形状という基本的な形態が大きく相違し,襟口の形状,その他各箇所の寸法も相違し,見る者に与える印象が大きくことなるから,被告商品1及び第1商品の形態は,実質的は同一ではない旨主張する。
   しかし,同一の生地を基に婦人服を製造したからといって必ずしも同一のデザインになるものとは限らないし,前記(ア)認定のとおり,原告が主張する被告商品1及び第1商品の相違点は,商品の全体的形態に与える変化に乏しく,商品全体からみるとささいな相違にとどまるものと認められるから,両商品の形態の実質的同一性の判断に影響を及ぼすものではない。
   したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
   以上のとおり,被告商品1及び第1商品の形態は,実質的に同一である。」  

2 被告商品2及び第2商品の形態の実質的同一性の有無に関する判示   

         

         
 
   「両商品は,半袖のチュニックであり,ポリエステル部とニット模様編み部から構成され,前身頃及び後ろ身頃において,首から胸部にかけてほぼ同じ範囲(1221F,1221B,2221F,2221B)にニット模様編みが,腰部全周(1232,2232)にわたって幅略3cmのニット模様編みがそれぞれ形成されているという基本的な構成(前記ア(イ)A①,②)において共通し,具体的構成においても,前記ア(イ)A③ないし⑤のとおり共通している。
   しかし,他方で,被告商品2においては,上腕部にニット模様編み(125L,125R)が形成されているが,袖口には形成されていないのに対し,第2商品においては,袖口にニット模様編み(225L,225R)が形成されているが,上腕部には形成されていない点で相違し,しかも,第2商品の袖口のニット模様編みの幅が約15cmであること(検乙2)から,両商品の袖部分のポリエステル部とニット模様編み部分とのバランスに顕著な相違がみられ,これにより両商品の全体から受ける印象は異なるものとなっている。
   したがって,被告商品2と第2商品は,商品全体の形態が酷似しているとはいえず,その形態が実質的に同一であると認めることはできない。」
  「これに対し被告は,被告商品2の形態の特徴的部分は,胸部ギャザー(1222F)が上下方向に走る凹凸形状(1231F)と,胸部中央部の略逆三角形の谷形状のニット模様編みの部分(12211)及びその両側に二つずつの略半円形状のニット模様編みの部分(12212L,12212R)であり,上記特徴的部分は,被告商品2及び第2商品との間で共通しているところ,需用者の最初の目を最初に惹きつける主要部分は中央部分に位置する胸部であるから,上記特徴的部分が共通している以上,両袖部におけるニット模様編みの位置に係る相違点は,被告商品2及び第2商品の実質的同一性に影響を及ぼさない旨主張する。  
   しかし,被告商品2及び第2商品は,ポリエステル部とニット模様編み部から構成され,両部のバランスが商品の形態の同一性の判断において重要な要素の一つであるといえるのであって,被告が主張する胸部のニット模様編みの部分の形態等が共通することを考慮してもなお,前記(ア)認定の袖口及び上腕部におけるニット模様編みの有無に係る相違部分に照らすと,両商品において,商品全体の形態が酷似しているものとはいえない。  
   また,被告商品2は,原告が製造した本件提案サンプル(検甲1)を基に被告がデザインをして製造された商品であるところ,本件提案サンプルにおいても,胸部にニット模様編みが形成されているが,本件提案サンプルには被告商品2のような胸部中央部の谷形状のニット模様編みの部分及びその両側に二つずつの略半円形状のニット模様編みの部分は存在しないこと並びに上記ニット模様編みの各部分の形態に照らすならば,上記ニット模様編みの各部分は,被告が主張するように被告商品2における特徴的形態の一つであると認められる。しかし,不正競争防止法2条1項3号により保護される商品の形態は,商品の一部分の形態ではなく,商品全体の形態であるというべきであり,上記胸部のニット模様編みの各部分の形態が共通するからといって,被告商品2及び第2商品において,商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるということはできない。
   したがって,被告の上記主張は採用することができない。」  

3 被告商品3及び第3商品の形態の実質的同一性の有無に関する判示  

         
         
  
   「両商品は,半袖のワンピースであり,ポリエステル部とニット模様編み部から構成され,前身頃及び後ろ身頃において,首から胸部にかけてほぼ同じ範囲(1321F,1321B,2321F,2321B)にニット模様編みが形成されているという基本的な構成(前記ア(イ)A①,②)において共通し,具体的構成においても,前記ア(イ)A③ないし⑤のとおり共通している。
   しかし,他方で,被告商品3においては,上腕部にニット模様編み(134L,134R)が形成されているのに対し,第3商品においては,上腕部にニット模様編みが形成されていない点,被告商品3の袖口のニット模様編みの幅(135L,135R)が,第3商品の袖口のニット模様編みの幅(235L,235R)より約10cm広い点,被告商品3においては,ウエスト部分(1332)に全周にわたってニット模様編みがあるのに対し,第3商品においては,ウエスト部分に全周にわたって身頃と同じ生地による切り替えがあるが,ニット模様編みが存在しない点で相違することから,両商品の袖口部分,上腕部及びウエスト部分におけるポリエステル部とニット模様編み部分とのバランスに顕著な相違がみられ,これにより両商品の全体から受ける印象は異なるものとなっている。
   したがって,被告商品3と第3商品は,商品全体の形態が酷似しているとはいえず,その形態が実質的に同一であると認めることはできない。」
   「これに対し被告は,被告商品3の形態の特徴的部分は,胸部ギャザー(1322F)が上下方向に走る凹凸形状(1331F)と,胸部中央部の谷形状のニット模様編みの部分(13211)及びその両側に二つずつの略半円形状のニット模様編みの部分(13212L,13212R)であり,上記特徴的部分は,被告商品3及び第3商品との間で共通しているところ,需用者の最初の目を最初に惹きつける主要部分は中央部分に位置する胸部であるから,上記特徴的部分が共通している以上,両袖部におけるニット模様編みの位置,腰部(ウエスト部分)におけるニット模様編みの有無に係る相違点は,被告商品3及び第3商品の実質的同一性に影響を及ぼさない旨主張する。
   しかし,被告商品3及び第3商品は,ポリエステル部とニット模様編み部から構成され,両部のバランスが商品の形態の同一性の判断において重要な要素の一つであるといえるのであって,被告が主張する胸部のニット模様編みの部分の形態等が共通することを考慮してもなお,前記(ア)認定の上腕部及びウエスト部分におけるニット模様編みの有無,袖口のニット模様編みの幅の広さに係る相違部分に照らすと,両商品において,商品全体の形態が酷似しているものとはいえない。
   また,被告が主張する上記胸部のニット模様編みの各部分の形態が共通するからといって,被告商品3及び第3商品において,商品全体の形態が酷似し,その形態が実質的に同一であるということはできないことは,前記2(1)イ(イ)で述べたところと同様である。

第3 若干のコメント  
   不正競争防止法2条1項3号の形態模倣の実質的同一性判断においては,形態の特徴的部分が共通することをもって,形態全体として実質的に同一である旨主張されることが多い。本件は,このような主張に関して,仮に特徴的部分の一部分が共通していたとしても,他の特徴的部分において相違する場合には実質的同一性が認められないと判断した点において,形態模倣の判断手法に関し参考になる裁判例といえるだろう。  
   また,不正競争防止法2条1項3号における「形態」とは,商品全体の形態をいうのであって,共通部分のみを取り出して,独立して取引対象となり得ない一部分を「形態」ということができないという従来からの考え方を再確認した点でも,形態模倣の判断手法を整理する上で意義を有すると考える。

以上

(文責)弁護士 山本真祐子