平成23年5月26日判決(知財高裁平成23年(ネ)第10006号)
原審:平成22年12月10日判決(東京地裁平成20年(ワ)第27432号)

【判旨】
被告のデータ復旧サービスについてのウェブページの文章と原告のウェブページの文章の共通部分は,ありふれた又は平凡な表現であって創作性がない部分に過ぎないから,複製権侵害又は翻案権侵害は成立しない。

【キーワード】
創作性,表現上の選択の幅

【事案の概要】
 原告は、コンピュータの保守、管理、コンピュータにおけるデータ復旧サービス(バックアップされていないデータがコンピュータ上で出力できなくなった場合などに、当該データをコンピュータ等から取り出して復元する等のサービス)の請負等を目的とする株式会社である。
 被告は、コンピュータ関連機器の開発、製造、販売等を目的とする株式会社である。
 原告は、平成18年10月から12月にかけて、データ復旧サービスを一般に周知し顧客を誘引するためのウェブページを創作し、これを自社のウェブサイトに「データSOS」のタイトルで掲載し、その後、推敲、改良を重ね、遅くとも平成19年4月28日の時点で、データ復旧サービスに関するウェブページを完成させ、ウェブサイトに掲載した。
 被告は、平成19年6月、データ復旧サービス業務を開始し、遅くとも同年7月1日ころまでに、被告の業務内容を紹介するウェブサイトに、データ復旧サービスに関する文章を掲載したが、平成20年10月初旬、被告文章の掲載を停止した。
 本件は、原告が、インターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した被告の行為は、原告の著作権及び著作者人格権を侵害しているとして、被告に対し、民法709条に基づき損害賠償の支払い等を求める事案である。

【判旨】
 本判決は、被告のインターネット上に開設するウェブサイトにデータ復旧サービスに関する文章を掲載した行為が、原告の著作権侵害に該当するか、について、以下のように判示した。

1 著作権侵害について
(1)複製権又は翻案権侵害の判断枠組みについて

 裁判所は、まず、複製権又は翻案権侵害の判断枠組みについて以下の一般論を示した。
 「著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。ここで,再製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであるが,同一性の程度については,完全に同一である場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
  しかるところ,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないものと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)
  このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(同法2条1項1号)。
そして,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。」

(2)原告文書と被告文書の共通点に対する判断
 次に、裁判所は、原告文書と被告文書の共通点につき、次のように判断を示している。

ア.本件コンテンツについて
 「控訴人は,本件コンテンツに係る著作権の侵害を主張するところ,甲3の1の3枚目から5枚目のウェブページに表示されたコンテンツ全体が本件コンテンツであるというのである。しかしながら,控訴人が本件コンテンツについて主張する,ウェブページとして視覚的にも操作性の面でも分かりやすくなるように「サービスメニュー」ボタンが設けられ,その配置,分類及び表現(「HDD/ハードディスク」「サーバ/RAID」「デジカメ/フラッシュメモリ」「FD/MO/CD/DVD」)にも配慮し,タブメニューも設置の上,その構成,分類及び表現(「ホーム」→「データSOS とは」→「サービスの流れ」→「よくある質問」)にも配慮がされているとする部分は,甲3の1の1枚目及び2枚目に表示されているものである。この点はともかく,甲3の1枚目及び2枚目が本件コンテンツに含まれるものと解するとしても,上記ウェブページの「サービスメニュー」における「HDD/ハードディスク」「サーバ/RAID」「デジカメ/ フラッシュメモリ」「FD/MO/CD/DVD」の各記載は,データ復旧サービスの対象となる保存媒体を示す語にすぎない。また,「ホーム」は,ウェブページを閲覧する場合に最初に表示される画面を,「データSOS とは」「サービスの流れ」は,提供するサービスの概要を,「よくある質問」は,提供するサービスに関する主な質問とその回答を表示することにより当該サービスに対する情報を提供するタブメニューであって,ウェブページによる広告においてはありふれた表現手法にすぎない。そして,その余の分類,配置及び表現も,控訴人文章について後に詳述するとおり,ごくありふれたものであり,作成者の個性が現れているとはいえない。したがって,控訴人の本件コンテンツに係る著作権侵害の主張は失当というほかない。」

イ.控訴人文章全体の構成及び記述順序について
 「控訴人は,控訴人文章に係る著作権侵害について,まず,原判決別紙文章対比表の控訴人文章欄記載の各下線部分を1つのまとまりとした全体的な構成,記載順序,配列,小見出し等の具体的な表現につき,被控訴人文章は控訴人文章と表現上の同一性を有しており,複製に当たると主張する。前記各下線部分は,本判決別紙控訴人・被控訴人各文章対比表記載のとおりであって,確かに,控訴人文章と被控訴人文章とは,データ復旧サービスの概要について,その概念,利用が検討される状況,修理との相違,データ復旧の重要性の順序に従って,いわゆるQ&A方式で解説を加えるもので,その全体的な構成,記載の順序,小見出しを有する点について共通する。しかしながら,控訴人文章は,データ復旧サービスについての一般消費者向けの広告用文章として,データ復旧サービスの基本的な内容を説明するものであるから,このような一般消費者向けの広告用文章においては,広告の対象となる商品やサービスを分かりやすく説明するため,平易で簡潔な表現を用いること,各項目ごとに端的な小見出しを付すこと,説明の対象となるサービスとはどのようなものか,どのような場合に利用するものなのか,異なる商品やサービスとの相違点は何かについて,上記各構成,順序で記載することなどは,広告用文章で広く用いられている一般的な表現手法にとどまり,控訴人主張の上記の全体的な表現に作成者の個性が現れているとまでいうことはできない。したがって,控訴人文章と被控訴人文章との間に,表現上の創作性がない部分にすぎない上記各構成及び順序が共通することをもって,複製又は翻案に該当するということはできないから,この点において,控訴人の上記主張は採用することができない。」

ウ.個別の文章に係る複製権又は翻案権侵害について
 次に、裁判所は、個別の文章について対比を行っている1

 (ア)控訴人文章1について
  控訴人文章1(「Ⅰデータ復旧って何?」)と被控訴人文章1(「Ⅰデータ復旧
サービスとは?」)とでは,控訴人及び被控訴人が業として行っているデータ復旧サービスの内容を説明する文章の見出しとして,データ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文である点で共通している。
  しかしながら,控訴人文章1は,文章自体がごく短いものであり,また,Q&A方式の文章において,「データ復旧」というサービスを示す単語に「何?」という疑問を表すごくありふれた言葉を使ってデータ復旧サービスとはどのようなものなのかを問う疑問文として表現したものであって,平凡かつありふれたものというほかなく,創作的な表現とはいえない。
  したがって,控訴人文章1と被控訴人文章1とは,表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (イ)控訴人文章2①について
  控訴人文章2①(「Ⅰどんな時に利用されるの?」と被控訴人文章2①(「Ⅰどのようなときに利用するサービスなのか?」)とでは,データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを説明する文章の見出しとして,データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを問う疑問文である点で共通している。
  しかしながら,控訴人文章2①は,文章自体がごく短いものであり,また,Q&A方式の文章において,データ復旧サービスはどのような時に利用するものなのかを問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものにとどまり,創作的な表現とはいえない。
  したがって,控訴人文章2①と被訴人文章2①とは,表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (ウ)控訴人文章2②について
  控訴人文章2②(「・バックアップを取っていない」「・バックアップを戻せない」)と被控訴人文章2②(「・バックアップを取っていない」「・バックアップからシステムを復帰できない」)とでは,データ復旧サービスを利用すべき場合の具体例として,バックアップを取っていない場合又はバックアップからシステムを復旧することができなかった場合を指摘する点で共通している。
  しかしながら,控訴人文章2②は,いずれも文章自体がごく短いものであり,また,「バックアップを取っていない」とは,「バックアップ」と「取っていない」というごくありふれた言葉を組み合わせた平凡かつありふれた表現であって,創作的な表現とはいえないことは明らかである。
  同様に,「バックアップを戻せない」についても,バックアップからシステムを復旧できないことの表現として,「バックアップ」と「戻せない」というごくありふれた言葉を組み合わせた平凡かつありふれた表現であって,創作的な表現とはいえないことは明らかである。
  したがって,控訴人文章2②と被控訴人文章2②とは,表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (エ) 控訴人文章2③について
  控訴人文章2③(「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧サービスの利用を検討します。」)と被控訴人文章2③(「このような非常事態に遭遇した場合の有効な回復策の一つとして,データ復旧技術サービスの利用をご検討ください。」)とでは,その前の説明で指摘した非常事態に遭遇した場合に,有効な回復策の一つとしてデータ復旧サービスの利用を検討することを記述している点で共通する。
  しかしながら,先に具体例として指摘した非常事態が発生した場合に,データ復旧サービスを検討することになる点は,事実にすぎずない。
しかも,控訴人文章2③は,文章自体がごく短いものであり,また,問題が生じた場合にその対応策を検討することを一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものであって,表現上の格別な工夫があるとも認められず,当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
  したがって,控訴人文章2③と被控訴人文章2③とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において共通性を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (オ)控訴人文章3①について
  控訴人文章3①「Ⅰ修理と何が違うの」と,被控訴人文章3①「Ⅰデータ復旧と修理サービスとの違いは?」とでは,データ復旧サービスとパソコン等の修理との相違を説明する文章の見出しとして,修理とは何が違うのかを問う疑問文である点で共通する。
しかしながら,控訴人文章3①は,文章自体がごく短いものであり,また,Q&A方式の文章において,修理との相違点を問う疑問文の表現としては平凡かつありふれたものであって,創作的な表現とはいえない。
  したがって,控訴人文章3①と被控訴人文章3①とは,表現上の創作性のない部分において共通点を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (カ)控訴人文章3②について
  控訴人文章3②(「パソコン修理=パソコンの機能を取り戻すことに主眼を置きます。」「たとえばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。」「データは消えてもパソコンは直る。これが修理の基本的なスタンスです。」)と被控訴人文章3②(「1.パソコン・機器等の修理 パソコンの動作的な機能を取り戻すことに主眼を置きます。」「例えばハードディスクが故障した場合,新しいものに交換すればパソコンはその機能を取り戻します。しかし,新しいものに交換すれば当然データは戻りません。」「データは消えてもパソコン・機器は元に戻ります。これが修理サービスの基本的な考え方です。」)とでは,パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと,ハードディスクが故障した場合に新しいものに交換すればパソコンは機能を取り戻すが,当然データは戻らないという具体例を挙げて,データは消えてもパソコンは直るということがパソコン修理の基本的な立場であることを上記各順序で記述する点で共通している。
  しかしながら,パソコンの修理が,保存されているデータを保護することよりもパソコンの動作の回復を主眼とするものであること,ハードディスクを交換した場合にはデータが戻らないことは,事実にすぎない。
  しかも,データ復旧と比較してパソコンの修理を説明する場合,データが保存されているハードディスクの故障を具体例として挙げること自体は当然のことというべきであり,また,ハードディスクを交換すればパソコンの機能は回復するが保存されていたデータが喪失することも当然の事実であって,その表現形式は制約が大きいと認められ,控訴人文章3②は,内容,表現,記述の順序のいずれにおいても,パソコンの修理はパソコンの機能を取り戻すことに主眼を置くこと,ハードディスクが故障した場合に交換すればパソコンは機能を取り戻すがデータは戻らないこと,データは消えてもパソコンは直ることがパソコン修理の基本であることについて,一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものというほかなく,表現上の格別な工夫があるということはできず,当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
  また,データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護される表現には当たらない。
したがって,控訴人文章3②と被控訴人文章3②とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (キ)控訴人文章3③について
  控訴人文章3③(「データ復旧=データを取り戻すことに主眼を置きます。」「データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とはむしろ逆になることも行います。たとえるなら」)と被控訴人文章3③(「2.データ復旧技術サービスの場合 データを取り戻すことに主眼を置きます。」「データを取り戻すためなら,分解や破壊といった修理とは逆行為になることも行います。例えば」)とでは,データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと,データを取り戻すためなら分解や破壊といった修理とは逆のことも行うことを上記各順序で記述する点で共通している。
  しかしながら,データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと,保存されているデータを取り出すためには,パソコンの分解や破壊という修理とは逆の行為を行うこともあることは,事実にすぎない。
  しかも,控訴人文章3②において,データ復旧と比較してパソコンの修理を説明するに当たり,パソコンを修理するためにはデータ自体が失われる可能性を説明したことに続いて,パソコンの修理と比較してデータ復旧を説明する場合に,データを保護するためにはパソコン自体を破壊するような行為を行うことを具体例として挙げることも珍しいことではなく,その表現形式は制約が大きいと認められ,具体的な表現についても自ずと限定されるものということができる。
控訴人文章3③は,内容,表現,記述の順序のいずれにおいても,データ復旧はデータを取り戻すことに主眼を置くこと,保存されているデータを取り出すためにはパソコンの分解や破壊という修理とは逆の行為を行うこともあることを,一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものというほかなく,表現上の格別な工夫があるということはできず,当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
  また,先に述べたとおり,データ復旧サービスをパソコンの修理と比較して説明するというアイデア自体は著作権法上保護される表現には当たらない。
  したがって,控訴人文章3③と被控訴人文章3③とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。

 (ク)控訴人文章3④について
  控訴人文章3④(「パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増しています。」「パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」)と被控訴人文章3④(「パソコン・機器そのものはそれほど高価なものではなくなりました。しかし,パソコンに保存されているデータは…一段と重要性を増しています。」「パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切です。」)とでは,パソコンそのものはそれほど高価なものではなくなったが,パソコンに保存されているデータは一段と重要性を増していること,パソコンに事故が起こった場合には,パソコンが大切なのかデータが大切なのかをよく見極めることが大切であることを上記各順序で記述する点で共通している。
  しかしながら,パソコンはそれほど高価なものではなくなったが,パソコンに保存されたデータの重要性が増加していること,パソコンに問題が生じた場合にパソコンと保存されたデータのいずれかが大切なのかを見極めることが大切であることは,事実にすぎない。
  しかも,控訴人文章3④は,内容,表現,記述の順序のいずれにおいても,パソコンはそれほど高価なものではなくなったが,パソコンに保存されたデータの重要性が増加していること,パソコンに問題が生じた場合にパソコンと保存されたデータのどちらが大切なのかを見極めることが大切であることについて,一般的に使用されるありふれた言葉で表現したものであって,表現上の格別な工夫があるということはできず,当該部分に作成者の個性が現れているということはできない。
  したがって,控訴人文章3④と被控訴人文章3④とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,複製又は翻案に当たるものではない。」
「以上からすると,被控訴人文章1ないし3④が,控訴人文章1ないし3④の複製又は翻案に当たるものということはできない。」
「以上のとおり,控訴人主張の本件コンテンツ及び控訴人文章の複製権侵害及び翻案権侵害はいずれもこれを認めることはできない。」

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 問題となった原告文章及び被告文章の対比は巻末の(別紙)を参照。

【検討】
1 類似性の判断枠組み
(1)最高裁による類似性の判断基準

 著作権侵害訴訟における類似性の判断枠組みは、最判平成13.6.28民集55巻 4号837頁[江差追分]によって確立されており、保護範囲を画する類似性の判断基準として、表現上の本質的特徴を直接感得できるか否かという基準に言及しているものの、実質的には著作権法2条1号に基づいて、創作的な表現部分が共通しているか否かという基準を採用したものと評価することが可能であろう2
(2) 本件の類似性判断基準
 本件も、同最判を引用したうえで、「複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)」と説示していることから、創作的表現の共通性という基準を採用していることが伺える。

2 類似性・創作性に関する裁判例
  裁判所は言語表現の創作性について、表現の自由度を一基準として判断している。つまり、(1)表現の自由度が制限されるほど、保護範囲が限定的となり(東京地判平成15.10.22平成15(ワ)3188〔シャンテリー転職情報〕、東京地判平成6.7.25 知裁集26巻2号756頁〔出る順宅建一審〕、知財高判平成18.3.15平成17(ネ)10095等 〔通勤大学法律コース〕、東京地判19.5.28平成17(ワ)15981最高裁HP〔現代租税論〕)、(2)そして、表現の長さが短くなればなるほど、表現の自由度が制限されるため、保護範囲は限定的となる(東京地判平成16.3.24判時1873号108 頁〔ヨミウリオンライン一審〕、知財高判平成17.10.6 平成17年(ネ)10049号〔ヨミウリオンライン二審〕)。(3)逆に、表現の長さが長くなればなるほど、創作性は肯定されやすい(東京地判平成7.12.18平成6(ワ)9532知的裁集27巻4号787頁〔ラストメッセージ in 最終号〕)。次に、上記(1)~(3)に各々対応して以下のことがわかる。(4)表現の自由度が制限されていても、表現に創意工夫が見られる場合やデッドコピーに近い場合等、保護は肯定される(前掲〔シャンテリー転職情報〕、前掲〔出る順宅建一審〕、前掲〔現代租税論〕)。(5)短い表現であっても、表現の幅がある場合は創作性が肯定されうる(東京高判平成11.9.30 判タ1018号259頁〔ゴロで覚える古文単語二審〕)。(6)長い表現であっても、定型的文章等表現の幅が無ければ、創作性は否定される(東京地判平成19.11.26 平成19年(ワ)9982号〔ライブドア裁判傍聴記一審〕、知財高判平成20.7.17判時2011号137頁〔ライブドア裁判傍聴記二審〕)。――――――――――――――――――――――――――――
  田村善之[評釈]法協 119巻7号217~219頁(2002年)。

3 本件の評価
 本件は、ウェブページに掲載したデータ復旧サービスに関する文章が問題となった事案である。このことから、表現の自由度に一定程度の制限が課されているといえる。本件の表現の自由度の制限は、前掲〔シャンテリー転職情報〕、前掲〔出る順宅建一審〕・前掲〔同二審〕、前掲〔通勤大学法律コース〕、及び前掲〔現代租税論〕と、同程度であるといえる。
 そして、本件は、①データ復旧サービスの説明文章について、特徴的な見出しを示したり、読者の興味を惹くような疑問文を用いたり、余韻を残して文章を終了するなど、表現方法に創意工夫が凝らされていなかった点(前掲〔シャンテリー転職情報〕参照)、②ウェブページの項目、構成、記載順序、配列について、独自の観点から分類、配列して一覧表化する等の工夫がなされていなかった点(前掲〔出る順宅建一審〕・前掲〔同二審〕参照)、自然法則等に照らして、当然導かれる常識のみが記載された点(③前掲〔通勤大学法律コース〕参照)、④ありふれていない表現を用いていない点(前掲〔現代租税論〕参照)に鑑みると、類似性・創作性が否定されてしかるべき事案であり、従来の裁判例の考え方を踏襲するものと位置づけることができよう。

以上

(文責)弁護士 高橋正憲