平成22年9月17日(東京地裁 平成20年(ワ)第25956号/平成23年3月24日(知財高裁 平成22年(ネ)第10077号)
【判旨】
商品形態の商品等表示性は、特別顕著性及び周知性を充足するか否かにより判断されるところ、原告商品(角質除去具)の商品形態は、いずれも充足するから、「商品等表示」に当たる。
【キーワード】
商品形態 商品等表示 不正競争防止法2条1項1号

1 事案の概要
原告は、平成18年9月26日以降、下図の角質除去具(原告商品)を製造・販売している。

                          原告商品

被告は、平成19年11月16日以降、下図の角質除去具(被告商品)を販売している。

                          被告商品

本件は、原告が、被告に対し、原告商品の商品形態が周知な商品等表示にあたるが故に、被告商品を販売する行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当することを主張し、差止め等を求めた事案である。

2 争点
原告商品の商品形態は、不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか。

3 判決抜粋

商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきである。
このような商品の形態は,不競法2条1項1号の他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。
そこで,まず,原告商品の形態が,被告商品の販売が開始された平成19年11月26日の時点において,原告の周知の商品等表示(商品表示)となっていたかどうかについて検討する。
イ 原告商品の形態の独自性について
(ア) 原告商品(検甲1,2)によれば,原告商品は,①角質除去具としての本体部分(原告円筒管)が直径約4ミリメートルの「極細」で,長さ約7.5センチメートルの「コンパクトな円筒管」である点,②原告円筒管の材質がステンレス製で,光沢のあるシルバー色である点,③原告円筒管の両端部を開口として,各先端部分の円周に沿って角質除去のための刃が設けられている点,④樹脂製スティック(原告スティック)が原告円筒管内に挿入され,原告スティックの一部が原告円筒管からはみ出して見える点において,形態上の特徴があり,その中でも,角質除去具としての本体部分における上記①及び②の特徴は,これによって,原告商品に全体としてシャープでシンプルな印象を与えるという点において,特に看者の注意を惹く特徴であるものと認められる。
他方,証拠(甲7の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以前に,我が国で販売されていた美容用の角質除去具の商品としては,
全体の形状が,ブラシ様のもの(甲7の1,4),平板で細長い棒状のもの(甲7の2,3,5),野菜等のピーラー(皮むき具)様のもの(甲7の3)で,いずれも角質を擦り取るためのやすり部と把持部からなるものがあったことが認められるが,原告商品のように,極細でコンパクトな円筒管形状のものが販売されていたことをうかがわせる証拠はない。
加えて,原告商品は,美容用の角質除去具という商品の性質上,美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者をその需要者とするものと認められ,これらの需要者が原告商品のような美容器具を購入するに当たっては,その機能のみならず,外形的なデザインの美しさや新しさにも着目する傾向が強いと考えられるところ,後記ウで述べるとおり,原告商品が販売開始後短期間のうちにヒット商品となったという事情をも考慮すれば,原告商品の上記形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴であったということができる。
(イ) これに対し被告は,原告が原告商品を販売する以前から,原告商品と同様の形態を有するSTT社製の「SCRAPE IT」が販売されていたことのほか,円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された商品は数多く出回っていたとして,原告商品と同様又は類似の形態を有する複数の商品等(乙4ないし10,22ないし25,検乙2ないし5)が存在していたことなどを指摘し,原告商品の形態に独自性があることを争っている。
しかしながら,以下のとおり,被告が指摘する商品等の存在によっても,原告商品の形態の独自性が否定されるものとはいえない。
a STT社製の「SCRAPE IT」について
(…中略…)
b 乙4ないし10について
原告商品の形態に独自性があるか否かの判断は,原告商品の需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の認識を基準として行われるべきものであるから,当該判断に当たって比較されるべき他の同種商品の形態とは,これらの需要者において通常認識し得る商品についての形態でなければならないというべきである。
しかるに,被告が指摘する乙4(特公平4-42014号公報),乙5(特公平4-80694号公報),乙6(特公平7-108299号公報),乙7(特開平11-47142号公報),乙8(実用新案登録第3134240号公報),乙9(特開2002-10944号公報)及び乙10(米国特許出願公開第2005/0075651号明細書)は,いずれも,上記の需要者が通常目に触れるとは考え難い公開特許公報等の専門的な資料であり,これらの資料に示された物品の形態が原告商品の形態と類似していたとしても,そのことが原告商品の形態の独自性を否定する事情とならないことは明らかである。
加えて,乙4ないし7に示された物品は,いずれも,円筒状の刃先を持つ「医療用皮膚切除具」であり,一般消費者が自ら用いる美容用の角質除去具である原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,この点からも,これらの物品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
また,乙9に示された物品は,原告商品と同種の「皮膚の角質層除去具」ではあるものの,そこに示された物品の形状は,球形の握り部と二重の環状の刃からなるものであって,原告商品の形態とは明らかに異なるものであるから,この点からも,当該物品の形態が原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
(…中略…)
c 乙22ないし25及び検乙2ないし5について
被告は,原告商品と同様の形態を有する商品として,①カイインダストリーズ株式会社が販売する皮膚科用製品の一部(乙22),②「男足」という商品名の角質除去具(乙23,検乙3),③「HEEL HORNY PEEELER」(ヒールホーニーピーラー)という商品名の角質除去具(乙24,検乙2),④「ジェイアンドエイチ Purity(ピュリティ) ボディケアセット」という商品名のセット商品に含まれる角質除去具(乙25,検乙5),⑤「Pure Slick」という商品名の角質除去具(検乙4)が存在することを指摘する。
しかしながら,まず,上記①の商品は,医療用皮膚切除具と認められるものであり,前記bで述べたとおり,原告商品とは,明らかに商品の種類を異にし,その需要者も異なるものであるから,当該商品の形態いかんが原告商品の形態の独自性を否定する事情とはならない。
次に,上記②ないし⑤の各商品は,いずれも円筒形状の金属製のパイプの端部に刃物部分が形成された角質除去具であることが認められるものの,これらの商品の販売が開始された時期を示す証拠がなく,これらの商品が原告商品の販売が開始された平成18年9月26日の時点で販売されていたとの事実を認めることはできないから,これらの商品の存在が,原告商品の形態の独自性を否定する事情とはなり得ないというべきである。
(ウ) 以上の検討によれば,原告商品の前記(ア)の形態は,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日当時,他の同種商品(角質除去具)には見られない独自の特徴を有する形態であったものと認められる。
ウ 原告商品の形態の周知性について
証拠(甲5,8ないし15,26ないし32,34ないし37,41(枝番のあるものは枝番を含む。特に枝番を明示しない限り,以下同じ。),検甲1,2,原告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(ア) 原告商品の販売状況
原告商品は,原告によって,平成18年9月26日から販売されるようになり,同年10月以降徐々に販路が拡大し,全国のスーパーマーケット,ドラッグストア,ディスカウントショップ(ドン・キホーテなど),セレクトショップ(東急ハンズ,キディランドなど)等での店頭販売のほか,インターネット,カタログ,テレビによる通信販売が広く行われるようになっていった。
平成18年10月から平成19年11月までの原告商品の販売数の推移を,月ごとの出荷数を基準にみると,平成18年10月から平成19年1月にかけての出荷数は1万本台で推移していたが,同年2月には3万本台となり,更に月を追うごとに出荷数が大きく増加して,同年5月には12万本台に達し,その後も同年8月までは12万本前後を維持し,同年9月から11月にかけても3万本台から8万本台の出荷数を維持している。
また,原告商品の累積出荷数をみると,平成19年7月の時点で50万本を超え,平成19年11月の時点では約89万本に達している。
(イ) 原告商品の雑誌・新聞等への掲載
(…中略…)
(a) 平成19年7月31日発行の雑誌「女性自身」(発行部数約32万部・甲28)7月31日号(甲27の28)
(…中略…)

b また,原告商品に関する紹介記事の中には,以下のとおり,原告商品を注目商品あるいはヒット商品として,写真付きで紹介するものが多数含まれている。

(a) 平成19年2月5日発行の雑誌「Chou Chou(シュシュ)」(発行部数約7万8000部・甲28)2007年No.3において,原告商品が,「ガサガサかかとや足裏の角質がボロボロと落ちると話題沸騰中の「スクラッチ」。」と紹介されている(甲27の6)。
(…中略…)
(ウ) テレビ放送
原告商品は,平成18年9月の販売開始以来平成19年11月26日までの間に,以下のとおり,テレビ放送においても,宣伝や紹介がされ,その形態が映像で紹介されている。
a 全国ネット局の情報番組等
(a) 平成18年11月17日に放送された朝の情報番組「めざましテレビ」(フジテレビ)において,原告商品が,ドラッグストアにおける美容雑貨の売れ筋第1位の商品として紹介されている(甲12,15の1)。
平成19年5月8日に放送された「めざましテレビ」において,原告商品が,フットケア商品の売れ筋第3位の商品として紹介されている(甲12,15の1)。
(…中略…)
b 地方局の情報番組
(…中略…)
c ショッピング専門チャンネル
(…中略…)
(エ) その他の事情
(…中略…)
エ 小括
(ア) 前記イ及びウを総合すると,原告商品は,その販売が開始された平成18年9月26日当時,前記イ(ア)の形態において,同種商品と識別し得る独自の特徴を有していたものであり,かつ,販売開始後平成19年11月26日ころまでの約1年2か月の間に,多くの全国的な雑誌,新聞,テレビ番組等で繰り返し取り上げられて,原告商品の形態が写真や映像によって紹介されるなど効果的な宣伝広告等がされるとともに,原告商品の販売数も販売開始当初から飛躍的に増加し,平成19年11月の時点では約89万本に達し,美容雑貨の全国的なヒット商品としての評価が定着するに至ったものと認められる。
上記認定事実によれば,原告商品の上記形態は,遅くとも平成19年11月26日ころまでには,全国の美容雑貨関係の取引業者及び美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の間において,特定の営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得するとともに,原告商品を表示するものとして需要者である上記取引業者及び一般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当である。
したがって,原告商品の上記形態は,原告の周知の商品等表示(不競法2条1項1号)に該当するというべきである。
(…中略…)

4 考察

本件は、原告商品の商品形態が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当すると判断された事例である。
以下の点が、実務的に参考になる。

(1)特別顕著性の判断基準時
本裁判例においては、特別顕著性及び周知性により、商品等表示の該当性を判断しており、かかる特別顕著性の判断基準時について、原告商品の販売時(平成18年9月26日)とした点が非常に興味深い。 本件において、裁判所は、「証拠(甲7の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が原告商品の販売を開始した平成18年9月26日以前に,我が国で販売されていた美容用の角質除去具の商品としては,原告商品のように,極細でコンパクトな円筒管形状のものが販売されていたことをうかがわせる証拠はない。」と述べており、需要者から見て新しい形態の商品については、当該商品の販売時を基準時として、特別顕著性を判断しているように読める。
他方、周知であればあるほど特別顕著な場合も出てくると考えられ、その場合、特別顕著性の判断基準時は原告商品の販売時とはならない。例えば、H25.9.19大阪地裁H24(ワ)13282(テレビ台の商品等表示性)においては、裁判所は、「原告が,原告商品の形態について周知性を獲得したと主張する平成22年1月までには,既に,他社のテレビ台が同様の機能に基づく形態上の特徴を有していたことも認められる。」と述べている。この事件では原告商品(テレビ台)は平成18年6月から販売されていたので、特別顕著性の判断基準時について、原告商品の販売時とされていないように読める。
つまり、需要者にとって新しい形態の商品については商品販売時が基準時になり、そうでない商品については必ずしも商品販売時が基準時にならず、被告商品販売時点が基準時になると解される。
もっとも、H22.11.18東京地裁H21(ワ)1193(子供用いす)では、「確かに、証拠(乙7ないし16)によれば、原告製品の形態と類似点を有する商品が販売されていた事実が認められる。また、証拠(乙21ないし24)によれば、昭和62年、平成9年ないし平成11年に原告製品の形態と類似点を有するいすの意匠が登録されたことが認められる。しかし、上記類似点を有する各商品や、上記各意匠に対応したいすが、いつの時点からどれぐらいの数量販売されていたのかは証拠上明らかではなく、これらの商品や登録意匠が存在することから直ちに原告製品の形態がありふれたものであると認めることはできない。」と述べており、販売当初需要者にとって新しい形態でああり、それ故独自性を有していたとしても、その後の第三者の販売行為によって、独自性を損なう結果となりうる点に注意を要する。
(2)「需要者にとって新しい形態の商品」と特別顕著性の関係

本裁判例によれば、商品形態が需要者にとって新しいといえるかどうかが特別顕著性の判断のポイントとなる。
すなわち、裁判所は、
「原告商品の形態に独自性があるか否かの判断は,原告商品の需要者である美容に関心の高い女性を中心とした一般消費者の認識を基準として行われるべきものであるから,当該判断に当たって比較されるべき他の同種商品の形態とは,これらの需要者において通常認識し得る商品についての形態でなければならないというべきである。
しかるに,被告が指摘する乙4(特公平4-42014号公報),乙5(特公平4-80694号公報),乙6(特公平7-108299号公報),乙7(特開平11-47142号公報),乙8(実用新案登録第3134240号公報),乙9(特開2002-10944号公報)及び乙10(米国特許出願公開第2005/0075651号明細書)は,いずれも,上記の需要者が通常目に触れるとは考え難い公開特許公報等の専門的な資料であり,これらの資料に示された物品の形態が原告商品の形態と類似していたとしても,そのことが原告商品の形態の独自性を否定する事情とならないことは明らかである。」
と述べており、特許法でいうところの新規性と不競法でいうところの独自性(特別顕著性)は異なることを述べている。
裁判実務において、被告側は、原告商品がいわゆる「文献公知」にあたるとしても、独自性(特別顕著性)が否定されるわけではないことに注意を要する。出所表示機能を保護する不正競争防止法2条1項1号の趣旨からすると当然であるが、独自性(特別顕著性)の判断主体は「当業者」ではなくあくまでも需要者であることを確認したといえる。

以上
 (文責)弁護士・弁理士 溝田 宗司