【平成26年8月6日判決(知財高裁 平成26年(行ケ)第10056号)】

【判旨】
商標「ネットワークおまかせサポート」の第37類「事務用機械器具等の修理又は保守」等を指定役務とする商標登録出願に対する,拒絶審決取消訴訟において、裁判所は,本願商標は,商標法3条1項3号の商標登録の要件を欠くとして,請求を棄却した。

【キーワード】
商標法3条1項3号、自他商品等識別力、品質表示、間接的表示

1.事案の概要
(1)本願商標


 

(2)指定役務
 第37類「事務用機械器具の修理又は保守,電子応用機械器具の修理又は保守,電話機械器具の修理又は保守,ラジオ受信機又はテレビジョン受信機の修理,電気通信機械器具(「電話機械器具・ラジオ受信機及びテレビジョン受信機」を除く。)の修理又は保守,民生用電気機械器具の修理又は保守,電動機の修理又は保守,配電用機械器具の修理又は保守,発電機の修理又は保守」

(3)審決の要旨
 「ネットワークおまかせサポート」の文字からなる本願商標は,「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービス」という程の意味合いを表すものとして理解されるものであり,本願商標を,指定役務に使用しても,その役務の質を表示したものと認識・理解するにとどまるものであって,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものというべきであるから,商標法3条1項3号に該当し,登録を受けることができない。

2.争点
  本願商標は、商標法3条1項3号に該当するか。

3.判旨
 「商標法3条1項3号が,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格又は提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定役務との関係で,その役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される。
 そうすると,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件審決時である平成26年1月20日の時点において,本願商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本願商標がその指定役務に使用された場合に,将来を含め,指定役務の取引者,需要者によって役務の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。
 「(1)前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「ネットワークおまかせサポート」の語は,本件審決当時,「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービス」程の意味合いを有する語として,本件指定役務のうち「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」に係る事業の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定役務のうち「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」の役務に使用されたときは,「コンピューターネットワークに関する相談や接続設定の代行など,顧客が自分で判断・選択せず,他人にまかせてサポートしてもらうサービス」といった役務の質(内容)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであったと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他役務の識別力を欠くものというべきである。
 そして,本願商標は,前記2(4)のとおり,「ネットワークおまかせサポート」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。
 以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。
(2)原告の主張について
 ア 原告は,本願商標は,一体不可分に接合されて一連一体に横書きされた造語であり,このような本願商標の外観及び称呼によって,本件指定役務の質(内容)を表示するものは存在せず,インターネットで検索しても見当たらないのであって,一体不可分の造語である「ネットワークおまかせサポート」からは特定の観念が生じることはなく,本願商標は,称呼,外観及び観念のいずれにおいても自他役務の識別力を有するものであるから,本願商標が商標法3条1項3号に該当すると判断した本件審決は,違法なものとして取り消されるべきである旨主張する
 しかし,前記1で説示したとおり,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件審決時において,本願商標がその指定役務との関係で役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,その指定役務に使用された場合に,将来を含め,指定役務の取引者,需要者によって役務の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足り, それが取引上現実に使用されていた事実があったことまで必要とするものではないというべきである。
 また,本願商標が自他役務の識別力を欠くものであることは,前記(1)のとおりである。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 イ 原告は,本願商標が,一連一体に横書きされ一体不可分に構成された造語であって,造語である「ネットワークおまかせサポート」からは特定の観念が生じることはなく,かつ,商標の識別力の存否は商標の全体を観察して判断すべきであるにもかかわらず,本件審決が本願商標をあえて「ネットワーク」の構成,「ネットワークサポート」の構成及び「おまかせサポート」の構成に分離させた上で,それぞれの語から生じる意味合いから全体の意味合いを認定して,本願商標は自他役務の識別力がないと判断したことは誤りである旨主張する
 しかし,本願商標の「ネットワークおまかせサポート」の語は,仮にそれ自体としては一体不可分の造語であるとしても,それを構成する各単語の語義並びに本件指定役務に関連するコンピューターやモバイル等の電子応用機械器具・電気通信機械器具などを取り扱う業界分野における「ネットワークサポート」及び「おまかせサポート」の文字の使用状況などを勘案すれば,前記(1)の意味合いを有する複合語として認識されるものである
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
 ウ 原告は,本件指定役務は,前記第2の1(1)のとおり,各種機械器具の修理又は保守であり,「インターネット用にのみ使用する電子応用機械器具・電気通信機械器具の修理又は保守」ではなく,本件指定役務の分野において,「ネットワークおまかせサポート」の文字が,取引上普通に使用されている事実もないから,本願商標である「ネットワークおまかせサポート」が,本件指定役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示した標章であるとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
 しかし,商標法3条1項3号の「普通に用いられる方法で表示する標章」かどうかは,標章の書体や全体の構成等が特殊な態様のものかどうかという問題であって,当該商標が取引上現実に使用されている事実があるかどうかによって判断されるものではない。そして,前記2(4)のとおり,本願商標においてみられる赤色の文字を白色で縁取りした太文字体で表した文字に陰影を付するデザインは,ごく普通に用いられる一般的な表現方法であって,格別特殊な態様で表示されているものというほどの特徴はないのであるから,本願商標は,普通に用いられる方法で表示する標章に当たるということができる。
 また,商標登録出願に係る指定商品又は指定役務のうちの一部の指定商品又は指定役務について拒絶の理由があれば,その商標登録出願全体が拒絶されることになる(商標法15条)。本件指定役務は,前記第2の1(1)のとおりであるが,本件指定役務には「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」が含まれることは前記2(3)のとおりであるから,本願商標は,これを本件指定役務のうち「コンピューターネットワークに関連する電子応用機械器具・電気通信機械器具等の修理又は保守」の役務に使用しても,これに接する取引者,需要者によって,単に役務の質(内容)を表示したものと認識・理解されるにとどまるものであるから,商標法3条1項3号に該当し,商標登録を受けることができない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は,「サポート」の文字を含む指定役務を第37類等とする商標登録の例を挙げ,本件審決が本願商標の登録を認めないのは,審査の統一性の観点から逸脱し不当であること,また,「おまかせ」の文字を含む指定役務を第37類とする商標登録の例を挙げ,被告がこれらの商標登録を認めていることからすれば,「おまかせ」の文字部分に自他役務の識別力があることは明らかであることから,本件審決は違法であり取り消されるべきである旨主張する。
 しかし,登録出願に係る商標が商標法3条1項3号に該当するものであるかどうかの判断は,当該商標の構成態様と指定商品又は指定役務とに基づいて,個別具体的に検討・判断されるべきものであって,原告主張に係る各商標登録例が存在するからといって,前記(1)で説示したとおり本願商標が同号に該当することを否定することはできず,また,本願商標についての同号該当性の判断が,これらの各商標登録例によって左右されるものでもない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

4.検討
 3条1項3号に該当するためには、役務の内容を示すものとして一般的に認識されるかどうかによって判断されることから、どの程度認識されれば、一般的といえるかが問題となる。そして、インターネットで多数の人が役務の内容を示すものとして使用されている商標は、役務の内容を示すものとして一般的に認識されると推認されることから、実務上、インターネットで検索して、多数ヒットする商標かどうかが、3条1項3号の該当性において、問題となることが多い。
 しかし、インターネットで検索して見つかったとしても、必ずしも3条1項3号に該当するわけではない。すなわち、インターネット上で、多数見つかる商標であったとしても、その商標が、役務の質等を示すものとして用いられておらず、商標として用いられている場合(例えば、店の名称として使用されているような場合)、3条1項3号の適用がされることはない。
 一方、インターネットで検索して見つからなかったとしても、役務の内容を示すものとして一般的に認識できる場合、3条1項3号の適用がされる。これは、インターネットで検索して見つかることは、「使用」されていることの証拠になるが、立証命題は、「認識」であり、両者は別の概念だからである。すなわち、一般に「使用」されているからといって、一般に「認識」されているとは限らないし(もちろん、通常は、一般に「使用」されていれば、一般に「認識」される。)、逆に、一般に「使用」されていないからといって、一般に「認識」されていないとは限らないのである。本判決は、後者の点に関し、「指定役務の取引者,需要者によって役務の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足り,それが取引上現実に使用されていた事実があったことまで必要とするものではない」と判示している。
 本件では、出願商標である「ネットワークおまかせサポート」自体は、インターネットで検索しても見つからなかったが、「ネットワークサポート」及び「おまかせサポート」は多数見つかったことから、これらの使用状況に鑑みると、「ネットワークおまかせサポート」自体も役務の内容を表示するものとして、一般に認識されるとの判断がなされたが、上記のように使用と認識が異なる概念であることからすると、結局のところ、「ネットワークおまかせサポート」が役務の内容を示すものであると認識できる以上、本判決の認定は妥当であると考えられる。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾 雄一