【判旨】
「被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか」(商標法26条1項1号)に関して,紛争対象となっていない被告の販売商品の名称が著名であったとしても,紛争対象となっている被告の使用標章が著名であるとは限らない。
【キーワード】
商標法26条1項1号,著名

 


【争点】
紛争対象となっていない被告の販売商品の名称が著名である場合,紛争対象となっている被告の使用標章が,被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものかといえるか及びその判断手法如何 

【事案の概要】
 本事案は,原告が有するMONCHOUCHOU(モンシュシュ)という商標権(本件商標目録)と称呼を同じくする標章9つ(被告標章目録)を被告が包装,店舗(看板,壁面),広告(ウェブ上など)において使用したという事案である。原被告間において,商標権の帰属,類否について争いはなく,被告の使用する標章が著名な被告の略称であって,原告の商標権の効力は及ばないなどと争われた。 

    

【裁判所の判断】
・・・
4 争点4(被告標章2ないし4は,被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)について
(1) 著名性について
 被告標章2ないし4が被告の略称であることは,原告もこれを争うものではないところ,被告は,この略称が著名であるとして,商標法26条1項1号に基づく抗弁を主張する。
 しかしながら,本件訴訟提起を報じた平成22年1月21日付け新聞記事の見出しのうち被告に関する記載は,読売新聞が「堂島ロール製造モンシュシュを提訴」(乙207の1),産経新聞が「堂島ロール販売元を損賠提訴」(乙207の2),毎日新聞が「堂島ロールのモンシュシュを訴え」(乙207の4),日刊スポーツ新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の5),神戸新聞が「『堂島ロール』社を提訴」(乙207の6),日本経済新聞が「『堂島ロール』の会社を提訴」(乙207の7)というものである。このように,全国紙を含む各紙が,見出しにおいて,被告を「堂島ロールの会社」あるいは「堂島ロールを製造販売しているモンシュシュ」として扱っていることからは,この時点で,「モンシュシュ」が,被告を指す名称として一般には認知されていなかったことが窺われる。日本経済新聞の記事には,堂島ロールとの関連づけを行うことなく「モンシュシュ」の名称が見出しに出ているものも存在するが(乙72,170),これらは経済界向けの記事であり,需要者である一般消費者向けの記事ではない。
 また,前記1(3)イで述べたとおり,平成22年9月段階で行われた,週に1回以上スイーツ(洋菓子)を食べる(購入する)20代から50代の女性を対象とするアンケートの結果(乙206)によれば,「堂島ロール」を知っている人の中でも,「モンシュシュ」という名前を知らない人は,京浜地区で42.6%存在し,大阪・京都・兵庫(神戸市除く)においてすら31.9%存在する。また,同年10月段階で行われた同様のアンケートの結果(乙211)においても,洋菓子の営業標章としての「モンシュシュ」の認知度は,札幌市(被告の店舗が存在する。)で23.7%,仙台市(被告の店舗が存在しない。)で21.0%,名古屋市(被告の店舗が存在する。)で57.0%,広島市(被告の店舗が存在する。)で31.0%,福岡市(被告の店舗が存在しない。)で17.3%である。この数字は,同じアンケート結果において,これら全市で,モロゾフが95%前後,ゴディバが90%前後,ユーハイムが85%前後の認知度であるのに比べて,かなり低いといえる。
 これらのことからすれば,「モンシュシュ」が,被告の略称として著名であるとは認められない。
(2) 結論
 以上のとおりであるから,被告標章2ないし4が「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するかについて判断するまでもなく,商標法26条1項1号に基づく被告の抗弁には理由がない。
・・・
 【解説】
 本件は,有名な堂島ロールを販売しているモンシュシュの,いわゆるハウスマークが差し止められた事例であるが,ここでは26条1項1号の「著名」であるかどうかの判断手法について述べる。
 本件では「モンシュシュ」という標章(他にもローマ字形式のものもあるが,一括して「モンシュシュ」を被告使用標章とする。)が紛争対象であって,被告の販売する著名な「堂島ロール」が紛争対象ではない。裁判所としても,明らかに「堂島ロール」は著名であることを前提としており,かかる場合に「堂島ロール」を製造販売している「モンシュシュ」について著名といえるかどうかを判断している。そして,判断にあたっては,①本件提訴時の新聞に記載された見出し,②裁判係属中における,「堂島ロール」の購買層であり,かつ「堂島ロール」を知っている者に対する「モンシュシュ」認知度アンケートの結果及び他社名称認知度との対比結果を基礎としている。
 効果的な判断手法は他にも存在するであろうが,結局のところ,本件裁判例は,「堂島ロール」の著名性が,どの程度「モンシュシュ」の認知度に影響を与えているのかを判断している。当然のことながら,「モンシュシュ」が著名であるかどうかが判断対象であるが,販売商品の商品名が著名である場合,当該商品を販売している会社の名称等も著名である場合も多い。したがって,かかる場合には,直ちに当該商品名と当該名称等を切り離して考えるのではなく,両者の関係性から紛争対象となっている標章の著名性を判断することが望ましいということを,本件裁判例から読み取ることができる。よって,当事者としては,当該関係性を踏まえたうえで,アンケート等の証拠を収集し,立証につなげていくことが望ましいと考える。

以上
2011.8.1 (文責)弁護士 溝田宗司