【平成23年6月29日(知財高裁平成23年(行ケ)第10040号)】

【キーワード】
 商標,類似,類否,称呼,外観,取引の実情,需要者,4条1項11号,シュープ,CHOOP,Shoop


第1 事案の概要
 原告は,下記「本件商標」記載の構成よりなり,指定商品を第25類「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽」とする登録第5230903号商標(平成17年9月30日登録出願,平成21年4月7日登録査定,同年5月15日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
 被告は,下記「引用商標」記載の構成よりなり,指定商品を第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」とする登録第4832063号商標(平成16年7月12日登録出願,平成17年1月14日設定登録。以下「引用商標」という。)を引用して,平成22年6月16日,本件商標の登録を無効とすることを求めて,審判請求(無効2010-890048号事件)をした。
 当該無効審判について,特許庁「登録第5230903号の登録を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をしたため,原告は当該審決の取消訴訟を提起したものである。

第2 判旨(下線は筆者による)
 1 判断基準
 「法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情に基づいて全体的に考察すべきものである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そこで,上記の観点から,本件商標と引用商標の類否について検討する。」
2 具体的判断
 「本件商標と引用商標は,「シュープ」の称呼を生じ得る点で称呼において類似するものの,外観において相違する。また,特定の観念は生じないと解されるから,観念において類否を判断することはできない。また,本件商標に係る取引の実情をみると,原告は,前記1の(4)のとおり,商標「CHOOP」について,長期にわたり,指定商品等への使用を継続してきたこと,雑誌,新聞,テレビや飛行機内での番組提供,テレビCM等を利用して,宣伝広告活動を実施してきたこと,ファションブランド誌や業界誌にも紹介されていること,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきたこと,その結果,同商標は,ティーン世代の需要者に対して周知となっていることが認められる。他方,引用商標を構成する「Shoop」の欧文字は,「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓してきた,そして,商標「CHOOP」の使用された商品に関心を示す,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と,引用商標の使用された商品に関心を示す,いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは,被服の趣向(好み,テイスト)や動機(着用目的,着用場所等)において相違することが認められる。
 そうすると,本件商標と引用商標とは,外観が明らかに相違し,取引の実情等において,原告による「CHOOP」商標が広く周知されていること,需要者層の被服の趣向(好み,テイスト)や動機(着用目的,着用場所等)が相違することに照らすならば,本件商標が指定商品に使用された場合に取引者,需要者に与える印象,記憶,連想は,引用商標のそれとは大きく異なるものと認められ,称呼を共通にすることによる商品の出所の誤認混同を生じるおそれはないというべきである。
 したがって,本件商標と引用商標は類似しないと判断すべきである。」
 「これに対し,被告は,「『ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション』及び『セクシーなB系ファッション』の各需要者層については,両商標の称呼『シュープ』を共通にすることによる混同は生じないとしても,『ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション』及び『セクシーなB系ファッション』以外の『一般消費者』については,両商標の称呼が共通することにより,混同が生じるおそれがある」旨主張する。
 しかし,被告の主張は採用できない。上記認定のとおり,本件商標と引用商標は,外観が明らかに相違すること,販売対象及び販売態様が相違すること,原告の「CHOOP」商標の宣伝広告が,特定の需要層を対象としたものであったとしても,長年の使用と多大の広告活動等によって,「CHOOP」商標の周知が図られていること等の点を考慮するならば,一般消費者にとっても,本件商標と引用商標とは,称呼が共通することのみをもって,商品の出所について混同が生じるおそれがあるとはいえない。」
 「以上によれば,本件商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤りがあることになる。原告主張の取消事由は理由がある。」

第3 若干のコメント
 本判決は,審査段階の類否判断において,相当程度具体的な取引の実情を考慮した点で特徴的である。
 本判決も引用する氷山事件最高裁判決(最判昭和43年2月27日,昭和39年(行ツ)第110号)は「商標の類否に」「その商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断する」旨判示しているが,当該取引の実情においていかなる事情が考慮される得るものであるのかは明確でない。
 すなわち,この点について当該最高裁判決の後に出された,保土谷化学事件最高裁判決(最判昭和49年4月25日,昭和47年(行ツ)第33号)は,「取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的,限定的事情を指すものではない」と判示しているが,近時の裁判例には,後願商標の具体的使用態様を考慮している裁判例も数多く存在する1
 そのようななか,本判決は,本件商標の需要者層が「ティーン世代の少女層向けのカワイイカジュアルファッション」を好む者であるのに対し,引用商標の需要者層は「セクシーなB系ファッション」を好む者であることという,いわば本件に特殊的,限定的な事情を考慮したうえで,その他外観の相違や本件商標の周知性等をも併せ考え類似性を否定した。
 登録段階の判断において,このような特殊的,限定的事情が考慮され得るという点について,実務上参考になる判決といえるだろう。

以上


1SPA事件(東京高裁平成8年4月17日(平成7年(行ケ)第52号)),きっと,サクラサクヨ事件(知財高裁平成22年8月29日(平成22年(行ケ)第10101号)事件,ワールド事件知財高裁平成22年9月27日(平成22年(行ケ)第10102号)等多数

(文責)弁護士 山本 真祐子