【ポイント】
特許法102条1項但書「販売することができない事情」として主として競合品の存在を理由として侵害製品の譲渡数量の40%に減額した上、「寄与率」を50%としてさらに減額し、控除後の割合を20%と認定した事例。
【キーワード】
特許法102条1項但書、寄与率
 

【事案の概要】
X:特許権者
Y:Xの有する特許権を侵害するとして提訴された者
 
原審では、XはYに対して、X特許権(ゴルフボール)を侵害するとして、①Y製品の輸入・販売の禁止と廃棄、②損害賠償を請求し、①についてはX特許権の存続期間満了を理由に取り下げられ、②については17億8600万円と遅延損害金の限度で認定した。
 
そこで、これに不服のYが本件控訴を提起し、同じくこれに不服のXが付帯控訴を提起した。
 
控訴審は、Yに対し損害賠償金9億2152万4055円及びこれに対する遅延損害金をXに支払うよう命じた。
 
【争点】
特許法102条1項但書「販売することができない事情」により控除される損害額。
 
【結論】
主にXの販売する全製品のマーケットシェアを40%程度と認定した上、残り60%につき販売することができない事情があるとした上、本件特許の寄与率50%を考慮し、特許法102条1項本文による損害額の同項但書による控除後の割合を20%と認定した。
 
【判旨抜粋】
控訴審判決には明示の記載はないが、以下の原審判旨を事実上引用し、「販売することができないとする事情」として、Y製品の譲渡数量のうち、60%相当に応じた額を損害額から控除すべきと認定。
「以上の認定事実を前提に検討するに,
①前記a(a)認定のゴルフボールの販売個数の市場占有率のうち,他社メーカーの市場占有率分の数量は,被告の侵害行為の有無に影響されるものではないと考えられるところ,被告を除く市場を仮定した場合の他社メーカーの市場占有率は●(省略)●であること
②平成15年から平成19年までの間の原告及び被告の上記市場占有率には大きな変動がみられないこと
上記市場占有率にはメーカー各社の営業努力及びブランド力が反映されているものと推認されること
④被告作成の製品カタログ(甲43)では,「PRO V1」(被告製品①,⑥と同じシリーズ),「PRO V1x」(被告製品②,⑦と同じシリーズ),「NXT TOUR」(被告製品④,⑨と同じシリーズ),「NXT」(被告製品③,⑧と同じシリーズ),「DT SoLo」(被告製品⑤,⑩と同じシリーズ)について,本件訂正発明と同様の効果である飛距離性能の向上をセールスポイントとして挙げており(前記a(b)),このセールスポイントがユーザーが上記各製品を購買する動機付けの一つとなっているといえること
⑤ユーザーがゴルフボールを選択する際,ゴルフボールの性能(飛距離性能,スピン性能等)を重視する傾向にあるといえるが(前記イ(ア)b(c)),一般のユーザーはゴルフボールの性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等については特段の関心を抱いていないものとうかがわれること(甲53中のゴルフダイジェスト及び週間ゴルフダイジェストにおいては,ゴルフボールの性能等が類似する製品を対比して紹介しているが,性能を発揮する原因となるゴルフボールを構成する具体的な成分等についての説明はみられない。),
以上①ないし⑤の事情を総合考慮すると,前記ア(ウ)認定の被告各製品の譲渡数量のうち,60%に相当する数量については,被告の営業努力,ブランド力,他社の競合品の存在等に起因するものであり,被告による本件特許権の侵害がなくとも,原告が原告各製品を「販売することができないとする事情」があったものと認めるのが相当である。
 
「寄与率」を根拠とする「販売することができないとする事情」について
「ゴルフボールの芯球部分において特定の化学物質を利用することを特徴とする本件特許は,必ずしも製品(ゴルフボール)全体の利益に直結するとはいえないため,特許法102条1項ただし書の適用において,本件特許の寄与率を考慮することとする。
そして,前記(ア),(イ)のとおり,我が国のゴルフボール市場においては,平成15年ないし平成19年において,一審原告が1位,一審被告が3位のシェアを有しており,一審被告を除いた市場を仮定すると,一審原告のシェアは約40%強である。一方,米国では,2005年(平成17年)ころ,アクシネット・カンパニーがゴルフボール市場のシェアにおいて1位であり,日本でも,宣伝等によりその知名度は非常に高い。
また,前記のとおり,ゴルフボールは特許の塊ともいわれ,一審原告のゴルフボールにおいても,本件特許以外に多くの特許が用いられており,本件特許は,ゴルフボールの芯球部分を特定の化学物質を含有するゴム組成物で形成したことを特徴とし,飛び性能の更なる向上を目的とするものである。
そして,ゴルフボールにおいては,コア(芯球)のみでなく,カバー,ディンプルも重要であって,その性能としても,飛び性能のみならずスピン,打ち出し角,ディンプル等に関するものも重要である。
以上の諸事情を総合的に考慮して,本件特許の寄与率を50%と認定することとし,本件において,一審原告が「販売することができないとする事情」に相当する数量に応じた控除後の割合としては,原判決における40%を前提としつつ,本件特許の寄与率50%をも考慮して,上記控除後の割合を20%と認めるのが相当である。」
 
【解説】
競合品の存在を、侵害品の譲渡数量と権利者製品の販売減少という因果関係を阻害しうる事情(損害額の控除の根拠)として考慮することは、スミターマル控訴審事件等でも認められる。
また、製品の一部分のみが侵害部分である場合に製品全体の利益を基準として損害額を算定することは権利者に過大な救済を与えるので、「寄与率」により損害額を限定する見解はこれまでの裁判例でも認められる。本件でも被告の知名度、特許権者の製品に他の特許が用いられていること、ゴルフボールの構成・性能を定める他のファクターを考慮し、「寄与率」が50%と認定されている。この点、原審では寄与率により損害額を限定しなかった点で、原審と控訴審において認められた損害額に大きな相違が生じたものである。
たしかに、控訴審が判示するように、「ゴルフボールの芯球部分において特定の化学物質を利用すること」は、必ずしも製品(ゴルフボール)全体の利益に直結するとはいえないし、損害額の減額を理由付けしにくい場合に、裁判所の裁量的認定により相当な損害額の認定を可能とすることで、柔軟な損害算定を行うために「寄与率」を認める意義があるとも思われるが、主として特許権者製品以外のマーケットシェアを考慮して控除後の割合として40%に減額した上で、「寄与率」においてもさらに同シェアを考慮して50%に減額しているようにもみえ、控除後の割合を20%と認定したのが適切であったのか疑問が残る。

2012.3.26(文責)弁護士・弁理士 和田祐造