【ポイント】
Y装置が納品時に本件発明を実施しない構成であっても、納品後に構成を変更することができ、変更した構成の用途がより実用的であることから、Y装置が本件発明の「その方法の使用にのみ用いる物」であるとして、間接侵害が認められた例。
【キーワード】
間接侵害、技術的範囲の属否、「のみ」の要件

【事案の概要】
X:特許第4210779号(食品の包み込み成形方法及びその装置)にかかる特許権者Y:Y装置の製造,販売等 XはYに対して、Y装置の製造、販売等が、成形装置の特許権(本件発明2にかかる本件特許権2)を侵害し、又は成形方法の特許権(本件発明1にかかる本件特許権1)を侵害(特許法101条4号)するとみなされるとして、Y装置の製造、販売等の差止、廃棄、損害賠償を請求した。 原審は、原告の請求をいずれも棄却した。Y装置における「ノズル部材」が本件発明の「押し込み部材」に当たらないから、構成要件を充足せず、侵害が成立しない旨判示した。 この判決を不服として、Yが控訴したのが本件訴訟である。 

【争点】
Y装置1の納品時の態様がノズル部材・生地押え部材が外皮材を椀状に形成する程度に下降させるものでないため、Y装置1を用いた方法が本件発明1の「押し込み部材をさらに下降・・・外皮材を椀状に形成」を具備しないとしても、当該構成要件を充足する用途に実用性がある場合に、Y装置1の製造等が本件特許1(成形方法)の間接侵害にあたるか。

 【結論】
Y装置1の製造、販売及び販売の申出をする行為は、本件特許権1の間接侵害に該当する(101条4号)。Y方法1は、本件発明1の構成要件をすべて充足する。そして、Y装置1は、本件発明1の「その方法の使用にのみ用いる物」に該当する。したがって、Y装置1の製造、販売及び販売の申出をする行為は、本件特許権1を侵害するものとみなされる。 

【判旨抜粋】
納品時の態様が本件発明1の構成に該当していなくても、Y方法1が本件発明1の構成要件を充足する点につき、 「仮に,被控訴人の主張するとおり,被控訴人の製造販売時にノズル部材が1㎜以下に下降できないようにしていたとしても,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつより深く下降させた方が実用的なのであるから,この点は,後記間接侵害の成否において判断することとする。」 と判示した。さらに、納品時の方法が本件発明1を実施しない使用方法であったとしても、その使用形態が経済的、商業的又は実用的なものとは認められないから、Y装置が「本件発明1の使用にのみ用いる物」に該当する点につき、以下のとおり判示した。 「特許法101条4号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施する物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであるところ,同号が,特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を,「その方法の使用にのみ用いる物」を生産,譲渡等する行為のみに限定したのは,そのような性質を有する物であれば,それが生産,譲渡等される場合には侵害行為を誘発する蓋然性が極めて高いことから,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその効力の実効性を確保するという趣旨に基づくものである。このような観点から考えれば,その方法の使用に「のみ」用いる物とは,当該物に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないことが必要であると解するのが相当である。被告装置1は,前記のとおり本件発明1に係る方法を使用する物であるところ,ノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品したという被控訴人の前記主張は,被告装置1においても,本件発明1を実施しない場合があるとの趣旨に善解することができる。しかしながら,同号の上記趣旨からすれば,特許発明に係る方法の使用に用いる物に,当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても,当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら,当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が,その物の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認められない限り,その物を製造,販売等することによって侵害行為が誘発される蓋然性が極めて高いことに変わりはないというべきであるから,なお「その方法の使用にのみ用いる物」に当たると解するのが相当である。被告装置1において,ストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが不可能ではなく,かつノズル部材をより深く下降させた方が実用的であることは,前記のとおりである。そうすると,仮に被控訴人がノズル部材が1㎜以下に下降できない状態で納品していたとしても,例えば,ノズル部材が窪みを形成することがないよう下降しないようにストッパーを設け,そのストッパーの位置を変更したり,ストッパーを取り外すことやノズル部材を交換することが物理的にも不可能になっているなど,本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない。したがって,被告装置1は,「その方法の使用にのみ用いる物」に当たるといわざるを得ない。
 (7)小括
以上のとおり,被告装置1の製造,販売及び販売の申出をする行為は,本件特許権1を侵害するものとみなされる。」 

【解説】
Y方法は、ノズル部材が1mm以下の位置に下降できない状態で納品されたものであるから、この納品時の態様は本件発明1の「押し込み部材をさらに下降させることにより受け部材の開口部に進入させて外皮材の中央部分を開口部に押し込み外皮材を椀状に形成」を具備しないものであるが、①より深く下降させるほうが用途として実用的であること、②実際に1mm以下まで深さを調整できることを根拠に、Y方法はノズル部材が深さ7ないし15mmの位置まで下降できる構成であり本件発明1の構成要件を充足すると認定した上で、前記納品時の構成は経済的、商業的又は実用的な使用形態と認められないことを根拠に、Y装置の製造等は101条4号の「のみ」の要件を充足すると判断した。「のみ」の要件の判断につき、「本件発明1を実施しない機能のみを使用し続けながら,本件発明1を実施する機能は全く使用しないという使用形態を,被告装置1の経済的,商業的又は実用的な使用形態として認めることはできない」とした点は、製パン器事件判決(大阪地判平成12年10月24日)と同様の判断枠組みであり、単に他の用途が認められることのみでは「のみ」の要件を充足していないとはいえないことを示している。 控訴人からは、ノズル部材を7ないし15mmの位置まで下降できることを証明する実験結果が提出されている。これに対して、被控訴人は、納品時にはノズル部材の最下点を1mm以下に下降させない構造であった点は主張されてはいるものの、そのような構造で納品する理由が明確には読み取れない。 仮に納品時に特許発明の技術的範囲に属さない構成であったとしても、当該構成とする根拠(本件ではノズルの最下点を1mm以下に下降させない理由)をカウンターの実験結果を提出する等により、強く主張すべきである。 また、警告等を受けた侵害者が設計変更(本件ではノズルを1mm以下に下降させない構成とすること)をして特許発明の技術的範囲に属さない構成としようとする場合であっても、当該設計変更により、設計変更前の構成(本件ではノズルを7mm程度まで下降させることができる構成)には容易には戻せない構成となっているか、設計変更の構成が実用的な使用形態であるといえるか等につき検討が必要と思われる。

2011.7.25 (文責)弁護士・弁理士 和田祐造