【知財高裁平成26年6月18日判決(平成25年(行ケ)第10322号)】

【ポイント】
 複数の構成要素からなる結合商標と、その構成要素の一部と類似する文字商標との類否が争われた事案である。商品のパッケージ商標であった結合商標の要部認定が主な争点となった。

【キーワード】
結合商標,要部,総合観察,要部認定,商標法4条1項11号

1 事案

 本件は,下記引用商標の商標権者である被告の請求に基づき,原告の有する下記本件商標が商標法4条1項11号(他人の先願登録商標との同一又は類似)に該当するものとしてその登録を無効とした審決の取消訴訟である。争点は,①本件商標の認定(要部,称呼)の誤りの有無,②引用商標と本件商標との類否判断(称呼,取引の実情)の誤りの有無及び③平等原則違反の有無である。

2 知財高裁の判断

 知財高裁は,上記各争点①~③につき,審決の判断に誤りはなかったとして,次のように判示した。
①本件商標の認定(要部,称呼)の誤りの有無
「…ごくありふれた形状・色彩で目立たない模様地が付されただけの缶容器の図柄に,他には識別力がないか極めて弱い文字しか付されていない中で,『Tivoli』との我が国ではあまり馴染みのない地名が,最も注目されやすい書体で目立つ位置に付されているのであるから,本件商標に接した取引者,需要者は,『Tivoli』との文字に強く印象付けられ,これを商品の出所識別標識としてとらえるものと認められ,本件商標の要部は,『Tivoli』との文字部分というべきである。」
「原告は,『パッケージ商標』においては,商標の全体が自他商品識別機能を有する旨を主張する。しかしながら,商品の包装又は容器の図柄を商標としたからといって,当然にその包装又は容器の図柄全体に自他商品識別機能が生じることにはならないのであり,当該商標の要部がその一部又は全体であるかは,当該商標の構成にかんがみて,取引者,需要者が当該商標のどの部分に着目するかによることである。しかるに,原告は,商品の容器又は包装のデザインが取引過程においてどのような位置付けを一般的に有するかを主張するのみであり,取引者,需要者が,商品の容器の図柄を表した本件商標それ自体について,その全体のみに着目する理由を何ら具体的に主張していない。その他上記…の要部認定を左右する事情はないというべきである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。」
『原告は,『Tivoli』の文字は一義的に『ティボリ・ ・・』と称呼される旨を主張する。しかしながら,そもそも国語辞典にすら『Tivoli』が『チボリ・・・』と称呼されることが記載されているほか(甲33),『Tibet(チベット・・ ・)』『ticket(チケット・・ ・)』『Timor(チモール・・ ・)』『tin(チン・・〔すず〕)』『tip(チップ・ ・)』など一々枚挙するまでもなく,外来語において『Ti』又は『ti』を『』と読む例は多数あるのであり,我が国において,『Ti』又は『ti』を『ティ・ 』と発音するか,『』と発音するか,いずれかを断定すべき合理的な根拠はない。したがって,少なくとも,『Tivoli』の文字が,一義的に『ティボリ・ ・・』とのみ称呼されるといい得ないことは明らかである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。」
②引用商標と本件商標との類否判断(称呼,取引の実情)の誤りの有無
「原告は,『Tivoli』の称呼である『ティボリ・ ・・』と引用商標の『チボリ・・・』との称呼が類似しない旨を主張する。上記…に認定のとおり,『『Tivoli』が『チボリ・・・』と称呼され得る以上,本件商標の要部である『Tivoli』と引用商標の『チボリ』は称呼を同一にするものであるから,上記主張は,両商標が称呼上類似するとの審決の結論を左右するものではないが,いずれにせよ,『ティ・ 』の音は一音で発音され,かつ,『』と母音(イ)を同じくする近似音であるために,『ティボリ・ ・・』と『チボリ・・・』をそれぞれ一連に称呼するときは,その語調語感が互いに近似し,発音上は3文字分しかないごく短いものであるから,これらを互いに聴き誤るおそれがあることは明らかである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。」
「原告は,菓子業界には,特定の文字を使用する『パッケージ商標』を付された商品と当該特定の文字を使用する商品とに出所の誤認混同を生じさせるおそれがないとの取引の実情がある旨を主張するが,何らこれを裏付けるに足りる証拠を提出せず(他の登録商標を例示して登録の実情を指摘しただけでは,本件商標に関する取引の実情についての立証になるものではない。),そのような取引の実情を認めることはできない。したがって,原告の上記主張は,失当である。」
③平等原則違反
「原告は,被告が平成23年6月17日出願に係る平仮名の『ちぼり』を縦書きして成る登録第5481897号の商標について商標登録を得ていることから,本件商標が引用商標に基づき無効とされることが平等原則違反に帰する旨を主張する。原告が主張する『平等原則』が商標法等のどのような規定に基づくものであるかはさておき,上記商標と引用商標とは,全く別途の手続によって登録されたものであって,これらの商標権者がたまたま被告1名に帰して共通するからといって,違法となるものではない。原告の上記主張は,失当である。」

3 検討

 今回の事件では,複数の構成要素を含むパッケージ商標から「Tivoli」の文字部分が要部と認定されたことにより,引用商標との類似性が認定された。しかしながら,過去の最高裁判例(「氷山事件」1,「つつみのおひなっこや事件」2)によれば,結合商標から構成要素の一部を抽出して類否を判断することは原則として許されず,一部抽出が認められる例外的な場面は,①その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合,②それ以外の部分から出所識別標識としての称呼や観念が生じない場合が挙げられている。今回の事件において,「Tivoli」が要部と認定されているが,「Tivoli」がイタリアの地名であることに鑑みれば,識別力は低いといえ,上記例外事情①②に該当するかという点については疑問が残る。さらに,本件商標と引用商標との外観上の差異については,著しく相違していると思われるが,具体的な主張や判断がなされていない。したがって,原告の主張として,「Tivoli」の文字部分の識別力の低さ及び外観上の差異を主張する余地があったのではないかと思われる。

以上
(文責)弁護士・弁理士 高橋正憲


1 最判昭和43・2・27昭和39(行ツ)110
2 最判平20・9・8平成19(行ヒ)223