【東京地裁平成23年12月27日(東京地裁平成21年(ワ)第13219号)】

【事案の概要】
 蒸気モップについての意匠権を有する原告X1社及び同意匠権についての独占的通常実施権を有する原告X2社が,被告による被告製品の販売等の行為は意匠権等を侵害するものであると主張して,被告に対し,意匠法に基づく被告製品の販売等の差止め,廃棄,及び,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案。裁判所は,意匠権者である原告X1について意匠法39条3項に基づく実施料相当額の損害賠償額を,独占的通常実施権者である原告X2について意匠法39条2項に基づく損害賠償額を,それぞれ認定し,両者は不真正連帯債務の関係に立つとした。

【キーワード】
意匠法39条2項,同3項,損害賠償,不真正連帯債務

争点

1.本件意匠と被告製品の意匠の類否
2.原告らの損害(意匠法39条3項及び同条2項に基づく損害賠償請求)

裁判所の判断

 裁判所は,社団法人発明協会の発行する「実施料率[第5版]」に記載の平均実施料をベースに,諸般の事情を考慮した上で,本件意匠の実施料率を,被告製品の売上高の5%と認定した。そして,意匠権者である原告ユーロプロ社の損害について,上記実施料率に被告製品の売上高を乗じた286万6655円を,意匠法39条3項に係る実施料相当額の損害として認定した(下記参照)。

   (1)  原告ユーロプロ社の損害について
    ア 意匠法39条3項の損害
  (ア) 被告による被告製品の売上高が5733万3100円であることについては,当事者間に争いがない。
  (イ) 証拠(乙33)によれば,社団法人発明協会の発行する「実施料率[第5版]」には,「民生用電気機械器具製造技術に係る製品」(電気掃除機などが該当するものとされている。)の平均実施料率について,平成4年度ないし平成10年度はイニシャルありが2.8%,イニシャルなしが4.6%であると記載されていることが認められる。
  (ウ) 被告製品は,蒸気モップであり,上記「民生用電気機械器具」に属するものであるといえる。これに加えて,①一般に,蒸気モップ等の民生用電気機械器具の需要者は,その意匠に対してもある程度の関心を有していることがうかがえるものであり,意匠による誘引力も一定程度存在すること,②本件意匠は,同意匠に係る物品(蒸気モップ)の構成全体に関するものであること,②本件意匠は,前記1のとおり,看者の視覚を通じた注意を惹きやすい部分について,公知意匠にはない特徴的な構成態様を有するものであること,などの事情を総合的に考慮すると,本件意匠の実施料率は,被告製品の売上高の5%とするのが相当である。
  (エ) したがって,上記(ア)の売上高の5%である286万6655円が,意匠法39条3項の損害推定規定により推定される実施料相当額となる。

 一方で,独占的通常実施権者である原告オークローン社の損害については,意匠法39条2項の類推適用を認めた上で,限界利益(=売上高-仕入金額等)に相当する326万2698円を損害額として認定した(下記参照)。

   (2)  原告オークローン社の損害について
    ア 独占的通常実施権者に対する意匠法39条2項の適用の可否
  (ア) 原告オークローン社が,本件意匠権の独占的通常実施権の設定を受けていることは,前記第2の1(争いのない事実等)(1)のとおりである。また,証拠(甲1の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告オークローン社は,遅くとも平成20年以後,被告製品と市場において競合する商品(蒸気モップ)である原告製品を販売していることが認められる。
  (イ) 意匠法39条2項は,意匠権者又は専用実施権者が故意又は過失により意匠権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害行為により利益を受けているときは,その利益の額は意匠権者等が受けた損害の額と推定する旨定めるものであり,これによって意匠権者又は専用実施権者による損害額の立証を容易にし,これらの者を保護する趣旨に出たものである。
  独占的通常実施権者は,当該意匠権を独占的に実施して市場から利益を上げることができる点において専用実施権者と実質的に異なるところはなく,意匠法39条2項の上記趣旨は,独占的通常実施権者にも妥当するというべきであるから,独占的通常実施権者が侵害者の実施行為によって受けた損害についても,同条項を類推適用するのが相当である。
    イ 意匠法39条2項の損害について
  (ア) 被告製品の売上高
  被告が被告製品6295台を販売したこと,及びその売上高が5733万3100円であることについては,当事者間に争いがない。
  また,証拠(乙17,31)及び弁論の全趣旨によれば,上記6295台の内訳は,被告製品1につき195台及び被告製品2につき6100台であり,被告製品1については平成20年10月25日から,被告製品2については同年12月3日から,それぞれ,被告から顧客に対する発送を開始し,上記6295台に関する最終の被告の受注(顧客からの受注)は平成21年6月22日であることが認められる。
  (イ) 仕入金額
 ・・・(略)・・・
  (ウ) 輸入費用
・・・(略)・・・
  (エ) 業務委託料
 ・・・(略)・・・
  (オ) クリック課金
・・・(略)・・・
 (カ) 新聞広告料
・・・(略)・・・
  (キ) 倉庫料
・・・(略)・・・
  (ク) 不良返金
・・・(略)・・・
  (ケ) ロイヤリティ等
 ・・・(略)・・・
  (コ) 小括
  意匠権を侵害した者が「その侵害の行為により」受けた「利益」(意匠法39条2項)とは,いわゆる限界利益であると解される。
  被告は,被告製品の販売により,別紙損害額算定表のとおり,上記(ア)の売上高から上記(イ)ないし(ケ)の「仕入金額」等を差し引いた,合計326万2698円の利益を受けたと認められる。
    ウ 弁護士費用
  原告オークローン社は,弁護士を選任して本件訴訟を追行しているものであり,本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記独占的通常実施権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,32万円と認められる。
    エ したがって,被告は,原告オークローン社に対し,上記イ及びウの合計額である358万2698円及びこれに対する不法行為の後である平成21年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

 そして,原告らの損害賠償請求権相互の関係については,重複する限度で不審性連帯債権の関係に立つと判示した(下記参照)。

   (3)  原告らの損害賠償請求権相互の関係
    ア 原告らは,それぞれの権利に基づいて被告に対して損害賠償を請求しているが,その内容は,いずれも,被告による意匠権侵害行為によって受けた損害についてのものである。
  そして,被告が,上記損害に相当する額について二重に支払を行う理由はないから,原告らの損害賠償請求権は,重複する限度において,不真正連帯債権となる。
    イ 原告ユーロプロ社の請求は,上記3(1)のとおり,314万6655円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。そして,原告ユーロプロ社の損害賠償請求権は,上記のとおり,原告オークローン社の損害賠償請求権のうち314万6655円及びこれに対する遅延損害金と不真正連帯債権の関係に立つ。
    ウ 原告オークローン社の請求は,上記3(2)のとおり,358万2698円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。もっとも,原告オークローン社の損害賠償請求権のうち,314万6655円及びこれに対する遅延損害金については,原告ユーロプロ社の損害賠償請求権と不真正連帯債権の関係に立つ。
 3  よって,原告らの請求は主文第1項ないし第4項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれもないからこれを棄却し,仮執行宣言については,主文第1項及び第2項については相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。

 本判決は,意匠権侵害事例における損害賠償額の算定方法を判示したものとして,実務上参考になると思われる。

以上
(筆者)弁護士・弁理士 丸山真幸