【平成27年7月23日(知財高裁判決平成26年(ネ)10138号】

1 事案の概要(知財高裁Webサイトより引用)
本件は,指定商品を「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする「PITAVA」(標準文字)との本件商標(商標第 4942833 号の 2)を有する控訴人(一審原告)が,被控訴人(一審被告)に対し,被控訴人が被控訴人標章(『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』)を被控訴人商品のPTP包装に付したことが,本件商標権を侵害するとして,本件商標権に基づいて,被控訴人標章を付した薬剤の販売差止めとその廃棄を求めた事案である。

2 キーワード
商標的使用


3 判旨

 前記第2,1及び上記(1)の認定事実によれば,①慢性疾患薬である被控訴人各商品は,通常,PTPシートごと患者に交付されること,②被控訴人各商品のPTPシート及び錠剤には,『ピタバ』が単独で用いられたといえる部分はなく(被控訴人商品1・2の錠剤に印字された『ピタバス1』又は『ピタバス2』が,印字面積の制限から『ピタバスタチンCa・OD錠1mg』又は『ピタバスタチンCa・OD錠2mg』とのPTPシートの記載を略記したことは,一見して明らかである。),個別の錠剤収容部分の表面及び裏面の『ピタバスタチンCa』の『ピタバ』部分が,同『スタチンCa』と対比した限りにおいて相対的に強調されている一方,被控訴人各商品のPTPシートの耳部分の表面及び裏面には,『トーワ』『東和薬品』などの明瞭な出所表示が付されていること,③医薬品販売市場には,末尾に『スタチン』を称するスタチン系医薬品がほかにも存在すること,④ピタバスタチンカルシウムは,被控訴人各商品の有効成分の一般的名称であること,⑤医療事故防止のために,ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする控訴人商品『リバロ』の後発医薬品の名称には,必ず『ピタバスタチンCa(カルシウム)』が含まれ,被控訴人各商品の販売名も,その定めに従っていること,⑥ピタバスタチンが『ピタバ』と略記される例があり,それにより医療関係者が『ピタバ』をピタバスタチンの意味であると理解すること,⑦ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする医薬品は,処方せん医薬品であり,医師等又は薬剤師を通じてしか入手できないこと,そして,上記③~⑥からみれば,『ピタバスタチン(カルシウム)』又は『ピタバ』だけからでは,医師等又は薬剤師は,ピタバスタチン(カルシウム)を含む薬剤であるとしか認識できないから,どの販売者又は製造者のピタバスタチンカルシウム剤であるか全く判別できないこと,以上の事実を導くことができる。
 そうであれば,被控訴人各商品において『ピタバ』の文字部分が強調されているのは,有効成分の語の特徴的部分を強調することによって,他種の薬剤との混同を可及的に防止するという意義を有するにすぎず,被控訴人各商品の販売名の一部であることを超えて,独立の標章ととらえられるものではない。そして,医師等又は薬剤師などの医療関係者にとって,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず(なお,他の製剤との混同を招かないと判断される場合に,塩,エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能となっている〔乙4〕。),また,患者にとっても,『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』は,いずれも,出所識別機能又は自他商品識別機能を有しておらず,結局,被控訴人各商品において出所識別機能又は自他商品識別機能を果たし得るのは,被控訴人各商品のPTPシートの耳部分に表示された『トーワ』又は『東和薬品』の文字やロゴマークであると認められる。被控訴人標章1~10が,患者との関係において,有効成分と理解されているのか,あるいは,販売名と理解されているかはさておいて,これらの標章は,他種の薬剤との混同を防止するという識別のために用いられているのであり(患者にとってみれば,その表示の意義を知らないでも,自分が飲むべき薬か否かの区別がつけば十分である。),他社の同種薬剤との混同の防止,すなわち,出所識別又は自他商品識別のために用いられているのではなく,かつ,そのような機能も果たし得ない。
 したがって,被控訴人標章1~10が,本件商標の使用に該当すると認めることはできない。

4 検討
 
 商標的使用とは,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用を意味する。そして,改正商標法でも,商標的使用ではない場合には商標権の効力が及ばないとされている(26条1項6号)。
 本件は,薬剤の包装に用いられるPTPシートに標章(『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』)を付す行為が商標的使用に当たらないと判断した事例である。不正競争防止法の事案であるが,似た争いとして,知財高裁平成18年9月28日判決(平成18年(ネ)10009号),知財高裁平成18年9月28日判決(平成18年(ネ)10012号),知財高裁平成18年9月28日判決(成18年(ネ)10021号),知財高裁平成18年9月28日判決(成18年(ネ)10022号)などがある。もっとも,本件は,PTPシートに標章を付す行為が問題となったのに対し,不正競争防止法の事例では,PTPシート及びPTPシート内に配置されるカプセル等の薬剤の色彩構成が不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するかどうかが問題となった。
 本件について検討してみると,PTPシートの需要者として医療関係者及び患者が考えられるところ,医療関係者・患者のいずれにとっても,PTPシートに付された標章が出所識別機能又は自他商品識別機能を有さないと判断した。
 確かに患者にとっては,PTPシート上の標章を見て出所識別等をするわけではないが,医療関係者にとってはどうだろうか。『ピタバスタチン』又は『ピタバスタチンカルシウム』,あるいはこれを略記した『ピタバ』などは,薬剤としての効能を識別する機能はあるが,それを超えて出所を識別する機能や自他商品を識別する機能はないと思われる。

(文責)弁護士 溝田 宗司