【平成27年5月14日(知財高裁 平成26年(ネ)10107号[預かり物の提示方法、装置およびシステム事件])】

【判旨】

文言侵害が否定された。

【キーワード】

充足論、文言侵害、特許発明の技術的範囲、特許請求の範囲基準の原則、明細書参酌の原則、特許法70条

1.事案の概要(特許発明の内容)

(1)特許請求の範囲
1A クリーニング対象の品物の保管業務における顧客からの預かり物の内容をインターネットを介して顧客に提示する預かり物の提示方法であって,
1B 提示者が利用する第1通信装置により,顧客から預かるべき複数の品物又は顧客から預かった複数の品物の画像データを得て,該複数の品物の画像データを記憶手段に記憶する第1ステップと,
1C 顧客が直接利用するウェブブラウザ機能を備えた第2通信装置から受信するユーザ情報と前記複数の品物の画像データに対応づけて前記記憶手段に予め記憶された認証情報とに基づいて認証を行う第2ステップと,
1D 前記ユーザ情報が前記認証情報と一致する場合に,前記記憶手段に記憶された前記複数の品物の画像データの中から,前記ユーザ情報に対応するものを一覧出力形式で,品物の顧客による識別の用に供すべく,前記第2通信装置へ送信する第3ステップとを有し,
1E 当該第3ステップは,品物を識別した顧客の画面上における所定のクリック操作に応じて品物の選択的な返却要求を前記第2通信装置から送信させるようになしたウェブページに,前記品物に対応する画像データを含めて送信する
1F ことを特徴とする預かり物の提示方法。

(2)明細書
【0007】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0008】
・・・顧客CLTが、自分が預けている衣類Sがどのようなものであったかを忘れてしまうことがある。・・・
【0010】
本願発明は以上の如き実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、クリーニング対象の品物の保管業務において、顧客から預かっているクリーニング対象の品物がどのようなものであるかを、コンピュータネットワークを用い、顧客との共有が可能な前記品物の画像データの形態で提示できるようにした預かり物の提示方法、並びにその実施に使用する装置およびシステムを提供するものである。
・・・
【0053】
一方、認証が一致した場合(ステップS22で“YES”)には、サーバマシンSVは、当該IDのレコードを注文情報データベース50から全て抽出し、各画像データパスの属性を参照し、該当する衣類Sの画像データを預かり物画像データベース60から読み込む(ステップS23)。
【0054】
そして、サーバマシンSVは、注文情報データベース50から抽出した所定の注文情報とともに、預かり物画像データベース60から読み込んだ衣類Sの画像データを含めて、当該顧客CLTに応じた「お預かり表」様式のウェブページSB(図5参照)を生成し、この「お預かり表」のウェブページSBをクライアントマシンCM1,CM2,CM3へ送信する(ステップS24)。
・・・
【0060 】
【発明の効果】
・・・顧客から預かっている対象物の内容を画像で遠隔地の顧客に対して視覚的に示すことができるばかりでなく、顧客は、預けている対象物の中から自分が所望しているものを容易且つ的確に前記事業者に対して知らしめることができる。しかも、これを通信により実現するので、前記事業者と顧客との間の速やかな応答が期待できる。

図5

2.争点

 構成要件1Dの「一覧出力形式」の充足性

3.判旨(下線部は当職が付した)

 控訴人は,「一覧」とは「全体に一通り目を通すこと」という意味も包含するのであって,「全体を一目で分かるように」する場合に限る必要はないし,本件発明1に対する課題解決のための手段という観点からも,出願経緯からも,出力を1回に限定する必要もなく,被控訴人方法は構成要件1Dを充足すると主張する。
 確かに,「全体を一目で分かるように」するためには,全体が画面に表示される必要があるものの,その場合,画面への表示までに送信されるデータが一度で出力されなければならない必然性はない。また,【0055】にあるとおり,本件発明1は,画面をスクロールする場合を含むのであって,この場合,画面上表示されない画像データについては事前に送信しなくても,表示するためのスクロールの時点までに送信されていれば,全体を確認することができる以上,画面上表示されない画像データについては事前に送信しない方法も考えられ,このような観点からしても,画像出力の回数を1回に限定する必要はない。また,本件発明1の目的,作用効果を果たすためには,事業者は,顧客に対し,預かった複数の品物の全てについて一目で分かるように,すなわち,複数の品物の全ての画像を含むように生成したウェブページとして1回の呼出操作で,ウェブページに含まれる品物に対応した画像を閲覧できるように提示する必要があるが,このことを表現するものとして,控訴人の主張するとおり,「一覧」は「全体に一通り目を通す」ものと解釈することも一応は可能である。
 しかしながら,そう解釈した場合であっても,顧客が自らの預かり品の「全体」の範囲を簡単に把握,理解できない方法では,すなわち,自分が行った1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されず,出力されていない画像が他に存在する構成に基づく方法では,顧客が,表示されていない品物の存在を失念している場合には,他のカテゴリーにアクセスしたり,同一カテゴリー内にある他の画像を呼び出したりすることは考えられないのであって,自分が預けた品物を全て正確に把握するという上記課題を解決できないから,「全体に一通り目を通す」ことにならない。そうすると,1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されない新旧いずれの方法についても,被控訴人方法がこの要件を欠くものとなる。

4.検討

 原審では、「一覧出力形式」のクレーム解釈に関し、「顧客がどの衣類を預けたか忘れてしまうことがあるが,事業者が預かっている対象物の内容を画像で視覚的に示すことによって,顧客が,預けている衣類を正確に把握でき,その中から,返却を要求したい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることができる旨が指摘」がされていることを理由として、作用効果が発揮されるためには、「複数の品物の全てについて,1回の出力で,その画像を閲覧できるように提示する必要がある」ことを根拠として、「一覧出力形式」とは,ユーザ情報に対応する複数の品物の画像データが出力された場合,その画像データの全てが一覧できる状態と解釈していた。
 原審が認定した課題等は抽象的であることからこの課題等から、直ちに、作用効果が発揮されるためには、「複数の品物の全てについて,1回の出力で,その画像を閲覧できるように提示する必要がある」とまではいえないものであった。この点について、控訴審は、1回の出力で,その画像を閲覧できるように提示する必要があるとはいえないとしつつも、「1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示され」なければ、顧客が自らの預かり品の「全体」の範囲を簡単に把握,理解できない方法となるとして、「一覧出力形式」は、1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されるものと解釈した。
 明細書の効果の欄には、「顧客は、預けている対象物の中から自分が所望しているものを容易且つ的確に前記事業者に対して知らしめる」と抽象的にしか記載されていなかったため、これを、1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されることが必要であると解釈するには、課題等をどのように解釈するかがキーになると考えられる。本件では、クレームに「自分が所望しているもの」は、「一覧出力形式」のクレームの文言から全ての商品と解釈されたため、上記の結論に至ったものと考えられる。

弁護士・弁理士 杉尾雄一