【平成27年10月29日 (大阪地裁 平成25年(ワ)第11486号)】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,実質的同一性,ありふれた形態,

第1 事案の概要
 本件は,草刈機保護カバー(以下「原告商品」という。)を開発したとする原告P1,同商品の日本国内における独占販売権者であるとする原告株式会社ADDHOME,さらにその独占販売権の再許諾を受けたとする原告トータル・アイ株式会社が,被告が輸入販売する草刈機保護カバー(以下「被告商品」という。)は原告商品の形態を模倣した商品であり,これを輸入販売する行為が不正競争防止法2条1項3号に該当すると主張して,被告に対し,同法4条に基づき,損害賠償請求として原告らそれぞれに対して2499万円及びこれに対する不法行為日の後である平成25年11月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

第2 判旨(下線は筆者による)
 「(1)不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争と定めるところ,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいい(同条4項),「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいうとされる(同条5項)。保護を求める商品の形態と,相手方の商品の形態とが実質的に同一といえるためには,両者の形態を対比し,全体としての形態が同一といえるか,または実質的に同一であるといえる程度に酷似していることが必要であるが,その酷似の判断は,形態の相違点をもたらす改変の着想の難易,改変の内容,程度,形態による効果等を総合的に判断してなされるべきであり,当該改変によって形態の特徴に相違がもたらされ,既に存在する他人の商品の形態と酷似していると評価できない場合には,実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。
 (2)ア 原告は,原告商品の形態の特徴を次のAないしFのとおり,被告商品の形態の特徴をaないしfのとおりであるとして,これをもって被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一であると主張するところ,各商品が,いずれも原告主張のとおりの形態を有することは優に認められる(別紙「原告商品『草刈り達人かるべぇ』写真図」及び「被告商品『新草刈り達人かるべぇ』写真図」)。
 (ア)原告商品の形態の特徴
A 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(鉄・アルミ合金製)の保護プレートであって,
B 上記Aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に沿って交互に形成された略星状形を有し,
C 上記Bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
D 他方,上記Cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の下端を係止し,
E 上記Dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
F 上記Aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている。
 (イ)被告商品の形態の特徴
a 回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置するシルバー色(ステンレス・鉄・アルミ合金製)の保護プレートであって,
b 上記aの保護プレートは,12の突出部と12の溝部が円周方向に沿って交互に形成された略星状形を有し,
c 上記bの12の突出部のうち11の突出部の先端部には,何れも所定の角度上方へ折り曲げられて形成した折曲部が設けられ,
d 他方,上記cにおける残りの1の突出部には,円筒状の支持部材の下端を係止し,
e 上記dの支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定するための略U字形のハンドル固定部を設け,
f 上記aの保護プレートの中央部には,同心円状に形成された谷部を有し,同谷部の中央に低円柱状のベアリング部材が設けられている,
特徴を有する。
イ そして,以上を前提に両商品の形態の特徴を対比すると,各構成要素はA及びaの材質の点を除き一致しているといえ,また材質の点も形態の特徴という点では実質的に同じものといって差し支えないものである。
 (3)しかし,上記(2)において対比対象とされている形態の特徴は概括的なものであって,両商品の基本的構成をいっているにすぎないといえる。不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」の要件である商品形態の酷似をいうためには,さらに商品形態の具体的構成に及んで対比観察を行う必要があるというべきである。
 そこで,そのような観点から,原告商品及び被告商品の形態につき,その具体的構成を,保護プレート及び保護プレート支持部材に分けて認定すると,それぞれ次のとおりである(甲15の1,乙10ないし16及び別紙添付の「原告商品『草刈り達人かるべぇ』写真図」及び「被告商品『新草刈り達人かるべぇ』写真図」,争いのない事実を含む。)。
ア 原告商品
 (ア)保護プレートの形状
 〔1〕保護プレートの突出部は12本の放射状に形成され,そのうち11本の最深部から突出部の先端までの長さは約67mm,最深部の幅は約37mm,折曲部を除いた最浅部の幅は約12mmである。
 〔2〕支持部を取り付けた突出部は他の突出部より大振りであり,その先端に平行連結孔がある。
 〔3〕底部は,保護プレートの中央の回転軸を受ける部分を残して,ベアリング装着部は,円形に凹んでおり,凹みの周囲は平面であり,平面上に4つの穴があり,螺子が装着されている。
 〔4〕〔3〕の周囲に完全な円環(ドーナツ)状の凸部がきれいに浮き出ており,同円環状の部分の外周から,各突出部に羽状の凸部が浮きだし,突出部先端まで届いている。
 〔5〕保護プレート底面中央部には,凹部に嵌挿するゴム製の保護カバー(異物遮断材)を備えている。
 〔6〕保護プレートの谷部の深さ(谷部の最下部から各突出部の最深部までの高さ)は約20mmで,保護プレートを横から見た形状は厚みのある台形となっている。
(イ)保護プレート支持部材
 〔1〕原告商品の支持部材は,強化プラスティック製の円筒状部材の中にスプリングが配されている。
 〔2〕支持部材の上端は,同部材の長手方向に対して垂直面ではなく,所定角度を有する切断面になるよう形成されており,スプリングの一端に連結された略U字形で,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで螺子で固定するオレンジ色のハンドル固定部材が,上記円筒状部材の上端の切断面に当接され,支持部材が草刈機ハンドルに対して一定角度を保持する形態となっている。
〔3〕支持部材の下端には円筒状部材の中に配されたスプリングの一端に係止された略角丸長方形に形成されたフックが,保護プレートの一の突出部の端部にある平行連結孔に連結されているため,支持部材により本体を支持することが可能である。
イ 被告商品
 (ア)保護プレートの形状等
 〔1〕保護プレートの突出部は12本の放射状に形成され,そのうち11本の最深部から突出部の先端までの長さは約60mm,最深部の幅は約45mm,折曲部を除いた最浅部の幅は約15mmである。
 〔2〕被告商品は,支持部を取り付ける突出部が多少大振りとなっており,その先端には小さな一つの孔がある。被告商品では,支持部材が連結されている突出部と,その左右二つの突出部との間に,それぞれ台形状に隆起した部分が存在する。
 〔3〕保護プレート底部の中央は凹んでおり,その周囲には二重の同心円状の細い凸部に囲まれた環状の黒色ゴム製部材があり,さらにその外側に環状の平面があり,平面上には8つの穴があり,うち4つの穴に螺子が装着されている。
 〔4〕〔3〕の周囲に,略円環状の凸部が浮き出しているが,同凸部には凹凸があり,筋模様となっている。その凹部は突出部の先端へ続く羽状の凹みの一部をなしている。保護プレートの外縁に沿った線と突出部に羽状の線の二重の線,縞模様が,上記円環状の凸部の模様となっている。
 〔5〕保護プレート底面中央部には,4本の螺子で固定する,ステンレス製,略半球状で縁部に保護プレートとの接着面を備えた保護カバー(異物遮断材)を備えている。
 〔6〕保護プレートの谷部の深さは約13mmであり,保護プレートを横から見た形状は,中央部と外周部が多少もりあがった薄い形状となっている。
 (イ)保護プレート支持部材
 〔1〕被告商品の支持部材は,円筒状部材はシルバー色のアルミ製である。
 〔2〕支持部材の上端は長手方向に対して垂直面が形成され,円筒状部材の中に配された弾性部材の一端に連結された,略U字形で,略U字形内部に回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定する銀色アルミ製のハンドル固定部材が,上記円筒状部材の上端垂直切断面に当接されており,支持部材がハンドルに対して角度自由に支持される形態である。
 〔3〕上記弾性部材の他端には,円筒状部材の下端から突出するように配置されたリング状の留具が係止されており,同留具が,保護プレートの一の突出部の端部に設けられた小さな一つの孔に連結されているが,当該留具は孔に通してあるだけであるため,支持部材により本体を保持することができない。
 (4)そして,以上認定した具体的構成を前提に,両商品の形態を対比すると,以下のような共通点,相違点が存することが認められる。
ア 保護プレートの形状について
 保護プレートは突出部が12本放射状に形成され,うち1本が草刈機のハンドル(竿)部分と固定するための支持部材と連結するために他と異なり大振りとなっているという点でほぼ同一であるが,保護プレートは,全体として原告商品の方が被告商品に比して多少突出部が長く幅が狭くなっており,保護プレートの形態を特徴付ける凸部の形状については,以下のような少なからぬ相違点がある。
 すなわち,原告商品の保護プレートにおいては,中央のベアリング装着部は,底面が円形に凹んでおり,凹みの周囲は平面で,その周囲には,完全な円環(ドーナツ)状の凸部がきれいに浮き出ており,同円環状の部分の外周から,各突出部に羽状の凸部が浮きだして突出部先端まで届いており,底面から見た場合に簡単な構造が見て取れるものである。これに対し,被告商品の保護プレートにおいては,その中央底面は,環状の黒色ゴム製部材を挟んだ二重の同心円状の細い凸部があり,その周囲の平面の外側に,円環状の太い凸部が浮き出しているが,12本の突出部の縁に沿って凸部を形成し,原告商品では凸状になっている突出部中心部分が逆に凹状になっている上,その凹状の構造は,円環状となる太い凸部に及び,凹凸の縞模様が浮き出ており,そのため被告商品の上記円環状部分は原告商品のそれとは明らかに異なる視覚効果を与えている。
 また,保護プレートを横から見た形状は,原告商品が厚みのある台形であるのに対し,被告商品は中央部と円周部が多少出ているものの原告商品より相当薄い形状となっており,需要者に異なる印象を与えている。
 さらに,原告商品の保護プレートは,中央底部の貫通孔に嵌めこむゴム製のカバー(異物遮断材)を備えるのに対し,被告商品の保護プレートは,中央底部に,4本の螺子で固定する,ステンレス製,略半球状で縁部に保護プレートとの接着面を備えたカバー(異物遮断材)を備えているところ,底部の保護カバーは,保護プレートを装着する際必ず見る部分であるから,形態はもちろん,素材,取り付け方法も全く異なる両者は,需要者に両商品が異なる構造であることを看取させるものである。
イ 保護プレート支持部材について
 原告商品の支持部材は,上記保護プレートの大振りの突出部に支持部材の内部にあるスプリングの先端にあるフック状のもので平行連結孔に掛けて繋がれているが,被告商品の支持部材は,保護プレートの大振りの突出部の一端の小さな一つの孔とリング状の部材を用いて連結されており,また静止状態で比較しても視覚的にも微細とはいえない形態の相違をもたらしている。
 その上,両商品を実際に対比したときには,支持部材部分によって,原告商品については商品全体の姿勢を保持することを可能としているのに対し,リングで支持部材が連結されているにすぎない被告商品は,同部分で商品の姿勢を保持することはできないから,相違の程度には著しいものがあるといえる。
 (5)以上のとおり,被告商品の形態と原告商品の形態とを具体的構成に及んで対比すると,特に保護プレートにおいて被告商品の形態は原告商品の形態に比して視覚的に複雑化しているし,また保護プレート及び保護プレート支持部材とも,その形態から想定される製造工程は被告商品の方が原告商品より複雑化していることも看取できる。そして,これらからすると,その形態の改変の着想は容易なものではないといえるし,また改変の程度は大であるということができるから,被告商品において採用された形態により,原告商品との間で形態の特徴に相違がもたらされているということができ,したがって,被告商品は原告商品の形態と酷似していると評価できないというべきである。
 (6)ア これに対して原告は,上記のような原告商品と被告商品の形態の特徴の相違は,些細なもの,あるいは僅かな違いであるなどとし,原告主張に係る形態の対比だけで商品形態の実質的同一性の判断に十分なように主張するところ,確かに両商品を対比して観察すると,原告主張に係る形態の特徴が共通することから,一見してよく似ているとの印象が与えられ,それに比較すると,上記(5)で認定した相違点は微細なものであるように思えないではない。
イ しかし,証拠(乙9,18,甲60)によれば,回転式草刈機の刃の下側に装着することを特徴とする刃の保護カバーは,原告商品の日本国内販売開始当時,日本国内においてはほとんど存しなかったものの,韓国においては一般的であったものと認められ,そして,それらの保護カバーにおいては,以下〔1〕ないし〔4〕の形態の特徴が認められるものが多く,またそれらは,この種の商品において機能を発揮するための構造であるとも認められる。
 〔1〕保護プレートが回転式草刈機の円盤形カット刃の下部に位置する。
 〔2〕保護プレートは,複数の突出部と溝部が円周方向に沿って交互に形成された放射形状となっている。
 〔3〕上記放射形状の突出部の一部は,他に比して大きく,同所に回転式草刈機(竿)のハンドルと固定する支持部材の下端が連続している。
 〔4〕上記支持部材の上端には,回転式草刈機のハンドル(竿)を挟み込んで固定するための固定部が設けられている。 
ウ そして,これらの点を踏まえて,改めて原告主張に係る原告商品及び被告商品の形態の特徴を検討すると,原告商品及び被告商品を一見して似ていると感じさせる上記AないしF及びaないしfの形態の特徴は,韓国において同種商品に多く見られる上記〔1〕ないし〔4〕の形態の特徴に,機能部分として突出部の折曲(C,c)や,保護カバー中心部に付加した形態的特徴(F,f)が加わったものにすぎないといえ,これらからすると,原告商品と被告商品との形態が似ているとの印象を与える原告主張に係る両商品の形態の特徴の共通点は,少なくとも韓国においては,同種商品の間において,よく見られた形態の一態様にすぎないものであったと認められる。
 そうすると,上記形態の特徴の共通点が被告主張のように「当該商品の機能を確保するための不可欠な形態」とまではいえないとしても,原告商品及び被告商品がいずれも韓国で開発製造され日本国内に輸入された商品であることを考慮するならば,先行開発者の開発利益を保護するという不正競争防止法2条1項3号の趣旨に照らし,そのような形態の特徴の共通性に重きをおいて両商品の形態が酷似していると評価して原告商品の形態に保護を与えることは相当ではないというべきである。
 したがって上記(5)で認定した商品形態の具体的構成の相違をもって微細なものにすぎないという原告の主張は失当であり,むしろその相違点の存在によって両商品の形態は酷似していると評価できず,実質的に同一であるとはいえないというべきであるから,被告商品は,原告商品の形態を模倣したものとは認められない。」

第3 検討
 本判決は,一見すると似ているようにも思える原被告商品について,具体的形態における相違点を重視して実質的同一性を否定しており,その理由として原被告商品の形態の共通点が,当該商品の輸出国である韓国においてありふれた形態であったことを挙げている。このことから,仮に被告において,原告商品形態の全体がありふれた形態であるとまでの立証をできない場合であっても,原被告商品の共通点についてありふれた形態であるとの立証をできれば,実質的同一性が否定され得ることが分かる。このような判断手法は,公知意匠を参酌して要部を認定する意匠の類似判断に近しいものと思われる。
 また,実質的同一性で考慮され得るありふれた形態について,少なくとも問題となっている商品が輸入商品である場合には,当該商品の輸出国においてありふれた形態であると立証できれば足りる旨の判断がなされている点も興味深い。
 以上のような本判決の判断は,実質的同一性判断において,実務上参考になるといえるだろう

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子