【平成27年11月11日(東京地裁平成26年(ワ)第25645号)】

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項3号,形態模倣,実質的同一性,ありふれた形態,機能を確保するために不可欠な形態

第1 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告の販売に係る防災用キャリーバッグ(以下「被告商品」という。)が,原告の販売に係る防災用キャリーバッグ(以下「原告商品」という。)の形態を模倣したものであり,被告による被告商品の販売は,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当すると主張して,被告商品の販売につき,同法5条2項に基づき,不法行為による損害賠償金200万円及びこれに対する平成26年10月8日(不法行為後である訴状送達の日の翌日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払等を求めた事案である 1。


最高裁判所HPより引用

第2 判旨(下線は筆者による)
 「(1)不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品の譲渡等を不正競争行為とするところ,「商品の形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感」(同条4項)をいい,「模倣」とは,「他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいうとされている(同条5項)。
 そして,同号が「商品の形態」を法的に保護しようとする趣旨は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものとしたことにあると解されるから,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,そもそも,同号により保護される「(他人の)商品の形態」に該当しないと解すべきである。
 また,同号は,「当該商品の機能を確保するために不可欠な形態」について,同号による保護から除外される旨を規定しているが,その趣旨は,商品としての機能及び効用を果たすために不可避的に採用しなければならない商品形態を特定の者に独占させることは,商品の形態ではなく同一の機能及び効用を有するその種の商品そのものの独占を招来することとなり,事業者間の自由な競争を阻害することになりかねないことから,かかる形態を同号の「商品の形態」から除外したものと解される。
 そして,「実質的に同一の形態」であるか否かは,当該商品の需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる,同種の商品の属する分野や同種の商品の形状の特徴との比較等を考慮して判断すべきである(この点,本件では,原告商品と被告商品は,いずれも防災用品を収納運搬する防災用バッグであるから,需要者は,その収納力や扱いやすさ,どのような物を,どのくらいの量収納できるか〔耐久性も含む〕を考慮した商品の形状,その形状に結合した模様,色彩に着目するものと解される。)。
(2)以上を前提に,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるといえるか否かについて検討する。
ア まず,前記争いのない事実,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,原告商品と被告商品の形態の共通点は,〔1〕 正面視で,本体,本体上部収納部,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部を備えている点(構成態様A-1及び構成態様a-1),〔2〕 本体の背面側には,キャリー用の持ち手及びこれを左右方向に覆う背当て部材が配設され,上下方向に2本の背負い用ベルトが左右方向に間隔を空けて設けられ,本体左側面収納部の上部と本体右側側面収納部の上部には,肩掛け用ベルトが取り付けられている点(構成態様Bの一部と構成態様b),〔3〕 本体と本体上部収納部との境には,正面側から背面側で続くファスナが,本体上部収納部には,本体との境から本体上部収納部の上部背面側に亘って逆U字形のファスナが,本体前面収納部,本体左側面収納部,本体左側面収納部,本体右側面収納部の上部約半分の位置には,それぞれ,各々の側面及び上面に沿うように逆U字形のファスナが設けられている点(構成態様Cと構成態様c),〔4〕 本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画には,本体との境の中央部とそこから本体上部収納部の上部に亘る左右の3箇所において,ゴム紐が螺旋状にかけられている点(構成態様D-1と構成態様d-1),〔5〕 本体左側面収納部,本体右側面収納部のそれぞれの側面の下半分には,ネット状ポケットが設けられていること(構成態様Eと構成態様e),〔6〕 本体の底面には,背面側の2箇所に2本のローラ,正面側には2箇所に足が設けられている点(構成態様Fと構成態様f),〔7〕 ファスナ部と本体上部収納部の逆U字形のファスナより内側の区画が黒色であり,本体前面収納部の前面側には,左右方向に1本の銀色の反射素材が設けられている点(構成態様G―1及び構成態様g-1の一部),〔8〕 本体内部の収納部分はアルミ製の素材で覆われている点(構成態様Hと構成態様hの一部)に認められる。
 一方,原告商品と被告商品の形態の相違点は,〈1〉 寸法の相違,とりわけ本体前面収納部の突出幅及び左右側面収納部の突出幅が異なる点(原告商品と比較して,被告商品は,これらの突出幅が相当程度大きい。),〈2〉 原告商品では,本体と本体上部収納部の境部分に2本の背負い用ベルトが取り付けられ,その間に,取手用ベルトが設けられているが,被告商品では,本体と本体上部収納部の境より下の本体部分に2本の背負い用ベルトが取り付けられ,その間に取手用ベルトは設けられておらず,キャスターの引き手部分が設けられている点,〈3〉 本体上部収納部にかけられたゴム紐の色が,原告商品は灰色であるのに対し,被告商品は黒色に白点の斑模様である点,〈4〉 原告商品は,全体が明赤色を基調としているのに対し,被告商品は暗赤色を基調としている点,〈5〉 背負いベルト,肩掛けベルト,側面ネット状ポケットが,原告商品では本体の赤色と同一色であるのに対し,被告商品では,本体の赤色と異なっている点にある。
イ そして,証拠(乙11の2,11の6)及び弁論の全趣旨によれば,防災用品を収納運搬する防災用バッグの形状として,需要者が着目する商品の形状の点に照らすと,共通点である上記アの〔1〕,〔3〕ないし〔5〕の点は,被告商品が販売されたと原告が主張する平成25年11月頃の時点において,収納力や扱いやすさを高めるための商品の形態としてはありふれた形態と認められ,また,上記アの〔2〕及び〔6〕の点については,リュック・キャリー兼用型の防災用バッグであればその機能に不可欠な形態といえる。また,上記アの〔7〕の点については,逆U字形のファスナより内側の区画が黒色である点についてはバッグの形状に結合した色彩としてありふれたものと認められ,反射板は安全性を確保するための必要な機能であって,これを目立つ位置であるバッグの正面部分に左右一直線に設けることはありふれているというべきである。
 一方,原告商品に比べ,被告商品は,本体の形状,前面収納部及び側面収納部の大きさにおいて,上記相違点〈1〉のとおりの差異があり,この形状の差異により,全体としてその形状が原告商品においては縦長ですっきりとした印象を与えるのに対し,被告商品においては横長ででっぷりとした印象を与える。また,原告商品と被告商品を様々な角度から撮った写真(甲28)によれば,原告商品は,被告商品に比べて,その材質や縫製状態の点においてしっかりとした高品質のものであることが明らかであって,このような差異は,収納力や扱いやすさ,丈夫さといったバッグの特徴的部分における顕著な差異と認めることができる。
 以上のとおり,原告商品と被告商品の形態の共通点は,ありふれた形態であるか,防災用バッグの機能に不可欠な形態であるといえ,他方で,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる形状として,収納部分の大きさの差異や素材,縫製状態の点において顕著な差異がある以上,他の共通点をすべて組み合わせた点が共通するとしても,原告商品と被告商品の形態が実質的に同一であるとは,認められない。なお,本体内部の構造において,上記アの〔8〕の点のとおり,アルミ製の覆いをすることは,防災用バッグの機能として不可欠な形態であるとはいえず,ありふれた形態であるとも認められないとしても,外部の形状に顕著な差異がある以上,内部構造の一部において共通する上記の点を加えて商品全体としての形状を対比したとしても,実質的に同一であるとは認められない。
ウ 原告は,前記アの共通点のほか,本体の内部が保冷素材で覆われ,箱型のビニール製容器が面ファスナで取り付けられるようにされている点も掲げるが,前記1(2)アにおいて認定したとおり,被告商品であって,箱型のビニール製容器が面ファスナで取り付けられている内部構造を有したものは,いつ発売されたものか,現に販売されているのかどうかが明らかでない。そして,被告商品であって,販売されていることが裏付けられる水タンク付のものと原告商品を比較してみると,両者は,本体内部に水を入れて運搬が可能な防災用バッグである点で共通するとしても,貯水する部分が単なる箱型なのか,給水口からの給水も可能となるタンク型であるのかでは,その形状に顕著な差異があるものといわざるを得ない。被告商品であって,水タンク型のものは,本体内部にアルミ製の覆いが施されている点において,原告商品と共通しているとしても,上記の貯水部分の形状が異なることにより,内部構造の点においても,実質的に同一であるとはいえないことは明らかである。
エ 以上のとおり,原告商品と被告商品の形態は,実質的に同一であるとはいえないし,原告の主張に係る構成態様hについては,被告商品であって,そのような内部構造を備えたものの販売時期,その存在がいずれも明らかではないから,原告の主張は,採用することができない。」

第3 検討
 本判決は,原告商品と被告商品の形態の共通点について,ありふれた形態又は防災用バッグの機能に不可欠な形態であることを,実質的同一性を否定する事情として考慮している。不正競争防止法2条1項3号においては,ありふれた形態及び機能上不可欠な形態は保護対象から除外されるが,仮に被告が,原告商品形態全体がありふれた形態又は機能上不可欠な形態であるとまでの立証をできない場合であっても,被告においては,原被告商品の共通点について当該形態であるとの立証をできれば,実質的同一性が否定され得ることが分かる。
また,機能にかかる形態である内部構造の一部に共通点があっても,外部の形状に顕著な差異がある以上,実質的同一性は肯定されないとの判断がなされている点も興味深い。
 後行者としては,先行商品の機能に着目し,これと同様の機能を有する商品を販売しようとすることが多いと考えられるが(本件においても,原被告商品共に,内部がアルミで覆われており,水汲みバケツとしても使えるという機能において共通していた。),全体的な形状を異なるものとし,機能上模倣しなければならない部分のみを同一にした場合には,不正競争防止法2条1項3号の形態模倣に該当しない可能性が高いことが分かる(本件においても,内部をアルミで覆うという点は同一であるものの,全体的形状等他の形態において相違点が存在する。)。不正競争防止法2条1項3号は,商品の機能(アイディア)を保護するものではないため,妥当な判断であろう。
 さらに,相違点にかかる判断において,「縫製状態」を考慮している点も興味深い。縫製状態というのは,一見して明らかとまではいえない,ある程度注意深く観察しないと分からない形態であると思われるが,縫製状態が需要者にとって重要な意味をもつ商品の場合には,当該形態が重視して判断される可能性があることが分かる。
 以上のとおり,本判決は,不正競争防止法2条1項3号該当性判断において,実務上参考になるものと思われる。

1
原告は不正競争防止法2条1項1号に基づく主張も行っているが,本稿では同法2条1項3号にかかる判断のみを取り上げる。

以上
(文責)弁護士 山本 真祐子

→トピックス一覧へ戻る