【知的財産高等裁判所平成27年7月16日判決(知財高裁26(ネ)第10098号)】

【要旨】
 登録商標「PITAVA」の商標権侵害差止請求事件の控訴審において,商標法26条1項2号及び6号が適用され,商標権の効力は及ばないとして,請求が棄却された。

【キーワード】
商標法26条1項2号,商標法26条1項6号,商標権の効力が及ばない範囲,商標的使用,品質表示

【事案の概要】
1.本件商標権
   出願年月日平成17年8月30日
   登録年月日 平成18年4月7日
   登録番号  第4942833号の2
   指定商品  第5類 ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤
   登録商標  PITAVA(標準文字)

 2.被控訴人の行為等
 被控訴人は,平成25年12月から,販売名を「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」とする薬剤(以下「被控訴人商品1」という。),販売名を「ピタバスタチンCa錠2mg「明治」」とする薬剤(以下「被控訴人商品2」という。)及び販売名を「ピタバスタチンCa錠4mg「明治」」とする薬剤(以下「被控訴人商品3」といい,また,被控訴人商品1ないし3を総称して「被控訴人各商品」という。)を販売している。
 被控訴人は,別紙標章目録1ないし3記載の各標章(以下「被控訴人各標章」と総称し,それぞれを同目録の番号に従い「被控訴人標章1」などという。)を付した薬剤を販売している。
  (別紙標章目録)
 

 被控訴人各商品は,錠剤であり,その錠剤の外観は,それぞれ別紙錠剤目録1ないし3記載のとおりである。被控訴人商品1の錠剤には被控訴人標章1が,被控訴人商品2の錠剤には被控訴人標章2が,被控訴人商品3の錠剤には被控訴人標章3が,それぞれ付されている。
  (別紙錠剤目録)

 被控訴人各商品の包装態様は,別紙包装目録1ないし3のとおりである。
  (別紙包装目録)


3.経緯
 本件は,本件商標権の商標権者である控訴人が,「被控訴人各標章」を付した薬剤を販売する被控訴人の行為が控訴人の有する商標権の侵害(商標法37条2号)に該当する旨主張して,被控訴人に対し,上記薬剤の販売の差止め及び廃棄を求めた事案である。
 原判決は,被控訴人による被控訴人各標章の使用はいわゆる商標的使用に当たらないから,本件商標権を侵害するものではないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したが,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。

【争点】
 商標法26条1項2号又は6号に該当するかどうか。

【判旨】
 2 被控訴人各標章の商標法26条1項6号該当性(争点2)について
  (1) 被控訴人は,被控訴人が被控訴人各商品の錠剤に被控訴人各標章を表示しているのは,服用者が服用する際に他の薬剤と間違えないよう誤飲防止のためであって,自他商品識別機能を奏するために表示しているものではなく,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,いわゆる商標的使用に当たらないから,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当する旨主張する。
   ア ・・・上記認定事実によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩であることを示す部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
   イ 次に,被控訴人各商品の包装態様は,別紙包装目録1ないし3のとおりであり,錠剤が10錠ずつPTPシートにパッケージされて,その複数のPTPシートが外箱に入れられたもの(同目録1ないし3参照)と,錠剤が瓶詰めされ,その瓶が外箱に入れられたもの(同目録1及び2参照)があり(前記1(1)イ(イ)),被控訴人各商品の錠剤は,通常は,PTPシートから取り出して服用することが想定されているといえる。
また,被控訴人商品1の外箱には,「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」と横書きで大きく表示され,その上部には「HMG-CoA還元酵素阻害剤」,その下部には「ピタバスタチンカルシウム錠」,「1錠中ピタバスタチンカルシウム1.0mg」との表示があり,PTPシートの表面には,「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」,「ピタバスタチン」,「1mg」,「meiji MS047」,その裏面には,「PITAVASTATIN Ca1mg「Meiji」,「ピタバスタチンCa「明治」」,「1mg」との表示があること(別紙包装目録1参照),被控訴人商品2及び3の外箱及びPTPシートについても,含量及び「MS」に続く3桁の数字の表記が異なるほかは,被控訴人商品1と同様の表示があること(同目録2及び3参照)は,前記1(1)イ(イ)のとおりである。
 さらに,被控訴人各商品の外箱又はPTPシートに記載された「ピタバスタチンCa」,「ピタバスタチン」等の表示と被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)を同じ機会に目にした場合,「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」と「ピタバ」の言語構成から,「ピタバ」が「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」の頭部分の3字を略記したものであることを自然に理解するものと認められる。
 そして,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
 一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
 また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(1)イ(ア)),被控訴人各商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが,この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる。
 以上によれば,被控訴人各商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。
   ウ したがって,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められる。
  (2) 控訴人は,これに対し,①患者は,通常,被控訴人各商品の有効成分の名称が何であるかについて興味も知識もなく,医師,薬剤師等から説明も受けていないから,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」に触れたときに,それが「有効成分」を示すものであると認識するものとはいえないし,たとえ,患者が被控訴人各商品のPTPシートに付された「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」等の表示に触れた上で,被控訴人各商品の錠剤に表示された「ピタバ」に触れたときに,「ピタバ」の表示が販売名たる「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」等のうちの「ピタバスタチンCa」の一部の表示あるいはそれに由来する表示であると認識することがあったとしても,「ピタバ」を「有効成分」としての「ピタバスタチンCa」を意味するものと認識することはないから,被控訴人各商品の取引者,需要者である患者において,被控訴人各標章が出所識別機能を発揮する表示であると認識されないということはできない,②薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示に関するアンケート調査結果(甲22)によれば,「ピタバ」の表示が「この薬の有効成分(薬の効果をもたらす成分)の名前(またはその一部)」と回答したのは全体の15%にすぎず,残りの85%は有効成分の名称(またはその一部)であるとは認識しなかったこと,全体の43%が薬剤の錠剤に付された「ピタバ」の表示を「この薬の商品名」と認識していたことからすると,患者が被控訴人各標章を有効成分の説明的表示であると認識するとはいえないとして,被控訴人各標章は,商標法26条1項6号に該当しない旨主張する。
   ア しかしながら,前記(1)イ認定のとおり,患者は,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合には,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
次に,被控訴人各商品が「1包化調剤」により処方された場合には,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,個々の薬剤の表示には被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することがないのが通常であり,また,患者が1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,患者は,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものといえるから,患者において,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められる。
   イ また,控訴人の挙げる「ピタバ」の表示に関するアンケート調査(甲22)は,「ピタバ」の表示が付された「錠剤」の写真と「PTPシート」の写真とを対比して質問に対する回答を求めたものであり,患者が被控訴人各商品を処方され,これを服用する際の実情を踏まえたものといえないから,上記アンケート調査の結果は,患者において被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないとの上記アの認定を左右するものではない。
   ウ したがって,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。
  (3) 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項6号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばないというべきである。

 3 被控訴人各標章の商標法26条1項2号該当性(争点3)について
  (1) 被控訴人は,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,「ピタバスタチン」又は「ピタバスタチンカルシウム」を想起させる略称であり,本件分割商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」との関係においては,「ピタバスタチンカルシウム」を有効成分とする医薬品であること,すなわち,商品の品質の表示であり,かつ,錠剤に有効成分又はその略称を印刷又は刻印することは一般的に行われており,「ピタバ」を錠剤に印刷又は刻印することは「普通に用いられる方法で表示するもの」といえるから,被控訴人各標章は,商標法26条1項2号の商標に該当する旨主張する。
   ア そこで検討するに,前記2(1)ア認定のとおり,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩であることを示す部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
 そして,前記2(1)イ認定のとおり,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「明治」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
 そうすると,被控訴人各商品の需要者である医療従事者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,「商品の品質」である「有効成分」を表示する商標であると理解するものと認められる。
   イ 次に,前記2(1)イ認定のとおり,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。
 また,被控訴人各商品は処方箋医薬品であって(前記1(1)イ(ア)),患者は,医師等から処方箋の交付を受けなければ,被控訴人各商品を購入することができないものであるところ,医師等から,処方箋医薬品が処方される際には,通常は,処方される薬剤にどのような効能・効果があるかの説明がされ,さらに,薬局等に処方箋を提出して処方箋医薬品を購入する際には,通常は,薬剤師から,購入する薬剤の効能・効果に加えて,当該薬剤の名称やその服用方法等についても説明がされるから(乙27ないし30,36,37,弁論の全趣旨),患者は,被控訴人各商品を購入するまでの過程において,医師又は薬剤師から,被控訴人各商品の有効成分が「ピタバスタチンカルシウム」である旨の説明を受ける場合もあるものと認められる。
 そうすると,被控訴人各商品の需要者である患者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,「商品の原材料」である「含有成分」又は「商品の品質」である「有効成分」を表示する商標であると理解するものと認められる。
   ウ 証拠(乙30,44)及び弁論の全趣旨によれば,後発医薬品の一般的名称の略称ないし一部(例えば,「アトルバスタチンカルシウム水和物」につき「アトルバ」,「バルサルタン」につき「バルサ」又は「バルサル」,「ラベプラゾールナトリウム」につき「ラブペラ」等)を錠剤に表示することは,普通に行われていることが認められる。
   エ 前記アないしウを総合すると,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「商品の品質」である「有効成分」又は「商品の原材料」である「含有成分」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(商標法26条1項2号)に該当するものと認められる。
  (2) 控訴人は,これに対し,患者は,薬剤の効果や副作用について興味を持つことはあるとしても,当該薬剤の化学物質である有効成分の名称が何であるかということには興味や知識を持っていないのが通常であり,また,医師・薬剤師も,患者に対して薬剤を処方するに際し,薬剤の効果や副作用についての説明をすることはあるとしても,通常,当該薬剤の有効成分の名称が何であるかを説明することはないなどとして,取引者,需要者である患者において,「ピタバ」の表示が「有効成分」である「ピタバスタチンカルシウム」の略称を示すものとして一般に認識されているとはいえないから,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当しない旨主張する。
 しかしながら,前記(1)イ認定のとおり,患者は,被控訴人各商品を購入するまでの過程において,医師又は薬剤師から,被控訴人各商品の有効成分が「ピタバスタチンカルシウム」である旨の説明を受ける場合もあるものと認められる。
 また,仮に患者がそのような説明を受けないとしても,前記(1)イ認定のとおり,患者は,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,少なくとも,「商品の原材料」である「含有成分」を表示する商標であることを理解するものと認められる。
 したがって,被控訴人各標章は商標法26条1項2号の商標に該当しないとの控訴人の上記主張は,採用することができない。
  (3) 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項2号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばないというべきである。

【検討】
1.自他商品等の識別機能を発揮する形での商標の使用はいわゆる「商標的使用」と称されている。平成26年法改正前は,商標的使用にあたらない場合は,法上の「使用」に該当しないものと扱われており,商標的使用でない場合は商標権侵害を構成しないものとする裁判例が数多く蓄積されてきた。本件の原審(東京地判平成26年8月28日平26(ワ)770号)も,需要者は,医師や薬剤師等の医療関係者及び患者のいずれにもピタバは,有効成分の説明的表示であると認識するのが一般的であるから,商標的使用に当たらないとして,請求を棄却した。
 しかし,平成26年法改正により,商標法26条1項6号が新設され,「商標的使用」にあたらない場合は,商標権の効力が及ばないものと扱われるようになった。したがって,控訴審である本件では,商標法26条1項6号の該当性及び同2号への該当性が争われた。
2.本判決は,26条1項2号及び6号の両規定の該当性を肯定し,また,先に6号の該当性を判断してから,後に2号の該当性を判断しているが,本稿ではこれらの点について検討してみたい。
 6号は,「前各号に掲げるもののほか…」とあるように,包括条項であり,1号乃至5号に該当しなかった場合に適用される条項である。そして,2号乃至4号は,3条1項1号乃至3号に対応していることからも,自他商品等の識別機能を発揮しない態様での使用,すなわち商標的使用態様でない場合の使用について規定していることからすると,6号は,2号乃至4号以外の理由に基づく商標的使用態様でない場合について規定していると解することができる。そうすると,2号乃至4号と6号の両方に該当することはあり得ないようにも思える。
 しかし,本判決は,商標が,商品の品質表示にあたると認定(2号該当を肯定)しつつ,商標的使用態様にあたらないことを認定(6号該当性を肯定)し,2号と6号の両方に該当する場合があり得るとの判断を示している。このように,一の行為が,商品の品質表示に該当し,それ以外の理由から商標的使用態様に該当しないという二面的な評価ができる場合もあり得ることになる。
 したがって,被告側代理人としては,2号乃至4号に該当するとの主張をする場合でも,これら以外の観点から6号に該当するとの主張ができないかどうかを検討すべきこととなる。
3.一方,本件では,6号該当性について,被控訴人は,「服用者が服用する際に他の薬剤と間違えないよう誤飲防止のためであって,自他商品識別機能を奏するために表示しているものではなく,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,いわゆる商標的使用に当たらない」と主張したが,本判決は,「需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらない」と認定し,正面からは,被控訴人が主張する「誤飲防止」のための使用が商標的使用態様にあたらないとの理由付けを採用しなかった。このように,本判決の文面上は,本判決が,「商品の出所を識別したり,想起することはない」という点を,品質表示以外のいかなる理由に基づき認定したのかが明確でない。6号が「前各号に掲げるもののほか…」と規定していることからすると,品質表示以外のいかなる理由により,「商品の出所を識別したり,想起することはない」と判断したのかを具体的に示さなければ,6号該当性を肯定した根拠として不十分なようにも思える。
 一方,本判決では,6号該当性について,詳細な理由付けが示されているが,6号該当性の争点は,「ピタバ」が「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」の略称にあたるかという点や,医師や患者が「ピタバ」が「ピタバスタチンCa」又は「ピタバスタチン」を意味することを認識できるかという点であり,これらの争点は2号の争点と共通していたことからすると,6号該当性について,詳細な理由付けがされていたとしても,2号該当性と同じ判断をしているだけでは,品質表示以外のいかなる理由により,「商品の出所を識別したり,想起することはない」と判断したかを示すには不十分なように思える。
 そうすると,本判決では,品質表示以外の観点として,被告が主張した「誤飲防止」の観点からも商標的使用態様に該当しないという判断を正面から示すべきであったように思える。また,この場合の判断の順序としては,論理的には,2号該当性を肯定した上で,2号以外の理由としても誤飲防止の理由があるとして,6号該当性を肯定すべきであったようにも思える。

以上

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一