【平成27年12月9日判決 (東京地裁平成27年(ワ)第14747号)】

【要旨】
著作権侵害に基づく損害賠償請求事件において、原告各写真は、被写体の組み合わせや配置、構図やカメラアングル、光線・印影、背景の設定や選択等に独自性が表れているということができ、これらは原告各写真を撮影したカメラマンにより創作されたものであると認められ、被告がこれらの写真を原告に無断で被告雑誌に掲載した行為は、原告の著作権を侵害するものであるなどとして、原告の請求を認容した事例。

【キーワード】
写真の著作物性、著作者、共同著作物、カメラマン(写真家)、ヘアドレッサー(美容師)

【事案の概要】
1 当事者
 原告と被告は,いずれも美容専門雑誌の出版を主な事業とする会社であり,美容専門誌の業界団体であるJapan Hairdressing Awards Association(以下「JHA」という。)に共催会社として参加している。

2 原告各写真の撮影
 平成25年8月5日,訴外A(以下「A」という。)は,原告写真1の撮影をした。〔甲1〕
 訴外B(以下「B」という。)は,平成25年12月26日ないし平成26年1月7日に,原告写真2ないし8の撮影をした。〔甲2〕
 訴外C(「C」という。)は,平成26年4月30日までに,原告写真9ないし12の撮影をした。〔甲3〕

3 原告各写真を掲載した雑誌の出版
 原告は,平成25年9月30日に,原告写真1を掲載した「TOKYOFASHION EDGE NO.75」(以下「原告雑誌1」という。)を,平成26年1月31日に,原告写真2ないし8を掲載した「TOKYOFASHION EDGE NO.01」(以下「原告雑誌2」という。)を,平成26年5月31日に,原告写真9ないし12を掲載した「TOKYO FASHION EDGE NO.03」(以下「原告雑誌3」といい,原告雑誌1,2と併せ,以下「原告各雑誌」という。)を,それぞれ出版した。〔甲4ないし6〕

4 被告雑誌の出版
 平成26年10月1日に,被告は,別紙被告写真目録記載の被告写真(以下,それぞれ「被告写真1」ないし「被告写真12」といい,併せて「被告各写真」という。)を,被告雑誌の45ないし55頁にわたり掲載された記事「Japan Hairdressing Awards 速報!最終ノミネート作品全掲載」に掲載し,同雑誌を出版した。
 なお,同雑誌に掲載された原告各写真には,いずれも写真の下に「©TOKYO FASHION EDGE」と表示されている。〔甲7〕

5 被告による原告各写真の複製
 原告各写真と被告各写真とを対比すると,別紙対比表のとおりである。
 被告各写真は,原告各写真を有形的に再製したものである。

6 被告雑誌出版後の経緯
 平成26年10月16日付けで,原告は,代理人であるI弁護士を通じ,被告雑誌に原告各写真が無断で掲載され,クレジットに「©TOKYO FASHION EDGE」と挿入されていて原告が被告雑誌への掲載を了解している印象を与えること等から,その販売の差止め等を求める通知書を差し出した。〔甲10〕
 これに対し,被告は,被告代理人弁護士を通じ,同年11月14日,被告雑誌は,同年10月22日をもって発送停止としたこと等を書面で通知した。〔甲11〕
 また,被告は,同年12月2日付けで,被告代理人弁護士を通じ,原告の代理人であったI弁護士に対し,被告雑誌の「Japan Hairdressing Awards 速報!最終ノミネート作品全掲載」において,原告各写真を原告の事前の了解なく掲載し,原告及び作品制作に関わった関係者に迷惑を掛けたことを詫びる旨,及び,被告の発行する「SNIP STYLE」の2015年1月号において「弊誌11月号にJHAノミネート全作品を掲載致しました。本来JHA共催出版社全社に対して掲載許可をお願いするべきところ,その確認がなされないまま無断掲載する事態に至りました。ここにJHA共催出版社各位と作品制作に関わった皆様,ならびに読者の皆様に深くお詫び申し上げます。今後このようなことのないよう,尚一層の注意を払い編集業務を行なってまいります。」とするお詫びを掲載した旨を,それぞれ伝える回答書をファックスした。〔甲8〕

【争点】
1 原告は原告各写真の著作権者か
2 被告の故意ないし過失の有無
3 原告の損害額

【判旨】
1 争点(1)(原告は原告各写真の著作権者か)について
  (1) 被告は,原告各写真の著作者はヘアドレッサーである旨主張するので,以下検討する。
 「写真の著作物」は,著作権法10条1項8号に列挙された著作物であるところ,同法は,写真の著作物につき特別の定義規定を置いていないが,「写真の著作物」には写真の製作方法に類似した方法を用いて表現される著作物を含むものとし(同法2条4項),その著作者は発行されていない写真の著作物を原作品により公に展示する権利を専有することとし(同法25条),公表や展示の同意に関する特別の規定(同法4条4項,18条2項2号,45条1項)を設けるなど,写真の著作物に特有の,特に美術の著作物に類する規定を置いている。その一方で,写真の著作物の創作性を表現する方法である「写真」については,有形的再生である複製の方法として規定している(同法2条1項15号)ことからも明らかなとおり,写真それ自体が被写体に何らの創作性を加えない場合もあり得ることを同法は予定しているものである。
 写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一つの表現である。こうした写真の表現方法のうち,レンズの選択,露光の調節,シャッタースピードや被写界深度の設定,照明等の撮影技法を駆使した成果として得られることもあれば,オートフォーカスカメラやデジタルカメラの機械的作用を利用した結果として得られることもある。また,このうちの構図やシャッターチャンスのように人為的操作により決定されることの多い要素についても,偶然にシャッターチャンスを捉えた場合のように,撮影者の意図を離れて偶然の結果に左右されることもある。その写真について,どのような撮影技法を用いて得られたものであるのかを写真自体から知ることは困難な場合もあり,写真から知り得るのは結果として得られた表現の内容ではあるものの,静物や風景を撮影した写真であっても,その構図,光線,背景等,上記諸要素の設定や取捨選択等に何らかの個性が表れることが多く,結果として得られた写真の表現にこうした独自性が表れているのであれば,そこに写真の著作物の創作性を肯定することができるというべきである。
 これを本件についてみると,原告各写真はいずれも別紙原告写真目録記載のとおりであるところ,子細には,女性モデルの顔が画面中心からやや右寄りに配され,やや開いた口元の両手の指先を少し広げ,女性モデルが首を傾けて正面を見ているもの(原告写真1),縄で吊した木と,これにもたれてポーズをとる女性モデルがモノトーンの背景の左寄りに写し出され,それらの影が床の右方向に投影し,女性モデルは向かって左を向いて,腰掛けているように見えるもの(原告写真2),一部を縄で吊した木と,これにもたれてポーズをとる女性モデルがモノトーンの背景に写し出され,左から照明をあてた影が床に投影し,女性モデルは正面を向き,片足を曲げているもの(原告写真3),髪の一部を原色に染めた女性モデルの口に花が配され,原告写真4には原告写真6のモデルの,原告写真6には原告写真4のモデルの,それぞれのシルエットが,実際のモデルと対称の位置に配され,背景は赤になっているもの(原告写真4,6),女性モデルが灰色の背景の中央に配され,複数の花と緑色の茎を配し,女性の体の一部にも緑の帯が写し出されているもの(原告写真5),女性モデルの横顔に葉の繊維様のものを配してアップで撮影し,女性モデルは向かって左に薄目を開けて向き,口をかすかに開いているもの(原告写真7),斜め後ろから振り返って斜めを向いた女性モデルの肩から上がモノトーンの画面に写し出され,女性モデルは片眼を髪で隠して正面を見て,かすかに口を開いているもの(原告写真8),女性モデルが手を後ろで組み,膝を折り曲げて足をがに股に開き,無表情に正面を向いて,女性モデルはそれぞれ顔の一部を白ないし赤に着色しているもの(原告写真9ないし12),である。
 以上によれば,原告各写真は,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景の設定や選択等に独自性が表れているということができ,これらは原告各写真を撮影したカメラマンにより創作されたものであると認められるから,これらの著作者はカメラマンであるA,B及びCというべきである。
 そうすると,原告は,上記各カメラマンから原告各写真の著作権の譲渡を受けていることが認められるから,原告各写真の著作権者は原告であると認められる。
  (2)ア 被告は,原告各写真の著作者は各ヘアドレッサーである旨主張する。
 なるほど原告各写真においては,独特のヘアスタイル,化粧,衣装等を施して所定のポーズを取っているモデルの写真も含まれている。
 しかし,原告各写真については,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるというべきであり,原告各写真の被写体のうちの,独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても,前記(1)のとおりの原告各写真の内容によれば,原告各写真は,被写体を機械的に撮影し複製したものではなく,カメラマンにより創作されたものというべきである。
 そうすると,原告各写真の著作者はカメラマンであって,ヘアドレッサーではないというべきである
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
   イ 被告は,カメラマンが創作行為を行なっていたとしても,各ヘアドレッサーも同様に創作的表現を行なっているのであり,その場合,原告各写真は,ヘアドレッサーとカメラマンとの共同著作物となる旨主張し,それに沿う証拠として平成27年10月27日付け被告代表者の陳述書(乙20)を提出する。
 平成27年10月27日付け被告代表者の陳述書(乙20)には,「美容業界誌紙は一般美容師が学ぶための作品(髪の形,髪の色,髪の流れ,髪の質感・・・等が相まって新しいスタイルは出来上がります。)を一段レベルの高い美容師に依頼して創作してもらい,それを撮影して誌面に掲載します。この美容師に著作権が有るのは当然であります。場合によっては,カメラマンにも応分の著作権があるかもしれません。しかし,主な著作権は創作した美容師が持っていると言わざるを得ません。もし著作権が美容師側にないとなると,我々の仕事は成り立ちません。」とあるところ,被告は,原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘアドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について主張立証をするわけではないが,原告各写真の創作性は,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるところ,こうした点について,ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
   ウ また,被告は,作品撮影は経費1回あたり平均50万円を超えているとし,こうした経費のほとんどはヘアドレッサーが負担しているから,主要な創作行為を行なったのはヘアドレッサーであり,著作権がヘアドレッサーに帰属する旨主張する。
 原告各雑誌に掲載されたノミネート作品一つにつき,撮影のための経費が平均50万円前後かかることについては当事者間に争いがない。
 しかし,原告各写真の創作性については前記(1)のとおりであるところ,これについての経費の負担がその創作性に関連するものとは認められないし,また経費の負担に伴い著作権に関する取り決めがされたとの証拠もないから,ヘアドレッサーが撮影に要する経費を負担していたとしても,その事実をもって,ヘアドレッサーが本件各写真の著作者となるということはできない。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
   エ さらに,被告は,原告各雑誌においてヘアドレッサーの氏名が冒頭の目立つ場所に表示されている一方で,原告各写真のカメラマンについてはその下に表示されていることから,原告各写真の著作者はヘアドレッサーである旨を主張し,それに沿う証拠として原告各雑誌及びその目次を提出する(乙10ないし15)。
 なるほど原告各雑誌の目次にはヘアドレッサーの氏名のみを表示したものがあるが,これはそのヘアドレッサーの作品を紹介する趣旨であり,その作品の写真に関してはヘアドレッサーのほかカメラマンの名前も表示されていることからしても,原告各雑誌の表示は,原告各写真の著作者がヘアドレッサーであることを示すものとは認められない。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
 2 争点(2)(被告の故意ないし過失の有無)について
 被告は,原告が著作権を有する原告各写真につき,原告の許諾を得る必要があることを認識しながら,許諾を得ることなく被告雑誌にこれを複製して掲載しているのであるから,原告の著作権(複製権)侵害につき,少なくとも過失があるというべきである。
 被告は,被告代表者においてJHAの事務局を通して掲載許諾が得られたと思い,被告雑誌にノミネート作品を掲載したものであって,故意ないし過失はない旨主張する。
 被告の上記主張は必ずしも判然とはしないが,その主張によっても原告各写真を掲載するに当たり適切な許諾を得る必要性の認識があったことは明らかであり,結果としてその許諾が得られていないのであるから,被告には過失が存するというべきである。
 したがって,被告の上記主張は採用することができない。
 3 争点(3)(原告の損害額)について
 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,被告各写真を掲載した被告雑誌における使用サイズと対応する条件で,原告各写真を使用するための許諾料は1枚当たり1万5000円であるものと認められる。
 そうすると,原告各写真を複製するため著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は,合計18万円(1枚当たり1万5000円の12枚分)である。
 原告は,本件訴訟の遂行を訴訟代理人弁護士に委任しているところ,原告の著作権侵害の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用については,本件の事実経過等に照らせば,3万6000円と認めるのが相当である。
 以上の合計は21万6000円である。遅延損害金の始期については,不法行為の日である被告雑誌の出版の日(平成26年10月1日)とすべきである。

【検討】
 本判決において示された写真の著作物性に関する規範は、従来の裁判例により示されていた規範と同じ内容であり 1、特に目新しいものはない。
 一方、本判決で注目すべき点は、カメラマンが撮影したモデルは、ヘアスタイル、化粧、衣装等に特徴があり、これらは、ヘアドレッサーが施したものである点で、別途、ヘアドレッサーを著作者として、美術の著作物が成立し得る点である。 2
 この場合、写真の著作物との関係において、①写真の著作物は、美術の著作物の二次的著作物に該当するか、また、②写真の著作物は、カメラマンとヘアドレッサーの共同著作物になるかなどの問題が生じることとなる。
 ①については、写真の著作物には、美術の著作物がそのまま映り込んでいるだけであり、美術の著作物に何らの修正、変更等が加えられておらず、写真の著作物は、二次的著作物にはらならない。この場合、写真の著作物を複製等する際に、美術の著作物の複製等を伴い、美術の著作物の著作権侵害が成立し得たとしても、写真の著作物の著作権者が、自らの著作権を侵害することを理由に、権利行使をすることは、美術の著作物との関係で何ら問題とならない。
 ②について、本判決は、「原告各写真の創作性は,前記(1)で検討したとおり,被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるところ,こうした点について,ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。」と認定しており、写真の著作物の創作性に影響を与える考慮要素に対し、ヘアドレッサーは一切、関与していないことから、共同創作の意思がないとして、共同著作物性を否定している。かかる認定からすると、本件で、ヘアドレッサーは、モデルのヘアメイク、化粧にのみ関与しており、写真の撮影には、関与していないことから、共同創作の意思が否定されたものと考えられる。仮に、本件で、ヘアドレッサーが、モデルのポーズや、背景に意見を出す等して、写真の撮影に関余していれば、共同創作の意思が認められた余地があるように思える。
 本判例は、写真の著作物性及び著作者の認定において参考になる部分があるため、取り上げた次第である。


  1写真の著作物性に関する規範を示した裁判例として、例えば、知財高判平成18年3月29日〔スメルゲット事件:控訴審〕が挙げられる。
  2本判決は、「独特のヘアスタイルや化粧等を施されたモデルに関連して,別途何らかの著作物として成立する余地があるものとしても」とし、モデルのヘアスタイル等に関し著作物性が認められ得る点に含みを持たしている。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一