【平成27年9月29日判決(東京地裁平25(ワ)30386号)】

【要旨】
 原告が,原告の製品である「タタミ染めQ」に欠陥がないにもかかわらず,被告が同製品には欠陥があるなどとして苦情を申し立てるとともに,本件製品の販売店に対して本件製品及び原告自身について虚偽の内容を記載した書面を配布する行為は,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為であって,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するなどとして,損害賠償に係る請求を一部認容した。

【キーワード】
 不正競争防止法2条1項14号(現15号),虚偽告知,営業誹謗,信用棄損

【事案の概要】
1 当事者
 被告は,個人としてアパートの賃貸業を行うほか,同アパートの清掃や塗装,リフォームも行っている。このほか,被告は,素材原料業等を営む有限会社豊陽の代表者でもある。
 他方,原告は,「タタミ染めQ」という畳の塗料(本件製品)の販売等を業とする株式会社であり,「染めQリニューアル」として,古くなったものの素材の質感を変えずに染めQの技術で塗替えリフォームを行うほか,不動産関連の事業をも行っている(甲20の2)。

2 本件製品
 本件製品(畳の塗料)は,独自のナノテクノロジー技術を応用し,塗料に含まれる色素分子をナノサイズに微小化することで,通常の粒子では入れない微細な隙間に入り込むことにより,接地面を増やすとともに密着効果を増大させ,従来は塗布に適しないとされていた畳等に対しても,染めるという感覚での塗布を可能にしたものとされる(甲8,20の1,45)。
 なお,本件製品は,その発売前に受けた公的機関の検査により,健康被害を生じうる重金属につき制限を超えては含まないこと(甲9),耐候性試験により十分な耐候性があること(甲10)が認められ,また,シックハウス症候群対策として,建築基準法上使用制限の定めのあるホルムアルデヒドの放散等級区分について受けた公的機関の審査により最上級の「F☆☆☆☆」の認定を得て,制限なく使用できる資格を証明された(甲11)ものである。
 また,本件製品の品質検査の結果によれば,本件製品の物性・成分ともに正常であって(甲12),本件製品の製造工程において異物が混入した痕跡はない(甲13)。
 このほか,本件製品は,色素の溶剤としてトルエン,酢酸エチルなどを含むシンナー系溶剤を使用しているため,シンナー系塗料特有の異臭や過度の吸引による健康への影響がある。もっとも,この点は,本件製品のみの問題ではなく,シンナー系溶剤で組成されている塗料に共通の問題である。
 なお,原告では,本件製品について苦情の申立てを受けたことはあるが,これまで本件のような問題が生じたことはなかった。

3 被告による本件製品の購入と使用
 被告は,平成25年5月に,自らの賃貸アパートから賃借人が1名退去したため,部屋のリニューアルを企画し,畳替えに取りかかろうとしたが,入居希望者がいるため早急にリニューアルしようと考え,同年6月8日ころ,ホームセンタービバホーム板橋小豆沢店に行った。被告は,同店舗にて,本件製品を見つけ,1箱(2缶入り)を3980円で購入し,同月9日,自らのアパートの2階の6畳の畳に本件製品を塗布したところ,畳はまだら状態になった。
 被告は,同月11日,ビバホーム赤羽駅店にて,本件製品をもう1箱購入し,畳に再度本件製品を塗布したが,まだらになった状態は改善しなかった。
 結果的に,被告は,6畳の畳に約3缶半の本件製品を用いて何度も重ね塗りした。
 なお,一般に畳の張り替えは,1畳につき6000円ないし8000円程度かかる(甲16の1及び2)。

4 被告による苦情
(1)被告は,同月10日ころ,原告に対し,畳がうまく染まらず,色飛びができるとの苦情(本件苦情1)を申し立て,原告の担当者がシンナーで塗料を落とせることを説明したが,これもうまくいかなかったとして,同月14日にも原告に対する苦情を電話で申し立てた。
 なお,被告は,このとき電話で応対をした原告の取締役であるB(肩書は「相談役」であり,以下「B」という。)が電話を途中で切ったとして不満を述べていたが,これは被告の電話が非常に長い上,Bはこのとき別の顧客に対応中であって,同対応が終了した後に被告に連絡すると述べた上で電話を切り,同対応終了後,実際に被告に再度電話連絡したものである。
 B及び原告の担当者1名は,同月17日,被告のアパートを訪れ,原告の社員による再塗装並びに本件製品の購入代金及び畳の代金の弁償を提案したが,被告は同提案を拒否した。
 また,原告の担当者が,同月18日,再度,被告のアパートを訪れ,実証実験を提案したが,被告はこれを拒否し,原告の社長との面談を要求した。
 被告は,同年7月1日,妻とともに原告を訪れ,原告の代表者やBに対して苦情を申し立てた。原告は,その際,本件製品や畳の代金の弁償及び実証実験を再度提案したが,被告はいずれも拒否した。
(2)その後も,被告は,原告に対し,同様の苦情申立てを繰り返したほか,原告の技術者からの指示によりシンナーを用いて塗料(本件製品)の畳からの剥離を試みたところ,畳の芯床にシンナーが浸透して床が溶けたとの苦情(本件苦情2)をも申し立てた。
 もっとも,ラッカーシンナーは溶解力が強く,塗料を落とすことができるため,原告の技術者による上記指示は合理的なものである(甲35)。
 また,通常の剥離作業におけるシンナーの使用量や使用方法では,シンナーが畳表を浸透して芯床を溶かすなどの結果は想定できない。
(3)被告は,同年6月14日,ドイト板橋志村店に電話して,ラッカーシンナーの有無につき問い合わせた。その際,被告は,本件製品についての不満を述べ,同店で本件製品を販売していることへの苦情を申し立てた。このほか,被告は,同月下旬から同年7月下旬にかけて,ユニディ川口店,ビバホーム板橋前野町店及び島忠川口朝日店を複数回訪れ,その際にも,本件製品は欠陥製品であって,同製品を販売していることが問題であるなどと述べた。

5 本件販売店4社への影響
 本件製品を扱っていた本件販売店4社のうち,株式会社LIXILビバが経営するビバホームでは,本件製品を原告に返品したほか,販売中止の状態が続いている。
 具体的には,原告は,本件販売店のうち最大手であるビバホームから,以下の①ないし③のとおり本件製品の返品を受けた(着払送料合計7万8000円)。
 ①「タタミ染めQ」の返品343個×卸単価2160円=74万0880円
 ②「二代目」の返品260個×卸単価1753円=45万5780円
 ③「単品」の返品37個×卸単価1834円=6万7858円
 また,ドイト株式会社が経営するドイトも,本件製品(28個×卸単価1819円=5万0932円)を原告に返品したほか,本件製品の販売中止の状態が続いている。同様に,株式会社島忠が経営する島忠ホームセンターにおいても,本件製品の販売中止の状態が続いている。
 他方,株式会社ユニリビングが経営するユニディでは,返品もなく,本件製品の販売は従前どおり行われている。
 なお,ビバホームは,原告の新商品についても販売中止としており,同措置による原告への影響は,本件製品の販売中止による原告への影響を上回っている。
 原告は,同年8月2日ころ,本件販売店に対し,被告の本件製品への苦情申立てに関する原告の方針と今後の対応を書面(甲43)にして送付し,理解を求めた。本件販売店は,いずれも本件訴訟の帰すうを見守っている。

6 原告の請求内容
 本訴原告兼反訴被告(以下「原告」という。)は,原告の製品である「タタミ染めQ」(以下「本件製品」という。)には欠陥がないにもかかわらず,本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)が同製品には欠陥があるなどとして苦情を申し立てるとともに,本件製品の販売店に対して本件製品及び原告自身について虚偽の内容を記載した書面を配布することにより,原告の名誉・信用を毀損し業務を妨害したことが,主位的には不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当し,予備的には民法上の不法行為に該当する旨主張して,被告に対し,不正競争防止法3条1項に基づき「本件製品には欠陥がある」又は「原告は無責任な会社である」旨の表現を行うことの差止め,同法14条ないし民法723条に基づき,営業上の信用ないし名誉の回復措置として上記販売店への謝罪文の送付,並びに不正競争防止法4条ないし民法709条に基づき,損害賠償金1760万円(慰謝料1600万円,弁護士費用160万円,売上げ喪失等による損害950万5000円の合計2710万5000円の一部請求)及びこれに対する不正競争ないし不法行為後の日である平成25年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(なお,原告は,不正競争のみならず不法行為に基づく上記差止めも求めると解されるが,主張自体失当である。)。

【争点】
 1 被告による不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否
 2 原告が被った損害額
 3 差止めの必要性
 4 謝罪文送付の必要性

【判旨】
 1 被告による不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否
  (1) 被告が原告や本件販売店に対して行った行為は,前記1(4)のとおりであると認められるところ,原告は,被告が本件販売店に対して行った原告や本件製品の誹謗中傷が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当する旨主張する(主位的主張)ので,検討する。
  (2) 同号の規定の趣旨に照らして,必ずしも現実の市場における競合が存在しなくても,市場における競合が生じるおそれがあれば,同号所定の「競争関係」が肯定されると解すべきであり,具体的には,需要者又は取引者を共通にする可能性がある場合など,将来において同種の商品,役務を提供しうる関係にあれば,競争関係が認められるというべきである。
 前記1(1)のとおり,被告は,個人としてアパートの賃貸業を行うほか,小規模ではあるが同アパートの清掃や塗装,リフォームも行っており,他方で,原告は,本件製品(畳の塗料)の販売等を業とする株式会社であるが,「染めQリニューアル」として,古くなったものの素材の質感を変えずに染めQの技術で塗替えリフォームを行うほか,不動産関連の事業をも行っている。このように,原告と被告は,不動産の塗装,リフォーム事業において,需要者又は取引者を共通にする可能性があるといえるから,原被告間の「競争関係」を肯定することができる。
  (3) 被告の本件販売店に対する行為,すなわち,原告の製品である本件製品には欠陥があり,このような製品を取り扱うべきではない旨及び原告が「いい加減な会社」「無責任会社」である旨を本件販売店に告げる行為は,会社としての原告及びその製品である本件製品を批判するものであり,原告の営業上の信用を害することは明らかである。
 そして,被告は,「本件製品には欠陥がある」旨告げていたところ,前記2(1)のとおり,本件製品に欠陥があるとは認められないから,「本件製品に欠陥がある」との内容は虚偽の事実に当たる。また,原告が「いい加減な会社」「無責任会社」であるとの表現は,それ自体は評価を示すものであるが,本件申入書には,原告が欠陥のある本件製品を販売し,同製品を用いても畳がうまく染まらず,原告が被告による苦情にも誠実に対応せず,剥離に関して不適切な指示をしたなどの事実が記載されており,これらの事実を前提として原告が無責任な会社であるとの評価が記載されているため,無責任な会社等の評価は摘示された前提事実に基づくものであり,かつその前提事実に誤りがある(前記2のとおり,被告による本件苦情1及び2の内容はいずれも誤りである。)から,全体としてみれば「虚偽の事実」に該当するというべきである。
 さらに,被告は,「虚偽の事実」が記載された本件申入書を本件販売店に交付したり,その内容を告げたりしており,これは事実の「告知」に当たる。
 以上からすれば,被告による本件申入書の交付等は,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為であって,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当する。
  (4) なお,被告は,被告自身が本件販売店に対して本件申入書を交付したものではなく,本件販売店がこれらをコピーしたにすぎず,また,被告は本件販売店に対して本件製品の販売中止を求めたわけではないと供述する。
 しかし,そもそも書面を交付すること自体が「事実の告知」の要件ではない上,証拠(甲46)によれば,被告が,少なくともユニディ川口店に対して本件申入書を交付し,本件製品の販売中止を求めた事実が認められる(本件製品を販売し続けることが問題であると述べることは,本件製品の販売中止を求めることと実質的に同じである。)から,被告の上記供述は採用できず,かえって,同事実及び証拠上明らかである本件製品に関する被告の苦情申立ての執拗さ等からすれば,本件販売店のうちユニディ以外の販売店に対しても,被告が本件申入書を自ら交付した上で,本件製品の販売中止を求めたものと認めるのが合理的であり,現に,原告の従業員であり被告の苦情対応をしていたCも,本件販売店の担当者等からその旨聞いたと証言している。
 このほか,被告は,本件申入書を原告や本件販売店に交付等したのは,被告自身の損害賠償を求めるためではなく,欠陥のある本件製品をこれ以上販売させないためという公益目的であるなどと主張する。
 しかし,そもそも前記のとおり,本件製品に欠陥があるとは認定できない上,被告が原告に対して書面(甲5)を交付して,具体的金額は不明であるもののPL法等に基づく法外な損害賠償を求めていたことからすれば,被告が専ら公益目的で行動していたなどとは認められない。
  (5) 以上のとおり,被告の行為が原告に対する不正競争(主位的主張)に該当することが認められる。なお,後記のとおり,仮に一般不法行為(予備的主張)に基づく損害額を検討したとしても,不正競争に基づく損害額と何ら変わるものではないから,予備的主張については判断の必要がない。

 2 原告が被った損害額
  (1) 前記3のとおり,被告は,本件製品に真に欠陥があるか否かを正確に検証することもせず,本件販売店4社に対し,本件製品に欠陥がある等の虚偽の内容が記載された本件申入書を交付するなどして不正競争防止法2条1項14号所定の信用毀損行為を行ったものであるから,被告が上記行為を行うにつき,少なくとも過失があったものと認められ,被告は原告に対し損害賠償責任を負う(同法4条本文)。
 そして,前記1(5)のとおり,原告は,株式会社LIXILビバから本件製品の合計134万2518円分(着払送料を含む。)の返品を受け(「タタミ染めQ」の返品に関する74万0880円,「二代目」の返品に関する45万5780円,「単品」の返品に関する6万7858円,及び着払送料7万8000円の合計額),ドイト株式会社からも5万0932円分の返品を受けた。
 しかし,上記のうち,着払送料7万8000円は原告の損害と認められるが,本件製品の返品を受けたからといって,それが無価値になったことの立証はない(現に,株式会社ユニリビングでは本件製品の販売が従前通り行われている。)から,その余の返品額が直ちに原告の損害となるとは認められない(原告が多額の返品を受けるという影響を被ったという点については,後記無形損害の算定について考慮する。)。
 なお,株式会社LIXILビバ,ドイト株式会社及び株式会社島忠は,被告による苦情申立て等のため,本件製品の取扱いを停止しているが,被告の苦情申立て等がなかった場合に見込まれる本件製品の売上高は不明である(この点についても,後記無形損害の算定について考慮する。)。
 したがって,上記のうち着払送料7万8000円が原告の損害と認められる。
 また,被告は,本件販売店が本件製品の販売を中止したのは本件販売店自身の判断であり,被告とは無関係である旨主張する。しかし,本件販売店が本件製品を返品するに至った原因が,被告の苦情申立て以外に存在したことをうかがわせる事情は全くなく,これは全て被告の苦情申立てによるものと認めるのが合理的である。
  (2) 原告は,信用毀損による損害として慰謝料名目で1600万円の支払を求めるところ,これは慰謝料名目で原告が被った無形損害の賠償を請求するものと解し得る。
 そして,既に認定した被告の本件販売店に対する行為態様(原告及び本件製品に対する誹謗中傷が記載された本件申入書の交付,苦情申立ての執拗さ等)に加え,上記(1)のとおり,被告の行為により原告が本件販売店のうち2社から多額に上る本件製品の返品を受け,本件販売店のうち3社は本件製品の販売を中止していること,前記1(5)のとおり,本件販売店のうち最大手であるビバホームは,原告の新商品についても販売停止としているところ,同措置による影響が本件製品の販売停止による影響を上回るものであること等の諸事情を考慮すると,原告が,被告の信用毀損行為により無形損害を被ったことが認められ,同損害額を400万円と評価するのが相当である。

  (3) このほか,本件での事情を総合考慮し,弁護士費用としては50万円を認めるのが相当である。
  (4) 以上のとおり,被告に対し,原告に対する損害賠償金として合計457万8000円の支払を命じるのが相当である。
 なお,仮に一般不法行為(予備的主張)に基づく原告の損害額を検討したとしても,不正競争(主位的主張)に基づく損害額と何ら変わるものではない。
 3 差止めの必要性,謝罪文送付の必要性
 以上のとおり,被告の本件販売店等に対する行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当することが認められるが,他方で,前記1(4)オのとおり,原告が被告に対して平成25年8月2日付け「通知書」(甲6の1)を送付した後は,被告は本件販売店に対する働きかけを行っておらず,以上からすれば,被告が今後もこのような行為を行う可能性が高いとは認められないから,原告や本件製品に対する誹謗中傷の差止めを命ずべき必要性があるとは認められない。
 また,被告の誹謗中傷行為によって原告の信用が傷付けられたことは否定できないが,信用回復はまずは損害賠償請求によるべきものである上,前記1(5)のとおり,本件販売店がいずれも本件訴訟の帰すうを見守っていることからすれば,本判決において被告の不正競争行為が認定されることにより,本件販売店との関係でも自らの信用を回復できるものと解されるから,謝罪文の送付まで命ずべき必要性があるとは認められない。
 以上のとおり,差止め及び謝罪文送付に関する原告の請求は,いずれも理由がない。

【検討】
 本判決は,不正競争防止法2条1項14号(現15号)を肯定したが,その認定は,従来の裁判例に基づくものであり,特に目新しい判断はない。しかし,信用棄損の無形損害として,個人の被告が虚偽告知をした事案としては比較的高額である400万円の損害額が認められているため,この点を取り上げてみたい。
 信用棄損による損害は,慰謝料の一種であり,高額の損害が発生していることの立証は,難しい場合が多い。通常,信用毀損は,慰謝料と同様に,相当な損害額として,裁判所により認定されることになる。本件では,原告も信用棄損に関する損害としては,「被告による前記不正競争行為ないし不法行為の結果,本件販売店は,本件製品を店頭から撤去して販売を自粛し,在庫商品を原告に返品するなどの対応をやむなくされており,これによる原告の消費者社会での信用毀損及び名誉毀損を慰謝するためには,本件販売店4社での損害発生を考慮して1600万円を下らない。」との主張に止まり,具体的な主張はしていなかった。
 しかし,本件では,現に被告が虚偽告知をした販売店から多額の返品を受けており,かかる事実が,信用棄損による損害の認定に大きく影響を与えた。原告は,多額の返品による損害を積極損害として主張していたが,本判決では,「本件製品の返品を受けたからといって,それが無価値になったことの立証はない(現に,株式会社ユニリビングでは本件製品の販売が従前通り行われている。)から,その余の返品額が直ちに原告の損害となるとは認められない」として,積極損害としては認められなかった。しかし,本判決では,「原告が多額の返品を受けるという影響を被ったという点については,後記無形損害の算定について考慮する。」と言及しており,返品の事実は,積極損害ではなく,無形損害の算定で考慮されることが明らかとなっている。このように,多数の返品がされた事実は,返品者の原告に対する信用が低下したという意味を持ち,信用棄損の重要な間接事実となる。

(文責)弁護士・弁理士 杉尾雄一