【平成27年9月17日判決(知財高裁 平成27年(行ケ)第10085号)】

【キーワード】
商標法3条1項3号

【事案の概要】
原告は,「雪中熟成」の文字を標準文字で表してなり,第29類「加工水産物,食用魚介類(生きているものを除く。)」を指定商品とする本願商標について,拒絶査定を受け,これに対する不服の審判請求をした。特許庁は,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するとの理由で,不服不成立審決をした。本件は,原告が本件審決の取消しを求める事案である。

【特許庁における手続の経緯】

H25
4.23
原告,「雪中熟成」の文字を標準文字で表してなる商標につき,指定商品を第29類「加工水産物,食用魚介類(生きているものを除く。)」として出願
商願2013-030708号
H25
11.5
拒絶査定
H26
2.5
原告,特許庁に対し,拒絶査定不服審判請求
不服2014-2226号
H27
3.24
特許庁,請求棄却審決
H27
5.7 
原告,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起

【本件審決の理由の要旨】
 本願商標を本件指定商品に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,全体として「雪の中で熟成された商品」であることを容易に想起,認識するというのが相当であって,本願商標は,本件指定商品との関係において,商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法3条1項3号に該当し,登録することができない,というものである。

【争点】
商標法3条1項3号該当性

【判旨抜粋】
1 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴」等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録の要件を欠くと規定しているのは,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産又は使用の方法又は時期その他の特徴を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品の識別力を欠くものであることによるものと解される。
  そうすると,本件審決時において,本願商標がその指定商品に使用された場合に,将来を含め,指定商品の取引者,需要者によって商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状,生産又は使用の方法又は時期その他の特徴を表示したものと一般に認識されるものであり,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるときは,本願商標は商標法3条1項3号に該当するものと解するのが相当である。
2 本願商標について
 ⑴ 本件指定商品の業界分野における用例
   ・・・以上のように,本件指定商品の業界分野においては,本件審決時(平成27年3月24日)までに,魚肉を熟成することが一般に行われ(乙3の2~4),殊にその熟成が,低温下(乙3の6,8~11,乙4の9),氷の蔵(乙3の7),寒風(乙3の3)又は雪室(乙3の5)で行われており,「低温熟成」の語が低温で熟成することの,「雪室熟成」の語が雪室で熟成することの,各意味合いで用いられていることが認められる。このように「低温熟成」や「雪室熟成」の語が,その製造・販売に係る商品の品質又は生産の方法を示すものとして,低温や雪室で熟成させた商品との前記意味合いを有するものとして用いられている。
 ⑵ 飲食料品における用例
   ・・・以上のとおり,果物,野菜,食肉,味噌,アルコール飲料等の飲食料品関連の業界分野においては,本件審決時(平成27年3月24日)までに,新聞やインターネットのウェブサイトにおいて,本願商標と同じ「雪中熟成」の語や,本願商標を構成する文字のうち「雪中」又は「熟成」や,これと同義の「雪の中」又は「雪の中で熟成」等の語について,その製造・販売に係る商品の品質又は生産の方法を示すものとして,雪の中又は雪氷室ないし雪室で熟成させた商品との意味合いで用いられていることが認められる。
そして,果物,野菜,食肉,味噌,アルコール飲料等の飲食料品関連の業界分野と,本件指定商品である「加工水産物,食用魚介類(生きているものを除く。)」を取り扱う業界分野とは,いずれも飲食料品ないし生鮮食料品を取り扱う業界分野であることから,その取引者,需要者を共通にする場合も多いことが推認できる。
3 本願商標の商標法3条1項3号該当性
  前記2で認定した事実によれば,本願商標を構成する「雪中熟成」の語は,本件審決当時,「雪の中で熟成すること」等の意味合いを有する語として,本件指定商品の取引者,需要者によって一般に認識されるものであったことが認められる。したがって,本件審決当時,本願商標は,本件指定商品に使用されたときは,「雪の中で熟成された商品」といった商品の品質又は生産の方法を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであり,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないと判断されるものであり,自他商品の識別力を欠くものというべきである。
  そして,本願商標は,前記2(1)のとおり,「雪中熟成」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるということができる。
  以上によれば,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。

【解説】
1 特別顕著性について
  3条は商標登録の要件についての規定であり,特別顕著性を要件とする。自他商品・役務識別力あるいは出所表示機能という,商標登録にあたっての一般的,普遍的な適格性を問題としている。
3号は,商品の産地,販売地又は役務の提供の場所等を普通の態様で表示する標章のみからなる商標である。本号列挙のものを不登録とするのは,これらは通常,商品又は役務を流通過程又は取引過程に置く場合に必要な表示であるから何人も使用をする必要があり,かつ,何人もその使用を欲するものだから一私人に独占を認めるのは妥当ではなく,また,多くの場合にすでに一般的に使用がされあるいは将来必ず一般的に使用がされるものであるから,これらのものに自他商品又は自他役務の識別力を認めることはできないという理由による。

2 考察
  3条1項3号は,「その商品の」品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であることが要件であるから,3号該当性を判断するにあたっては,指定商品との関係が非常に重要であり,指定商品との関係を離れて標章のみを議論しても無意味である。そこで本件では,第29類「加工水産物,食用魚介類(生きているものを除く。)」との関係で,「雪中熟成」が品質等を表示する標章であるかを立証する必要があるが,知財高裁は,本件指定商品の業界分野における用例及び飲食料品における用例の2つについて詳細な検討を行っている。これは,本件指定商品の業界分野においては,「熟成」は品質又は生産を示すものとして用いられているものの,「雪中」そのものが用いられている事実はなかったことによるものと思われる。そこで知財高裁は,本件指定商品を含む飲食料品分野における用例まで広げて検討し,本件指定商品分野と飲食料品分野はいずれも生鮮食料品を取り扱う業界分野であり,取引者,需要者を共通にする場合が多いことを認定の基礎とした。このことから,「その商品の」の要件該当性を判断する場合には,必ずしも指定商品の業界分野だけでなく,その指定商品の業界分野と取引者,需要者を共通にする業界分野まで広げて検討することも許されると解される。
  なお,3号該当性につき,被告特許庁は多数の証拠を提出しており,3号該当性が認められるためには,証拠が重要であることを改めて認識させられた。

  
(文責)2016.3.10 弁護士 幸谷泰造