【平成27年2月25日(東京地裁 平成25年(ワ)第15362号)】

【判旨】
ノンフィクション小説を参考に制作された5つのテレビ番組について,それぞれ1シーンずつノンフィクション小説についての著作権侵害を肯定。

【キーワード】
ノンフィクション、創作性、類似性、本質的特徴、比喩

第1 事案の概要
 1 当事者
   原告は,フリーのライターであり,「大君の通貨」(昭和59年9月刊行)で「第4回新田次郎賞」を受賞し,「恵
   比寿屋善兵衛手控」(平成5年10月刊行)で「第110回直木賞」を受賞し,そのほかにも作品を発
   表している。
   被告株式会社テレビマンユニオンは,テレビ,ラジオ番組の企画・制作を主たる業務とする株式
   会社である。
 2 原告の著作物
   原告は,「田沼意次 主殿の税」(以下「原告小説1」という。),「開国 愚直の宰相・堀田正睦」
     (以下「原告小説2」という。)「調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚」(以下「原告小説3」といい,原告
     小説1ないし原告小説3を併せて,以下「原告各小説」という。)の著作者であり,原告各小説に係
     る著作権及び著作者人格権を保有している。
 3 被告の行為等
 (1)被告は,シリーズ「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち」のテレビ番組として,以下
        のとおりテレビ番組を制作した。
  ① 「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち~20『田沼意次』」(平成23年8月15日放
           送)(以下「被告番組1」という。)
  ② 「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち~67『堀田正睦』」(平成24年7月19日放
           送)(以下「被告番組2」という。)
  ③ 「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち~48『調所笑左衛門』」(平成24年3月5日
           放送)(以下「被告番組3」という。)
 (2)さらに,被告は,被告番組1と,同シリーズのテレビ番組である「松平定信」とを編集して,一本
        の番組とした「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち~69『田沼意次&松平定信』」
       (平成24年8月2日放送)(以下「被告番組4」という。)を制作した。
      また,被告は,被告番組3と,同シリーズのテレビ番組である「保科正之」とを編集して,一本の
       番組とした「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち~75『保科正之&調所笑左衛門』
        」(平成24年9月13日放送)(以下「被告番組5」という。)を制作した(以下,被告番組1ないし
       被告番組5を併せて「被告各番組」という。)。
     被告各番組では,その各エンドロールにおいて,「参考文献 X著『田沼意次 主殿の税』」,
      「参考文献 X著『開国 愚直の宰相堀田正睦』」,「参考文献 X著『調所笑左衛門 薩摩藩経
      済官僚』」と表示されていた。
 (3)シリーズ「THEナンバー2~歴史を動かした陰の主役たち」のテレビ番組は,1番組につき25
       分程度であり,番組ごとに歴史上の人物を取り上げ,ナレーションを交えたドラマでその人物が
       関わる歴史上の場面を再現するシーンからなる部分(以下「本題部分」という。)や,その人物を
       巡って行われる現場等でのロケ部分とスタジオで司会者とゲストとが鼎談するシーンとからなる
       部分とで構成され,それらの部分が交互に織り交ぜられて番組が展開する,というものとなって
   いる。被告各番組の内容はいずれも上記の構成である。
 4 被告各番組作成前後の被告の原告に対する接触
 (1)被告番組1の制作時
      被告は,被告番組1を制作するに当たり,被告の同番組制作担当者が,平成23年7月頃,原告
  に電話をして被告番組1への出演依頼をしたが,原告に断られると,原告小説1を参考文献として
  被告番組1を制作することに対する了承を原告から得ることなく,同番組を制作し,同年8月15日
  に同番組を放送した。
 (2)被告番組3の制作時
   被告は,被告番組3を制作するに当たり,被告の同番組制作担当者が,平成24年1月10日,
     原告に電話をして被告番組3への出演依頼をしたが,原告から被告番組1の制作時に出演依頼
     を受けたものの同番組について事後の報告を受けていないことを指摘され,翌11日,謝罪の手
  紙(その手紙には,被告番組1-3-1は原告小説1に準拠したことが示されていた。)を添えて,
  参考にしたい箇所として,原告小説3から被告番組3-4-6をそのまま記載するとともに,ほか
  に3点を要約して箇条書きにして,了承を求める旨をファックスで送った。これに対して原告は,
  同月12日,「お申し越しの件,了承しました。田沼の件も諒とします。
     追加については私に問い合わせることなく,自由にして下さい。」と記載してファックスを返送した。
    これを受けた前記番組制作担当者は,被告番組3を制作し,同年3月5日に同番組を放送した。
    なお,前記番組制作担当者は,同番組の放送後に同番組の録画内容を原告に送らなかった。
 (3)被告番組2の制作時
   被告は,被告において被告番組2を制作するに当たり,被告の同番組制作担当者が,平成24年
     6月26日,原告に電話をして原告小説2を参考文献として被告番組2を制作することに対する了
    承を求めた。原告は,同日,被告に対し,被告番組2の制作前の段階で予め許諾を求められてい
  ない,被告番組3の録画内容が送られていないと抗議した。
   同制作担当者らは,同月28日,原告に面会を求めたが断られたため,原告に謝罪文を郵送し,
    併せて被告番組1及び3を録画したVHSビデオテープを送った。
 (4)被告番組4及び5の制作時
      被告は,被告番組4及び5について前記(3)の謝罪の際にそれらの番組の制作,放送を予定し
     ており,その了承について検討を求めていたが,原告から回答を得ることなく,それらの番組を制
     作し,被告番組4を平成24年8月2日に,被告番組5を同年9月13日にそれぞれ放送した。そし
     て,被告は,放送後にそれらの番組を録画したVHSビデオテープを原告に送った。
 (5)原告による抗議
   原告は,平成24年11月7日,被告に対し,被告各番組の内容は原告各小説の記述内容を全
     体において用いており,原告が了承した範囲を超えている旨抗議をした。
 5 原告各小説と被告各番組の対比
   原告各小説と被告各番組には,それぞれ以下のような記述又はシーンがある。なお,下記の
     記述は,判決(別紙)作品対照表1ないし同3から抜粋したものである。原告は,これ以外にも多
     数の箇所につき複製権,翻案権,同一性保持権の侵害を主張しているが,紙幅の関係もある
     ため,ここでは裁判所が複製権・翻案権の侵害を認めた全3か所と,これとの比較のために侵害
     が否定された1か所を引用する。

 <侵害が肯定された表現>

原告小説1-3-1 被告番組1-3-1
 意知の死後十日ばかりたったころだった。田沼はいつものようにぼんやり庭を眺めていた。そこへ突然少年のころの意知が姿をあらわし,逆光の中,するすると百日紅の気をのぼり始めた。
<面妖な>
 幻覚かと思った。両手で顔の皺をこすってもう一度見た。幻覚ではなかった。まぎれもなく少年のころの意知だ。
「龍助」
よんでみた。意知の幼名だ。
「はい」
返事があった。田沼はぎょっとした。“意知”はふりかえっていった。
「なんでござりましょう」
「?」
声がやや違う。孫だった。          
 あるとき,田沼が庭をぼんやり眺めていると,突然目の前に少年だったころの意知が現れました。
  「あれは意知。いや,幻か。私に会いに来てくれたんだろうか。」すると少年は言いました。「おじいちゃん。」
そう,少年は,孫の龍助だったのです。                                                                                                                                                                             
原告小説2-5-6 被告番組2-5-6
 伊勢守に交易反対の旗を振らせておおくわけにはいかない。振らせておくと国を誤る。唐国のように,大艦巨砲にものをいわされ,結局のところはゆずらされて港を開かされるのはもちろん,要地をも割譲させられる。巨額の償金も支払わされる。   
 (文楽堀田)このまま伊勢守に交易反対の旗を振らせておおくわけにはいかない。振らせておくと国を誤る。清国のように,西洋諸国の大艦巨砲にものを言わされてしまう。」                                                        
原告小説3-4-6 被告番組3-4-6
 (注:重豪)そのほうに気づかなかったのは,おれの一生の不覚だった。・・・そのほうを最後の最後まで,使えぬとみた。役や権限もだしおしみした。灯台下暗しというが,まったくそのとおりじゃ。ゆるせ。」    
 (重豪)そのほうに気づかなかったのは,わしの一生の不覚だった。おろかなことにそのほうを最後の最後まで,使えぬとみた。ゆるせ。」                                                                     


<侵害が否定された表現>

原告小説3-3-4 被告番組3-3-4 
あらたに第2会社(島津家)を設立し,第二会社が事業を引き継ぐ――。
(186頁9~10行目)                      


薩摩藩を整理会社にし,そこへ借金を凍結する。
(186頁後ろから7行目)                               
笑左衛門と孫兵衛たちが考えた再建案の一つは,新たに第二会社,島津藩を設立し,事業を行うこと。
(13頁10行目~11行目)           


薩摩藩を整理会社とし,借金を凍結させたのだ。
(16頁5~6行目) 


6 原告の請求

  原告は,被告が原告各小説を無断で翻案ないし複製して被告各番組を制作して,原告各小説に
   ついて原告が有する著作権(翻案権,複製権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)
   を侵害したと主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,被告各番組の公衆送信及び
  被告各番組を収録したDVDの複製,頒布の差止めを求めるとともに,民法709条に基づく損害賠
  償金3200万円及びこれに対する平成25年6月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
  民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

第3 判旨 -請求一部認容-
  裁判所は,被告各番組につきそれぞれ1シーンずつ原告各小説の著作権を侵害する箇所がある
   と認定し,これらの侵害部分を含む各被告番組の公衆送信等の差止請求を認容した。また,損害
  賠償請求については,著作権侵害に基づく財産的損害8659円,弁護士費用30万円の限度で原
  告の請求を認めた
1。被告は,原告から被告各番組の制作,放送について許諾を得ていると主張し
  たが,裁判所は「被告が原告から原告各小説が参考文献として具体的にはどのように記述内容が
  用いられるのかについて理解を得ないまま被告各番組を制作,放送した」として原告の主張を退け
  ている。

  以下,複製権侵害,翻案権侵害にかかる判示部分を引用する。
 1 複製権侵害・翻案権侵害の判断基準
  「複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうとこ
 ろ(同項15号参照),著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又
 は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現すること
 なく,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することをいうと解する
 のが相当である。

  また,翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し
 つつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現すること
 により,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる
 別の著作物を創作する行為をいう。
  そして,前述のとおり,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから
 (同法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,
 事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存
 の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である
 (最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参
 照)。」

 2 あてはめ
 (1)侵害が肯定された箇所に関する判示
  ア 原告小説1-3-1と被告番組1-3-1

   「原告小説1と被告番組1とは,田沼の息子意知が死去した後,田沼が自宅でぼんやりと庭を眺
  めていると,庭に少年の頃の意知が姿を現したこと,しかし,実際は田沼の孫であり,田沼の錯覚
  であったこと,以上の出来事を上記の順序で書いている点で共通する。この共通部分は,歴史的
  事実それ自体ではなく,原告が創作した事実であると認められ,また,この共通部分に係る原告
  小説1の記述部分は,田沼が息子に先立たれ,亡き息子を偲ぶ心情を,場面選択として,田沼が
  ぼんやりと庭を眺めている,その時に田沼がふと亡息子の幼少期を目にする,しかし実際田沼が
  目にしたのは田沼の孫であったと気付く,との順序で描いたことにより表現した点において,筆者
  の個性が表れており,創作性が認められ,それが表現上の本質的な特徴であると認められる。

   そうすると,被告番組1の表現部分から,原告小説1の記述部分における創作性のある表現上
  の本質的な特徴を直接感得することができると認められるから,被告番組1の表現部分は原告小
  説1の記述部分の翻案に当たる。」

  イ 原告小説2-5-6と被告番組2-5-6
   「原告小説2の記述部分と被告番組2の表現部分とは,堀田が,このまま阿部に任せてイギリス
  との交易を拒否し続ければ,日本は清のように軍事力によって脅かされることになると考えたとい
  う筋立てについて,上記筋立てを,「伊勢守に交易反対の旗を振らせておくわけにはいかない。振
  らせておくと国を誤る。唐国(清国)のように,大鑑巨砲にものをいわされる。」と具体的に表現して
  いる点でほぼ共通している。そして,上記具体的な表現は,「交易反対の旗振り」や「大鑑巨砲」と
  いう比喩的表現を用いた点において,筆者の個性が現れており,創作性が認められるから,両者
  は,創作性のある具体的表現部分において実質的に同一であるというべきである。

   したがって,被告番組2の表現部分は,上記の具体的表現部分において,原告小説2の記述部
  分を再製したものであって,しかも,被告番組2は原告小説2に依拠して作成されたものであるか
  ら,被告番組2の表現部分は,原告小説2の記述部分の複製にあたると認めるのが相当であ
  る。」

  ウ 原告小説3-4-6と被告番組3-4-6
   「原告小説3の記述部分と被告番組3の表現部分とは,病で床に伏す重豪が調所に対してその
  能力を低く評価して重用しなかったことへの後悔と詫びの気持ちを伝えるという筋立てについて,
  「そのほうに気付かなかったのは,(おれの)一生の不覚だった。」,「そのほうを最後の最後まで
  使えぬと見た。・・・ゆるせ。」と具体的に表現している点でほぼ共通している。

   そして,上記具体的な表現は,上記筋立てについて,重豪がその心情を率直に調所に開示す
  る場面として表現した点において,筆者の個性が現れており,創作性が認められ,それが表現上
  の本質的な特徴であると認められる。

  そうすると,被告番組3の表現部分から,原告小説3の記述部分における創作性のある表現上の
  本質的な特徴を直接感得することができると認められるから,被告番組3の表現部分は原告小説
  3の記述部分の複製にあたる。」

 (2)侵害が否定された箇所の判示例 原告小説3-3-4
   「薩摩藩の財政再建について,その方法として,借金だらけの薩摩藩を整理会社にして,そこへ
  借金を凍結し,新たに島津家という第二会社を設立して,これが薩摩藩の事業を引き継ぐとした,
  いう点は,『清算会社』『第二会社』といった比喩的な表現を除けば,それ自体歴史上の事実にす
  ぎず,その点を軸に『清算会社』,『第二会社』といった比喩的な表現を用いて薩摩藩の財政再建
  をストーリー展開したとする点は,著者の創作意図若しくはアイデアにすぎず,このような,歴史的
  な事実や,具体的表現から離れた著者の創作意図及びアイデア並びにこれらを含む一連の筋立
  てやストーリー性は,いずれも著作権法で保護されるべき表現には当たらない。」


第4 若干の検討 ~大岡裁き?行き過ぎた裁判例?~
   本件は,原告各小説を参考に作成された歴史上の人物を取り上げて紹介する被告各番組が,
  原告各小説の著作権を侵害するかが争われた事案である。裁判所ウェブサイトで公開されてい
  る判決文からは,本件で具体的にどのような表現に関する著作権侵害が争われたのかは明ら
  かではないが,本評釈を執筆するにあたり判決全文を入手・検討することができた。

   本判決は,被告各番組につきそれぞれワンシーンについてのみ著作権侵害を認めて,比較的
  少額(著作権侵害に基づく損害8659円,弁護士費用30万円)の損害賠償請求を認めつつ,
  被告各番組の公衆送信等の差止請求を認容した。裁判所は,被告が被告各番組を制作した当
  時,出演依頼のために原告と接触しつつも,原告から明確に許諾を得ないまま原告各小説を参
  考に被告各番組を制作し,さらにその録画内容を原告に送付しないなどした対応が,本件紛争
  の発端ないし根幹をなすと考え,大岡裁き的に原告の請求を認容しようと考えたのかもしれない。

   このような理解が正しいとすれば,裁判所の考えにも一理あるように思われ,その判断を無碍
  に批判することは憚られる。とはいえ,本判決は被告各番組について著作権侵害を認めるにあ
  たり,若干行き過ぎた判断をしているように思われるのも確かである。本判決は,アイデアとして
  自由利用を保障すべき部分についてまで著作権による保護を及ぼしているように思われる。

   本件の事案の特殊性が捨象されて本判決の判断が一般化される場合には,後行者の創作活
  動の自由が徒に制約を受け,文化の発展を目的とする著作権法の趣旨に悖る事態,さらには表
  現の自由に対する危険が生じかねないように思われる
2。本判決は,本件事案の特殊性を踏まえ
  た判断であり,過度な一般化は避けるべきであろう。

   その他、本件についてはコピライト2015年8月号に判例評釈を寄稿したので、詳細はそちらを
  ご覧頂きたい。

以上

  原告は,複製権や翻案権の侵害が肯定された箇所とは別の箇所について同一性保持権侵害を主張していたが,裁判所は,当該箇所から原告各小説の本質的特徴を直接感得することはできないなどとして原告の主張を退けている。また,氏名表示権侵害については,参考文献として原告の氏名と原告各小説が表示されていたことなどを根拠に原告の主張を退けている。
 2    アイディア/表現二分論と表現の自由の関係については,横山久芳「著作権の保護期間延長立法と表現の自由に関する一考察-アメリカのCTEA憲法訴訟を素材として」学習院大学法学会雑誌39巻2号37頁(2004年)。もっとも,近時は,アイディアと表現の区別だ

(文責)弁護士 高瀬 亜富