【平成27年11月19日(知財高裁平成27年(行ケ)第10111号)GLC事件】

【判旨】
本願商標に係る特許庁の不服2014-24620事件について商標法4条1項11号の判断を誤ったことを理由として、取り消した事案である。

【キーワード】
商標の類否判断、GLC、商標法4条1項11号

【事案の概要】
⑴ 原告は,平成26年2月5日,別紙1本願商標目録記載の本願商標(以下「本願商標」という。)の登録出願(商願2014-007991号)をした。
⑵ 原告は,同年9月9日付けで拒絶査定を受けた(甲7)ので,同年12月2日,これに対する不服の審判を請求した。
⑶ 特許庁は,これを,不服2014-24620号事件として審理し,平成27年4月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月12日,その謄本が原告に送達された。
⑷ 原告は,同年6月9日,本件審決の取消しを求める本件審決取消訴訟を提起した。

【争点】
本願商標が、商標法4条1項11号に該当するか。

【本願商標】

 
指定商品:第16類「印刷物,書籍,定期刊行物,紙製包装用容器,紙類,文房具類」
指定役務:第35類「セミナーへの講師のあっせん,生涯学習の全国組織網の運営,社会奉仕団体に対して財政的援助・事業の企画及び管理を行う者の利益を図るために行う経営の指導,広告業,経営の診断又は経営に関する助言,職業のあっせん,広告用具の貸与,求人情報の提供,文書又は磁気テープのファイリング,コンピュータデータベースへの情報編集」
第41類「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,技芸・スポーツ又は知識の教授,文化教室・専門学校・学習塾に関する情報の提供,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,人・企業又は地域間の交流会の企画・運営及び開催,教育・文化・娯楽に関するイベント・講習会・興行の企画・運営又は情報の提供,セミナー・シンポジウムのための施設の提供」

【引用商標】
引用商標1

 
 

 

【判旨抜粋】
1 取消事由(本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした判断の誤り)
について
⑴ 商標の類否判断
 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 この点に関し,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものということができる(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

⑵ 本願商標について
ア 外観について(甲4)
本願商標は,別紙1本願商標目録記載のとおりの外観であって,上段の文字部分
と下段の文字部分を組み合わせた結合商標である。
(ア)(ア) 上段の文字部分について
(中略)
(イ)(イ) 下段の文字部分について
(中略)
(ウ)(ウ) 本願商標全体の外観について
(中略)
イ 上下段の各文字部分の称呼及び観念について
(ア)(ア) 下段の文字部分について
 下段の文字部分は,前記ア(イ)(イ)のとおり「Global」,「Life」,「Learning」及び「Center」の4語の英単語と同一の文字から成り,「グローバルライフラーニングセンター」との称呼が生じ,各英単語の訳語から「世界的な生涯学習センター」(甲21,乙1~乙4)との観念が生じる
(イ)(イ) 上段の文字部分について
 上段の文字部分は,前記ア(ア)(ア)のとおりデフォルメされたアルファベットの大文字「G」及び「C」並びに2本のL字状の線から成る本願上段中央文字によって構成されている。
 称呼に関し,①下段の文字部分の両端は,上段の文字部分の両端とそろっていること,②前記ア(ウ)(ウ)のとおり,下段の文字部分は,全体として,上段の文字部分に比べてかなり小さいこと,③上段の文字部分のデフォルメされたアルファベットの大文字「G」の真下に,下段の文字部分の「Global」の頭文字「G」が配置され,同じく上段の文字部分のデフォルメされたアルファベットの大文字「C」の斜め下に下段の文字部分の「Center」の頭文字「C」が配置されていることから,本願上段中央文字についても,その2本のL字状の線から成る形態と相まって,下段の文字部分の「Life」,「Learning」の各頭文字「L」,「L」を連想させることに鑑みると,下段の文字部分は,見る者に,あたかも上段の文字部分のルビとして付されたものという印象を与えるということができる。
 以上に加え,複数の単語から構成される英語の熟語や名称については,その略称として,各単語の頭文字の大文字を並べたものを用いることが多いことに鑑みると,上段の文字部分は,下段の文字部分を構成する各英単語の頭文字である「G」「L」「L」「C」を意味するものとして認識されるというべきである。以上によれば,上段の文字部分は,アルファベットの大文字「G」,「L」,「L」及び「C」の4文字に相応した「ジイエルエルシイ」との称呼を生ずるものと認められる。なお,特定の観念は生じない
ウ 本願商標の外観,称呼及び観念について
(中略)
 前述した下段の文字部分の外観,称呼及び観念を併せ考えれば,上段の文字部分は,取引者,需要者に対し,本願商標の指定商品及び指定役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
エ 小括
 以上に鑑みると,本願商標のうち,上段の文字部分と下段の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,本願商標からは,「ジイエルエルシイ」,「グローバルライフラーニングセンター」又は「ジイエルエルシイグローバルライフラーニングセンター」との称呼が生じ,「世界的な生涯学習センター」との観念が生じる

⑶ 本願商標と本件引用商標との類否について
ア 引用商標1について
(中略)
 以上によれば,引用商標1を構成する図形及び欧文字は,これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,引用商標1からは,「ジイエルシイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない
(イ)(イ) 本願商標との類否について
 前記⑵のとおり,本願商標からは,「ジイエルエルシイ」,「グローバルライフラーニングセンター」及び「ジイエルエルシイグローバルライフラーニングセンター」との称呼が生じる。また,「世界的な生涯学習センター」との観念が生じる。
 他方,引用商標1からは,欧文字部分から「ジイエルシイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない
 また,本願商標と引用商標1とは,その全体の外観構成において相違しており・・・,外観上,字数及び文字の綴りが異なる。
 以上によれば,本願商標と引用商標1は,その外観,称呼及び観念において異なり,類似するものではない

イ 引用商標2について
(ア)(ア) 外観,称呼及び観念について
 引用商標2は,別紙2引用商標目録2記載のとおりの外観であって,左側に引用商標1と同一の構成から成る標章と,その右方に配置された「経営承継」の文字とを組み合わせた結合商標である。
(中略)
 また,「経営承継」の文字からは,「ケイエイショウケイ」との称呼が生じ,企業等の事業の運営を受け継ぐとの観念が生じる
 他方,左側の上記標章からは,「GLC」の欧文字から「ジイエルシイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない
 以上に鑑みれば,引用商標2の左側の上記標章と右側の「経営承継」の文字は,これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,引用商標2からは,「ジイエルシイ」,「ケイエイショウケイ」及び「ジイエルシイケイエイショウケイ」との称呼が生じ,企業等の事業の運営を受け継ぐとの観念が生じる

(イ)(イ) 本願商標との類否について
 前記⑵のとおり,本願商標からは,「ジイエルエルシイ」,「グローバルライフラーニングセンター」及び「ジイエルエルシイグローバルライフラーニングセンター」との称呼が生じる。また,「世界的な生涯学習センター」との観念が生じる。
 他方,引用商標2からは「ジイエルシイ」,「ケイエイショウケイ」及び「ジイエルシイケイエイショウケイ」との称呼が生じ,企業等の事業の運営を受け継ぐとの観念が生じる
 また,本願商標と引用商標2とは,その全体の外観構成において相違しており,・・・外観上,字数及び文字の綴りが異なる。
 以上によれば,本願商標と引用商標2は,その外観,称呼及び観念において異なり,類似するものではない。

ウ 引用商標3について
(ア)(ア) 外観,称呼及び観念について
 引用商標3は,別紙2引用商標目録3記載のとおり,標準文字のアルファベットの大文字「GLC」の3文字から成る。引用商標3からは,これらの文字に相応した「ジイエルシイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない
(イ)(イ) 本願商標との類否について
 前記⑵のとおり,本願商標からは,「ジイエルエルシイ」,「グローバルライフラーニングセンター」及び「ジイエルエルシイグローバルライフラーニングセンター」との称呼が生じる。また,「世界的な生涯学習センター」との観念が生じる。
 他方,引用商標3からは,前記のとおり,「ジイエルシイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない
 また,本願商標と引用商標3とは,その全体の外観構成において相違しており,・・・外観上,字数及び文字の綴りが異なる。以上によれば,本願商標と引用商標3は,その外観,称呼及び観念において異なり,類似するものではない。

エ 小括
 以上のとおり,本願商標は,本件引用商標のいずれとも類似するものとはいえない。

【解説】
 本件は、商標権に係る審決取消訴訟である。特許庁は、本願商標について、上記引用商標1~3について類似しているとして、商標法4条1項11号1にもとづいて拒絶査定(及び審決)をおこなったものであるが、裁判所はこれを取り消した。
 裁判所は、従来の判例規範を確認した上で、詳細に本願商標を分析し(本解説では、細かい事実認定については一部割愛している。)、本願商標は、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合」には該当しないとして、各部分を、引用商標と比較したものである。
 裁判所は、非常に丁寧な事実認定を行っており、事例判断ではあるが、実務的に参考になるため、ここに取り上げる。

(文責)弁護士 宅間仁志


1  十一   当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
本願商標については16類、35類、41類を指定役務としていたが、引用商標1及び2は35不意、引用商標3は41不意を指定役務としている。