平成27年2月19日判決(大阪地裁平成26年(ワ)第3119号)
【判旨】
被告の行ったプレスリリースは、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当し、損害賠償義務を負う。
【キーワード】
 訴訟提起に係るプレスリリース、不正競争防止法2条1項14号、不正競争防止法4条

【事案の概要】
原告(株式会社立花エレテック)は,各種電気機械器具及び部品の製造並びに販売,半導体素材,半導体素子,集積回路等の販売を業とする株式会社である。
被告(日亜化学工業株式会)社は,半導体,関連材料,部品及び応用製品の製造,販売並びに研究開発等を業とする株式会社である
 被告は,平成23年10月4日,原告による本件製品 1の輸入,譲渡及び譲渡の申出があり,これが本件特許権の侵害に当たるとして,侵害行為の差止め及び損害賠償を求める2件の訴訟(東京地方裁判所平成23年(ワ)第32488号,第32489号。この2件の訴訟は後に併合されており,以下「先行訴訟」という。)を提起するとともに,被告のウェブサイト上のプレスリリースと題するページの同月5日付けの欄に別紙プレスリリース目録記載のとおり,先行訴訟に関する文章(以下「本件プレスリリース」という。)を掲載した。

プレスリリース目録
台湾Everlight社製白色LEDに対する新たな特許侵害訴訟の提起について

 2011年10月4日,日亜 化学工業株式会社(本社:●●●●●●,社長:●●●●)は,株式会社立花エレテック(本社:●●●●●●,社長:●●●●。以下「立花社」)を被告とし て,台湾最大のLEDアッセンブリメーカーであるEverlight Electronics社(本社:●●●●●●●●●●,董事長:●●●。以下 「Everlight社」)が製造し,立花社が輸入,販売等する白色LED(製品型番:GT3528シリーズ,61-238シリーズ)について,当社特許 権(第4530094号。以下「094特許」)に基づき,侵害差止め及び損害賠償を求める2件の訴訟を東京地方裁判所に提起致しました。

 当 社は,これまでも当社特許を侵害する企業に対しては,全世界において当社の権利を主張し,とりわけ,日本市場での当社特許の侵害行為に対しては,断固たる 措置を取ってまいりました。しかしながら,昨今の中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーによる,特許権を無視した日本市場での行動は目に余るものがあ ります。このような日本市場での当社特許の侵害行為に対する対抗措置の一環として,今年8月にEverlight社製白色LEDを取り扱っていた会社に対 する訴訟を提起し,当該事件の被告は当該白色LEDが当社特許の権利範囲であることを認め,その販売等を中止しました。今回提起した訴訟は,この訴訟に続 くものであり,立花社に対してもその販売等の中止等を求めるものです。

注:対象特許の概要:現在一般に流通している白色LEDは,青色発 光のLEDチップに黄色など様々な色を発光する蛍光体を組み合わせて,白色系の発光を得ております。今回の対象特許(094特許)は,このような白色 LED内の蛍光体の濃度について規定した技術であり,蛍光体の種類に限定はありません。

先行訴訟については,平成25年1月31日,原告による本件製品の輸入,譲渡及び譲渡の申出の事実があったと認めるに足りる証拠はないとして,請求を棄却する旨の判決がされた。被告は,同判決を不服として控訴したが(知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10014号),知的財産高等裁判所は,同年7月11日,被告の控訴を棄却する旨の判決をした。被告は,同判決を不服とし,同月24日,上告受理申立てをした。
 本件プレスリリースは,平成25年8月5日頃,掲載が取り止められた。

【争点】
被告による本件プレスリリースの掲載が,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか。
(以下、本稿に関連する範囲で説明する。)

【判旨抜粋】
(1)本件プレスリリースの記載内容
 本件プレスリリースには,「台湾Everlight社製白色LEDに対する新たな特許侵害訴訟について」との見出しの下,第1段落において,被告が,原告を相手方として,エバーライト社が製造する本件製品を,原告が輸入,販売等したとして,本件特許権に基づいて侵害の差止め及び損害賠償を求める2件の訴訟(先行訴訟)を提起したことが記載されている。被告が原告を相手方として先行訴訟を提起したこと自体は客観的な事実であり,エバーライト社が製造した本件製品を原告が輸入,販売等する旨の記載は,先行訴訟における被告の主張内容をそのまま説明するにとどまる。本件プレスリリースの読み手が,見出し及び第1段落のみに接した場合,原告が本件製品を輸入,販売等したことを理由に本件特許権を侵害するとして被告が先行訴訟を提起した旨を公表するものであると理解するとしても,本件プレスリリースに記載された内容に虚偽の事実があると認めることはできない。
 他方で,本件プレスリリースの第2段落において,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーによる,特許権を無視した日本市場での行動は目に余るものがあり,日本市場での被告の特許権への侵害行為に対する対抗措置の一環として,平成23年8月にエバーライト社製白色LEDを取り扱っていた別会社に対する訴訟を提起した旨とともに,上記別会社が上記白色LEDが被告特許の権利範囲であることを認めて販売等を中止した旨が記載されており,第1段落においてエバーライト社が台湾最大のLEDアッセンブリメーカーであると紹介されていることを併せ考えると,上記別会社が,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーが被告の特許権を侵害していることに関わりを有していたと読み取れる。その上で,先行訴訟が上記別会社に対する訴訟に続くものであり,原告に対しても販売等の中止等を求める旨が記載されている。このように,見出しの下,第1段落と第2段落を併せ読むと,これらの記載は,原告を上記別会社と同列に扱った記載となっており,先行訴訟が上記の対抗措置の一環に含まれるものであり,原告が,エバーライト社製の本件製品を輸入,販売等することにより本件特許権を侵害しており,少なくともその点において,中韓台LEDチップ及びパッケージメーカーによる特許権を無視した侵害行為に関わりを有しているということを意味していると認められる。特に,第2段落では,上記別会社が,被告の提訴直後,被告の特許権侵害を認めて販売等を中止したと記載されているため,読む者をして,原告も上記別会社と同様の侵害行為を行っているものと強く思わせる記載内容となっている。
 このような記載は,被告が,原告を相手に訴訟(先行訴訟)を提起したのに伴って,訴訟提起の事実を公表し,先行訴訟における自らの主張内容や見解を単に説明するという限度を超えており,原告の営業上の信用を害するものである。
(2)本件プレスリリースに記載された事実が虚偽であるか
(中略)
(オ)まとめ
 以上,検討したところによれば,本件プレスリリースに記載された,原告が具体的な製品として特定された本件製品を輸入,販売し,又は,本件製品の譲渡を申し出ることによって本件特許権を侵害していることを窺わせる事情は見当たらず,本件プレスリリースに記載された事実は虚偽であると認められる。
(3)故意・過失の有無
(中略)
被告が,原告に問い合わせる,原告に警告書を送付して回答内容を確認する,原告の取引関係者等の第三者に問い合わせるなどして,原告が取り扱う具体的な製品を特定するための調査を尽くしたような形跡は窺われない。
(中略)
被告には,原告の営業に多大な影響を及ぼすおそれのある本件プレスリリースをウェブサイト上に掲載するに当たり,原告の権利,利益を侵害することがないように尽くすべき注意義務を怠った過失があったものと認められる。

【解説】
 本件は、まず被告が、特許権に基づく侵害行為の差止め及び損害賠償に係る先行訴訟を原告に対して提起し、(裁判所の認定によれば、当該先行訴訟において、被告の請求は認められなかったが、現在、上告受理申立て中とのことであり、確定はしていない。)本件プレスリリースを被告HP上に行ったものである。
 本件において、裁判所は、本件プレスリリースの記載を詳細に認定した上で、不正競争防止法2条1項14号2 にいう「営業上の信用を害する」ものに該当すると認定した。
 そして、裁判所は、本件プレスリリースに記載された事実は虚偽であると認定した上で、被告の故意・過失の有無について、「原告に警告書を送付して回答内容を確認する,原告の取引関係者等の第三者に問い合わせるなどして,原告が取り扱う具体的な製品を特定するための調査を尽くしたような形跡は窺われない」として過失があったことを認定した。
 なお、本件では、原告が、本件製品を取り扱った上で、販売の申出を行ったかが問題となっており、原告の取り扱う具体的な製品を特定する必要があったため、上記のような認定となっている。
 本件は、まずプレスリリースの記載内容によっては、不正競争防止法2条1項14号の営業上の信用を害するとされる恐れがあり、また、当該プレスリリースを行うに際しては、警告書の送付を含む、一定の調査を行う必要がある旨が判示されている。
本件は、訴訟に係るプレスリリースを行う上で参考になると考えられ、ここで紹介するものとした。


1台湾の会社である億光電子工業股份有限公司(Everlight Electronics Co.,Ltd.以下「エバーライト社」という。)は,別紙物件目録記載1及び2の製品(以下「本件製品」という。)を製造している。エバーライト社は,自社のウェブサイト(http://www.everlight.com/)において,上記本件製品を含む自社製品を紹介している。なお,原告は,自社のウェブサイト(http://www.tachibana.co.jp)において,取扱メーカーのひとつとして,エバーライト社を紹介し,同社のウェブサイトへのリンクを貼っている。
 以上のように裁判所は認定している。
2十四  競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

以上
(文責)弁護士 宅間仁志